日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Pseudomonas aeruginosa  (2024/11/12 更新)


臨床状況

  • 以下の推奨は,全身性治療が必要な中等症または重症感染患者の治療のためのものである.
  • Pseudomonas aeruginosaは,さまざまな局所性・全身性感染症を健常者でも免疫不全患者でも引き起こす.たとえば,
  • 人工呼吸器関連肺炎
  • 好中球減少症患者では,血管原性の皮膚への播種から潰瘍が形成され,壊疽性膿瘡と呼ばれる
  • P. aeruginosaは,以下のような幅広い抗菌薬耐性機構を獲得しており,それらが併存することもある
  • 特にカルバペネム耐性株では,多剤排出ポンプおよび/または外膜ポーリン欠損による透過性変異が多い
  • βラクタマーゼ産生
  • ペニシリン系薬,モノバクタム系薬,セファロスポリン系薬(CFPMは例外のこともある)を加水分解し,セリンβラクタマーゼ阻害薬(たとえば,Tazobactam)では阻害されない染色体性AmpCの産生および/または過剰発現(もっとも多い)
  • Pseudomonasセファロスポリン系薬(たとえば,CFPM,CAZ)を加水分解する基質拡張型βラクタマーゼ(まれ)
  • セリン型カルバペネマーゼ産生はまれであるが,メタロβラクタマーゼが存在することがある
  • 薬剤標的の変異:たとえばジャイレース変異の選択によるフルオロキノロン系薬耐性
  • 耐性機序などの諸問題,および治療に関する問題についてのさらなる議論は,グラム陰性桿菌,薬剤耐性-概説を参照.IDSAガイドラインの文献についてはコメントを参照.

分類

  • 好気性グラム陰性桿菌,ブドウ糖非発酵

第一選択

検査結果
関与する状況要因
推奨される処方
コメント
抗菌薬感受性検査結果がまだ出ていない場合,特異的な薬剤の選択が施設のβラクタム薬感受性パターンに従う,経験的治療
 
PIPC/TAZ 初回4.5g(30分以上かけて)静注,その4時間後に4.5mg(4時間以上かけて)静注を開始し8時間ごとに(4時間以上かけて)繰り返す
CAZ 2g静注8時間ごと
CFPM 2g静注8時間ごと
MEPM 1~2g静注8時間ごと
CTLZ/TAZ 1.5g(1時間以上掛けて)静注(肺炎でない場合),または3g(1時間以上掛けて)静注8時間ごと(院内肺炎または人工呼吸器関連肺炎)
・重症のIgE媒介βラクタムアレルギーの場合:AZT 2g静注6時間ごと,またはCPFX 400mg静注8時間ごと,またはLVFX 750mg静注24時間ごと
TOB 7mg/kg静注24時間ごと(第一選択ではない,重症βラクタムアレルギーの場合の選択肢,尿路感染症以外には単剤治療は推奨されない)
重症の場合は,活性のある薬剤の少なくとも1剤は確実に投与されるように併用治療を考慮する(第二選択を参照)
感受性検査結果が出て,in vitroで耐性の検出がない場合,単剤治療の治療選択肢
 
PIPC/TAZ 4.5g静注・初回は30分以上かけて,その4時間後,4.5g4時間以上かけて静注を開始し,8時間ごとに繰り返す.
CAZ 8g静注8時間ごと
CFPM 2g静注12時間ごと,またはBMI≧30なら2g静注8時間ごと
MEPM 1~2g静注8時間ごと
・重症のIgE媒介βラクタムアレルギーの場合:AZT 2g静注6時間ごと
より重症の感染あるいはブレイクポイントに近いMICの株においては高用量MEPM3時間以上かけて静注8時間ごとの投与を考慮する
CAZまたはCFPMは3時間静注使用を考慮する
PIPC/TAZおよび/またはCAZおよび゙/またはCFPMおよび/またはAZTに耐性の株
ESBL(まれ)またはAmpC耐性;透過性変異 
MEPM 1~2g静注8時間ごと(より重症の感染あるいはブレイクポイントに近い株に対しては高用量3時間以上かけて注入8時間ごと)
CTLZ/TAZ 1.5g1時間以上かけて静注8時間ごと(肺炎でない場合),または3g1時間以上かけて静注8時間ごと(院内肺炎または人工呼吸器関連肺炎)
カルバペネム以外のβラクタム薬では,たとえ感受性があったとしても交差耐性が多く,MEPMまたはCTLZ/TAZのほうが好ましい.
感受性があれば,CPFX 400mg静注8時間ごと,または750mg経口12時間ごと内服
MEPM耐性株で,カルバペネム以外の抗緑膿菌作用があるβラクタム薬に感受性
耐性は,薬剤排出とカルバペネム特異的なポーリン変異の組み合わせによる可能性がある
PIPC/TAZ 初回4.5g30分以上かけて静注,その4時間後,4.5g4時間以上かけて静注を開始し,8時間ごとに4時間以上かけて繰り返す.
CAZ 2g3時間以上かけて静注8時間ごと
CFPM 2g3時間以上かけて静注8時間ごと
・重度のIgE媒介βラクタムアレルギー:AZT 2g静注6時間ごと
CTLZ/TAZ 3g1時間以上かけて静注8時間ごと(院内肺炎または人工呼吸器関連肺炎)
抗緑膿菌作用のあるセファロスポリン系薬およびPIPC/TAZの感受性を確認すること
カルバペネム耐性株で,カルバペネム以外の抗緑膿菌作用があるβラクタム薬に耐性
CAZ/AvibactamおよびIPM/CS/RELに感受性:セリンカルバペネマーゼ産生と考えられる
・CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと,または
IPM/CS/REL 1.25g30分以上かけて静注6時間ごと(CrCl>90mL/分)
耐性の特性は表現型パターンからひきだされる.正確な遺伝子型を確認するためのプローブまたは配列分析は,広く使用可能なものではない
  
CAZ/AvibactamおよびIPM/CS/RELに耐性:メタロβラクタマーゼ産生と考えられる
CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと+AZT 2g3時間以上かけて静注(コメント参照)
CFDC 2g3時間以上かけて静注8時間ごと(コメント参照)
最適治療は知られていない.感染症専門医へのコンサルテーションが強く推奨される

第二選択

in vitroで耐性がない場合
  • AZT 2g静注6時間ごと(IgEを介するβラクタムアレルギーの場合)
  • LVFX 750mg静注24時間ごと,またはCPFX 400mg静注8時間ごと(敗血症性ショック患者についてはコメント参照)
  • Cefoperazone 2g静注12時間ごと(入手可能なら)
  • IPM/CS 0.5~1g静注6時間ごと
重症で,in vitro感受性結果が判明するまでの併用治療
  • TOB 初回7mg/kg静注,その後5.1mg/kg静注24時間ごと,またはGM 初回7mg/kg静注,その後5.1mg/kg静注24時間ごと,またはAMK 15mg/kg静注24時間ごと(AMKは,GMTOB耐性株にも活性があることがある)
  • CPFX 400mg静注8時間ごと,またはLVFX 750mg静注24時間ごと
ESBL産生株の場合
  • IPM/CS 0.5~1g静注6時間ごと
メタロカルバペネマーゼ産生
  • 感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される

抗微生物薬適正使用

  • in vitro感受性検査結果が得られた後は,併用治療を継続する意味はない.
  • 可能ならより適切な標的治療のため,マルチプレックスPCRプラットフォームによる病原体検出,耐性機序同定のための遺伝子シークエンスその他の検査の実施が推奨される.

コメント

  • 注:推奨は,全身性治療が必要な中等症または重症感染患者の治療のためのものである.
  • CFDC:FDAは,CFDC感性細菌による複雑性尿路感染症患者で,治療選択肢がないか限られる場合に承認した.コメント:敗血症,肺炎,菌血症,複雑性尿路感染症患者を対象にCFDCと最適治療(Best Available Therapy:BAT)を比較したオープンラベルランダム化試験では,28日死亡率はCFDC群24.8%,BAT群18.4%だった(統計学的有意差なし).
  • 前向きランダム化試験で有用性が示されなかったことから,(MEPMまたはIPM/CS)+PL-B併用治療は推奨されない(Lancet Infect Dis 18: 391, 2018).
  • 現在進行中の臨床試験の結果が明らかになるまでは,ポリミキシン-カルバペネム併用は避けるのが賢明である.
  • 高度耐性株に対するカルバペネム-アミノグリコシド系薬のサルベージ療法の可能性については,臨床的な検証が必要.
  • Ertapenemはin vitroでP. aeruginosaに活性がない
  • 併用治療
  • 経験的治療における薬剤併用の有用性として,とくに多剤耐性株の感染リスクが高い患者では以下の可能性がある
  • 2剤のうち少なくとも1剤は活性がある可能性が高くなる
  • 耐性亜集団の選択リスクが減少する(臨床的には証明されていないが動物モデルでは示された)
  • 両剤とも活性の場合,抗菌活性の追加的または相乗的効果が期待できる(臨床的には証明されていないが動物モデルでは示された)
  • βラクタム薬
  • CTLZ/TAZ
  • 治療7~53日後の患者でのampC変異による耐性発現は15%との報告がある.
  • 変異によりCAZ/Avibactamも交差耐性となるが,IPM/CS/RELの感受性は回復する.
  • 文献:
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2024/11/11