日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

ECMO薬物用量調整  (2024/05/28 更新)


はじめに

  • 重症患者での体外式膜型人工肺(Extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)は,抗菌薬の薬物動態および薬力学を変化させる.こうした変化についてのわれわれの理解はまだ不十分である.
  • 回路内の薬剤吸着(Circuit Sequestration:CS)は患者の必要薬物量を大きく変化させる可能性がある
  • チューブ,人工肺,ポンプの型,プライミング溶液の組成などすべてがCSの程度に影響する
  • CSは脂溶性および/またはタンパクとの結合性が高い薬剤で起こりやすい
  • 親水性の抗菌薬では,一般に分布容積(Vd)の増大がみられる(血液希釈のため).CSもVdを増大させる
  • 薬物排出(CL)の変化がみられることもある.排出の増大は心拍出量の増大,輸液蘇生,強心薬によって起こり,排出の減少は腎機能障害により起こる(多くのECMO患者は腎代替治療が必要である)

ECMOでの用量調整

薬物または分類
ECMOの影響
推奨される用量調整
コメント,文献
アミノグリコシド系薬
CS最小限, Vd↑, CL↓
推奨にはデータ不十分
TDMに基づく使用が推奨される
アムホテリシンB
CS最小限(デオキシコール酸),CS中等度(リポソーム製剤)
推奨にはデータ不十分
症例報告では,リポソーム製剤では標準用量の2倍が必要だった(Pharmacotherapy 40: 89, 2020).リポソーム製剤のデータは一貫しておらず,デオキシコール酸アムホテリシンBへの変更を考慮する(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023
アンピシリン
血清中濃度への有意な影響なし
用量調整はおそらく不要
最初はin vivoでの報告,患者2例のデータ(Pharmacotherapy 43: 864, 2023
Anidulafungin
CS中等度
用量調整はおそらく不要
1つの症例報告からのデータ(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023).
カスポファンギン
CS中等度
用量調整はおそらく不要
矛盾したデータ(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023).
セファゾリン
セファゾリンのPKへの影響は最小限
用量調整不要
症例報告:Chemotherapy 64: 115, 2019
セフェピム
CS最小限,CL↓
用量調整を考慮,TDM
ECMO回路での相互作用は最小限.PKデータでは,特に体重↓の患者で,クリアランス低下,毒性の可能性上昇.処方の用量調整とTDMが有用である可能性を考慮する(Int J Antimicrob Agents 58:106466, 2021
Cefiderocol
CefiderocolのPKへの重大な影響なし
用量調整は不要だろう
単独症例報告のデータによるため,注意が必要(Perfusion 38(1 suppl): 40, 2023
Cefpirome
Vcentral↑,CL↑
増量が推奨される:2g静注(ボーラス)8時間ごと,または2g静注(4時間以上かけて)12時間ごと
15例の患者でのプロスペクティブPK研究(Antimicrob Agents Chemother 64: e00249, 2020).
セフタジジム/Avibactam
上記のCmin目標値は事前に定めたカットオフ値以上
用量調整は不要だろう
14例の患者のデータ.腎クリアランス増加(CrCl>130)は用量不足と関連する主要因子(J Antimicrob Chemother 79: 1182, 2024
Ceftobiprole
CeftobiproleのPKへの重大な影響なし
用量調整は不要だろう
28例のECMO患者のレトロスペクティブ研究(Int J Antimicrob Agents 61: 106765, 2023).
セフトロザン・タゾバクタム
CS最小限,CL↑
用量調整は推奨されない
ex vivoおよびin vivoからのデータ,確認が必要(J Transl Med 18: 213, 2020
セフトリアキソン
非結合型のセフトリアキソンのPKあるいは到達目標達成に重大な影響はない
用量調整は不要だろう
2症例からの限られたデータ(Int J Antimicrob Agents 57: 106326, 2021
重症患者14例を対象としたPK研究でも同様の結論(Clin Pharmacokinet 61: 847, 2022
シプロフロキサシン
シミュレーションでは推奨用量の処方で適切な薬剤曝露が得られた
用量調整はおそらく不要
8例の重症患者からのPKデータ(Anaesth Crit Care Pain Med 41: 101080, 2022
コリスチン
標準用量で目標とするコリスチン濃度は達成できる
用量調整は不要だろう(コメント参照)
わずか2名からのデータであり,注意が必要(J Antimicrob Chemother 77: 2298, 2022
フルコナゾール
CS最小限,Vd↑
推奨にはデータが不十分
初回投与量増量を考慮する(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023
ガンシクロビル
ガンシクロビルAUC24の低下がみられた
おそらく増量が必要(症例報告に基づく)
6歳のCRRTを受けていない患者で,目標AUC達成には10mg/kg12時間ごとが必要だった(J Clin Pharm Ther 45: 218, 2020).
イミペネム
CL↑
増量が示唆される
臨床データからではなく,PKモデルからは,ICU患者では750~1000mg6時間ごとが示唆される:PKデータはバラツキが大きい(Antimicrob Agents Chemother 64: e00385, 2020).
イミペネム/シラスタチン/レレバクタム
PKパラメータは非ECMO患者と同様
用量調整は必要ないようだ
ECMOで治療を受けた7例の重症患者からのデータ(J Antimicrob Chemother 79: 1118, 2024
イサブコナゾール
CS中等度~重度
おそらく増量が必要だろうが,データが一貫していない
TDMに基づく使用が推奨されている(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023).
リネゾリド
Vd↑,CL↑?
おそらく増量が必要
3例の患者からのデータ: MIC>1μg/mLのMRSAの場合,標準用量では不十分な可能性がある(Am J Health Syst Pharm 77: 877, 2020Int J Antimicrob Agents 41: 590, 2013
メロペネム
CS最小限
用量調整不要
マッチングコホート研究のデータ(Microorganisms 9: 1310, 2021).
ミカファンギン
CS中等度
用量調整は不要だろう
データは一貫していない(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023).
ペラミビル
ECMO回路内での薬物喪失はわずか
用量調整は推奨されない
小規模な1回投与観察研究からの予備的なデータ(Perfusion 38: 501, 2023).
ピペラシリン・タゾバクタム
Vdあるいはピペラシリン曝露への重大な影響はない
用量調整不要
21例の重篤なECMO患者を対照と比較したプロスペクティブなデータ.患者間の差が大きいことが示されたため,可能ならTDMに基づいた用量設定を考慮する.注:タゾバクタムのPKは評価されなかった(J Antimicrob Chemother 76: 1242, 2021
ポリミキシンB
全般的な影響はごくわずか
用量調整は推奨されない
2つのPK研究(J Antimicrob Chemother 77: 1379, 2022J Clin Pharm Ther 47: 1608, 2022
ポサコナゾール
CS中等度~重度
用量調整は不要だろう
PSCZ静注を受けていた重篤な6例の血液疾患患者でのPK研究.TDMが推奨された(J Antimicrob Chemother 76: 1234, 2021
テイコプラニン
VdおよびCLへの影響は評価しにくい
推奨にはデータが不十分
データが乏しい.ひとつのPK研究(n=10)では増量が推奨されている(Antimicrob Agents Chemother 61: e01015, 2017).第2の研究では,推奨された初回投与量で十分なトラフ値が達成できた(J Formos Med Assoc 119: 1086, 2020)
ST
影響は観察されていない
用量調整は推奨されない
症例報告あり,確認を要する(Pharmacotherapy 40: 713, 2020
バンコマイシン
CS最小限, Vd↑?,CL↓? (コメント参照)
用量調整不要
バンコマイシンの薬物動態パラメータに対するECMOの影響については相反するデータがあり,十分理解されていない.変化は非常に少ないと考えられ,標準的な用量調整は合理的でない.しかし,有効性と安全性の目標達成のためには積極的なTDMが推奨される.持続静注でPK変化が低減される可能性がある.文献:Antimicrob Agents Chemother 65: e02408, 2021J Clin Pharm Ther 45: 1066, 2020Clin Pharmacokinet 59: 1575, 2020
ボリコナゾール
CS中等度~重度
用量調整は不要だろうが,データが一貫していない
TDMに基づく使用が推奨されている(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023).

用量の推奨はECMOサポートを受けていない重症患者に対するもの

CS:循環での喪失,Vd:分布容積,CL:薬物クリアランス,TDM:治療薬物モニタリング

Cmax:血清中最高濃度,Cmin:血清中最低濃度


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2024/05/27