false
日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
肺炎-院内感染
(
2023/06/06 更新
)
院内肺炎の経験的治療
臨床状況
院内肺炎の経験的治療
入院後48時間以降に発症した肺炎.
治療推奨は2016年のIDSAガイドラインに基づく(
Clin Infect Dis 63: e61, 2016
)
人工呼吸器装着患者に多い(
人工呼吸器関連肺炎(VAP)
の治療推奨を参照).
病原体
早期発症(入院5日未満,多剤耐性菌の他のリスク因子なし)
S. pneumoniae
S. aureus
H. influenzae
腸内グラム陰性桿菌
晩期発症(入院5日以降,多剤耐性菌のリスク因子あり)
S. aureus
(
MRSA
が多い)
グラム陰性腸内細菌は多剤耐性が多い.80%近くの患者で以下(ESKAPE)が病因だった:
Curr Opin Pulm Med 20: 252, 2014
E. coli
Serratia marcescens
Klebsiella pneumoniae
Acinetobacter baumannii
Pseudomonas aeruginosa
Enterobacter属
ウイルスの役割の可能性
人工呼吸器肺炎(VAP)以外の院内肺炎の22.4%で,フィルムアレイマルチプレックスPCRにより呼吸器ウイルス(ライノウイルス,インフルエンザ,パラインフルエンザがもっとも多い)が検出された.細菌感染の合併の有無は不明(
Respir Med 122: 76, 2017
).
VAP患者を対象とした研究では,22.5%が気道に呼吸器ウイルス(RSVまたはパラインフルエンザ)を保有:
Am J Respir Crit Care Med 186: 325, 2012
.
第一選択
MRSAのリスクが低い(検出率<10~20%),多剤耐性菌のリスクなし:
CFPM
2g静注8時間ごと,または
PIPC/TAZ
4.5g静注6時間ごと,または
MEPM
1g静注8時間ごと
LVFX
750mg静注または経口24時間ごと
MRSAの疑い(すなわち,多剤耐性菌リスク因子,MRSA感染/コロニー形成の既往または核酸増幅検査[NAAT]陽性)があれば,
VCM
15~20mg/kg静注8~12時間ごとを追加
より重症の場合,つまり敗血症,血圧低下,胸部X線写真で急速に進行する浸潤など,高い死亡率が示唆される場合,または多剤耐性菌リスク因子あり,MRSAの検出率>10~20%:
VCM
15~20mg/kg静注8~12時間ごと+(
CFPM
2g静注8時間ごと,または
PIPC/TAZ
4.5g6時間ごと,または
MEPM
1g8時間ごと)
Legionella
が疑われる場合は,
LVFX
750mg経口/静注24時間ごと,または
AZM
500mg静注24時間ごとを処方に追加する.
Pseudomonas
が疑われる場合,生命の危険が大きい場合,多剤耐性グラム陰性菌が疑われる場合には,少なくとも1剤は活性がある可能性を高めるために,
CPFX
400mg静注8時間ごと,または
LVFX
750mg静注24時間ごと,または
TOB
5~7mg/kg静注24時間ごと,または
AMK
15~20mg/kg静注24時間ごとを追加する.
第二選択
VCMを
LZD
600mg静注12時間ごとに代えてもよい
βラクタム薬に対する過敏反応がある患者では,CFPM,PIPC/TAZ,MEMPの代わりに
AZT
2g静注8時間ごとを使用.しかし,これらの薬剤と異なり,
AZT
はグラム陽性菌,とくに
S. aureus
に対する活性はないため,培養結果が出るまでは
VCM
を追加する必要がある.
CTLZ/TAZ
3g静注8時間ごとは
Pseudomonas
およびESBL産生腸内細菌科をカバーする(
Lancet Infect Dis 19: 1299, 2019
)
カルバペネム耐性腸内細菌感染が疑われる場合:CFPM,PIPC/TAZ,MEPM(メタロβラクタマーゼ産生菌をカバーしない)に代えて
CAZ/Avibactam
2.5gを2時間以上かけて静注8時間ごと
IPM/CS/REL
1.25gを30分以上かけて静注6時間ごと,または
MEPM/Vaborbactam
4gを3時間以上かけて静注8時間ごとも選択肢となる(どちらもメタロβラクタマーゼ産生菌をカバーしない)
さらなる詳細情報は
グラム陰性桿菌,βラクタム薬耐性-概説
参照.
抗微生物薬適正使用
鼻腔の
S. aureus
スクリーニングがMRSA陰性なら,MRSAに対する経験的なカバーは不要.カバーを開始した場合は,陰性的中率96.1%でde-escalationしても安全(
Clin Infect Dis 71: 1142, 2020
).
治療期間:
一般には7~8日治療
非発酵菌(たとえば,P. aeruginosa),または多剤耐性グラム陰性菌による肺炎に対して,より長期の治療を行うべきかについては,議論が続いている(
Clin Infect Dis 76: 745, 2023
;
Clin Infect Dis 76: 750, 2023
参照).
より長期の治療(たとえば10~14日)は,特定の状況では適正であろう:
より耐性の病原菌(たとえば,Pseudomons,Acinetobacter,Stenotrophomonas,その他の多剤耐性菌)による感染,特に背景にARDSや重度の構造的肺疾患のある患者の場合.
重度の免疫不全患者(たとえば,最近臓器移植を受けた患者,あるいは3ヵ月以内に免疫抑制治療を受けている患者,先天性免疫不全など)
菌血症(たとえば,菌血症を伴うMRSAまたはMRSA肺炎では,おそらく4週間治療を行うべき)または膿胸などの合併症がある場合
臨床的,放射線画像上,および/または臨床検査パラメータの改善が遅い場合
それ以外では,血清プロカルシトニン濃度を追うことで治療期間を決定できる.
コメント
多剤耐性菌のリスク因子
過去90日以内の抗菌薬治療,現在5日以上入院中
VAP発症時の敗血症性ショック
VAP発症前の緊急腎代替療法
地域または個々の医療機関で抗菌薬耐性が多い
経験的処方の選択は,当該地域で多く検出されている原因菌,地域での感受性パターン,以前から明らかになっている多剤耐性菌コロニー形成,現在までの治療歴,重症度により異なる.
原因菌に対してin vitroで活性のある薬剤を少なくとも1剤使用することが,治療結果の改善に結びつく.多剤耐性菌が疑われる場合は,初期は広い範囲をカバーし,培養および感受性試験の結果が得られたら,ただちにそれに従って治療を絞り込む.
2016年IDSAガイドライン:
Clin Infect Dis 63: e61, 2016
(全文);
Clin Infect Dis 63: 575, 2016
(要約).
2017年ヨーロッパのガイドライン:
Eur Respir J 50: 1700582, 2017
.
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing
↑ page top
2023/06/05