日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Escherichia coli  (2024/07/30 更新)
E. coli:感受性株,ESBL,KPC,メタロカルバペネマーゼ産生株を含む


臨床状況

  • Escherichia coliは,免疫不全の有無に関わらず,単純性尿路感染症から生命の危険のある腹腔内,皮膚・軟部組織,肺,中枢神経その他の部位までさまざまな感染症を引き起こす.
  • 以下に示した処方はより重症な感染に対する注射治療のためのものであり,検出される病原菌の状況とin vitroでの感受性検査結果に基づく.臨床状況としては,
  • 経験的治療:病原体が検出されたが,in vitro感受性結果が得られていない.
  • 特異的治療:病原体が検出され,in vitro感受性結果が得られている.
  • 一部の薬剤についての詳細,最新のデータ,文献引用などについては,コメントを参照.

分類

  • E. coli(抗菌薬感受性および耐性株)

第一選択

  • 以下の治療選択肢は全身治療が必要な中等症~重症患者,または重症感染症の治療のためのもの.
検査結果
関与する状況要因
推奨される処方
コメント
E. coliが分離されたが,感受性結果が出ていない場合,経験的治療
地域の耐性率<10%
CTRX 2g静注24時間ごと(年齢<60歳),1g静注24時間ごと(年齢≧65歳)
CPFX 400mg静注12時間ごと,またはLVFX 750mg静注24時間ごと
PIPC/TAZ 4.5g30分以上かけて静注,その4時間後から3.375g4時間以上かけて静注を開始,8時間ごとに繰り返す
    

地域のESBL(基質拡張型βラクタマーゼ)耐性率>10%
MEPM 1~2g静注8時間ごと,またはErtapenem 1g静注24時間ごと
  
AZT,CTRX,CTX,CAZ,CFPMに対して感性
ESBL産生菌ではない;確認された感受性に基づいて薬剤選択
CTRX 2g静注24時間ごと(年齢<60歳),1g静注24時間ごと(年齢≧65歳)
CPFX 400mg静注12時間ごと,またはLVFX 750mg静注24時間ごと
感受性があれば,ABPC 1~2g静注4~6時間ごと
AZT,CTRX,CTX,CAZ,CFPMに対して耐性(ESBL),カルバペネムに感性
ESBL産生菌の可能性が高い
MEPM 1~2g静注8時間ごと
IPM/CS 500mg静注6時間ごと
Ertapenem 1g静注24時間ごと
E. coliはPIPC/TAZにin vitroで感性でも臨床的に治療が失敗することがあり,菌血症や重症感染症には推奨されない.文献:Clin Infect Dis 72: 1109, 2021
より重症の感染に対しては,高用量のMEPM3時間以上かけて静注8時間ごとを考慮する
上記薬剤およびMEPM,IPM/CS,または両方に対する耐性が報告されたが,CAZ/AvibactamおよびMEPM/VaborbactamおよびIPM/CS/レレバクタムには感性
パターンはKPC(Klebsiella産生カルバペネマーゼ)に一致
CAZ/Avibactam 2.5g静注2時間以上かけて8時間ごとMEPM/Vaborbactam 4g静注3時間以上かけて静注8時間ごと
IPM/CS/REL 1.25g30分以上かけて静注6時間ごと(CrCl>90mL/分の場合)
感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.左記の薬剤に対する耐性出現についての議論は,Clin Infect Dis 68: 519, 2019; Antimicrob Agents Chemother 63: e01551, 2018参照.
コメント参照
上記薬剤およびCAZ/Avibactam,MEPM/Vaborbactam,フルオロキノロン,アミノグリコシド,STに耐性
パターンはメタロカルバペネマーゼ産生に一致
CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと+AZT 2g3時間以上かけて静注6時間ごと
または
Cefiderocol 2g3時間以上かけて静注8時間ごと
感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.
in vitro感受性に基づき,MEPM/Vaborbactam+AZTが選択肢となることがあるが,有効性は証明されていない.
下記コメント参照.

下記コメント参照

第二選択

ESBL非産生株であり,以下のような薬剤に対しても感受性が確認された場合
  • CEZ 2g静注8時間ごと
  • ST(トリメトプリムとして)10mg/kg/日2~3回に分割
  • AMPC/CVA 1.2~2.4g静注8時間ごと(米国では入手不可)
  • GMまたはTOB)5~7mg/kg24時間ごと,腎機能に応じて用量調整
ESBL産生株に対するその他の処方
  • Temocillin 2g静注12時間(ベルギーや英国では使用可能だが,米国では使用できない)
  • GMまたはTOB)5~7mg/kg24時間ごと,感受性の場合
  • Plazomicin 15mg/kg1日1回・4~7日(利用できれば)(FDAは複雑性尿路感染症に対してのみ承認)
  • 尿路感染症の場合は,FOMも選択肢となる:
  • 膀胱炎:FOM(経口) 3g経口・1回
    【注】FOM経口は米国ではFosfomycin tromethamineであり,日本のホスホマイシンカルシウムとは異なる
  • 腎盂腎炎で注射薬が入手可能な場合:FOM(静注)6g静注8時間ごと
  • 注:PIPC/TAZは,inoculum effectによる治療失敗の可能性があるため推奨されない
カルバペネマーゼ産生の耐性株で,メタロβラクタマーゼ産生が疑われる場合CAZ/AvibactamおよびMEPM/Vaborbactamに耐性
  • 感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される
  • Plazomicin 15mg/kg1日1回・4~7日(利用できれば)(FDAは複雑性尿路感染症にのみ承認)
  • CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと+AZT 2g3時間以上かけて静注8時間ごと.
  • メタロβラクタマーゼによる加水分解に対してAZTが抵抗であることに基づく.CAZ/Avibactamは,同時に存在するESBLによる加水分解からAZTを保護する(J Antimicrob Chemother 73: 1104, 2018).
  • MEPM/Vaborbactam 4g3時間以上かけて静注8時間ごと+AZT 2g3時間以上かけて静注8時間ごと
  • Cefiderocol:2g3時間以上かけて静注8時間ごと(コメント参照)

抗微生物薬適正使用

  • カルバペネム系薬は,嫌気性菌に対するカバーが必要な複数菌感染やESBL産生株による感染のために温存しておくこと.
  • CAZ/Avibactam,IPM/CS/REL,MEMP/Vaborbactamは,ESBLおよび関連するβラクタマーゼに対して活性があるが,カルバペネマーゼによる耐性菌感染が確認された患者のために温存しておくこと.

コメント

  • AZTはメタロカルバペネマーゼで加水分解されない(CAZは加水分解される)が,カルバペネマーゼ産生菌が産生することの多いESBLにより不活化される.AvibactamはESBLを不活化する.Antimicrob Agents Chemother 61: e02243, 2017参照.
  • Cefiderocol:FDAは,Cefiderocol感性細菌による複雑性尿路感染症患者で,治療選択肢がないか限られている場合に承認した.
  • 敗血症,肺炎,菌血症,複雑性尿路感染症患者を対象にCefiderocolと最適治療(Best Available Therapy:BAT)を比較したオープンラベルランダム化臨床試験では,28日死亡率はCefiderocol群24.8%,BAT群18.4%だった(統計学的有意差なし)
  • Ertapenem耐性の場合は,MEPMまたはIPM/CSに対する感受性をチェックし,分離株がこれらのどちらにも感受性ならどちらかを用いてもよい.
  • 多剤耐性グラム陰性桿菌の治療において,MEPM+ポリミキシン(PL-Bまたはコリスチン)の併用は,比較臨床試験で治療失敗だったため推奨されない.
  • 組み入れ患者の多く(77%)はAcinetobacter baumanniiによる感染であった
  • この研究は,他のカルバペネマーゼ産生グラム陰性菌に対する相対的有効性を評価するだけの検出力はなかった.
  • メタロ型βラクタマーゼ産生菌の疑い:MEPM/Vaborbactam 4g3時間以上かけて静注8時間ごと+AZT 2g3時間以上かけて静注8時間ごと
  • Plazomicin:
  • 多剤耐性菌による血流感染,院内または人工呼吸器関連肺炎に対するTGCまたはMEPMとの併用治療については,限られた観察経験しかない(N Engl J Med 380: 791, 2019).
  • 研究中の薬剤で,多剤耐性グラム陰性桿菌に対する活性を目的とした臨床開発が行われているもの
  • AZT/Avibactam
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing↑ page top
2024/07/29