日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版 |
ECMO薬物用量調整 (2024/05/28 更新) |
はじめに
ECMOでの用量調整
薬物または分類 |
ECMOの影響 |
推奨される用量調整 |
コメント,文献 |
アミノグリコシド系薬 |
CS最小限, Vd↑, CL↓ |
推奨にはデータ不十分 |
TDMに基づく使用が推奨される |
アムホテリシンB |
CS最小限(デオキシコール酸),CS中等度(リポソーム製剤) |
推奨にはデータ不十分 |
症例報告では,リポソーム製剤では標準用量の2倍が必要だった(Pharmacotherapy 40: 89, 2020).リポソーム製剤のデータは一貫しておらず,デオキシコール酸アムホテリシンBへの変更を考慮する(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023) |
アンピシリン |
血清中濃度への有意な影響なし |
用量調整はおそらく不要 |
最初はin vivoでの報告,患者2例のデータ(Pharmacotherapy 43: 864, 2023) |
Anidulafungin |
CS中等度 |
用量調整はおそらく不要 |
1つの症例報告からのデータ(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023). |
カスポファンギン |
CS中等度 |
用量調整はおそらく不要 |
矛盾したデータ(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023). |
セファゾリン |
セファゾリンのPKへの影響は最小限 |
用量調整不要 |
症例報告:Chemotherapy 64: 115, 2019 |
セフェピム |
CS最小限,CL↓ |
用量調整を考慮,TDM |
ECMO回路での相互作用は最小限.PKデータでは,特に体重↓の患者で,クリアランス低下,毒性の可能性上昇.処方の用量調整とTDMが有用である可能性を考慮する(Int J Antimicrob Agents 58:106466, 2021) |
Cefiderocol |
CefiderocolのPKへの重大な影響なし |
用量調整は不要だろう |
単独症例報告のデータによるため,注意が必要(Perfusion 38(1 suppl): 40, 2023) |
Cefpirome |
Vcentral↑,CL↑ |
増量が推奨される:2g静注(ボーラス)8時間ごと,または2g静注(4時間以上かけて)12時間ごと |
15例の患者でのプロスペクティブPK研究(Antimicrob Agents Chemother 64: e00249, 2020). |
セフタジジム/Avibactam |
上記のCmin目標値は事前に定めたカットオフ値以上 |
用量調整は不要だろう |
14例の患者のデータ.腎クリアランス増加(CrCl>130)は用量不足と関連する主要因子(J Antimicrob Chemother 79: 1182, 2024) |
Ceftobiprole |
CeftobiproleのPKへの重大な影響なし |
用量調整は不要だろう |
28例のECMO患者のレトロスペクティブ研究(Int J Antimicrob Agents 61: 106765, 2023). |
セフトロザン・タゾバクタム |
CS最小限,CL↑ |
用量調整は推奨されない |
ex vivoおよびin vivoからのデータ,確認が必要(J Transl Med 18: 213, 2020) |
セフトリアキソン |
非結合型のセフトリアキソンのPKあるいは到達目標達成に重大な影響はない |
用量調整は不要だろう |
2症例からの限られたデータ(Int J Antimicrob Agents 57: 106326, 2021) 重症患者14例を対象としたPK研究でも同様の結論(Clin Pharmacokinet 61: 847, 2022) |
シプロフロキサシン |
シミュレーションでは推奨用量の処方で適切な薬剤曝露が得られた |
用量調整はおそらく不要 |
8例の重症患者からのPKデータ(Anaesth Crit Care Pain Med 41: 101080, 2022) |
コリスチン |
標準用量で目標とするコリスチン濃度は達成できる |
用量調整は不要だろう(コメント参照) |
わずか2名からのデータであり,注意が必要(J Antimicrob Chemother 77: 2298, 2022) |
フルコナゾール |
CS最小限,Vd↑ |
推奨にはデータが不十分 |
初回投与量増量を考慮する(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023) |
ガンシクロビル |
ガンシクロビルAUC24の低下がみられた |
おそらく増量が必要(症例報告に基づく) |
6歳のCRRTを受けていない患者で,目標AUC達成には10mg/kg12時間ごとが必要だった(J Clin Pharm Ther 45: 218, 2020). |
イミペネム |
CL↑ |
増量が示唆される |
臨床データからではなく,PKモデルからは,ICU患者では750~1000mg6時間ごとが示唆される:PKデータはバラツキが大きい(Antimicrob Agents Chemother 64: e00385, 2020). |
イミペネム/シラスタチン/レレバクタム |
PKパラメータは非ECMO患者と同様 |
用量調整は必要ないようだ |
ECMOで治療を受けた7例の重症患者からのデータ(J Antimicrob Chemother 79: 1118, 2024) |
イサブコナゾール |
CS中等度~重度 |
おそらく増量が必要だろうが,データが一貫していない |
TDMに基づく使用が推奨されている(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023). |
リネゾリド |
Vd↑,CL↑? |
おそらく増量が必要 |
3例の患者からのデータ: MIC>1μg/mLのMRSAの場合,標準用量では不十分な可能性がある(Am J Health Syst Pharm 77: 877, 2020;Int J Antimicrob Agents 41: 590, 2013) |
メロペネム |
CS最小限 |
用量調整不要 |
マッチングコホート研究のデータ(Microorganisms 9: 1310, 2021). |
ミカファンギン |
CS中等度 |
用量調整は不要だろう |
データは一貫していない(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023). |
ペラミビル |
ECMO回路内での薬物喪失はわずか |
用量調整は推奨されない |
小規模な1回投与観察研究からの予備的なデータ(Perfusion 38: 501, 2023). |
ピペラシリン・タゾバクタム |
Vdあるいはピペラシリン曝露への重大な影響はない |
用量調整不要 |
21例の重篤なECMO患者を対照と比較したプロスペクティブなデータ.患者間の差が大きいことが示されたため,可能ならTDMに基づいた用量設定を考慮する.注:タゾバクタムのPKは評価されなかった(J Antimicrob Chemother 76: 1242, 2021) |
ポリミキシンB |
全般的な影響はごくわずか |
用量調整は推奨されない |
2つのPK研究(J Antimicrob Chemother 77: 1379, 2022;J Clin Pharm Ther 47: 1608, 2022) |
ポサコナゾール |
CS中等度~重度 |
用量調整は不要だろう |
PSCZ静注を受けていた重篤な6例の血液疾患患者でのPK研究.TDMが推奨された(J Antimicrob Chemother 76: 1234, 2021) |
テイコプラニン |
VdおよびCLへの影響は評価しにくい |
推奨にはデータが不十分 |
データが乏しい.ひとつのPK研究(n=10)では増量が推奨されている(Antimicrob Agents Chemother 61: e01015, 2017).第2の研究では,推奨された初回投与量で十分なトラフ値が達成できた(J Formos Med Assoc 119: 1086, 2020). |
ST |
影響は観察されていない |
用量調整は推奨されない |
症例報告あり,確認を要する(Pharmacotherapy 40: 713, 2020) |
バンコマイシン |
CS最小限, Vd↑?,CL↓? (コメント参照) |
用量調整不要 |
バンコマイシンの薬物動態パラメータに対するECMOの影響については相反するデータがあり,十分理解されていない.変化は非常に少ないと考えられ,標準的な用量調整は合理的でない.しかし,有効性と安全性の目標達成のためには積極的なTDMが推奨される.持続静注でPK変化が低減される可能性がある.文献:Antimicrob Agents Chemother 65: e02408, 2021;J Clin Pharm Ther 45: 1066, 2020; Clin Pharmacokinet 59: 1575, 2020 |
ボリコナゾール |
CS中等度~重度 |
用量調整は不要だろうが,データが一貫していない |
TDMに基づく使用が推奨されている(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023). |
用量の推奨はECMOサポートを受けていない重症患者に対するもの
CS:循環での喪失,Vd:分布容積,CL:薬物クリアランス,TDM:治療薬物モニタリング
Cmax:血清中最高濃度,Cmin:血清中最低濃度