バンコマイシン (2024/07/16 更新)
VCM 主な商品名:塩酸バンコマイシン
|
「サンフォード感染症治療ガイド」の中で推奨されている薬剤の適応および用量は,日本で認可されているものとは異なっている場合がありますので,薬剤選択を考慮する場合には,必ず日本での添付文書および最新安全性情報に基づいて行って下さい. →日本の添付文書情報検索サイト
|
Contents
1. 用法および用量
1. 使用
2. 成人用量
3. 小児用量
4. 腎障害時の用量調整
5. その他の用量調整
2. 副作用/妊娠時のリスク
3. 抗微生物スペクトラム
4. 薬理学
5. 主要な薬物相互作用
6. コメント
1. 用法および用量
1. 使用
-
VCMはグリコペプチド系抗菌薬であり,MRSAまたはMRSE感染の経験的または特異的治療に,注射剤として最も多く使用される.ペニシリンアレルギーの場合にも,VCMは感受性のあるStaphylococcusに対して用いられる.経口剤は重症C. difficile腸炎では優先して用いられる.
-
VCM耐性
-
初回用量は,肥満患者も含めて実際の体重に基づく.
-
維持用量は,目標AUC24血清値400~600μg・h/mLを達成するよう必要に応じて調整する.
2. 成人用量
-
定常状態に達するまで24~48時間待った後,血清ピーク値とトラフ値を測定する.
-
台形方程式を用いる(AUC-用量設定の原理と計算の説明と数式を参照):
-
測定されたピーク値とトラフ値に基づき,最初のAUC24を計算する.
-
維持用量のために用量と投与間隔を調整.
-
重症感染,重症疾患には,間欠投与または持続静注を行う
-
血清濃度が定常状態に達するまでの時間が短縮される
-
20~30mg/kg(実際の体重に基づく)を10~15mg/分(最大3g)の速度で静注
-
15~20mg/kgを60分以上かけて静注8~12時間ごと,AUC24 400~600μg・h/mLを達成するよう用量を調整
-
間欠投与:初回投与間隔の終了時に最初の維持用量を開始する
-
持続静注:初回の静注の終了直後に維持用量を開始する
-
初回用量:15~20mg/kg(注入速度10~15mg/分)
-
持続静注用量:30~40mg/kg(60mg/kgまで)24時間かけて静注1日1回
-
初回の静注の終了直後に持続静注を開始する
-
病的肥満:持続静注に関する十分なデータはない
-
成人:10~20mg/日
-
目標髄液中濃度は10~20μg/mL
-
C. difficile腸炎に対し,125mg経口6時間ごと・10日(静注治療は無効)
-
Staphylococcusによる腸炎に対し,500mg~2g/日経口6~8時間ごとに分割
-
経口VCMはカプセル†または経口溶液用散剤として入手可能.経口溶液のキット†はVCM散(3.75g,7.5g,15g)のボトルおよびグレープ味の溶液のボトルから成る.薬剤は25mg/mL(150mLまたは300mL)または50mg/mL(150mLまたは300mL)の濃度に再調製する.
-
再調製前および後では,経口溶液は冷蔵保存する.14日を過ぎたら再調製液は廃棄すること.
-
VCM静注剤からの経口液の調製は,承認された製品の成分に対するアレルギーのようなまれな状況以外では推奨されない.必要な場合:
-
VCM静注剤5g+滅菌水47.5mL+サッカリン0.2g+ステビア甘味料0.05g+グリセリン40mg,これに十分なチェリーシロップを加えて100mLにする
-
最終VCM濃度は50mg/mLとなる.用量は125mg/2.5mL 6時間ごと.
3. 小児用量
|
用量(生後>28日)
|
最大/日
|
(静注)
|
60~80mg/kg/日(6~8時間ごとに分割) 目標AUC 400~600μg・h/mL,またはトラフ値10~15μg/mL
|
-
|
(経口,C. difficile)
|
40mg/kg/日(6時間ごとに分割)
|
4. 腎障害時の用量調整
半減期(時間)(腎機能正常)
|
6
|
半減期(時間)(ESRD)
|
200~250
|
用量(腎機能正常)
|
15~20mg/kg静注8~12時間ごと
|
CrClまたはeGFR
|
CrCl>50~100:15~20mg/kg12h時間ごと CrCl 20~49:15~20mg/kg24時間ごと CrCl<20:15~20mg/kg48時間ごと
|
血液透析
|
透析後用量 低透過性の膜: ・初期用量:25mg/kg ・維持用量:7.5mg/kg透析後 高透過性の膜: ・初期用量:25mg/kg ・維持用量:10mg/kg透析後 透析間用量 低透過性の膜: ・初期用量:30mg/kg ・維持用量:7.5~10mg/kg 高透過性の膜: ・初期用量:35mg/kg ・維持用量:10~15mg/kg
|
CAPD
|
7.5mg/kg48~96時間ごと
|
CRRT
|
7.5~10mg/kg12時間ごと(濾過流量20~25mL/kg/時)(Am J Health Sys Pharm 77: 835, 2020)
|
SLED
|
データなし
|
5. その他の用量調整
2. 副作用/妊娠時のリスク
副作用
-
50近くの観察研究で,VCMとPIPC/TAZ併用治療を受けた患者での急性腎障害との関連が報告されている.
-
実質的にすべての研究では血清クレアチン値が糸球体濾過率の代替マーカーとして用いられている.しかし,10~40%またはそれ以上の血清クレアチニンが尿細管から分泌されている.
-
PIPCもTAZも尿細管でクレアチニンと競合し血清クレアチニンの上昇を引き起こし,これが糸球体濾過率の低下と誤って解釈された可能性がある.
-
シスタチンCは糸球体濾過率に対するもうひとつの代替マーカーであり,これは尿細管から分泌されない.
-
プロスペクティブコホート研究では,PIPC/TAZ+VCM治療を受けた患者での血清シスタチンC濃度上昇はみられず,血清クレアチニン濃度が,急性腎障害の基準を満たす上昇を示した.
-
文献:Intensive Care Med 48: 1144, 2020.
-
結局,現在までのエビデンスからは,血清クレアチニン濃度上昇を,尿細管分泌の阻害ではなく糸球体濾過率低下を反映するものとの取り違えてから,間違って毒性リスクとしてしまったのだということになる.
妊娠時のリスク
-
FDAリスク区分(旧):C
-
授乳中の使用:安全だが,モニターする
3. 抗微生物スペクトラム
4. 薬理学
PK/PD指標
|
24時間AUC/MIC
|
剤形
|
静注剤 経口カプセル(125, 250mg) 経口溶液用散剤(25mg/mL,50mg/mL)
|
食事に関する推奨(経口薬)1
|
-
|
経口吸収率(%)
|
-
|
Tmax(時間)
|
-
|
最高血清濃度2(μg/mL)
|
10~20(SS)
|
最高尿中濃度(μg/mL)
|
データなし
|
蛋白結合(%)
|
55
|
分布容積3(Vd)
|
0.7 L/kg
|
平均血清半減期4(T1/2, 時間)
|
4~6
|
排泄
|
腎
|
胆汁移行性5(%)
|
データなし
|
脳脊髄液/血液6(%)
|
7~14
|
治療が可能になるだけの脳脊髄移行性7
|
高用量が必要
|
AUC8(μg・時間/mL)
|
400~600(0~24時間)
|
†:日本にない剤形
-
注記のない場合は成人用経口製剤
-
SD:単回投与後,SS:複数回投与後の定常状態
-
V/F:(Vd)÷(経口生物学的利用能),Vss:定常状態におけるVd,Vss/F:(定常状態におけるVd)÷(経口生物学的利用能
-
CrCl>80 mL/分と想定
-
炎症時における脳脊髄液濃度
-
薬剤投与量と微生物の感受性に基づく判定.脳脊髄液濃度は理想ではMICの10倍以上必要
-
AUC:血漿中濃度-時間曲線下面積 area under the drug concentration-time curve.0~inf=AUC0-inf,0~x時間=AUC0-x
5. 主要な薬物相互作用
薬剤
|
濃度その他への影響
|
推奨される対応
|
他の腎毒性のある薬剤
|
急性腎障害のリスク↑
|
モニターまたは避ける
|
PIPC/TAZ
|
急性腎障害のリスク↑
|
モニター
|
6. コメント
-
治療失敗の場合は,MICまたはAUC/MIC比にかかわらず,MRSAに活性のある他の薬剤(つまり, Ceftaroline, DAP, LZD, Telavancin)への切り替えを考慮する.
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing↑ page top