日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

ECMO薬物用量調整  (2025/07/01 更新)


はじめに

  • 重症患者での体外式膜型人工肺(Extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)は,抗菌薬を含む薬物の薬物動態(PK)および薬力学を変化させる.こうした変化についてのわれわれの理解はまだ不十分である.
  • 回路内の薬剤吸着(Circuit Sequestration:CS)は患者の必要薬物量を大きく変化させる可能性がある
  • チューブ,人工肺,ポンプの型,プライミング溶液の組成などすべてがCSの程度に影響する
  • CSは脂溶性および/またはタンパクとの結合性が高い薬剤で起こりやすい
  • 親水性の抗菌薬では,一般に分布容積(Vd)の増大がみられる(血液希釈のため).CSもVdを増大させる
  • 薬物排出(CL)の変化がみられることもある.排出の増大は心拍出量の増大,輸液蘇生,強心薬によって起こり,排出の減少は腎機能障害により起こる(多くのECMO患者は腎代替治療が必要である)

ECMOでの用量調整

薬物または分類
ECMOの影響
推奨される用量調整
コメント,文献
アミカシン
PKへの影響は最小限
標準用量を使用
非ECMOのICU患者と同様の投与を行う.TDMが推奨される(Crit Care 28: 326, 2024).
アムホテリシンB
デオキシコール酸:CS最小限
リポソーム製剤:データが矛盾
デオキシコール酸:標準用量を使用
リポソーム製剤:増量を考慮(5~8mg/kg24時間ごと,またはそれ以上)
症例報告では,リポソーム製剤では標準用量の2倍が必要だった(Pharmacotherapy 40: 89, 2020).リポソーム製剤からデオキシコール酸への変更を考慮する(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023).Crit Care 28: 326, 2024も参照
アンピシリン
重度CSがありうる
通常範囲の上限用量
患者2例の治療データ(Crit Care 28: 326, 2024Pharmacotherapy 43: 864, 2023
Anidulafungin
PKへの影響は最小限
標準用量を使用
1つの症例報告からのデータ(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023).
アジスロマイシン
Cmax,Cmin,AUCへの影響なし;CLも同様;Vd↓?
標準用量を使用
3例の患者の症例シリーズからのデータ(Ann Pharmacother 50: 72, 2016).
カスポファンギン
CSについてはデータが矛盾.一般的にはPKに対する影響は最小限だが,患者間の差が大きい
増量を考慮
矛盾したデータだが,安全性プロファイルは良いので増量が支持される,たとえば,70mg24時間ごと(Crit Care 28: 326, 2024).
セファゾリン
PKパラメーターへの影響は最小限:CSについては矛盾したデータ
細菌感染症予防には標準用量を使用(治療についてはコメント参照)
症例報告(Chemotherapy 64: 115, 2019
治療のためには通常範囲の上限を用いる(Crit Care 28: 326, 2024).
セフェピム
ex vivoでも臨床研究でもPKの重大な変化はない
標準用量を使用
Time above MICを最大化するために延長投与を考慮する.TDM(可能なら)が有用なことがある(Crit Care 28: 326,2024
セフィデロコル
CS最小限,PKパラメーターへの重大な影響なし
標準用量を使用
文献:Crit Care 28: 337, 2024Perfusion 38(1 suppl): 40, 2023
Cefpirome
Vcentral↑,CL↑
増量が推奨される:2g静注(ボーラス)8時間ごと,または2g静注(4時間以上かけて)12時間ごと
15例の患者でのプロスペクティブPK研究(Antimicrob Agents Chemother 64: e00249, 2020).
Ceftaroline
重度CS
推奨を決めるに十分なデータがない
循環での喪失はより高用量の必要性を示唆するが,臨床データはない(Crit Care 28: 326, 2024).
セフタジジム
ex vivoでも臨床研究でもPKの重大な変化はない
標準用量を使用
文献:Crit Care 28: 326, 2024
セフタジジム/Avibactam
上記のCmin目標値は事前に定めたカットオフ値以上
標準用量を使用
14例の患者のデータ.腎クリアランス増加(CrCl>130)は用量不足と関連する主要因子(J Antimicrob Chemother 79: 1182, 2024
Ceftobiprole
PKパラメーターへの重大な影響なし
標準用量を使用
28例のECMO患者のレトロスペクティブ研究(Int J Antimicrob Agents 61: 106765, 2023).
セフトロザン・タゾバクタム
CSデータは矛盾,PKパラメータへの影響は最小限
標準用量を使用
ex vivoおよびin vivo研究からのデータおよび症例報告(J Transl Med 18: 213, 2020
セフトリアキソン
非結合型のセフトリアキソンのPKあるいは到達目標達成に重大な影響はない;CS最小限
通常範囲の上限用量
重症患者14例を対象としたPK研究からの結論(Clin Pharmacokinet 61: 847, 2022).Crit Care 28: 326, 2024も参照.
シプロフロキサシン
CS最小限,薬物PKパラメーターへの影響は最小限
標準用量を使用
8例の重症患者からのPKデータ(Anaesth Crit Care Pain Med 41: 101080, 2022).Crit Care 28: 326, 2024も参照.
コリスチン
おそらくCSはない.薬物PKパラメーターへの影響は最小限
標準用量を使用
文献:Crit Care 28: 326, 2024
ダプトマイシン
CS最小限,PKパラメーターに重大な影響はない
標準用量を使用
文献:Crit Care 28: 326, 2024
ドキシサイクリン
PKへの影響は最小限(限られたデータ)
標準用量を使用
1例の患者に関する会議抄録(Open Forum Infect Dis 2: 804, 2015
Ertapenem
影響は不明
推奨にはデータが不十分
MEPMまたはIPM/CSを使用する(Crit Care 28: 326, 2024
フルコナゾール
CS最小限,Vd↑
予防:標準用量を使用
治療:初回用量(12mg/kg,または標準治療用量の2倍),その後標準治療用量
文献:Crit Care 28: 326, 2024Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023
ホスホマイシン静注
おそらくCSはない;発表されたPKデータはない
標準用量の使用が推奨される
文献:Crit Care 28: 326, 2024
ガンシクロビル
CS最小限,PKパラメーターに対する影響は矛盾している
標準用量の使用が推奨される
わずか2件の症例報告(Int J Antimimcrob Agents 58: 106431, 2021J Clin Pharm Ther 45: 218, 2020).可能ならTDMが推奨される.Crit Care 28: 326, 2024も参照.
ゲンタマイシン
PKに対する影響は最小限
標準用量を使用
成人のデータなし.ECMOでないICU患者と同様の方法を用いる.TDMが推奨される.Crit Care 28: 326, 2024も参照.
イミペネム/シラスタチン
標準用量では目標に十分到達しない
増量が示唆される
著者らは,大規模レトロスペクティヴおよびプロスペクティブ研究に基づき,1g6時間ごとを推奨(Crit Care 28: 326, 2024).
イミペネム/シラスタチン/レレバクタム
PKパラメータは非ECMO患者と同様
標準用量を使用
7例の重症患者で標準用量で十分な薬剤曝露が得られた(J Antimicrob Chemother 79: 1118, 2024
イサブコナゾニウム硫酸塩
限られたデータ.イサブコナゾール濃度はECMO調整器で変化しない
標準用量を使用
TDMに基づく使用を考慮(Crit Care 28: 326, 2024J Antimicrob Chemother 77: 2500, 2022).
リネゾリド
最小限,データは矛盾
おそらく増量が必要
重症感染には600mgを考慮,副作用をモニター(Crit Care 28: 326, 2024).
メロペネム
ある程度のCS;PKへの重大な影響なし
通常範囲の上限用量,延長投与を考慮
文献:Crit Care 28: 326, 2024
メトロニダゾール
PKがECMOの影響を受けることは,おそらくない
標準用量が推奨される
文献:Crit Care 28: 326, 2024
ミカファンギン
CS中等度
増量を考慮
中等度CS,症例報告,安全性プロファイルは良いので増量が支持される,たとえば150mg24時間ごと(Crit Care 28: 326, 2024).
Nafcillin
おそらくCSはない
通常範囲の上限用量
臨床反応を詳細にモニター(Crit Care 28: 326, 2024
オセルタミビル
オセルタミビルのPKに対する重大な影響はない
標準用量を使用
3件のオープンラベルプロスペクティブ研究で支持される(Crit Care 28: 326, 2024).
Oxacillin
おそらくCSはない
通常範囲の上限用量
臨床反応を詳細にモニター(Crit Care 28: 326, 2024
ペラミビル
ECMO回路内での薬物喪失はわずか
標準用量を使用
小規模なex vivoの1回投与観察研究からの予備的なデータ(Perfusion 38: 501, 2023).
ピペラシリン・タゾバクタム
PKパラメーターへの重大な影響はないことがいくつかの研究で示されている;他の研究では,ECMOはPK目標達成の可能性を低下させることが示されている
通常範囲の上限用量,延長投与を用いる
矛盾するデータ.延長投与により目標達成率は改善する.可能ならばTDMに基づく投与を考慮する(Crit Care 28: 326, 2024).
ポリミキシンB
おそらくCSはない.薬物PKパラメーターへの影響は最小限
標準用量を使用
2つのPK研究(J Antimicrob Chemother 77: 1379, 2022J Clin Pharm Ther 47: 1608, 2022).Crit Care 28: 326, 2024も参照
ポサコナゾール
CS重度
予防:標準用量を使用
治療:増量を考慮,TDMで調整
文献:Crit Care 28: 326, 2024J Antimicrob Chemother 76: 1234, 2021
レムデシビル
親薬物およびGS-441524の両方にCSの可能性
標準用量を使用
臨床データは限られている.濃度低下が1件の症例報告により示唆されているが,交絡因子が多い(Crit Care 28: 326, 2024).
テイコプラニン
VdおよびCLへの影響は評価しにくい
増量が示唆される
プロスペクティブPK研究(n=10)では特異的な処方が推奨されている(Antimicrob Agents Chemother 61: e01015, 2017).Crit Care 28: 326, 2024も参照
チゲサイクリン
重度CSなし,PKへの影響なし
標準用量を使用
推奨はex vivo研究と1症例報告に基づく(Crit Care 28: 326, 2024).
ST
薬物PKパラメーターへの影響は最小限
標準用量を使用
症例報告あり,確認を要する(Pharmacotherapy 40: 713, 2020).Crit Care 28: 326, 2024も参照.
トブラマイシン
PKへの影響は最小限
標準用量を使用
臨床データなし.非ECMOのICU患者と同様の投与を行う.TDMが推奨される(Crit Care 28: 326, 2024).
バンコマイシン
PKへの影響は最小限
標準用量を使用
多重PK研究,観察研究,マッチングコホート研究に基づく.安全性と有効性の目標を達成するためにはTDMが必要(Crit Care 28: 326, 2024).
ボリコナゾール
CS中等度~重度
初回投与の期間を延長.6mg/kg静注12時間ごと・2日から開始(または酸素供給器交換の後),その後3~4mg/kg24時間ごとに減量
患者間でも同一患者においても変動が大きい.TDMに基づく使用が強く推奨される(Crit Care 28: 326, 2024Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023).

用量の推奨はECMOサポートを受けていない重症患者に対するもの

CS:循環での喪失,Vd:分布容積,CL:薬物クリアランス,TDM:治療薬物モニタリング

Cmax:血清中最高濃度,Cmin:血清中最低濃度


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2025/06/30