日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Acinetobacter 属(baumannii-calcoaceticus complex)   (2026/06/23 更新)
Acinetobacter baumannii complex, A.pittii, A.nosocomialis


臨床状況

  • Acinetobacter baumannii calcoaceticus complexは,免疫不全の有無に関わらずさまざまな局所性/全身性感染症を引き起こす.
  • 院内日和見感染の病原体になりうる.たとえば,人工呼吸器関連肺炎の原因となることが多い.
  • さまざまな他の感染症の原因となる,たとえば,軟部組織,創傷,骨,尿路感染症,髄膜炎,眼科感染症.
  • 上記のどの感染症も菌血症に関連しうる.
  • 耐性が大きな問題である
  • Acinetobacter属は,全グラム陰性桿菌の中でもっとも多くの多様な耐性機序をもつ.
  • A. baumannii分離株の約50%が多剤耐性(MDR)を示す.地域によっては,かなりの割合の分離株が超薬剤耐性あるいは汎薬剤耐性である.
  • 耐性機序としては以下のもの,およびこれらの組み合わせ
  • 基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)の産生
  • AmpCセファロスポリナーゼの産生(まれ)
  • セリン型,メタロ型,OXA48カルバペネマーゼの産生
  • アミノグリコシド修飾酵素の産生
  • 薬剤の標的となる結合部位の変化,たとえば,ペニシリン結合蛋白部位およびDNAジャイレース変異
  • 排出ポンプの存在
  • ポーリン蛋白変異とそれに伴う外膜透過性の低下
  • 臨床的には,耐性のin vitro表現型パターンに基づいて判断している.研究施設以外では,臨床検査で明らかになった抗菌薬耐性が,どの機序によるものか,あるいは複数の機序の組み合わせによるものかは確定できない.
  • 薬剤耐性の分類と機序に関するさらなる議論は,グラム陰性桿菌,薬剤耐性-概説を参照.進化する治療とその選択肢に関する他の最近の文献についてはコメント参照.

分類

  • 偏性好気性でブドウ糖非発酵のグラム陰性球桿菌
  • 5種のAcinetobacter属がヒトの病気に関連する
  • Acinetobacter baumanniiはもっとも重要であり,感染の80%はこれによる
  • A. pittiiおよびA. nosocomialisも臨床的に重要と考えられている
  • A. seifertiiおよびA. dijkshoorniaeもまたヒト臨床検体から分離される
  • Acinetobacter calocoaceticusは厳密な意味では非病原性の環境生物だが,まれに疾患を引き起こすことがある.

第一選択

下表の治療選択肢は次にあげる感染症の中等症または重症患者の治療のためのものである.
  • 複雑性尿路感染症
  • 人工呼吸器関連細菌性肺炎または院内感染細菌性肺炎
  • 菌血症
  • 髄膜炎については下記コメント参照
検査結果
関与する状況要因
推奨される処方
コメント
喀痰中または無菌の部位でAcinetobacterが検出されたが,抗菌薬感受性結果が出ていない場合
地域の多剤耐性株検出率<10~15%で,軽症の場合には単剤治療が合理的
経験的治療
CFPM 2g静注8時間ごと,または
MEPM 2g3時間以上かけて静注し8時間ごとに繰り返す,または
ABPC/SBT (ABPC 6g/SBT 3g)4時間以上かけて静注し8時間ごとに繰り返す
中等症~重症ならMINO 200mg静注/経口を追加
地域の多剤耐性/カルバペネム耐性株検出率が>10~15%で,中等症または重症感染の場合
経験的治療
Sulbactam/Durlobactam 1g/1g3時間以上かけて静注6時間ごと+IPM/CS 1g1時間以上かけて静注6時間ごと(望ましい),または
Sulbactam/Durlobactamが使用できない場合:
ABPC/SBT(ABPC 6g/SBT 3g)4時間以上かけて静注8時間ごと+MEPM 2g3時間以上かけて静注8時間ごと+PL-B 2.5mg/kg2時間以上かけて静注†,その後1.5mg/kg1時間以上かけて静注†12時間ごと
ABPC/SBTMINOはもうひとつの選択肢
複数の抗菌薬に感性
  
CFPMまたはMEPMまたはABPC/SBTまたはIPM/CS 0.5mg~1g静注6時間ごと(軽症の場合はより少ない用量で)による単剤治療
第2薬剤を追加,中等症~重症ならCPFXLVFXSTMINO
全セファロスポリン系薬,AZT,カルバペネム系薬に耐性で,ポリミキシン類には感性
 
感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される
上記と同様に Sulbactam/DurlobactamIPM/CS
Sulbactam/Durlobactamが使用できない場合:
上記と同様に ABPC/SBTMEPMPL-B


Sulbactam/Durlobactam RCT結果についてはLancet Infect DIs 23: 1072, 2023参照.
ABPC/SBTMINOはもうひとつの選択肢.
臨床検査で,ポリミキシン類を含む全薬剤に耐性
  
有効な治療は知られていない:感染症コンサルテーションが推奨される

Sulbactam/DurlobactamIPM/CS

CFDC 2g3時間以上かけて静注8時間ごと+MINO 200mg静注/経口12時間ごとを考慮
コメント参照

†:日本にない剤形


第二選択

軽症例に対する静注/経口単剤治療の他の選択肢,または中等症~重症例で,in vitro感受性検査結果に基づき他の活性のある薬剤少なくとも1剤を含む選択肢
  • CPFX 400mg静注8時間ごと,または750mg経口12時間ごと)または(LVFX 750mg静注/経口24時間ごと)
  • ST 10mg/kg/日(トリメトプリムとして)静注8時間または12時間ごとに分割
  • MINO 200mg静注/経口12時間ごと
多剤耐性または超多剤耐性でより重症の場合に使用される他の薬剤1剤またはそれ以上との併用処方
  • MINO静注/経口投与の他の薬剤との併用は,現時点ではテトラサイクリン系抗菌薬治療として望ましいとされている(2024年IDSAガイドライン
  • ■アシネトバクター肺炎患者106名を対象とした後ろ向きコホート研究では,高用量MINO(200mg12時間ごと)は標準用量(100mg12時間ごと)と比較して死亡率が低いことが示された(29% vs 48%)(Infect Dis Ther 15: 133, 2026
  • ■76名の患者を対象とした後ろ向き研究では,単一菌感染症患者において臨床的治癒率は79%,微生物学的根絶率は82%であった(Antimicrob Agents Chemother 63: e01154, 2019).
  • EravacyclineはTGCに取って代わる可能性がある
  • ■in vitro活性が高く,薬物動態もより良好であることから,こちらの方が好ましいと考えられる.
  • ■カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii呼吸器感染症患者41名を対象とした小規模な後ろ向きコホート研究(Infect Drug Resist 19: 583973, 2026)では,Eravacycline併用療法を受けた患者の死亡率は15名中1名(6.7%)であったのに対し,TGC併用療法を受けた患者の死亡率は16名中6名(23.1%)であった.

治療期間

  • どの部位の感染についても治療期間は定まっておらず,臨床反応に基づいて決定する.

コメント

  • カルバペネム系薬1剤へのin vitro耐性をもとに,他のカルバペネム系薬への耐性を検査結果を待たずに予測することはできない.
  • AcinetobacterはErtapenemに自然耐性
  • MEPMに感性でもIPM/CSに感性とは限らず,逆も同様である.
個々の疾患の治療について
  • Acinetobacter属による肺炎
吸入抗菌薬による補助治療:
発展途上の領域
  • 32件のRCTと41件の非RCTを対象としたシステマティックレビューとメタアナリシスでは,人工呼吸器関連肺炎患者における臨床的有効性が示唆された(Crit Care Med 2026年3月16日).
  • Acinetobacter属による髄膜炎
  • 可能なら,感染源の可能性がある中枢神経系デバイスを除去する.
  • MEPMは脳脊髄液への移行性が高く,けいれんのリスクがIPM/CSより低いため,感受性があれば望ましい薬剤である.
  • MEPMに耐性なら,脳実質への処方(上記参照)に加えて脳室内へのコリスチン注入.推奨用量には幅がある:0.75~7.5mgコリスチン塩基活性/日
  • 尿路感染症
  • カルバペネム系薬耐性でPL-Bによる全身治療が行われた場合,PL-Bの尿中濃度は低いためコリスチンを用いる方が望ましい.
  • 可能なら,Foleyカテーテルを抜去する
その他の薬剤の使用
  • MEPMとポリミキシン(PL-Bまたはコリスチン)の併用は推奨されないLancet Infect Dis 18: 391, 2018).他の臨床試験では,ポリミキシンとRFPまたはTGCとの併用の有用性は見出されなかった.
  • CFDC
  • 臨床試験の結果はさまざま.第二選択薬剤として,活性のある他剤少なくとも1剤との併用を考慮すること
  • カルバペネマーゼ産生菌による院内肺炎,敗血症,複雑性尿路疾患,菌血症の患者を対象に,至適治療(Best Available Therapy:BAT)とCFDCを比較したランダム化オープンラベル試験(Lancet Infect Dis 21: 226, 2021)では,カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii感染症患者のサブセットにおける試験終了時の全死因死亡率は、BAT群(3/17,18%)と比較してCFDC群(19/39,49%)で数値的に高かった.
  • 二重盲検ランダム化試験(Lancet Infect Dis 21: 213, 2021)では,グラム陰性菌による院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎・医療関連肺炎に対し,CFDCはMEPMに対する非劣性を示した.
  • Acinetobacter baumannii肺炎患者47例における14日死亡率は,CFDC群で5/23(22%),MEPM群で4/24(17%)であった.注:CFDC群の分離株の70%、MEPM群の分離株の63%がカルバペネマーゼ産生株であった.
  • 薬剤耐性Acinetobacter baumanniiによる肺炎に関する19件の研究(観察研究17件,RCT2件)のメタアナリシスでは,CFDC単剤療法はすべての抗菌薬治療レジメンの中で最も効果が低く,CFDC併用療法が最も効果的であることが示された(BMC Infect Dis 26: 350, 2026).
  • 文献
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2026 Life Science Publishing↑ page top
2026/06/22