日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Enterobacter cloacae complex  (2026/02/24 更新)
E. cloacaeE. hormaecheiC. sakazakiiK. aerogenes


臨床状況

  • Enterobacter属(E. cloacae complex)は,正常宿主・免疫不全宿主を問わずさまざまな局所感染や全身感染を引き起こす.
  • Enterobacter属はすべて,2種類のうち1つのAmpCセファロスポリナーゼ遺伝子をもつ
  • 染色体性AmpC遺伝子(実質的にすべての分離株に存在する)
  • ■通常は抑制されているため,AmpC遺伝子はルーチンのin vitro抗菌薬感受性検査では検出されない.
  • ■AmpCは,βラクタム/βラクタマーゼ阻害薬(すなわち,クラブラン酸,スルバクタム,タゾバクタム)では阻害されない.Avibactamで阻害される
  • E. cloacaeが第3世代セファロスポリン系薬に暴露されると,AmpCを過剰産生する脱抑制染色体性変異株の選択または抑制につながることがあり,第3世代セファロスポリン系薬での治療中の患者の5~20%で治療中の耐性発現が起こり,菌血症および/または肺炎患者で最もリスクが大きくなり,この種によって引き起こされる感染の治療では避けるべきである.
  • プラスミドAmpC遺伝子(まれ)
  • ■構成型,AmpC高度産生
  • ■耐性はin vitro感受性検査で最初に明らかになる
  • Enterobacter属は,その他の機序により多剤耐性(MDR)となることがある
  • プラスミドの遺伝子によりカルバペネム系薬,アミノグリコシド系薬,フルオロキノロン系薬に対する耐性が生じる
  • ESBLは分離株が広域スペクトラムのセファロスポリン系薬に対する幅広い耐性を示すことで検出されるが,脱抑制あるいはプラスミド型AmpC産生株との表現型での区別は難しい
  • 薬剤排出ポンプの過剰発現
  • 標的の変異
  • 薬剤透過性に影響する外膜蛋白の変異

分類

  • 通性好気性グラム陰性桿菌
  • Enterobacter cloacae complexは以下を含む
  • Enterobacter cloacae
  • Enterobacter hormaechei

第一選択

  • 感受性のある株による合併症のない感染症(たとえば,尿路感染症)または重症でない感染症では,下表にあげた薬剤に加えて,以下の治療選択がある:
  • 中等症~重症感染の治療では第3世代セファロスポリンは避けなければならないが,合併症のない尿路感染症では使用できる.Nitrofurantoinも合併症のない尿路感染症での選択肢である.
  • 下表の推奨は中等~重症感染症で,特に耐性菌が懸念される場合の治療に関するものである.特異的治療は,感染の部位と重症度,患者の脆弱性,in vitroの抗菌薬感受性検査の結果に従う.詳細については,IDSA抗菌薬耐性グラム陰性菌感染に関するガイダンスを参照.
検査結果
関与する状況要因
推奨される処方
コメント
Enterobacter属が検出されたが,in vitro感受性検査結果は得られていない場合の経験的治療
地域のESBL検出率<10~15%
CPFX 400mg静注12時間ごと,またはLVFX 750mg静注1日1回,またはCFPM 1~2g 3時間以上かけて静注8~12時間ごと
第3世代セファロスポリン系薬は,治療中に,抑制解除されたAmpC変異株選択による耐性を引き起こす可能性があるため,良い選択肢ではない.

PIPC/TAZも
Enterobacter cloacaeによる重症感染症の治療では避けるべき
地域のESBL検出率>15%,および/または重症感染または免疫不全宿主
MEPM 1~2g静注8時間ごと,またはErtapenem 1g静注24時間ごと
  
in vitroでAZT,CTRX,CTX,CAZに感性
  
CPFX 400mg静注12時間ごと,またはLVFX 750mg静注24時間ごと,またはST (トリメトプリムとして)10mg/kg/日2~3回に分割,またはCFPM(上記同様)
AZT,PIPC,CTRX,CTX,CAZはampC遺伝子の誘導作用は弱いが,AmpC過剰発現耐性変異株を選択する可能性があるため,使用してはならない.
AZT,CTRX,CTX,CAZに耐性
ESBL産生またはAmpC過剰産生の可能性
MEPM 1~2g静注8時間ごと,またはErtapenem 1g静注24時間ごと

感受性があれば,CPFX 400mg静注12時間ごと,またはLVFX 750mg静注24時間ごと

感受性があれば,ST(トリメトプリムとして)10mg/kg/日2~3回に分割
分離株はPIPC/TAZにin vitroで感受性があることがあるが,臨床的には無効であり,推奨されない.
より重症の感染にはMEPM 2g3時間以上かけて静注8時間ごとを考慮
MEPM,IPM/CS,または両者に対して耐性だが,CAZ/Avibactam,IPM/CS/RELおよびMEPM/Vaborbactamには感性
KPC型カルバペネマーゼ産生と解釈される
CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと,またはMEPM/Vaborbactam 4g3時間以上かけて静注8時間ごと,またはIPM/CS/REL 1.25g30分以上かけて静注6時間ごと(CrCl>90mL/分)
感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.
これらの薬剤への耐性出現に関する議論:Clin Infect Dis 68: 519, 2019Antimicrob Agents Chemother 63: e01551, 2018
AZT/Avibactamも選択肢となる(用量は下記参照)
CAZ/Avibactamおよび/またはMEPM/Vaborbactamに耐性
メタロβラクタマーゼ産生および/またはカルバペネムの他の耐性機序が示唆される(たとえば,ポーリン変異.薬剤排出ポンプ)
CAZ/Avibactam 2.5g 3時間以上かけて静注8時間ごと+AZT 2g 3時間以上かけて静注6時間ごと(コメント参照),または
AZT/Avibactam 2.67g(AZT 2g/Avibactam 0.67g)初回3時間以上かけて注入,次の投与との間隔をおいて2g(AZT 1.5g/Avibactam 500mg)3時間以上かけて注入
または
CFDC 2g3時間以上掛けて静注8時間ごと
感染症専門医へのコンサルテーションが強く推奨される.
in vitro感受性に基づき,AZT+MEPM/Vaborbactamが選択肢となることがあるが,有効性は証明されていない..
PL-B:下記コメント参照
汎薬剤耐性(すなわち,ポリミキシンおよび検査したすべての抗菌薬に耐性)
  
有効な治療法は知られていない:感染症専門医へのコンサルテーションが重要

第二選択処方およびコメントを参照

第二選択

臨床検査で,AZT,CTRX,CTX,CAZへの感受性が報告された場合(すなわち,抑制された染色体性AmpC遺伝子の存在が想定される)
  • GMまたはTOB)7mg/kg24時間ごと(腎機能に応じて用量調整)
  • 注:CFPM以外のセファロスポリン系薬は避ける.
臨床検査で,広域スペクトラムセファロスポリン系薬,AZT,フルオロキノロン系薬にin vitroで耐性のESBL産生株が報告された場合
  • 尿路由来でない場合
  • CTLZ/TAZ 1.5g3時間以上かけて静注8時間ごと
  • 尿路由来
  • CFPM/Enmetazobactam 2.5g2時間以上かけて静注8時間ごとが最近FDAにより,ESBL産生菌を含む複雑性尿路感染症治療に承認された.
  • 欧州医薬品庁(EMA)は,複雑性尿路感染症,院内肺炎,人工呼吸器関連肺炎に承認.
  • Temocillin 2g静注12時間ごと(入手可能なら)
  • 複雑性尿路感染症:FOM 6g60分以上かけて静注8時間ごと(入手可能な場合)(米国での治験薬の緊急使用についてはコメント参照)
  • 合併症のない膀胱炎:FOM 3g経口1回
    【注】FOM経口は米国ではFosfomycin tromethamineであり,日本のホスホマイシンカルシウムとは異なる.

抗微生物薬適正使用

  • カルバペネム系薬は,好気性・嫌気性菌の混合カバーが必要となるEnterobacter感染,またはESBL産生株による感染症治療のために温存しておくべき
  • CAZ/AvibactamおよびMEPM/Vaborbactamは,ESBLおよび関連のβラクタマーゼ対して活性があるが,カルバペネマーゼによる耐性が確認された患者のために温存しておく

コメント

  • CFDC:FDAは,CFDC感性細菌による複雑性尿路感染症患者で,他の治療選択肢がないか限られる場合に承認した.
  • FDAは以下の適応を承認した:腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症,院内細菌性肺炎,人工呼吸器関連細菌性肺炎.
  • メタロβラクタマーゼ(MBL)産生菌に対するCAZ/Avibactam+AZT
  • CAZ/Avibactamは,セリン型カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌に活性があるが,MBL産生菌には活性なし.
  • AZTはMBLによって加水分解されないが,CAZは加水分解される.しかし,MBL産生菌は通常ESBLまたはセリン型カルバペネマーゼを産生し,AZTはこれらにより不活性化される.AvibactamはMBLを阻害しないが,セリン型βラクタマーゼ(すなわち,ESBL,AmpC,セリン型カルバペネマーゼ)を阻害するので,セリン型βラクタマーゼで分解されるAZTがAvibactamと併用ならば活性を保つ(Antimicrob Agents Chemother 61: e02243, 2017).
  • AZT/Avibactam
  • MBL産生株を含むカルバペネマーゼ産生株に対して活性がある.18歳以上の複雑性腹腔内感染症患者で治療選択肢が限られている場合あるいは代替選択肢がない場合でのMNZとの併用をFDAは承認している.複雑性腹腔内感染,院内肺炎/人工呼吸器関連肺炎,腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症,好気性グラム陰性菌によるその他の感染症の患者で治療選択肢が限られている場合についてはEUでも承認されている(Lancet Infect Dis 25: 218, 2025Drugs 86: 79, 2026参照)
  • ESBL産生およびカルバペネム耐性腸内細菌目細菌に対するFOMの活性は,種および株によって異なるため,こうした株による感染症の治療における役割は不明である(Antibiotics (Basel) 14: 119, 2025).
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2026/02/24