日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

バンコマイシン,AUC-用量設定の原理と計算  (2022/7/26 更新)


はじめに

  • 0~24時間血中濃度-時間曲線下面積(AUC24)は,重症MRSAによる重症菌血症,心内膜炎および侵襲性感染患者でのVCM治療モニタリングの好ましい方法として注目されている.
  • 注:従来の小児用量45~60mg/kg/日では,満期産児および腎機能正常な年長の小児で,しばしば目標AUCに達しないことがある.AUC24を用いて400μg/mL近くであれば,中枢神経系以外のほとんどの感染症には十分である(Clin Infect Dis 71: 1361, 2020).
  • 本サイトにおいてVCM AUCは,定常状態で得られる2点の分布後濃度から,対数線形台形法により計算する.1回の投与間隔でのAUCは,AUCinf(AUC under the infusion)とAUCelim(AUC under the elimination)の2つの台形に分割される.AUCinfとAUCelimの和が1回の投与間隔でのAUCであり,これをもとにAUC24が算出される.
  • 真のピーク値は後方の測定ピーク値から,真のトラフ値は前方の測定トラフ値からそれぞれ外挿され,1回の投与間隔でのAUCが可能なかぎり近い形で得られる.
  • この計算法では,2つの台形では捕捉できない小さな領域が存在するため,推定されるAUC24は必然的に真のAUC24よりわずかに低い値となる.

Adv Drug Deliv Rev 77: 50, 2014(Fig 5)から改変)

  • AUC24は1日総投与量に比例するため,算出されたAUC24をもとに調整用量を決定する.
  
計算の前提
  • 定常状態で得られるVCMのピーク値およびトラフ値.定常状態になるまでには半減期の4~5倍の時間がかかる.下表はCrCL別のVCM半減期の近似値
CrCL(mL/分)
VCM半減期(時間)
≧100
6~8
60~99
8~12.8
40~59
13.1~18.2
15~39
18.7~40.8
0~14
43.4~140+

小児での使用

  • 用いられる式に年齢特異的なものはなく,計算過程にも年齢特異的な前提は設定されていない.用量は選択されるのではなく代入されるため,成人で一般的に用いられる用量には制約されない.したがって,計算は年齢によって変化するPKパラメータではなく,測定値から求められる動力学に基づいて行われる.これらの理由により,AUC計算は成人と小児どちらでも用いることができる.

計算に必要なデータ

  • VCM用量(mg)
  • 投与間隔(Tau, 時間)
  • VCMの注入時間(Tinf,時間)
  • VCMの測定ピーク値(μg/mL)
  • VCM注入開始からピーク値測定までの時間(T1,時間)
  • VCMの測定トラフ値(μg/mL)
  • VCM注入開始からトラフ値測定までの時間(T2,時間)

データ代入の例

  • 腎機能正常患者がVCM 1g静注12時間ごとの投与を受ける場合.4回目投与の30分前にトラフ値を測定し,1時間以上かけて4回目を投与,投与終了1時間後にピーク値を測定.患者は定常状態にあるため,4回目投与30分前の測定トラフ値と,5回目投与30分前の測定トラフ値は等しいはずである(上記グラフ参照).ピーク値22μg/mL,トラフ値8μg/mLと報告され,以上のデータを計算式に代入する.
  • 用量(mg):1000
  • 投与間隔(Tau,時間):12
  • 注入時間(Tinf,時間):1
  • 測定ピーク値(μg/mL):22
  • 注入開始からピークまでの時間(T1,時間):2
  • 測定トラフ値(μg/mL):8
  • 注入開始からトラフまでの時間(T2,時間):11.5
  • 計算ではAUC24 349μg・h/mL(目標範囲外)と算出される.また,目標AUC24 400~600μg・h/mLを達成するための1日用量も提示される.利用者は用量,注入時間,投与間隔を新たに代入することができ,それに応じたAUC24,ピーク値,トラフ値が予測される.

方程式:AUC24の計算

1.消失速度定数(ke)の計算

2.真のピーク値の計算

3.真のトラフ値の計算

4.AUCinfの計算

5.AUCelimの計算

6.AUC24の計算

用量調整

  • AUC24は1日総投与量に比例するため,算出されたAUC24をもとに調整用量を決定する.
  • 算出されたAUC24が目標範囲外の場合,目標範囲内の値となるよう用量または投与間隔(あるいはその両方)を調整する.AUC24がすでに目標範囲内なら,目標範囲の上限か下限の望ましい値となるよう用量を調整する,たとえば,小児用量ではAUC24が400に近づくようにする.

方程式:ピーク値とトラフ値の予測

1. 分布容積(Vd)の計算

2. VCMクリアランス(CL)の計算

3. 新たなピーク値の予測

4. 新たなトラフ値の予測

ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing↑ page top
2022/07/21