日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

肺炎-院内感染  (2023/06/06 更新)
院内肺炎の経験的治療


臨床状況

  • 院内肺炎の経験的治療
  • 入院後48時間以降に発症した肺炎.

病原体

  • 早期発症(入院5日未満,多剤耐性菌の他のリスク因子なし)
  • 腸内グラム陰性桿菌
  • 晩期発症(入院5日以降,多剤耐性菌のリスク因子あり)
  • ウイルスの役割の可能性
  • 人工呼吸器肺炎(VAP)以外の院内肺炎の22.4%で,フィルムアレイマルチプレックスPCRにより呼吸器ウイルス(ライノウイルス,インフルエンザ,パラインフルエンザがもっとも多い)が検出された.細菌感染の合併の有無は不明(Respir Med 122: 76, 2017).

第一選択

  • MRSAのリスクが低い(検出率<10~20%),多剤耐性菌のリスクなし:
  • CFPM 2g静注8時間ごと,または
  • PIPC/TAZ 4.5g静注6時間ごと,または
  • MEPM 1g静注8時間ごと
  • LVFX 750mg静注または経口24時間ごと
  • MRSAの疑い(すなわち,多剤耐性菌リスク因子,MRSA感染/コロニー形成の既往または核酸増幅検査[NAAT]陽性)があれば,VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごとを追加
  • より重症の場合,つまり敗血症,血圧低下,胸部X線写真で急速に進行する浸潤など,高い死亡率が示唆される場合,または多剤耐性菌リスク因子あり,MRSAの検出率>10~20%:
  • VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと+(CFPM 2g静注8時間ごと,またはPIPC/TAZ 4.5g6時間ごと,またはMEPM 1g8時間ごと)
  • Legionellaが疑われる場合は,LVFX 750mg経口/静注24時間ごと,またはAZM 500mg静注24時間ごとを処方に追加する.
  • Pseudomonasが疑われる場合,生命の危険が大きい場合,多剤耐性グラム陰性菌が疑われる場合には,少なくとも1剤は活性がある可能性を高めるために,CPFX 400mg静注8時間ごと,またはLVFX 750mg静注24時間ごと,またはTOB 5~7mg/kg静注24時間ごと,またはAMK 15~20mg/kg静注24時間ごとを追加する.

第二選択

  • VCMをLZD 600mg静注12時間ごとに代えてもよい
  • βラクタム薬に対する過敏反応がある患者では,CFPM,PIPC/TAZ,MEMPの代わりにAZT 2g静注8時間ごとを使用.しかし,これらの薬剤と異なり,AZTはグラム陽性菌,とくにS. aureusに対する活性はないため,培養結果が出るまではVCMを追加する必要がある.
  • カルバペネム耐性腸内細菌感染が疑われる場合:CFPM,PIPC/TAZ,MEPM(メタロβラクタマーゼ産生菌をカバーしない)に代えてCAZ/Avibactam 2.5gを2時間以上かけて静注8時間ごと
  • IPM/CS/REL 1.25gを30分以上かけて静注6時間ごと,またはMEPM/Vaborbactam 4gを3時間以上かけて静注8時間ごとも選択肢となる(どちらもメタロβラクタマーゼ産生菌をカバーしない)

抗微生物薬適正使用

  • 鼻腔のS. aureusスクリーニングがMRSA陰性なら,MRSAに対する経験的なカバーは不要.カバーを開始した場合は,陰性的中率96.1%でde-escalationしても安全(Clin Infect Dis 71: 1142, 2020).
  • 治療期間:
  • 一般には7~8日治療
  • より長期の治療(たとえば10~14日)は,特定の状況では適正であろう:
  • より耐性の病原菌(たとえば,Pseudomons,Acinetobacter,Stenotrophomonas,その他の多剤耐性菌)による感染,特に背景にARDSや重度の構造的肺疾患のある患者の場合.
  • 重度の免疫不全患者(たとえば,最近臓器移植を受けた患者,あるいは3ヵ月以内に免疫抑制治療を受けている患者,先天性免疫不全など)
  • 菌血症(たとえば,菌血症を伴うMRSAまたはMRSA肺炎では,おそらく4週間治療を行うべき)または膿胸などの合併症がある場合
  • 臨床的,放射線画像上,および/または臨床検査パラメータの改善が遅い場合
  • それ以外では,血清プロカルシトニン濃度を追うことで治療期間を決定できる.

コメント

  • 多剤耐性菌のリスク因子
  • 過去90日以内の抗菌薬治療,現在5日以上入院中
  • VAP発症時の敗血症性ショック
  • VAP発症前の緊急腎代替療法
  • 地域または個々の医療機関で抗菌薬耐性が多い
  • 経験的処方の選択は,当該地域で多く検出されている原因菌,地域での感受性パターン,以前から明らかになっている多剤耐性菌コロニー形成,現在までの治療歴,重症度により異なる.
  • 原因菌に対してin vitroで活性のある薬剤を少なくとも1剤使用することが,治療結果の改善に結びつく.多剤耐性菌が疑われる場合は,初期は広い範囲をカバーし,培養および感受性試験の結果が得られたら,ただちにそれに従って治療を絞り込む.
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2023/06/05