日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

HIV感染成人患者の初期評価  (2021/9/14 更新)
病歴,初期評価,HIV陽性


検査の確認

初期検査のまとめ(N Engl J Med 384: 2131, 2021
  
検査の確認
  • 陽性を示した最初のHIV抗体検査結果を必ず確認すること.
  • 2回目の診断検査結果を確認.
  • HIV抗体検査
  • HIV抗原(新しい検査の仕様の一部)
  • PCRによる血漿HIV RNAの定量

病歴

一般的な健康状態
  • 一般的な健康度および全身症状, 受診歴
  • 感染症罹患歴 (例えば結核,リーシュマニア症,コクシジオイデス症,ヒストプラスマ症)
  • 慢性疾患 (例えば糖尿病,多発性硬化症)
  • 小児期の感染症(例えば水痘,麻疹)
  • 入院歴 (どこで何の病気で)
  • 予防接種歴 (例えばA/B型肝炎,肺炎球菌ワクチン,BCG)
薬物歴
  • 医師による処方薬および一般医薬, 薬物アレルギーを含む
  • 代替医療薬
  • "快楽のための" または "不法な" 薬物使用 (リスクのあるパートナーの特定)
  • 喫煙,飲酒
性的関係
  • 性行動
  • 過去および現在の性感染症
  • 避妊の有無
  • 産婦人科歴
  • リスクのあるパートナーの特定
日和見感染リスク
  • 旅行歴
  • 居住歴
  • 職歴
  • 趣味の活動
  • 結核について
  • BCG接種歴,結核の家族歴,結核だとわかっている患者との(密な)接触,以前の結核検査の結果,および/または胸部X線写真(あれば)
  • ペット,動物関連
  • ネコ-Bartonella henselae.ネコを飼っていることとToxoplasma抗体のセロコンバージョンとは関連しない.
  • 魚-M. marinum
  • ウイルス性肝炎の既往(genotype-わかれば)
  • 帯状疱疹の既往
  • 抗レトロウイルス治療歴
  • 以前の治療処方
  • CD4数とウイルス量のデータ
  • 過去の副作用
  • 心血管疾患リスク因子

身体検査

  • 総合的な身体検査を行う.
  • 体重と身長の測定
  • 入念な眼底検査および口腔内検査
  • 皮膚診察を行う:背中,臀部,四肢,手,足を含む.
  • 全リンパ節領域の診察:後頭,耳介前,頸部,顎下,鎖骨上,腋窩,内側上顆,鼠径部(触知可能であれば測定し大きさを記録する。触知不能であれば陰性と記録する)
  • 直腸内診/生殖器診察(女性においてはパパニコロウ染色による細胞診の塗抹標本を用いた骨盤内診察を含む),肛門周囲/陰部単純ヘルペス検査を実施する.パパニコロウ染色による細胞診の塗抹標本は12カ月おきに実施する.ヒトパピローマウイルスに対するPCR.
  • 認知症の兆候について精神状態を評価する.

臨床検査

ベースラインを定める
  • 全血球計算値および分画.
  • 電解質,血糖(プロテアーゼ阻害薬の使用は,インスリン抵抗性を招くことにより糖尿病を合併することがある),腎機能検査:BUN,クレアチニン(テノホビルの使用により腎機能異常が起こり,NRTI/NNRTI投与量調整が必要となることがある).
  • 肝酵素検査:血清ビリルビン,AST,ALT,アルカリホスファターゼ(Indinavirとアタザナビルは間接ビリルビン値を上昇させることがある).
  • クレアチンキナーゼ(高値なら,HIVあるいは薬物によるミオパシーの可能性あり).
  • 空腹時脂質検査(高値なら食事療法や薬物療法が必要となる,あるいは特定のプロテアーゼ阻害薬を避ける必要性があるかもしれない).
  • HIV耐性検査/評価
HIVの病期
  • 抗レトロウイルス療法(ART)の開始時期および予防法など,将来のすべての治療を決定するために重要.
  • CD4およびCD8リンパ球数.
  • 血漿HIV RNAの定量-ウイルス量(viral load)または血漿中ウイルス負荷(viral burden).
  • 3~6カ月ごとに繰り返す.
その他
  • PPD intermediate(5TU),または M. tuberculosis感染のための血液分析[QuantiFERON-TB GOLD:日本ではクオンティフェロン(R)TBゴールド(QFT-G)に相当.QFT-3Gと呼ばれることもある].MMWR 54(RR-15): 49, 2005
  • 胸部X線写真(ベースラインの写真は将来の治療のために重要).
  • トレポネーマ抗体検査(梅毒検査)(十分な治療を受けたという確証がないかぎり,過去あるいは最近の曝露が明らかなら治療が必要):毎年繰り返す.
  • Toxoplasma のIgG抗体(陽性でCD4<100なら,一次予防の適応となる).
  • B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg),抗HBsAg抗体,C型肝炎ウイルス抗体(慢性の活動性感染に対する治療およびART開始決定のために重要),A型肝炎ウイルスに対するIgG抗体.
  • CMV抗体,IgG.
  • G6PD検査(アフリカ系アメリカ人).
  • 尿でのC. trachomatis および N. gonorrhoeae に対する核酸増幅検査.
  • 単純ヘルペス抗体(typeごと).
  • 血清テストステロン濃度(おそらく).
  • 血清ビタミンD濃度.

初期の対応

  • HIVリスク軽減のための教育.
  • 薬物更生/注射針の安全使用/注射針の交換.
  • 禁煙(喫煙により,鵞口瘡,毛髪状白斑,細菌性肺炎,冠動脈疾患のリスクが上昇).
  • セックスパートナーに知らせること.
  • 妊娠についての相談.
  • 心理社会的サポート.
  • 予防接種:予防接種により一時的にHIVウイルス量が上昇するが,臨床的意義は不明.
  • 蛋白結合型肺炎球菌ワクチン
  • インフルエンザワクチン(毎年)
  • B型肝炎ワクチン(性生活を営んでいる,あるいは注射の回し打ちをしている場合),A型肝炎ワクチン
  • 予防的な歯科的処置.
  • CD4<100/mm3なら,ベースラインでの眼科的検査.
  • 女性では子宮頸部の,男性では肛門のパパニコロウ染色塗抹標本,男女とも肛門のHPV PCR検査.

初期治療について

  • 複数の研究結果により,多数のHIV感染患者の治療経験があり,訓練および持続的な教育を受けた専門的な医師や医療提供者が行う治療は,良好なアウトカムにつながることが示されている.
  • 患者が必要とするサービスの調整,および急性期から長期的ケアまでを提供するチーム医療が最も効果的であることが認識されつつある.
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2021/09/09