日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

抗菌薬の持続あるいは長時間静注  (2023/11/14 更新)

持続あるいは長時間静注

個々の薬物用量

個々の薬物用量

アンピシリン/スルバクタム
最小安定性
37℃:24時間後の安定性(生食中) AMPC 77%,SBT 93%(Int Antimicrob Agents 6: S31, 1996
25℃:8時間後の濃度(生食中)ABPC≦30mg/mL/SBT≦15mg/mL
4℃:48時間後の濃度(生食中)ABPC≦30mg/mL/SBT≦15mg/mL
長時間静注の
推奨用量
9g(ABPC 6g+SBT 3g)4時間以上かけて静注8時間ごと
コメント
Acinetobacterによる人工呼吸器関連肺炎に対する推奨用量.観察研究では高用量は安全かつ有効であった(Scand J Infect Dis 39: 38, 2007J Infect 56: 432, 2008).SBT高用量長時間静注の必要性は,健常ボランティアを対象とした薬力学シミュレーション研究で支持されている(Antimicrob Agents Chemother 57: 3441, 2013Eur J Pharm Sci 136: 104940, 2019).推奨用量は腎機能正常患者に対するもの.
セファゾリン
最小安定性
大容量インフューザーポンプを用い,セファゾリン3gまたは6gを5%ブドウ糖水溶液または生食で調製.抗菌薬を充填した注入器は冷蔵庫に保管し,使用直前に冷蔵庫から出し身体近くの袋に入れ,夜間はベッドサイドに置く(Clin Ther 40: 664, 2018).
4℃:72時間
35℃:12時間,その後25℃:12時間
Easypump LT elastomeric deviceを用い,セファゾリン6gを250mLに調製.セファゾリンは「日常生活」の状況でも24時間は安定であることが示されている(J Antimicrob Chemother 72: 1462, 2017).
長時間静注の
推奨用量
初回投与:30mg/kgを1時間以上かけて,その後80~100mg/kgを24時間以上かけて・1日1回.腎障害時の用量はコメント参照.
コメント
推定糸球体濾過率に基づく目標定常状態血清濃度40,60,80μg/mLの場合の投与ノモグラムが,菌血症または心内膜炎に対しセファゾリン持続静注治療が行われた162例でのデータに基づき作成された(Antimicrob Agents Chemother 63: e00806, 2019).
セフェピム
最小安定性
37℃:8時間
25℃:24時間
4℃:≧24時間
持続静注の
推奨用量
初回投与:15mg/kgを30分かけて,その後ただちに下記を開始:
• CrCl > 60:6g(24時間以上かけて)毎日
• CrCl 30~60:4g(24時間以上かけて)毎日
• CrCl 11~29:2g(24時間以上かけて)毎日
コメント
CrCl による用量調整は臨床データではなく添付文書からの外挿(J Antimicrob Chemother 57: 1017, 2006Am J Health Syst Pharm 68: 319, 2011
Pseudomonasによる肺炎/菌血症の患者で,静注時間を30分から4時間に延長したことで死亡率が低下したという報告がある:Antimicrob Agents Chemother 57: 2907, 2013
セフタジジム
最小安定性
37℃:8時間
25℃:24時間
4℃:≧24時間
持続静注の
推奨用量
初回投与:15mg/kgを30分かけて,その後ただちに下記を開始:
• CrCl > 50:6g(24時間以上かけて)毎日
• CrCl 31~50:4g(24時間以上かけて)毎日
• CrCl 10~30:2g(24時間以上かけて)毎日
コメント
CrCl による用量調整は臨床データではなく添付文書からの外挿(Br J Clin Pharmacol 50:184, 2000Int J Antimicrob Agents 17: 497, 2001Antimicrob Agents Chemother 49: 3550, 2005Infection 37: 418, 2009J Antimicrob Chemother 68: 900, 2013).CAZの分解副産物であるピリジンは,理論的には毒性の懸念がある:リスクを最少にするためには一日用量を6gまでとし,静注液として生食を用い,可能ならCAZ濃度を≦3g/100mLとし,静注用機器の温度を15~22℃に保つ(Am J Health Syst Pharm 76: 200, 2019).
ドリペネム
最小安定性
37℃:8時間(生食)
25℃:24時間(生食)
4℃:24時間(生食)
長時間静注の
推奨用量
• CrCl ≧ 50:500mg(4時間以上かけて)8時間ごと
• CrCl 30~49:250mg(4時間以上かけて)8時間ごと
• CrCl 10~29:250mg(4時間以上かけて)12時間ごと
コメント
1つの研究に基づく(Crit Care Med 36: 1089, 2008).
メロペネム
最小安定性
37℃:<4時間
25℃:4時間
4℃:24時間
長時間静注の
推奨用量
• CrCl ≧ 50:2g(3時間以上かけて)8時間ごと
• CrCl 30~49:1g(3時間以上かけて)8時間ごと
• CrCl 10~29:1g(3時間以上かけて)12時間ごと
コメント
初回投与1gは合理的だが,多くの研究者は用いていない(Intensive Care Med 37: 632, 2011).
ピペラシリン/タゾバクタム
最小安定性
37℃:24時間
25℃:24時間
4℃:データなし
長時間静注の
推奨用量
初回投与:4.5gを30分以上かけて,4時間後に下記を開始:
• CrCl ≧ 20:3.375g(4時間以上かけて)8時間ごと
• CrCl < 20:3.375g(4時間以上かけて)12時間ごと
コメント
初回投与の4時間後から第1回投与を始めるのは合理的(Clin Infect Dis 44: 357, 2007Antimicrob Agents Chemother 54: 460, 2010).腎機能正常の肥満患者(>120kg)では,十分なタゾバクタム濃度を達成するためには,用量を6.75または9gまで増量し,4時間かけて8時間ごと静注が必要となる可能性もある(Int J Antimicrob Agents 41: 52, 2013).
Temocillin
最小安定性
37℃:24時間
25℃:24時間
これはTemocillinを4g/48mLに希釈した場合(J Antimicrob Chemother 61: 382, 2008).
持続静注の
推奨用量
初回投与:2gを30分かけて,その後ただちに下記を開始:
• CrCl > 50:6g(24時間以上かけて)毎日
• CrCl 31~50:3g(24時間以上かけて)毎日
• CrCl 10~30:1.5g(24時間以上かけて)毎日
• CrCl < 10:750mg(24時間以上かけて)毎日
• CVVH:750mg(24時間以上かけて)毎日
コメント
従来の8時間ごと投与に比べ,望ましいPK/PDに達する可能性が高いことが示唆されている.ただしこの研究は臨床的な効果を評価するためにデザインされたものではない(J Antimicrob Chemother 70: 891, 2015).
バンコマイシン
最小安定性
37℃:48時間
25℃:48時間
4℃:58日(10μg/mL濃度)
持続静注の
推奨用量
初回用量15~20mg/kg(10~15mg/分),その後30~40mg/kg(最大60mg/kg)24時間以上かけて静注1日1回
コメント
目標血中定常濃度20~25μg/mLを達成するために用量を調整.より積極的な投与でより高い血中濃度(30~40μg/mL)が達成できるが,腎毒性のリスクが増大する(Clin Microbiol Inf 19: E98, 2013).
定常状態の濃度を24倍してAUC24を計算する.濃度20~25μg/mLはAUC24 480~600μg・h/mLに等しい.
VCMの持続静注は治療選択肢として受け入れられつつある.間欠投与より目標濃度がばらつきなく速やかに達成でき,腎毒性のリスクは同等かより低いようである(Am J Health Syst Pharm 77: 835, 2020).
重篤な患者で用いられる他の薬剤と配合禁忌のため,VCMを持続静注する場合は複数の静注ラインが必要だろう.
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2023/11/13