日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

抗菌薬耐性の遺伝子型  (2024/05/14 更新)
分子診断プラットフォームで多く検出される耐性遺伝子型


概説

  • 以下の表は,薬剤耐性遺伝子型およびその機序,特定の薬剤あるいは特定の系統の薬剤に対する耐性,およびグラム陽性/陰性菌感染症治療での代替薬をまとめたものである.
  • 代替抗菌薬としてリストアップした薬剤は,特定の耐性決定因子の存在下でも活性が予測されるものである.薬剤耐性株は1つの,あるいは複数の耐性決定因子を備えており,そのため多剤耐性となりうるので,代替薬に対しても耐性となりうる.in vitroでの感受性確認が推奨される.

耐性決定因子/機序

グラム陽性菌耐性決定因子/機序
遺伝子型
耐性機序
耐性
代替抗菌薬
vanA
細胞壁修飾酵素
グリコペプチド:
VCM,TEIC,Dalbavancin,Telavancin
Oritavancin
LZD
DAP
vanB
細胞壁修飾酵素
VCM
TEIC1
Dalbavancin
Telavancin
Oritavancin
LZD
DAP
mecA/mecC
PBP,PBP2aへの親和性低下
ペニシリン,カルバペネム2.CeftarolineおよびCeftobiprole以外の全セファロスポリン
Ceftaroline
Ceftobiprole
LZD
DAP
VCM
TEIC

グラム陰性菌耐性決定因子/機序
遺伝子型
耐性機序
耐性
代替抗菌薬
ampC3
ペニシリナーゼ,セファロスポリナーゼ(Class C-セリンβラクタマーゼ)
ペニシリン,ほとんどのセファロスポリン
CFPM4
CTLZ/TAZ4
Ertapenem
IPM/CS
MEPM
アミノグリコシド系
CTX-M,SHV,TEM(ESBL)
ペニシリナーゼ,セファロスポリナーゼ(Class A-セリンβラクタマーゼ)
ペニシリン,ペニシリン-BLI合剤,ほとんどのセファロスポリン(セファマイシンは例外),AZT
CTLZ/TAZ
Ertapenem
IPM/CS
MEPM
アミノグリコシド系
5
KPC
ペニシリナーゼ,セファロスポリナーゼ,カルバペネマーゼ(Class A-セリンβラクタマーゼ)
ペニシリン,ペニシリン-BLI合剤,セファロスポリン,カルバペネム,AZT
CAZ/Avibactam
MEPM/Vaborbactam
IPM/CS/Relebactam
Cefiderocol
一部のアミノグリコシド系
OXA-48
OXA-48様
6
ペニシリナーゼ,カルバペネマーゼ(Class D-セリンβラクタマーゼ)
ペニシリン,ペニシリン-BLI合剤,カルバペネム,AZT
CAZ/Avibactam
Cefiderocol
アミノグリコシド系
IMP,VIM,NDM
ペニシリナーゼ,セファロスポリナーゼ,カルバペネマーゼ(Class B-メタロβラクタマーゼ)
ペニシリン,ペニシリン-BLI合剤,セファロスポリン,カルバペネム
AZTCAZ/Avibactam7
Cefiderocol

略語と注
略語:PBP:ペニシリン結合蛋白;Class A,B,C,D:βラクタマーゼのAmbler分類;ESBL:基質特異性拡張型βラクタマーゼ;KPC:Klebsiella pneumoniaeカルバペネマーゼ;BLI:βラクタマーゼ阻害薬(クラブラン酸,スルバクタム,タゾバクタム)
  • 1:テイコプラニンはin vitroではvanB株に活性のことがあるが,in vivoでは耐性が出現する.Dalbavancin,Televancinも同様であり,これらはそれぞれTEICおよびVCMの誘導体である.
  • 2:カルバペネム:Ertapenem,ドリペネム,イミペネム/シラスタチン,メロペネム
  • 3:AmpCは,染色体性で誘導性または構成的(つまり抑制解除されたもの),あるいはプラスミドにコードされた構成的なもののいずれかである.構成的なAmpC発現は,全ペニシリン,ペニシリンBLI合剤,CFPM以外のセファロスポリンに対する高度耐性につながる.誘導性耐性株(特にEnterobacter cloacae complex,Citrobacter freundiiおよびKlebsiella aerogenes)は第3世代セファロスポリン(たとえばCTRX,CTX,CAZ)にin vitroで感性のことがあるが,治療中に抑制解除された耐性変異株が出現することがある.
  • 4:CFPMとCTLZ/TAZは抑制解除された変異株に活性であるが,どちらも基質特異性拡張型AmpCによって不活化される.P. aeruginosa以外のAmpC産生株感染に対するCTLZ/TAZ治療の経験は限られる.
  • 5:ESBLおよびカルバペネマーゼの産生菌は,しばしば他の複数の薬剤に対する耐性遺伝子をもっていることがあり,そのため他のそのような薬剤は信頼できる代替薬としてあげられていない.
  • 6:OXA-48およびOXA-48様はセファロスポリンに対する活性を欠いているが,これらのβラクタマーゼ遺伝子をもつ株は,セファロスポリンを分解できる他のβラクタマーゼ遺伝子をもっていることが多い.そのためセファロスポリンは選択肢としてあげられていない.
  • 7:アズトレオナム(AZT)はメタロβラクタマーゼ(MBL)で加水分解されないが,MBL遺伝子をもつ株は,AZTを加水分解できる他のβラクタマーゼ遺伝子をもっていることが多い.AZTを使用する場合は,in vitro活性を確認するまでは,CAZ/Avibactamを併用する必要がある.AvibactamはClass A,C,D-セリンβラクタマーゼを阻害し,これらの酵素によるAZT不活化を防ぐ可能性があるためである.
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2024/05/13