日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

肺炎-人工呼吸器関連  (2023/08/15 更新)
人工呼吸器関連細菌性肺炎(VAPまたはVABP),人工呼吸器関連院内細菌性肺炎(HBAP)


臨床状況

  • 人工呼吸器関連細菌性肺炎(VAPまたはVABP:人工呼吸器装着後48時間以降に発症と定義),または人工呼吸器に関連した細菌性の院内肺炎(vHABP)に対する治療.
  • 予防についてはコメント参照
  • 定着と肺炎の鑑別が重要.診断は,画像,臨床および臨床検査基準の組み合わせを用いて下される.2023年National Healthcare Safety Networkのガイドラインとアルゴリズム参照.

病原体/診断

病原体
  • 早期発症(入院5日未満,他の多剤耐性菌リスク因子なし)
  • 腸内グラム陰性桿菌
  • 晩期発症(入院5日以上,多剤耐性菌のリスク因子あり)
  • 腸内グラム陰性桿菌(しばしば多剤耐性)
診断
  • 臨床的な疑いがあり,新たなまたは進行性の肺浸潤が胸部X線上で確認され,加えて以下の項目のうち2つ以上の所見がある
  • 発熱
  • 末梢血での白血球増加
  • 膿性の気管分泌物
  • 血液培養2本
  • VAPが疑われるすべての症例で気管吸引物または洗浄液の培養とグラム染色を行う.
  • 特に免疫不全患者ではL. pneumophilaの喀痰および尿抗原のPCR
  • 特に早期発症例や院内感染が疑われる例では呼吸器ウイルス(COVID-19,インフルエンザ,RSV,おそらくその他も)検出のためのPCR用鼻咽頭スワブ
  • MRSAに対する鼻孔スワブ培養またはPCR(陰性適中率は76~99%と高く,MRSA感染を除外できる:一般には陽性適中率は低く12%[Ann Pharmacother 53: 627, 2019]).
  • 可能なら血清プロカルシトニン(PCT):陰性の場合は,4~6時間以内に繰り返す(検査受付から検査終了までの所要時間を1~2時間と仮定)
  • PCT<0.25ng/mLなら,細菌性感染症に関する陰性適中率95%以上
  • 可能性のある病原菌を検出するための分子検査(たとえば,肺炎マルチプレックスPCRパネル)の有用性は証明されていないが,先行の抗菌薬治療によって増殖が抑制された病原菌の検出が可能になることがあり,その結果として経験的治療が少なくなり,より標的に特化した抗菌薬治療が可能になりうる
  • 推奨した診断方法は,個々の臨床状況においては適用できないこともあり,実行できない/利用できないこともある
  • 検出された病原微生物は,定着していたものか,侵入してきたもののどちらかである.

第一選択

  • MRSAのリスクが低い(ICUでの検出率<10~20%),多剤耐性菌のリスク因子なし:
  • CFPM 2g静注8時間ごと
  • PIPC/TAZ 4.5g静注6時間ごと(ESBL産生菌が疑われる場合には推奨されない)
  • MEPM 1g静注8時間ごと
  • LVFX 750mg静注/経口24時間ごと(ESBL産生菌が疑われる場合には推奨されない)
  • より重症の場合,つまり敗血症,血圧低下,胸部X線で急速に進行する浸潤影など高い死亡率が示唆される場合,または多剤耐性菌のリスク因子あり,MRSAの検出率>10~20%:
  • VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと(目標AUC24 400~600μg・h/mL達成が望ましい[AUC-用量設定の原理と計算を参照].さもなくば目標トラフ値15~20μg/mL)+(CFPM 2g静注8時間ごと,またはPIPC/TAZ 4.5g 6時間ごと,またはMEPM 1g8時間ごと)
  • Legionellaが疑われる場合は,LVFX 750mg経口/静注24時間ごと,またはAZM 500mg静注24時間ごとを処方に追加
  • Pseudomonasが疑われる場合,または多剤耐性のグラム陰性菌が疑われる場合には,少なくとも1剤は活性がある確率を高めるために,以下を追加する
  • CPFX 400mg静注8時間ごとまたはLVFX 750mg静注24時間ごとまたはTOB 5~7mg/kg24時間ごとまたはAMK 15~20mg/kg静注24時間ごと
  • 治療期間:抗微生物薬適正使用を参照

第二選択

  • VCMに代えてLZD 600mg静注12時間ごとを用いてもよい.
  • βラクタム薬に対するIgE媒介の重症の過敏症では,CFPM,PIPC/TAZ,MEPMの代わりにAZT 2g静注8時間ごとを用いる.ただしAZTはこれらの薬剤と異なりS. aureusS. pneumoniaeに対する活性はないため,培養結果が明らかになるまではVCMを追加する必要がある.
  • カルバペネム耐性腸内細菌科菌感染が疑われる場合:CFPM,PIPC/TAZ,MEPM(メタロβラクタマーゼ産生菌をカバーしない)に代えてCAZ/Avibactam 2.5g2時間以上かけて静注8時間ごと.
  • IPM/CS/REL 1.25g30分以上かけて静注,またはMEPM/Vaborbactam 4g3時間以上かけて静注も選択肢となる(どちらもメタロβラクタマーゼ産生菌をカバーしない).

抗微生物薬適正使用

  • 鼻腔のS. aureusスクリーニングがMRSA陰性なら,MRSAに対する経験的なカバーは不要.カバーを開始した場合は,陰性適中率が高ければde-escalationしても安全(Clin Infect Dis 71: 1142, 2020).
  • 培養(または使用できれば,分子検査)および抗菌薬感受性検査の結果に基づいて特異的病原体を標的とした処方に変更する.
  • 治療期間:
  • 一般的には7~8日治療
  • 一定の状況下ではより長期の治療(たとえば10~14日)が適当なことがある.
  • 感染が,より耐性の強い菌(たとえば,P.aeruginosaAcinetobacterStenotrophomonas,または他の多剤耐性菌)によるものである場合,特に背景にARDSや重大な構造的肺疾患のある患者.
  • 重度の免疫不全患者(たとえば,最近臓器移植を受けた,3ヵ月以内に拒絶反応に対する治療を受けた,先天的免疫不全など).
  • 菌血症(たとえば,菌血症を伴うMRSAまたはMSSA肺炎は4週治療しなければならない)または膿胸などの合併症がある.
  • 臨床的,放射線画像上,および/または臨床検査項目上での改善が遅い.
  • 別の方法として血清プロカルシトニン濃度を参照してもよい
  • レトロスペクティブコホート研究では,VAPが疑われるが,毎日の最小呼気終末陽圧≦5cm H2O,最小FiO2<40%の最小限かつ安定した人工呼吸器状態にある患者では,1~3日の治療は3日を超える治療と同等に有効であったことが示されている(Clin Infect Dis 64: 870, 2017).

予防

  • 30゜ないしはそれ以上頭位挙上を保つ.
  • NGチューブ,気管内チューブをできるだけ早期に抜去.
  • クロルヘキシジンによる口腔洗浄.
  • 心停止後で体温管理療法(TTM:targeted temperature management)中の患者におけるVAPの予防(N Engl J Med 381: 1831, 2019
  • 成人での多施設,二重盲検,ランダム化,プラセボ対照試験(可能な施設で)
  • 最初の7日間でのVAP:プラセボ 34%,AMPC/CVA 19%(p=0.03)

コメント

  • 多剤耐性菌が疑われる場合は,初期は広い範囲をカバーし,培養および感受性試験の結果に基づいて治療を絞り込む.
  • 多剤耐性菌のリスク因子:
  • 過去90日以内の抗菌薬治療
  • 現在5日以上入院中
  • VAP発症時点で敗血症性ショック
  • VAP発症前に緊急の腎代替療法を行った
  • 地域または個々の医療施設で抗菌薬耐性率が高い
  • 経験的処方の選択は,地域で多く検出されている原因菌,地域での感受性パターン,明らかになっている多剤耐性菌コロニー形成,現在までの治療歴,重症度により異なる.
  • IPM/CS/RELおよびCefiderocolは現在,院内細菌性肺炎および人工呼吸器関連細菌性肺炎についてFDAの承認を受けている.
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2023/08/14