日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

グラム陰性桿菌,βラクタム薬耐性-概説  (2024/08/06 更新)
耐性グラム陰性桿菌,基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL),KPC,カルバペネム耐性


概説

抗菌薬耐性の遺伝子型参照
ESBL,AmpC,カルバペネマーゼ産生菌の治療に関するIDSAガイドライン:2024年改訂IDSAガイドライン
  • AmpC βラクタマーゼ陽性腸内細菌,カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii,およびStenotrophomonas maltophilia感染の治療.IDSA AMRガイドライン(Clin Infect Dis 74: 2089, 2022).
注:下記の治療選択肢は,全身治療が必要な中等症~重症患者,または重症感染症患者の治療のためのもの
βラクタム系薬-すなわち,ペニシリン系薬,セファロスポリン系薬,モノバクタム系薬(AZT),カルバペネム系薬-への耐性は,いくつかの耐性機序によって起こり,複数の機序が組み合わされていることも多い.
  • βラクタム環を加水分解するβラクタマーゼの産生
  • 細菌細胞壁(例 ポリン変異体)の透過性の減少
  • 薬物排出ポンプの存在
  • 標的(ペニシリン結合タンパク)の変異
βラクタム薬に耐性のグラム陰性桿菌の多くは,同時にフルオロキノロン系,テトラサイクリン系,ST,アミノグリコシド系に耐性である.
βラクタマーゼは,そのアミノ酸配列の相同性に基づいて4種類のAmbler classesに分けられる.(抗菌薬耐性の遺伝子型)(Cold Spring Harb Perspect Med 7: a025239, 2017).
  • クラスA βラクタマーゼ:狭域スペクトラムのペニシリナーゼに加え,基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL),セリン型カルバペネマーゼ(たとえばKPC,Klabsiella pneumoniaeカルバペネマーゼ)は,それぞれ新世代セファロスポリン系およびカルバペネム系を加水分解する.
  • ■新世代のセファロスポリン系薬(たとえばCTRX,CAZ,CFPM),およびAZTに耐性となる.
  • ■カルバペネム系薬,MEPM,IPM/CS,ErtapenemはESBLの影響を受けず,治療選択肢となる.
  • セリン型カルバペネマーゼ
  • ■すべてのβラクタム系薬への耐性を引き起こす.
  • ■治療選択肢
  • ●非βラクタムの選択肢
  •    ・FOM
  • ●感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.
  • クラスB:メタロβラクタマーゼ,亜鉛メタロ酵素,たとえば,ニューデリーメタロ,VIM-1,IMP-1
  • 全ペニシリン系薬,セファロスポリン系薬,カルバペネム系薬を加水分解するが,AZTだけは例外.
  • ■しかしほとんどのメタロβラクタマーゼ産生株はESBLも産生するため,ESBLによって不活化されるAZTはこうした株の多くに無効.AvibactamはESBLおよび他のセリン型カルバペネマーゼを不活化するので,CAZ/Avibactamは活性があり,また,AZTの抗菌活性を保護する可能性がある.
  • 治療選択肢
  • ●同様の機序によりAZTMEPM/Vaborbactamの併用がin vitroで活性のあることがあるが,有効性についてのデータはない.
  • ●343例を対象とした前向き観察研究では,AZT+CAZ/Avibactam併用治療は,コリスチンとの比較で,メタロβラクタマーゼ産生腸内細菌科感染患者の30日死亡率を低下させた:Clin Infect Dis 78: 1111, 2024
  • ■尿路感染症でない場合,ポリミキシンB(併用治療).尿路感染症の場合のみポリミキシンE(コリスチン).
  • ■感受性があれば,アミノグリコシド系薬(たとえばPlazomicin,ただし活性は一定しない)
  • ■感受性があれば,FOM
  • EravacyclineおよびOmadacyclineはin vitroで感受性があることが多いが,臨床データは少ない.
  • 感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.
  • クラスC:AmpC βラクタマーゼ(Clin Infect Dis 69: 1446, 2019).発現している場合には,特にEnterobacter cloacae, Klebsiella aerogenesCitrobacter freundiiにおいてCTRX,CAZへの耐性を引き起こす.たとえ最初のin vitro感受性検査結果が感受性であろうとも,上記の3菌に対する経験的なセファロスポリン治療(CTRX/CTX/CAZ)は避ける.
  • 治療選択肢
  • クラスD:オキサシリナーゼ(たとえば,OXA-23様,OXA-48,OXA-48様,OXA-58その他)
  • 多様なβラクタマーゼ酵素のグループであり,他のクラスのβラクタマーゼ(たとえばESBL,AmpC)を同時に発現することが多い.
  • ■もっとも懸念されるのが,プラスミドを介した腸内細菌科,主にKlebsiella属での広がりである.トルコおよび中東で流行しており,米国内からも散発的な報告がある
  • ■OXA-48およびOXA-48様
  • ■ペニシリン系薬を迅速に,カルバペネム系薬をゆっくりと加水分解する.広域セファロスポリン系薬はほとんど分解されない.
  • ■OXA-48等はAvibactamにより不活化される(たとえば,CAZ/Avibactam)
  • 感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.
βラクタム系薬に加え複数のクラスの抗菌薬に耐性の汎薬剤耐性腸内細菌科,P. aeruginosaAcinetobacter
  • 治療選択肢は限られる:感染症専門医へのコンサルテーションが必要
  • Cefiderocolはin vitroでカルバペネマーゼ産生株を含む広い抗菌活性を示し,他の治療選択肢がないか限られている複雑性尿路感染症患者に対し,FDAにより承認された.
  • ■しかし,カルバペネマーゼ産生菌による肺炎,血流感染/敗血症,複雑性尿路感染患者を対象として,CFDCと最適治療(Best Available Therapy:BAT)を比較したランダム化オープンラベル研究では,14日,28日,試験終了時の全原因死亡率はCFDC群で19/101(18.8%),25/101(24.8%),34/101(33.7%)であり,BAT群の6/49(12.2%),9/49(18.4%),9/49(18.4%)に比べ高いことが示された.ただしこれらの差は統計的に有意ではなかった.
  • 開発の後期段階にある研究中の薬剤
  • AZT/Avibactam

病原体


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2024/08/05