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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
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ECMO薬物用量調整 (2025/07/01 更新) |
はじめに
ECMOでの用量調整
薬物または分類 |
ECMOの影響 |
推奨される用量調整 |
コメント,文献 |
アミカシン |
PKへの影響は最小限 |
標準用量を使用 |
非ECMOのICU患者と同様の投与を行う.TDMが推奨される(Crit Care 28: 326, 2024). |
アムホテリシンB |
デオキシコール酸:CS最小限 リポソーム製剤:データが矛盾 |
デオキシコール酸:標準用量を使用 リポソーム製剤:増量を考慮(5~8mg/kg24時間ごと,またはそれ以上) |
症例報告では,リポソーム製剤では標準用量の2倍が必要だった(Pharmacotherapy 40: 89, 2020).リポソーム製剤からデオキシコール酸への変更を考慮する(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023).Crit Care 28: 326, 2024も参照 |
アンピシリン |
重度CSがありうる |
通常範囲の上限用量 |
患者2例の治療データ(Crit Care 28: 326, 2024;Pharmacotherapy 43: 864, 2023) |
Anidulafungin |
PKへの影響は最小限 |
標準用量を使用 |
1つの症例報告からのデータ(Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023). |
アジスロマイシン |
Cmax,Cmin,AUCへの影響なし;CLも同様;Vd↓? |
標準用量を使用 |
3例の患者の症例シリーズからのデータ(Ann Pharmacother 50: 72, 2016). |
カスポファンギン |
CSについてはデータが矛盾.一般的にはPKに対する影響は最小限だが,患者間の差が大きい |
増量を考慮 |
矛盾したデータだが,安全性プロファイルは良いので増量が支持される,たとえば,70mg24時間ごと(Crit Care 28: 326, 2024). |
セファゾリン |
PKパラメーターへの影響は最小限:CSについては矛盾したデータ |
細菌感染症予防には標準用量を使用(治療についてはコメント参照) |
症例報告(Chemotherapy 64: 115, 2019) 治療のためには通常範囲の上限を用いる(Crit Care 28: 326, 2024). |
セフェピム |
ex vivoでも臨床研究でもPKの重大な変化はない |
標準用量を使用 |
Time above MICを最大化するために延長投与を考慮する.TDM(可能なら)が有用なことがある(Crit Care 28: 326,2024) |
セフィデロコル |
CS最小限,PKパラメーターへの重大な影響なし |
標準用量を使用 |
文献:Crit Care 28: 337, 2024;Perfusion 38(1 suppl): 40, 2023) |
Cefpirome |
Vcentral↑,CL↑ |
増量が推奨される:2g静注(ボーラス)8時間ごと,または2g静注(4時間以上かけて)12時間ごと |
15例の患者でのプロスペクティブPK研究(Antimicrob Agents Chemother 64: e00249, 2020). |
Ceftaroline |
重度CS |
推奨を決めるに十分なデータがない |
循環での喪失はより高用量の必要性を示唆するが,臨床データはない(Crit Care 28: 326, 2024). |
セフタジジム |
ex vivoでも臨床研究でもPKの重大な変化はない |
標準用量を使用 |
文献:Crit Care 28: 326, 2024 |
セフタジジム/Avibactam |
上記のCmin目標値は事前に定めたカットオフ値以上 |
標準用量を使用 |
14例の患者のデータ.腎クリアランス増加(CrCl>130)は用量不足と関連する主要因子(J Antimicrob Chemother 79: 1182, 2024) |
Ceftobiprole |
PKパラメーターへの重大な影響なし |
標準用量を使用 |
28例のECMO患者のレトロスペクティブ研究(Int J Antimicrob Agents 61: 106765, 2023). |
セフトロザン・タゾバクタム |
CSデータは矛盾,PKパラメータへの影響は最小限 |
標準用量を使用 |
ex vivoおよびin vivo研究からのデータおよび症例報告(J Transl Med 18: 213, 2020) |
セフトリアキソン |
非結合型のセフトリアキソンのPKあるいは到達目標達成に重大な影響はない;CS最小限 |
通常範囲の上限用量 |
重症患者14例を対象としたPK研究からの結論(Clin Pharmacokinet 61: 847, 2022).Crit Care 28: 326, 2024も参照. |
シプロフロキサシン |
CS最小限,薬物PKパラメーターへの影響は最小限 |
標準用量を使用 |
8例の重症患者からのPKデータ(Anaesth Crit Care Pain Med 41: 101080, 2022).Crit Care 28: 326, 2024も参照. |
コリスチン |
おそらくCSはない.薬物PKパラメーターへの影響は最小限 |
標準用量を使用 |
文献:Crit Care 28: 326, 2024. |
ダプトマイシン |
CS最小限,PKパラメーターに重大な影響はない |
標準用量を使用 |
文献:Crit Care 28: 326, 2024 |
ドキシサイクリン |
PKへの影響は最小限(限られたデータ) |
標準用量を使用 |
1例の患者に関する会議抄録(Open Forum Infect Dis 2: 804, 2015) |
Ertapenem |
影響は不明 |
推奨にはデータが不十分 |
MEPMまたはIPM/CSを使用する(Crit Care 28: 326, 2024) |
フルコナゾール |
CS最小限,Vd↑ |
予防:標準用量を使用 治療:初回用量(12mg/kg,または標準治療用量の2倍),その後標準治療用量 |
文献:Crit Care 28: 326, 2024;Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023 |
ホスホマイシン静注 |
おそらくCSはない;発表されたPKデータはない |
標準用量の使用が推奨される |
文献:Crit Care 28: 326, 2024 |
ガンシクロビル |
CS最小限,PKパラメーターに対する影響は矛盾している |
標準用量の使用が推奨される |
わずか2件の症例報告(Int J Antimimcrob Agents 58: 106431, 2021;J Clin Pharm Ther 45: 218, 2020).可能ならTDMが推奨される.Crit Care 28: 326, 2024も参照. |
ゲンタマイシン |
PKに対する影響は最小限 |
標準用量を使用 |
成人のデータなし.ECMOでないICU患者と同様の方法を用いる.TDMが推奨される.Crit Care 28: 326, 2024も参照. |
イミペネム/シラスタチン |
標準用量では目標に十分到達しない |
増量が示唆される |
著者らは,大規模レトロスペクティヴおよびプロスペクティブ研究に基づき,1g6時間ごとを推奨(Crit Care 28: 326, 2024). |
イミペネム/シラスタチン/レレバクタム |
PKパラメータは非ECMO患者と同様 |
標準用量を使用 |
7例の重症患者で標準用量で十分な薬剤曝露が得られた(J Antimicrob Chemother 79: 1118, 2024) |
イサブコナゾニウム硫酸塩 |
限られたデータ.イサブコナゾール濃度はECMO調整器で変化しない |
標準用量を使用 |
TDMに基づく使用を考慮(Crit Care 28: 326, 2024;J Antimicrob Chemother 77: 2500, 2022). |
リネゾリド |
最小限,データは矛盾 |
おそらく増量が必要 |
重症感染には600mgを考慮,副作用をモニター(Crit Care 28: 326, 2024). |
メロペネム |
ある程度のCS;PKへの重大な影響なし |
通常範囲の上限用量,延長投与を考慮 |
文献:Crit Care 28: 326, 2024. |
メトロニダゾール |
PKがECMOの影響を受けることは,おそらくない |
標準用量が推奨される |
文献:Crit Care 28: 326, 2024. |
ミカファンギン |
CS中等度 |
増量を考慮 |
中等度CS,症例報告,安全性プロファイルは良いので増量が支持される,たとえば150mg24時間ごと(Crit Care 28: 326, 2024). |
Nafcillin |
おそらくCSはない |
通常範囲の上限用量 |
臨床反応を詳細にモニター(Crit Care 28: 326, 2024) |
オセルタミビル |
オセルタミビルのPKに対する重大な影響はない |
標準用量を使用 |
3件のオープンラベルプロスペクティブ研究で支持される(Crit Care 28: 326, 2024). |
Oxacillin |
おそらくCSはない |
通常範囲の上限用量 |
臨床反応を詳細にモニター(Crit Care 28: 326, 2024) |
ペラミビル |
ECMO回路内での薬物喪失はわずか |
標準用量を使用 |
小規模なex vivoの1回投与観察研究からの予備的なデータ(Perfusion 38: 501, 2023). |
ピペラシリン・タゾバクタム |
PKパラメーターへの重大な影響はないことがいくつかの研究で示されている;他の研究では,ECMOはPK目標達成の可能性を低下させることが示されている |
通常範囲の上限用量,延長投与を用いる |
矛盾するデータ.延長投与により目標達成率は改善する.可能ならばTDMに基づく投与を考慮する(Crit Care 28: 326, 2024). |
ポリミキシンB |
おそらくCSはない.薬物PKパラメーターへの影響は最小限 |
標準用量を使用 |
2つのPK研究(J Antimicrob Chemother 77: 1379, 2022;J Clin Pharm Ther 47: 1608, 2022).Crit Care 28: 326, 2024も参照 |
ポサコナゾール |
CS重度 |
予防:標準用量を使用 治療:増量を考慮,TDMで調整 |
文献:Crit Care 28: 326, 2024;J Antimicrob Chemother 76: 1234, 2021) |
レムデシビル |
親薬物およびGS-441524の両方にCSの可能性 |
標準用量を使用 |
臨床データは限られている.濃度低下が1件の症例報告により示唆されているが,交絡因子が多い(Crit Care 28: 326, 2024). |
テイコプラニン |
VdおよびCLへの影響は評価しにくい |
増量が示唆される |
プロスペクティブPK研究(n=10)では特異的な処方が推奨されている(Antimicrob Agents Chemother 61: e01015, 2017).Crit Care 28: 326, 2024も参照 |
チゲサイクリン |
重度CSなし,PKへの影響なし |
標準用量を使用 |
推奨はex vivo研究と1症例報告に基づく(Crit Care 28: 326, 2024). |
ST |
薬物PKパラメーターへの影響は最小限 |
標準用量を使用 |
症例報告あり,確認を要する(Pharmacotherapy 40: 713, 2020).Crit Care 28: 326, 2024も参照. |
トブラマイシン |
PKへの影響は最小限 |
標準用量を使用 |
臨床データなし.非ECMOのICU患者と同様の投与を行う.TDMが推奨される(Crit Care 28: 326, 2024). |
バンコマイシン |
PKへの影響は最小限 |
標準用量を使用 |
多重PK研究,観察研究,マッチングコホート研究に基づく.安全性と有効性の目標を達成するためにはTDMが必要(Crit Care 28: 326, 2024). |
ボリコナゾール |
CS中等度~重度 |
初回投与の期間を延長.6mg/kg静注12時間ごと・2日から開始(または酸素供給器交換の後),その後3~4mg/kg24時間ごとに減量 |
患者間でも同一患者においても変動が大きい.TDMに基づく使用が強く推奨される(Crit Care 28: 326, 2024;Clin Pharmacokinet 62: 931, 2023). |
用量の推奨はECMOサポートを受けていない重症患者に対するもの
CS:循環での喪失,Vd:分布容積,CL:薬物クリアランス,TDM:治療薬物モニタリング
Cmax:血清中最高濃度,Cmin:血清中最低濃度