日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Acinetobacter 属(baumannii-calcoaceticus complex)   (2024/09/24 更新)
Acinetobacter baumannii complex, A.pittii, A.nosocomialis


臨床状況

  • Acinetobacter baumannii calcoaceticus complexは,免疫不全の有無に関わらずさまざまな局所性/全身性感染症を引き起こす.
  • 院内日和見感染の病原体になりうる.たとえば,人工呼吸器関連肺炎の原因となることが多い.
  • さまざまな他の感染症の原因となる,たとえば,軟部組織,創傷,骨,尿路感染症,髄膜炎,眼科感染症.
  • 上記のどの感染症も菌血症に関連しうる.
  • 耐性が大きな問題である
  • Acinetobacter属は,グラム陰性桿菌の中でもっとも多くの耐性機序と多様性をもつ.
  • 現在では,A. baumannii分離株の約50%が多剤耐性(MDR)を示す.地域によっては,かなりの割合の分離株が超薬剤耐性あるいは汎薬剤耐性である.
  • 耐性機序としては以下のもの,およびこれらの組み合わせ:
  • 基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)の産生
  • AmpCセファロスポリナーゼの産生(まれ)
  • セリン型,メタロ型,OXA48カルバペネマーゼの産生
  • アミノグリコシド修飾酵素の産生
  • 薬剤の標的となる結合部位の変化,たとえば,ペニシリン結合蛋白およびDNAジャイレース変異
  • 排出ポンプの存在
  • ポーリン蛋白変異とそれに伴う外膜透過性の低下
  • 臨床的には,われわれは耐性のin vitro表現型パターンに基づいて判断している.研究施設以外では,臨床検査で明らかになった抗菌薬耐性が,どの機序によるものか,あるいは複数の機序の組み合わせによるものかは確定できない.
  • グラム陰性桿菌の薬剤耐性の分類と機序に関するさらなる議論は,グラム陰性桿菌,薬剤耐性-概説を参照.
    進化する治療とその選択肢に関する他の最近の文献についてはコメント参照.

分類

  • 偏性好気性でブドウ糖非発酵のグラム陰性球桿菌
  • 5種のAcinetobacter属がヒトの病気に関連する:
  • Acinetobacter baumanniiはもっとも重要であり,感染の80%はこれによる
  • A. pittiiおよびA. nosocomialisも臨床的に重要と考えられている
  • A. seifertiiおよびA. dijkshoorniaeもまたヒト臨床検体から分離される
  • Acinetobacter calocoaceticusは厳密な意味では非病原性の環境生物だが,まれに疾患を引き起こすことがある.

第一選択

以下の治療選択肢は全身治療を必要とする中等症または重症感染症患者の治療のためのものである.
  • 複雑性尿路感染症
  • 人工呼吸器関連細菌性肺炎(VABP)/院内感染細菌性肺炎(HABP)
  • 菌血症
  • 髄膜炎については下記コメント参照
検査結果
関与する状況要因
推奨される処方
コメント
喀痰中または無菌の部位でAcinetobacterが検出されたが,抗菌薬感受性結果が出ていない場合
施設の多剤耐性株検出率<10~15%で,患者が重症でない場合:単剤治療が合理的
経験的治療

CFPM 2g静注8時間ごと,または
MEPM 2g3時間以上かけて静注し8時間ごとに繰り返す(臨床試験での持続静注処方),または
ABPC/SBT (ABPC 6g/SBT 3g)4時間以上かけて静注し8時間ごとに繰り返す
SBT単剤は市販されていない.SBTの用量については(Eur J Pharm Sci 136: 104940, 2019
施設の多剤耐性/カルバペネム耐性株検出率が>10~15%および/または患者が重症の場合,少なくとも1剤が活性をもつ確率を高めるために併用治療を考慮する
経験的治療

Sulbactam/Durlobactam 1g/1g3時間以上かけて静注6時間ごと+IPM/CS 1g1時間以上かけて静注6時間ごと,または
ABPC/SBT(ABPC 6g/SBT 3g)4時間以上かけて静注し8時間ごと+MEPM 2g3時間以上かけて静注し8時間ごと+PL-B 初回用量2.5mg/kg2時間以上かけて静注†,その後1.5mg/kg1時間以上かけて静注†12時間ごと
   
複数の抗菌薬に感性
  
CFPMMEPMABPC/SBTによる単剤治療(コメント参照)
  
全セファロスポリン系薬,AZT,カルバペネム系薬に耐性で,ポリミキシン類には感性
 
感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.
上記と同様に Sulbactam/DurlobactamIPM/CS

上記と同様に ABPC/SBTMEPMPL-B


Sulbactam/Durlobactam RCT結果についてはLancet Infect DIs 23: 2072, 2023参照
臨床検査で,ポリミキシンを含む全薬剤に耐性
  
有効な治療は知られていない:感染症コンサルテーションが推奨される

Sulbactam/DurlobactamIPM/CS

CFDC 2g3時間以上かけて静注8時間ごと+MINO 200mg静注12時間ごとを考慮
コメント参照

†:日本にない剤形


第二選択

臨床検査で複数の抗菌薬に感性だった場合
  • 分離株の一部は以下に感性の可能性がある
  • CPFX 400mg静注8時間ごと)または(LVFX 750mg静注24時間ごと)または
  • ST 10mg/kg/日(トリメトプリムとして)静注8時間または12時間ごとに分割
臨床検査で多剤耐性または超多剤耐性が報告された場合
  • 以下の薬剤へのin vitro感受性を検査
  • アミノグリコシド系薬
  • Plazomicin:GM,TOB,AMK不活化酵素の存在下でも安定なアミノグリコシド系薬である.データは観察研究における多剤耐性菌に対する奏効の報告のみ.
  • EravacyclineおよびOmadacycline:次世代のテトラサイクリン系薬.TGCより薬力学的に優れる.in vitroではAcinetobacterに対して活性.臨床データはない.

抗微生物薬適正使用

  • どの部位の感染についても治療期間は定まっておらず,臨床反応に基づいて決定する.

コメント

  • カルバペネム系薬1剤へのin vitro耐性をもとに,他のカルバペネム系薬への耐性を検査結果を待たずに予測することはできない.
  • AcinetobacterはErtapenemに自然耐性
  • MEPMに感性でもIPM/CSに感性とは限らず,逆も同様である.
個々の疾患の治療について
  • Acinetobacter属による肺炎
  • 肺炎および/または菌血症患者をコリスチンまたはSulbactam/Durlobactamに前向きにランダム化した(どちらの群もIPM/CS治療を受けた).
  • 全原因死亡率は,コリスチン群で32%,Sulbactam/Durlobactam群で19%だった
  • Acinetobacter属による髄膜炎
  • 可能なら,感染源の可能性がある中枢神経系デバイスを除去する.
  • MEPMは脳脊髄液への移行性が高く,けいれんのリスクが低いため,感受性があれば他のカルバペネム系薬よりも好ましい.
  • MEPMに耐性なら,脳室内または腰仙骨部へのコリスチン注入.推奨用量には幅がある:0.75~7.5mgコリスチン塩基活性/日
  • 尿路感染症
  • カルバペネム系薬耐性でPL-Bによる全身治療が行われた場合,PL-Bの尿中濃度は非常に低いためコリスチンを用いる方が望ましい.
  • 可能なら,Foleyカテーテルを抜去する
その他の薬剤の使用
  • MEPMとポリミキシン(PL-Bまたはコリスチン)の併用は推奨されない(Lancet Infect Dis 18: 391, 2018).他の臨床試験では,ポリミキシンとRFPまたはTGCとの併用の有用性は見出されなかった.
  • DRPMは,どのタイプの肺炎にも承認されておらず,500mg8時間ごとを超える用量も承認されていない.
  • TGCは,菌血症では血清中濃度が治療域に到達せず,他の薬剤に比べて全原因死亡率が高いため第一選択薬ではない(Clin Infect Dis 54: 1699, 2012).
  • MINO静注
  • 2023年IDSAガイドラインは,カルバペネム耐性株による重症感染症に対して,他の薬剤との併用使用を推奨している.
  • CFDC
  • カルバペネマーゼ産生菌による院内肺炎,敗血症,複雑性尿路感染症,菌血症患者で,最適治療(BAT)とCFDCを比較したオープンラベルランダム化試験(Lancet Infect Dis 21: 226, 2021)では,28日全死亡率は数上はCFDC群のほうが高く,BAT群9/49(18%)に対してCFDC群25/101(24.5%)だった.肺炎のサブグループではBAT群4/22(18%),CFDC群14/45(31%)で,どちらの差も統計的に有意ではなかった.
  • 二重盲検ランダム化試験(Lancet Infect Dis 21: 226, 2021)では,MEPM MIC>64μg/mLのAcinetobacter属によるグラム陰性院内肺炎/人工呼吸器関連肺炎/医療関連肺炎の16患者において,CFDCはMEPMに対して非劣性を示し,14日全原因死亡率はCFDC群0%(0/5),MEPM群46%(5/11)だった.
  • 文献:進化する治療とその選択肢
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2024/09/24