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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
フルオロキノロン系-概説および一覧
(
2024/04/02 更新
)
概説
DNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIVを阻害し,DNA合成を直接的に阻害する.
フルオロキノロン系(FQ)は好気性グラム陰性桿菌(
Enterobacter
属,
P. aeruginosa
,
Haemophilus
属)に対して最も活性が高い.
また,呼吸器の病原体(
S. pneumoniae
,
Haemophilus
属,
Moraxella catarrhalis
,
Legionella
属,
Chlamydia
,
Mycoplasma
)にも活性がある.
LVFXとMFLXは,CPFXに比べ呼吸器の病原体により活性がある.
Delafloxacinは,グラム陽性菌(MRSAを含む)およびグラム陰性菌による急性細菌性皮膚・軟部組織感染症に適応がある.
標的であるジャイレースやトポイソメラーゼの変化,排出ポンプの変異,外膜チャネルの変化をもたらす染色体遺伝子の変異により耐性となる.さらにプラスミドの関与により耐性となりうる.プラスミド遺伝子が標的を保護するタンパク質を発現させることがある(低度耐性).他の機序として,CPFXアセチル化酵素を産生する.
抗菌薬の他の選択肢については,
抗菌薬耐性の遺伝子型
参照.
多くの薬物相互作用がある.個々の薬剤のページを参照.
フルオロキノロン系薬に共通の副作用
FDAは,
急性副鼻腔炎,急性気管支炎,単純性尿路感染症患者について,他の治療選択肢がある場合には,フルオロキノロンに関連する副作用の重大性は有用性を上回る
という声明を出している.安全性に関する調査では,フルオロキノロン系薬の全身投与は,腱,筋肉,関節,神経および中枢神経の機能障害および不可逆的な重い副作用と関連し,これらは同時に起こりうることが示されている.すべてのフルオロキノロン系薬の薬剤情報は,これを反映して改訂されるだろう.
2016年FDAのフルオロキノロン系薬に関する薬剤安全性情報
.
小児における使用
:フルオロキノロン系は,未成熟動物で関節軟骨障害がみられるため,16歳未満での使用は承認されていない.小児における関節への副作用は2~3%と推計される(
Lancet Infect Dis 3: 537, 2003
).例外は炭疽(CPFX,MFLX),複雑性尿路感染と腎盂腎炎(CPFX).関節障害の原因はフルオロキノロン系がMg
2+
とキレート形成し軟骨細胞を傷害する相互作用にあると考えられている(
Antimicrob Agents Chemother 51: 1022, 2007
;
Int J Antimicrob Agents 33: 194, 2009
).
低血糖/高血糖(血糖異常)
:この理由からGFLXは米国では市販されなくなった.台湾では,糖尿病患者において特に低血糖のリスク上昇がみられた.低血糖は市販されているすべてのFQに関連することではあるが,MFLXで最も多くみられる(
Clin Infect Dis 57: 971, 2013
).
中枢神経毒性
:よくわかっていない.軽度(立ちくらみ,興奮,神経過敏,集中力欠如,記憶障害),中等度(混乱),重度(けいれん発作),さらには精神疾患までさまざまである(
Antimicrob Agents Chemother 57: 4079, 2013
).NSAIDsにより増強される可能性.おそらくGABA受容体阻害によると考えられる(
Drug Saf 34: 465, 2011
).下記の重症筋無力症および偽脳腫瘍を参照.
大動脈瘤
:傾向スコアをマッチさせたコホートを用いた観察研究で,フルオロキノロン系薬使用と大動脈瘤発症の関連に関するハザード比は1.9(1.22~2.96)であった(
BMJ 360: k678, 2018
).米国FDAは2018年12月に,大動脈瘤または大動脈解離のリスクに関する警告を発した:
Drug Safety and Availability 2018 Dec 20
.
より大規模な観察コホート研究では,フルオロキノロン系薬治療を受けた肺炎患者での大動脈瘤/大動脈解離発症率は,AZM投与例に比べ高かった(0.03%対0.01%).尿路感染患者ではフルオロキノロン系薬とSTの間に差はみられなかった.文献:
JAMA Inf Dis 2020年9月8日
.
最近のレトロスペクティブコホート研究では,大動脈解離あるいは大動脈瘤と診断された患者(n=31,570)で,FQ曝露は全原因死亡率(補正ハザード比[aHR]1.61),大動脈関連死(aHR 1.80)およおび大動脈手術の遅れと関連していた.AMPC曝露はこれらの指標のいずれとも関連していなかった(
J Am Coll Cardiol 77: 1875, 2021
).
偽脳腫瘍
:腫瘤病変や静脈血栓症を伴わない頭蓋内圧亢進.重度の頭痛やうっ血乳頭を呈する.「一次性」は特発性を指す.思春期~閉経期の肥満女性に多い.「二次性」の偽脳腫瘍はテトラサイクリン系薬に関連し,さらに最近ではフルオロキノロン系薬での有意なリスク比(4~6)が報告されている(
Neuroloby 89: 792, 2017
).
重症筋無力症
:いずれのフルオロキノロン系薬も,重症筋無力症を顕在化させたり,重症筋無力症患者の筋力低下を悪化させたりする可能性がある.重症筋無力症患者が避けるべきその他の抗菌薬:アミノグリコシド系,ポリミキシン系,マクロライド系(EM,Telithromycin).
腱断裂
:60歳以上では,全アキレス腱断裂の2~6%がフルオロキノロン系使用によるものと考えられる(
Arch Intern Med 163: 1801, 2003
).ステロイド併用や腎障害,移植後(心臓,肺,腎臓)でリスク↑(
Clin Infect Dis 36: 1404, 2003
).全体の発症率は低い(
Eur J Clin Pharmacol 63: 499, 2007
).
麻薬(アヘン)スクリーニングでの偽陽性
:フルオロキノロン系により大麻尿検査が偽陽性となることがある(
JAMA 286: 3115, 2001
;
Ann Pharmacother 38: 1525, 2004
).
心電図上のQTc(補正QT)間隔延長
:QTc間隔延長(>500msecまたはベースラインから>60msec)は,男性でも女性でも起こる異常であり,また,どのフルオロキノロン系薬でも生じうる.発生率は4.7/1万人・年 と報告されている(
Clin Infect Dis 55: 1457, 2012
).QTc間隔延長は,torsades de pointesおよび心室細動を引き起こしうる.現在市販されている薬剤ではリスクは小さい.女性,低カリウム,低マグネシウム,徐脈ではリスクが増大する(
Clin Infect Dis 43: 1603, 2006
).一番の問題は他剤との併用や電解質異常の併存によるQTc延長リスク上昇である.
一般住民を対象とした大規模研究において,重症不整脈のリスク上昇がみられた:
Clin Infect Dis 55: 1457, 2012
.少なくともここで採用されている用量では,LVFXよりもMFLXとCPFXのほうが発生率比が高かった.試験期間は1990~2005年であり,近年では以前より高用量のLVFXが用いられているため,リスク比に影響している可能性がある.
要するに,不整脈リスクはフルオロキノロン系共通の副作用のようである.
消化管副作用
:悪心,嘔吐はフルオロキノロン系経口剤を服用した患者の2~8%で起こる.
C. difficile
関連腸炎
:フルオロキノロン系(経口剤または注射剤)は最も主要な要因の1つである.
経口投与する場合にキレート化
:FQはキレート化しやすく,乳製品,総合ビタミン剤,制酸薬に含まれる多価陽イオン(たとえば,Ca
2+
,Mg
2+
,Al
2+
,Fe
2+
,Zn
2+
)によって吸収が妨げられる.
網膜剥離
リスクに関連するというカナダ(
JAMA 307: 1414, 2012
)と台湾(
Clin Infect Dis 58: 197, 2014
)からの報告がある.デンマークおよび香港からの研究では関連性は認められなかった(
JAMA 310: 2151, 2013
;
JAMA 310: 2184, 2013
;
J Antimicrob Chemother 70: 971, 2015
).両側ぶどう膜炎のリスクに関連するという報告もあるが(
Cutan Ocul Toxicol 31: 111, 2012
),因果関係は証明されておらず,発生率も低い.
血小板減少症
:重症患者の無作為化試験では,Cefuroximeと比較して血小板減少症の相対リスクは増大し(2.08),PIPC/TAZの相対リスク(1.10)を上回った.血小板絶対数の減少と関連し,その有意差は大きかった(p=0.0005)(
PLoS One 8: e81477, 2013
).
過敏性反応
:例は少ないものの,すべてのフルオロキノロン系薬で報告がある.
交差反応も,頻度は低いが起こることがある.多施設レトロスペクティブレビューでは,161例でフルオロキノロン系薬関連の過敏反応(発疹が84%)が確認され,その後他のフルオロキノロン系薬の投与を受けた.
MFLX再投与は,9.5%で発疹と関連していた.
CPFX再投与は,6.3%で発疹と関連していた.
LVFX再投与は,2.2%で発疹と関連していた.
文献:
Antimicrob Agents Chemother 67: e00374, 2023
.
抗菌スペクトラム
抗菌スペクトラム(全表)
を参照.
コメント
フルオロキノロン系に対する耐性機序が明らかにされている.
多くの薬物相互作用がある,個々の薬剤を参照.
薬剤
シプロフロキサシン
(CPFX)
Delafloxacin
ガチフロキサシン
(GFLX)
Gemifloxacin
レボフロキサシン
(LVFX)
モキシフロキサシン
(MFLX)
ノルフロキサシン
(NFLX)
オフロキサシン
(OFLX)
プルリフロキサシン
(PUFX)(ヨーロッパ,日本で先に販売されている)
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2024/04/01