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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
アミノグリコシド系-概説および一覧
(
2025/06/03 更新
)
使用および抗菌活性
アミノグリコシド系(AG)は
P. aeruginosa
を含む好気性グラム陰性桿菌による感染症の治療に使用される.AGのうちのいくつかの薬剤は,
Mycobacterium
に対する活性をもつ.
嫌気性菌には活性はない.
低pH環境(たとえば,膿瘍)では活性が低くなる.
AGは肺分泌物への移行性が十分でなく,感染した肺内の低pHがAGにとって良好ではないため,肺炎に対する使用は高用量でなければならない.このことは毒性リスクを増大させる.
抗菌薬の他の選択肢については,
抗菌薬耐性の遺伝子型
参照.
作用機序:AGは30Sリボソームに結合し,mRNAコドンの誤読を引き起こし,これによって蛋白合成ミスが起こりやすくなる.それと同時にリボソームにおけるtRNAのA(アミノアシル)部位への結合にも干渉する.
アミノグリコシドは古典的な濃度依存性の殺菌効果をもつ殺菌的薬剤と考えられている.また,長いPAE(postantibiotic effect)もある.
in vitroでは
S. aureus
に感受性があるが,単独で使用した場合,高頻度に小さなコロニーをなす耐性変異体が急速に出現する.
AGはしばしば他の抗菌薬と併用で使用される.
抗菌スペクトラム(全表)
を参照.
副作用
すべてのAGは潜在的に近位腎尿細管壊死と腎不全の原因となり,蝸牛毒性による難聴,前庭の障害によるめまいを誘発し,まれに神経筋遮断を起こす.
腎毒性およびおそらくは聴器毒性も,近位尿細管および内耳への蓄積の結果である.データによれば,敗血症患者でも最低3日治療を行わないかぎり急性腎障害リスクは増大しない:
Antimicrob Agents Chemother 58: 7468, 2014
.
腎毒性のリスク因子としては,高齢,脱水,長期治療,肝疾患,神経毒性のある他の薬剤(たとえば,シクロスポリン,VCM,AMPH-B,放射線造影剤)の併用などがある.同様の要因がおそらく聴器毒性のリスクにも影響を与える.
抗緑膿菌活性のあるペニシリン系薬との併用およびおそらく1日1回投与法(特に基本腎機能が正常な場合)により,腎毒性の危険性が低下する.
蝸牛毒性:非常に多くの場合,最初に有毛細胞が障害されるため,患者には気付かれないことがある.ミトコンドリア変異がある患者(500人に1人:ヨーロッパ)では蝸牛毒性が予測される(
N Engl J Med 360: 640, 2009
;
N Engl J Med 360: 642, 2009
).
前庭毒性:おそらく難聴よりも多いだろう.通常は両側性だが,片側性のこともある.症状としては,平衡失調,動揺視(視野が揺れ動く感じ),姿勢制御困難がある.患者は寝ている状態では症状がなく,歩こうとして初めて気付くことがある.
AGの腎/聴器毒性の危険性を取り除く方法は知られていない.適切な治療法により危険率が低下する.聴器毒性に対する抗酸化療法のメタアナリシスでは,N-アセチルシステイン(600mg12時間ごと)とアスピリン(たとえば,3g/日)は,AG投与後の難聴発症を低下させる効果があったが,ビタミンEではなかった.しかし,現在までに得られたエビデンスの質からして,この結果の解釈は慎重に行わなければならない(
Laryngoscope 135: 1278, 2025
).
AGによって重症筋無力症が顕在化したり,悪化したりすることがある.重症筋無力症患者への使用を避けるべき抗菌薬:フルオロキノロン系,ポリミキシン系,マクロライド系(EM,Telithromycin).
疾病による組織変性がないかぎり,経口または局所投与で吸収される割合は少なく,危険性は最小限.
人工関節置換の際にスペーサーとして用いられるセメントにアミノグリコシド系薬を加えることが一般に行われている.さまざまな量の薬剤が数日間で血清に移行し,毒性のリスクが生じるといういくつかの症例報告がある:
Clin Infect Dis 58: 1783, 2014
.
投与法
グラム陰性菌感染に対しては,ほとんどの場合投与間隔の延長が望ましいとされている.
AGの投与間隔延長処方の臨床データはメタアナリシスで広範囲に検討されている:
Clin Infect Dis 24: 816, 1997
.PK/PD解析:
Antimicrob Agents Chemother 55: 2528, 2011
.
Hartford Hospital法については,
Antimicrob Agents Chemother 39: 650, 1995
に解説がある.
初回投与量は,GMまたはTOBでは7mg/kg,AMKでは15~20mg/kg.投与間隔は推定CrClに基づいて決められる:
CrCl≧60:24時間ごと
CrCl 40~59:36時間ごと
CrCl 20~39:48時間ごと
CrCl<20:通常の投与法が推奨される
モニタリング: 初回投与から6 ~14時間後に1 つの直線を描き,その結果を下のノモグラムに当てはめて,選択した投与間隔を確認(あるいは修正).重要:Y 軸はGMまたはTOBの7mg/kg投与量に対してのみ.5mg/kg など異なる投与量を使用した場合,ノモグラムを使用するには,測定された濃度に7/5を掛ける必要がある.AMK 15mg/kgを使用した場合,ノモグラムを使用するには測定された濃度を半分にする必要がある.
グラム陽性菌感染に対しては,GM低用量(1剤以上の薬剤と併用)が用いられる.投与方法は状況により異なる:
侵襲性
Enterococcus
感染:1mg/kg静注8時間ごと
Staphylococcus
による人工弁感染性心内膜炎:1mg/kg静注8時間ごと
Streptococcus
による感染性心内膜炎:3mg/kg静注24時間ごと
血清濃度モニター(標準処方):
通常の投与で定常状態でのピーク値とトラフ値の測定を行う.重篤な患者では,分布容積と腎機能が急速に変化することがあるため,初回投与後に最高血清濃度測定を考慮
タイミング:
トラフ値:投与直前
ピーク値:初期の研究では薬剤分布はAG注射開始後60分で完全と示唆されていた.より最近のデータでは,通常の投与法では,薬物分布は注射開始後1.5時間,すなわち60分かけての注射後30分で完全となることが示唆されている(
Antimicrob Agents Chemother 41: 1115, 1997
).
目標:
標準処方,グラム陰性菌感染:
GM,TOB:ピーク値6~10μg/mL,トラフ値<2μg/mL
AMK:ピーク値20~30μg/mL,トラフ値5~10μg/mL
グラム陽性菌に対する相乗効果(GM):ピーク値3~4μg/mL,トラフ値<1μg/mL
用量設定に用いる体重:
患者の体重が理想体重より低い:実際の体重を用いる
患者の体重が理想体重~理想体重の130%:理想体重を用いる
患者の体重が>理想体重の130%:補正体重を用いる
補正体重=理想体重+0.4×(実際の体重-理想体重)
計算式-BMI, BSA, IBW, LBW
薬剤
アミカシン
(AMK)
ゲンタマイシン
(GM)
カナマイシン
(KM)
Netilmicin
ネオマイシン
パロモマイシン
Plazomicin
Spectinomycin
ストレプトマイシン
(SM)
トブラマイシン
(TOB)
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2025/06/02