ポリミキシンB (2024/10/29 更新)
PL-B 主な商品名:硫酸ポリミキシン,テラマイシン(ポリミキシンB含有軟膏)
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「サンフォード感染症治療ガイド」の中で推奨されている薬剤の適応および用量は,日本で認可されているものとは異なっている場合がありますので,薬剤選択を考慮する場合には,必ず日本での添付文書および最新安全性情報に基づいて行って下さい. →日本の添付文書情報検索サイト
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Contents
1. 用法および用量
1. 使用
2. 成人用量
3. 小児用量
4. 腎障害時の用量調整
5. その他の用量調整
2. 副作用/妊娠時のリスク
3. 抗微生物スペクトラム
4. 薬理学
5. 主要な薬物相互作用
6. コメント
1. 用法および用量
1. 使用
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PL-Bとコリスチン(PL-E)はポリミキシン系の注射用抗菌薬(注:日本にはない剤形)である.これらの活性スペクトラムと潜在毒性は類似しているが,その薬理学はまったく異なっている.
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PL-Bは活性のある硫酸塩として投与され,腎臓からは排泄されない.したがって,PL-Bは尿路感染症の治療には用いないこと.
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コリスチンはプロドラッグとして投与され,体内で活性体に変換されて尿中に排泄される.
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処方者が選択できる場合,患者が尿路感染症でなければ,現在以下の理由からPL-Bが推奨される
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肺胞上皮細胞を傷害する可能性があるため,吸入治療には推奨されない(Antimicrob Agents Chemother 61: e02690, 2017).
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PL-B(注射剤)は日本,南アフリカ,ヨーロッパ,オーストラリアでは入手できない.
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コリスチンと同様,PL-Bは多剤耐性好気性グラム陰性桿菌,たとえばP. aeruginosa,Acinetobacter baumannii,カルバペネマーゼ産生E. coli,Klebsiella pneumoniaeなどに活性がある.
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注:Serratia属, Proteus属,Providencia属,Morganella属,Burkholderia cepaciaはポリミキシン系に自然耐性.
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用量:PL-Bは1950年代後半に承認された.米国の添付文書では,推奨1日最大投与量は2.5万単位/kg(2.5mg/kg)で,腎機能障害の場合は減量することとされている.
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2013年に発表されたデータによれば,推奨用量は一般的により高用量であり,腎機能障害のための用量調整の必要はない(Clin Infect Dis 57: 524, 2013).
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PL-B投与量の標準単位は国際単位(IU)である:1万単位=1mg.ただし,米国などでは,投与量はIUではなくmgで表示するのが一般的である.ポリミキシン塩(mg)から国際単位,ポリミキシン硫酸塩用量(mg/IU)への換算についてはコメント参照.
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Acinetobacter,Pseudomonas,E. coli,Klebsiellaの分離株で,カルバペネマーゼ活性によりin vitroで耐性を示す場合であっても,ポリミキシンと併用することにより細胞の透過性が顕著に増大し,カルバペネムがカルバペネマーゼによる不活化を超える速さで抗菌作用の標的に到達する.
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重症A. baumanniiまたはP. aeruginosa感染患者を対象とした臨床的コホート研究では,PL-B+MEPM併用はPL-B単剤に比べ,死亡率を実質的に減少させた(p<0.01)(Antimicrob Agents Chemother 59: 6575, 2015).関連する臨床試験が進行中.
2. 成人用量
重症感染症(尿路感染症を除く)
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MIC≦2μg/mLの原因菌に対して, ・非肥満患者の投与量は実際の体重に基づく ・初回用量:2.5mg/kgを2時間かけて静注 ・維持用量:12時間後に1.5mg/kgを1時間かけて静注.12時間ごとに繰り返す.腎機能障害があっても減量の必要はない. ・アスコルビン酸1g静注4~6時間ごとの併用により,腎毒性のリスクが減少する可能性がある(Clin Infect Dis 61: 1771, 2015). 効果を最大限にし,かつ耐性リスクを抑えるために,in vitroでのカルバペネム系薬の感受性にかかわらずカルバペネム系薬との併用治療が推奨される(知られているデータのほとんどはMEPMによるもの). MICが4μg/mL以上ならば併用治療は必須である.
用量設定方法は改定されている:Antimicrob Agents Chemother 61: e02023, 2017参照
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髄膜炎の髄腔内投与
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脳脊髄液中に5mg/日・3~4日,その後5mg 1日ごとを2週以上
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3. 小児用量
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用量(生後>28日)
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最大/日
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全身感染症
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年齢≧2歳:成人用量を用いる 年齢<2歳:1.5~4.5mg/kg/日静注(12時間ごとに分割)
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髄膜炎の髄腔内投与
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年齢≧2歳:成人用量を用いる 年齢<2歳:2mg24時間ごと・3~4日,その後2.5mg48時間ごとを2週以上
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4. 腎障害時の用量調整
半減期(時間)(腎機能正常)
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4.5~6(古いデータ)
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半減期(時間)(ESRD)
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変化なし
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用量(腎機能正常)
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2.5mg/kg静注1回,その後1.5mg/kg静注12時間ごと
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CrClまたはeGFR
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腎障害時の用量調整不要
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血液透析
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用量調整不要
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CAPD
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用量調整不要
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CRRT
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用量調整不要
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SLED
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データなし
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5. その他の用量調整
2. 副作用/妊娠時のリスク
副作用
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用量依存性の可逆的尿細管壊死.薬剤が近位尿細管細胞に蓄積する(Antimicrob Agents Chemother 61: e02319, 2017).
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PL-Bとコリスチンの相対的な毒性リスクに関するデータは明らかでない.
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リスク因子:ポリミキシンの1日の投与量,蓄積用量および投与期間.加えて:腎毒性物質との併用,肥満,年齢,糖尿病,高血圧.
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動物モデルでは,予防的な高用量アスコルビン酸またはMelatonin使用によりポリミキシンの腎毒性が防止された.
妊娠時のリスク
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FDAリスク区分(旧):C
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局所塗布は安全(全身投与のデータなし)
3. 抗微生物スペクトラム
4. 薬理学
PK/PD指標
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free AUC/MIC(下記参照)
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剤形
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注射剤†,局所剤,耳科用製剤†,眼科製剤†
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食事に関する推奨(経口薬)1
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経口吸収率(%)
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Tmax(時間)
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最高血清濃度2(μg/mL)
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2.8(1.5mg/kg静注12時間ごと,SSでの平均濃度)
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最高尿中濃度(μg/mL)
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データなし
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蛋白結合(%)
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60
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分布容積3(Vd)
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データなし
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平均血清半減期4(T1/2, 時間)
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4.5~6(古いデータ)
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排泄
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腎以外
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胆汁移行性5(%)
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データなし
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脳脊髄液/血液6(%)
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データなし
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治療が可能になるだけの脳脊髄移行性7
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データなし
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AUC9(μg・時間/mL)
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66.9(1.5mg/kg静注12時間ごと,0~24時間)
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†:日本にない剤形
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注記のない場合は成人用経口製剤
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SD:単回投与後,SS:複数回投与後の定常状態
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V/F:(Vd)÷(経口生物学的利用能),Vss:定常状態におけるVd,Vss/F:(定常状態におけるVd)÷(経口生物学的利用能)
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CrCl>80 mL/分と想定
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(胆汁中の最高濃度)÷(血清中の最高濃度)×100
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炎症時における脳脊髄液濃度
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薬剤投与量と微生物の感受性に基づく判定.脳脊髄液濃度は理想ではMICの10倍以上必要
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AUC:血漿中濃度-時間曲線下面積 area under the drug concentration-time curve.0~inf=AUC0-inf,0~x時間=AUC0-x
5. 主要な薬物相互作用
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クラーレ麻痺薬との併用は禁忌:神経筋遮断が増強される.
6. コメント
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PL-BはPL-B1とB2を主体とする多成分の抗菌薬であり,硫酸塩として投与される.
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腎機能が正常なら,PL-Bの1日用量はすべて近位尿細管から再吸収されうる.CrClが低下している場合ですら,各回の投与量のかなりの部分が近位尿細管から再吸収される.
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腎毒性の機序は不明.尿細管は急性尿細管壊死を起こした患者でも再生しうる.
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多施設のプロスペクティブコホート研究では,コリスチンはPL-Bに比べ腎障害の発症率が高かった(Antimicrob Agents Chemother 60: 2443, 2016).
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mcr-1によるポリミキシン耐性とメタロカルバペネマーゼ産生が同時に存在する好気性グラム陰性桿菌に対し,どのような治療を行うかは定まっていない.
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ニューデリーメタロβラクタマーゼとmcr-1がどちらも陽性のE. coliを用いたin vitro研究では,AZT,AMK,PL-Bの組み合わせのみが休眠株を生じることなく殺菌活性を示した(MBio 8: e00540, 2017).
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