日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

女性と妊婦におけるHIV-概説  (2024/04/02 更新)


概説

  • 女性は世界のHIV/AIDS患者の半数を占める.発展途上国では若年患者(15~24歳)の64%は女性である.2014年には,新規にHIVと診断された患者の19%が女性であった.
  • 世界的には異性間感染が感染のおもな形態である.2014年に米国で新規にHIV/AIDSと診断された女性の87%が異性との接触による感染で,13%が静注薬使用者(IDU)だった.
  • 男性から女性へのHIV感染は,女性から男性の場合よりも容易に起こる.男性から女性への感染のリスク因子:性器潰瘍,進行した疾患をもつパートナー,他のSTD,外傷.
  • 感染した特定のパートナーと数年間コンドームなしでの性生活を行った後の感染リスクは10~45%.
  • こうした事実にもかかわらず,女性におけるHIV問題についての報告は少ない.治療試験においても一般に女性が取り上げられることが少なく,性特異的な問題を明らかにすることは難しい.
  • 米国では毎年約5000人のHIV感染の女性が出産する.

臨床症状

  • AIDS診断
  • 治療へのアクセスが生存につながるが,女性ではこの点が不良なことがある.
  • CD4数が低くなるにつれて性差は減少する.
  • ヒトパピローマウイルス(HPV)
  • HPV疾患の発症率が上昇している!多施設研究で頸部上皮内腫瘍(CIN)の有病率が高かった.CD4が減少すると有病率が上昇する(Clin Infect Dis 38: 737, 2004).
  • 急性経過の場合,免疫不全患者では高率で癌化する.
  • HIV陽性女性にはPAPスメアが推奨される.最初のPAPスメアが陰性なら,6カ月後に繰り返す.どちらも陰性なら,PAPスメア年1回で十分(CDCガイドライン).CD4<200の女性に対しては,著者らは6カ月ごとを推奨している.疑わしい病変があればコルポスコピーが推奨される.CINの標準的治療方法の禁忌はない.治療後の再発率は高い.
  • HIV感染女性の多くは既にいずれかの遺伝子型のHPVに感染しているが,HIV陰性女性の推奨に従ったHPVワクチンの接種は有用のようである.
  • 再発/再燃性膣カンジダ症
  • 初期に発症するが,HIV感染の予測指標としては弱い(CD4>500のことがある).
  • 検査を勧められないため,HIVの診断がつかないことが多い.
  • 他の疾患
  • 骨盤内炎症性疾患(PID)が重症となることがあり,7~17%は入院が必要になる.卵管卵巣膿瘍はより多い.
  • 月経異常(HIV陽性女性では41%,対照では24%)には,生理不順,過多月経/過小月経,早期閉経症状,月経前症状の増加が含まれる.
  • Newman, MD, Global HIV/AIDS Medicine 2008から改編.

家族計画と妊娠

  • 妊娠を考えている女性,妊娠中の女性は全員HIV検査を受けることが推奨される
  • HIV感染女性の85%は出産年齢である.避妊および妊娠前計画が治療の重要な構成要素となる.HIV陽性女性には一般にホルモン避妊薬が安全であり,またインプラントや子宮内避妊具を含む,すべてのホルモン剤を用いた避妊法を利用できる(AIDS 29: 2353, 2015).ただし,性感染症およびHIVの感染を防ぐのはコンドームのみである.ホルモン剤による避妊と抗レトロウイルス薬との相互作用に注意すること.リトナビルがもっとも重大である.エファビレンツは避妊インプラント(たとえば,etonogestrel/levonogestrel)の効果を低下させることがある.相互作用の可能性がある薬剤のリストはclinicalinfoHIVガイドラインを参照.
  • ECHO試験(Lancet 394: 303, 2019)では銅付加子宮内避妊器具(銅付加IUD),メドロキシプロゲステロン酢酸筋注デポ剤(DMPA-IM),レボノルゲストレルインプラントは,いずれも避妊効果が高く,HIV感染率は同程度であり,使用可能であることが示された.避妊法のタイプによって疾患の進行に差異はみられなかった.AIDS Res Hum Retroviruses 36: 632, 2020
避妊方法
失敗率
リスク
不妊手術
0.4
HIV予防にはならない
ラテックスコンドーム
12~15
HIVおよびSTD予防
避妊ペッサリー
16
膣擦過傷の危険あり
スポンジ
9~32
膣擦過傷の危険あり
経口避妊薬
3~8
ARTとの相互作用は効果を減弱させる,あるいは副作用を増大させる
注射用プロゲスチン・デポ剤
3
ARTとの重大な相互作用なし.HIV排出を増加させる可能性あり.追加でコンドームを使うこと
銅付加子宮内避妊具(IUD)
1
HIV予防にはならない
ホルモン付加IUD
1
HIV予防にはならない.Amprenavir濃度を低下させる可能性あり.他のART薬はエストロゲン濃度を変化させる可能性あり
インプラント
1
プロゲスチンだけなら重大な相互作用はない.
膣リング
1~9
薬物相互作用が効果に影響するか不明

治療の問題点

  • 挙児計画中のHIV陰性女性に対するPreP
  • 妊娠計画中でTDF/FTC 1日1回による経口PrePを受けている場合について,DHHSガイドラインは1日1回PrePを最後のHIV曝露後7~28日まで継続することを推奨している.
  • 女性器での曝露例に対するTAF/FTCによるPrePの有効性研究は完成していない.DHHSは女性(または膣のあるヒト)に対するこのPreP処方を,妊娠中も分娩後も推奨していない.
  • 妊娠中の注射によるPreP(たとえば,長期作用型Carbotegravir)については限られたデータしかない.医師は,妊娠した患者を,抗レトロウイルス妊娠レジストリ(https://www.apregistry.com/Patients.aspx)への登録を推奨するのがよい.

妊婦におけるHIV

  • 妊娠前のカウンセリング
  • 挙児可能な年齢の患者全員と,定期的に出産計画を話し合うこと
  • 妊娠を希望あるいは計画している女性に教育とサポートを提供すること.
  • これは,処方の開始決定に影響する.ウイルス量が<50コピー/mLに保たれた状態を受胎前に達成することが望ましい.
  • 妊娠前や妊娠期間中は葉酸サプリメントやマルチビタミンが推奨される.
  • HIV感染と未感染のカップルが妊娠を希望する場合のカウンセリング
  • 持続的にHIVウイルス量が検出できない状態のペートナーからの感染リスクはきわめて低い.
  • HIVパートナーがPrEPを行えば,リスクはさらに低くなるため,行うように提言すべきである
  • 選択肢についての包括的な議論は,DHHSガイドラインの妊娠前カウンセリングの章を参照.
  • 出産前ケア
  • リスク因子の有無にかかわらず,性生活のあるすべての女性とすべての妊婦にHIV検査とカウンセリングを勧める.患者が拒否しないかぎり,出産前のHIV検査をルーチンで行うこと(個人の選択による検査).
  • リスクが継続している女性では妊娠第3期にHIVスクリーニングを繰り返す.
  • 高リスクで妊娠第3期中に再テストを受けなかった,新たなSTIがあった,または未検査である妊婦では出産中の迅速HIV検査が推奨される
  • ART開始後最初の1カ月にHIV RNAの定量的検査を行い,その後は3カ月ごとに行う.
  • CD4数とパーセントを最初と各妊娠期ごとに確認すること(正常な妊娠ではCD4数が低下することがある).
  • 通常の妊娠と同様のスクリーニング検査を行う(B型肝炎表面抗原,梅毒(RPR),Chlamydia,N. gonorrhoeae).
  • 不正な飲酒,薬物使用,喫煙,複数の相手とのコンドームなしのセックスをやめさせる.
  • 適応に応じてインフルエンザ,肺炎球菌,B型肝炎,A型肝炎,SARS-CoV-2,三種混合のワクチンを接種する(MMWR Recomm Rep 60: 1, 2011
  • 日和見感染予防の必要性を評価する.
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing↑ page top
2024/04/01