日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

抗レトロウイルス療法(ART)-成人  (2025/05/13 更新)
未治療患者の治療


概説

  • 成人に対するHIV治療処方.
  • 成人の未治療患者の抗レトロウイルス療法(ART).

治療開始/処方

いつ治療を開始するか
  • CD4数にかかわらず,すべてのHIV患者に対して治療を開始する
  • 以下のような場合のみ例外とする
  • 患者が治療を受けようとしない(個人的な理由,または服薬しようとする姿勢の欠如).
  • 患者が,Elite Controller,すなわちARTを受けなくても長期間HIV RNAが検出されない場合.こうした患者の治療に関しては議論があるが,多くの専門家は進行する新たなHIV複製が炎症を引き起こすため,ARTを行うことを提案している.
  • 多くの臨床家は「ただちに治療」の原則を採用しており,診断後すぐにARV処方が開始される.そのような状況では,耐性検査の結果が得られればそのデータに基づいて処方を調整する.
  
どの処方から開始するか
  • 処方の構成
  • ヌクレオシドまたはヌクレオチド逆転写酵素阻害薬(NRTI)2剤+INSTI(Bictegravirまたはドルテグラビル)
  • ドルテグラビル+ラミブジン(固定用量合剤)が一部の患者では使用可能
  • 第二選択としてはヌクレオシドまたはヌクレオチド逆転写酵素阻害薬2剤+非ヌクレオシド略転写酵素阻害薬,プロテアーゼ阻害薬,ラルテグラビル(INSTI)の1剤
  • 各薬剤の選択は以下のような多くの因子に影響される.
  • ウイルス耐性検査結果
  • 妊娠:下記参照
  • HIVの状態 (たとえばネビラピンは,CD4数>250/μLの女性およびCD4数>400/μLの男性では禁忌)
  • 薬物相互作用や副作用の可能性.特に忍容性に注意する(副作用の程度が軽くてもアドヒアランスに大きく影響することもある).
  • 合併症 (たとえばPIの体脂肪への影響,肝/腎疾患,心血管疾患リスク,薬物依存,精神疾患など)
  • 服用の簡便性.合剤は便利ではあるが,ときとして2剤を別々に処方するほうがよいこともある-たとえば腎疾患のために用量調整が必要な場合など.
  • アバカビルは現在では推奨されないが,用いる場合には使用に先立ってHLA-B5701検査が必要.
  • マラビロクを考慮する場合はCo-receptor tropismアッセイを行うこと.
  • リルピビリンをヌクレオシド逆転写酵素阻害薬2剤と併用する場合は,ベースラインのHIV RNA<10万コピー/mLの患者に限ること.ただし,ドルテグラビルとの併用では,リルピビリンをHIV RNA>10万コピー/mLの患者に用いてもよい.
  • TDFをリトナビルまたはコビシスタット併用プロテアーゼ阻害薬とともに用いると,腎障害が起こる確率が高いため,TAFを用いたほうがよい.一方,リトナビルやコビシスタットを併用しないプロテアーゼ阻害薬とともに用いる場合は,TDFに腎毒性はほとんどない.

推奨される処方

1日1回処方(すべての薬剤が1錠中に含まれる)
ビクタルビ(ビクテグラビル・TAF・エムトリシタビン)1錠1日1回,または
ドウベイト(ドルテグラビル・ラミブジン)1錠1日1回(一部の患者:ウイルス量<500K,ラミブジン耐性なし,HBVの重複感染なし)
1日1回処方(処方薬剤が別の錠剤に分かれている)
デシコビ(TAF・エムトリシタビン)1錠1日1回+ドルテグラビル 1錠1日1回,または
ツルバダ(TDF・エムトリシタビン)1錠1日1回+ドルテグラビル 1錠1日1回

第二選択処方

単剤処方
Atripla(TDF/エムトリシタビン/エファビレンツ)1錠1日1回・就寝前,または
Complera(リルピビリン・TDF・エムトリシタビン)1錠1日1回食事とともに(ウイルス量>10万/mLでは避ける),または
ゲンボイヤ (エルビテグラビル・コビシスタット・エムトリシタビン・TAF)1錠1日1回食事とともに,または
スタリビルド(エルビテグラビル・コビシスタット・エムトリシタビン・TDF) 1錠1日1回,または
オデフシィ(エムトリシタビン・TAF・リルピビリン)1錠1日1回食事とともに(ウイルス量>10万/mLでは避ける)
ジャルカドルテグラビル・リルピビリン)1錠1日1回食事とともに(治療前の野生株ウイルスに耐性変異がなく,標準3剤処方でウイルス学的失敗がなく,6カ月後も<50コピー/mLと抑制に成功している場合の代替処方として用いられる,2剤固定用量合剤)
Delstrigo(Doravirene/ラミブジン/TDF)1錠1日1回,または
シムツーザ(ダルナビル/コビシスタット/エムトリシタビン/TAF)1錠1日1回食事とともに
注射処方
Cabenuva(Cabotegravir/リルピビリン)1ヵ月2剤を経口でリードイン投与し,その後Cabenuva(Cabotegravir 600mg+リルピビリン900mg)注射を経口リードインの最終日に開始.Cabenuva注射は,2ヵ月,3ヵ月,その後は2ヵ月に1回行う
NNRTI複数錠処方(1つを選択)
エファビレンツ1錠1日1回就寝前+以下から1剤追加:
デシコビ(TAF・エムトリシタビン)1錠1日1回,または
ツルバダ(TDF・エムトリシタビン)1錠1日1回,または
エプジコム(ラミブジン・アバカビル)1錠1日1回就寝前(ウイルス量>10万/mLでは避ける)(下記警告参照)

リルピビリン1錠1日1回食事とともに(ウイルス量>10万/mLでは避ける)+以下から1剤追加:
デシコビ(TAF・エムトリシタビン)1錠1日1回,または
ツルバダ(TDF・エムトリシタビン)1錠1日1回,または
エプジコム(ラミブジン・アバカビル)1錠1日1回就寝前(ウイルス量>10万/mLでは避ける)(下記警告参照)

ドラビリン1錠1日1回+以下から1剤追加
デシコビ(TAF・エムトリシタビン)1錠1日1回,または
ツルバダ(TDF・エムトリシタビン)1錠1日1回
リトナビルまたはコビシスタット併用のPI複数錠処方(1つを選択)
Evotaz(アタザナビル/コビシスタット)1錠1日1回または
アタザナビル /リトナビル各1錠1日1回+以下から1剤追加
デシコビ(TAF・エムトリシタビン)1錠1日1回,または
ツルバダ(TDF・エムトリシタビン)1錠1日1回,または

プレジコビックス(ダルナビル・コビシスタット)1錠1日1回,または
ダルナビル /リトナビル各1錠1日1回+以下から1剤追加:
デシコビ(TAF・エムトリシタビン)1錠1日1回,または
ツルバダ(TDF・エムトリシタビン)1錠1日1回,または
エプジコム(ラミブジン・アバカビル)1錠1日1回就寝前(ウイルス量>10万/mLでは避ける)(下記警告参照)
INSTI中心の多剤処方
デシコビ(TAF・エムトリシタビン)1錠1日1回+ラルテグラビル(2600mg錠1日1回または1400mg錠1日2回),または

ツルバダ(TDF・エムトリシタビン)1錠1日1回+ラルテグラビル(2600mg錠1日1回または1400mg錠1日2回),または

ドルテグラビルラミブジン 各1日1回(治療開始時に耐性変異がなく, CD4>200/μLの場合のみ.第二選択処方)

NNRTI = non-nucleoside reverse transcriptase inhibitor,PI = protease inhibitor,INSTI = Integrase strand transfer inhibitor


毒性
  • 警告:エプジコム(アバカビル/ラミブジン)を含む処方(現在では推奨されない):HLA-B5701陰性患者にのみ用いる.アバカビルは,治療前にHIV RNA>10万/mLの患者で慎重に用いる(ドルテグラビルが処方のアンカードラッグである場合はこの限りでない).
   
  • 訳注:日本人の場合,そもそもHLA-B5701保有率は0.1%で,アバカビル過敏症の過去報告症例はすべてHLA-B5701陰性である.この点から,日本人の場合は投与前ルーチンでのHLA-B5701の検査は必要ないと思われる.

他の薬剤/特殊な患者

  • Juluca(ドルテグラビル/リルピビリン)は,初期処方が奏効しており(<50コピー/mLが>6カ月),治療前に耐性変異がなく,ウイルス学的失敗がない場合に,3剤処方の2剤への切り替えとして使用できる.
  • エトラビリンおよびリルピビリンは,NNRTI薬耐性変異(たとえばK103N)が背景にある一部の患者で選択肢となる.専門家へのコンサルテーションが推奨される.
  • リトナビルまたはコビシスタットを併用したPIは1日1回または2回投与が可能
  • リトナビルとコビシスタットが現在PI効果増強薬として使用できる.
  • リトナビルまたはコビシスタットを併用したINSTIは第二選択処方と考えられる.
  • リトナビルまたはコビシスタットを併用しないPIは現在では推奨されない.

妊婦での注意点

  • 治療開始のタイミングと薬剤選択は個別に判断すること.
  • ウイルスの耐性検査を行う.
  • 薬剤の長期的効果は不明.
  • ドルテグラビルおよびTAFは,安全性に関する報告および比較試験の結果から,現在妊婦には推奨されない.
  • ビクテグラビルについてはのデータが出てきている;ビクテグラビルは妊婦で使用しうる.
  • エファビレンツは妊婦での使用が認められている薬剤である.
  • 一部の薬剤は妊婦では危険または禁忌である(Didanosine,Stavudine).
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2025/05/12