日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Serratia marcescens  (2024/09/17 更新)


臨床状況

  • Serratia marcescensは,免疫不全の有無にかかわらずさまざまな局所および全身性感染症を引き起こす.
  • 治療処方は,培養結果およびin vitro抗菌薬感受性試験結果によって異なる.
  • 多剤耐性(MDR)株の検出率が増加している.さらに,分離株には以下のような耐性機序の1つ以上が存在することがある
  • 基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)またはAmpC(臨床的に問題になるだけの産生はまれ)
  • カルバペネマーゼ,セリン型およびメタロ酵素
  • 抗菌薬の他のクラスに対する耐性も起こりうる
  • アミノグリコシド系薬に対する感受性の低下は,薬剤修飾酵素の産生,細胞壁透過性低下,排出ポンプ,リポソーム結合部位の変化によると考えられる
  • Serratiaはポリミキシン類(PL-Bおよびコリスチン),ABPC,ABPC/SBT,AMPC/CVA,CEZ,セファマイシン,Nitrofurantoinには自然耐性

分類

  • 通性好気性発酵性グラム陰性桿菌

第一選択

  • 以下の治療選択肢は,全身治療が必要な中等症~重症患者,または重症感染症患者の治療のためのもの
検査結果
関与する状況要因
推奨される処方
コメント
培養でSerratia属陽性だったが,in vitroでの感受性結果が得られていない場合,経験的治療
施設の多剤耐性率<10~15%
PIPC/TAZ 初回4.5g静注,その4時間後から3.375g 4時間以上かけて静注を開始し,8時間ごとに繰り返す.BMI≧30:維持用量を4.5g4時間以上かけて静注8時間ごとまで増量.または,
CTRX 1~2g静注24時間ごと.
AZT 2g静注8時間ごと(ペニシリン系薬に対してアレルギーの場合でも),
CPFX 400mg静注12時間ごと,
LVFX 750mg静注1日1回,
CFPM 1~2g静注8~12時間ごと
  

施設の多剤耐性率>15%
MEPM 1~2g静注8時間ごと,
Ertapenem 1g静注24時間ごと
  
AZT,CTRX,CTX,CAZにin vitroで感性
  
PIPC/TAZ,用量は上記と同様
CPFX 400mg静注12時間ごと,
LVFX 750mg静注1日1回
ST(トリメトプリムとして) 8~10mg/kg/日静注6時間ごとに分割
CTRX 1~2g静注1日1回(60歳未満),1g静注1日1回(60歳以上)
CFPM 1~2g静注8~12時間ごと
臨床培養でSerratia属が検出された場合,2023年IDSAガイダンスはATS結果にしたがって抗菌薬治療を選択することを推奨している.
しかし,AmpCに対する安定性がより大きいことから,菌量の大きい感染(たとえば,心内膜炎)または感染源コントロールが難しい場合(たとえば,CNS感染)ではCTRXよりもCFPM使用を考慮する方が合理的である.
AZT,CTRX,CTX,CAZに耐性
ESBLおよび/またはAmpC過剰産生が示唆される.さらにアミノグリコシド系薬,フルオロキノロン系薬にも耐性の可能性がある
MEPM 1~2g静注8時間ごと,またはErtapenem 1g静注24時間ごと
感受性があれば:CPFX 400mg静注12時間ごと,
LVFX 750mg静注1日1回
ST(トリメトプリムとして)8~10mg/kg/日6時間ごとに分割
CTLZ/TAZ 1.5g静注8時間ごと,およびCAZ/Avibactam 2.5g2時間以上かけて静注8時間ごとはESBLおよびAmpC産生Serratia株に対してin vitroで抗菌活性を示すが,臨床データは乏しい
MEPMと他のカルバペネム系薬すべてに耐性だが,MEPM/VaborbactamおよびCAZ/Avibactamに感受性
セリン型カルバペネマーゼ産生が示唆される.(Klebsiella[KPC])
CAZ/Avibactam 2.5g2時間以上かけて静注8時間ごと
MEPM/Vaborbactam 4g3時間以上かけて静注8時間ごと
単純性尿路感染症:FOM 3g1回(結果が一貫しない)
【注】FOM経口は米国ではFosfomycin tromethamineであり,日本のホスホマイシンカルシウムとは異なる.
感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.左記の薬剤に対する耐性変異の出現については,Clin Infect Dis 68: 519, 2019Antimicrob Agents Chemother 63: e01551, 2018参照
全カルバペネム系薬,フルオロキノロン系薬,アミノグリコシド系薬,CAZ/Avibactam,MEPM/Vaborbactamに耐性の汎耐性株
メタロβラクタマーゼ産生が示唆される.さらに分離株はアミノグリコシド系薬,フルオロキノロン系薬に耐性のことがある
CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと+AZT 2g3時間以上かけて静注6時間ごと(コメント参照)
CFDC2g3時間以上かけて静注8時間ごと(複雑性尿路感染症)(コメント参照)
感染症専門医へのコンサルテーションが重要:有効性が証明されている治療法なし.
in vitro感受性に基づき,MEPM/Vaborbactam+AZTが選択肢となることがあるが,有効性は証明されていない.
ポリミキシン類には自然耐性

第二選択

in vitroで耐性は確認されないが,IgEを介する重症βラクタム薬アレルギー(たとえばアナフィラキシーショック,じんましん)がある場合
  • CPFX 400mg静注12時間ごとまたは750mg経口1日2回,またはLVFX 750mg静注/経口1日1回,または
  • AZT 2g静注6時間ごと,または
  • GMまたはTOB 初回7mg/kg静注,その後5.1mg/kg静注24時間ごと
耐性パターンがESBLおよび/またはAmpC産生に一致(AZTおよび広域スペクトラムセファロスポリン系薬に耐性)の場合
  • CTLZ/TAZ 1.5g3時間以上かけて静注8時間ごと,または
  • 軽症~中等症の感染症で,in vitro MIC≦2μg/mL,感染巣が明らかでコントロールされている場合:CFPM 2g静注8時間ごと
  • 注:理論上,染色体性AmpC遺伝子の抑制を解除してAmpCの過剰産生を引き起こすリスクがある.CFPMはin vitroでESBL産生株に活性との報告がある
  • Temocillin 2g静注12時間ごと(ベルギーと英国では入手可能)
メタロカルバペネマーゼ産生株
  • 感染症専門医へのコンサルテーションが重要
  • Plazomicin 15mg/kg1日1回,使用可能ならば(in vitroの感受性をチェックする)(複雑性尿路感染症)

抗微生物薬適正使用

  • Serratiaはポリミキシン類に自然耐性のため,使用しないこと.
  • カルバペネム系薬は,嫌気性菌/好気性菌の複合感染症やESBL産生株による感染症の治療のために温存しておく.
  • MEPM/VaborbactamやCAZ/AvibactamはKPC産生が確認された感染症のため温存しておく.

コメント

  • AZTはメタロカルバペネマーゼで加水分解されない(CAZは加水分解される)が,カルバペネマーゼ産生菌が産生することの多いESBLにより不活化される.AvibactamはESBLおよびセリン型カルバペネマーゼを不活化するが,この不活化がなければAZTに対して耐性となる.Antimicrob Agents Chemother 61: e02243, 2017参照.
  • CFDC:FDAは,CFDC感性細菌による複雑性尿路感染症患者で,治療選択肢がないか限られている場合に承認した.敗血症,肺炎,菌血症,複雑性尿路感染症患者を対象にCFDCと最適治療(Best Available Therapy:BAT)を比較したオープンラベルランダム化試験では,28日死亡率はCFDC群24.8%,BAT群18.4%だった(統計学的有意差なし)
  • 多剤耐性グラム陰性桿菌に対する活性のある薬剤で,開発の後期段階にあるもの
  • AZT/Avibactam
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2024/09/17