日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

妊婦における抗レトロウイルス治療(ART)  (2026/07/21 更新)


臨床状況

  • 女性に対して最適な治療を行い,早急にウイルス量を<50コピー/mLに低下させること.
  • 薬物毒性なしに乳児への感染を予防すること.
  • 母子感染(MTCT)のリスク因子
  • 母親のCD4数(CD4<400なら,感染リスクは3倍に上昇).
  • 分娩方法(自然 vs 予定帝王切開)
  • 妊婦に対するARTの一般原則
  • 母子感染予防は,母親に対する産科的ケアとHIVに対する内科的ケアに統合されるべきである.母親は情報開示され,治療決定過程に参加するべきである.
  • HIVウイルス量あるいはCD4数にかかわらず,妊婦のARTはできるだけ早く開始しなければならない.
  • DHHSによる好ましい処方は,有効性,忍容性,妊婦での薬物動態,母親および胎児に対する毒性リスクに基づくものである.
  • ART開始前,あるいは治療中でもウイルス量が検出可能レベルであれば,耐性検査が推奨される.
  • 母体内でART曝露を受けた乳児の長期の安全性は,完全には明らかになっていない.ミトコンドリア毒性,心筋機能に関しては相反するジドブジンのデータが存在するが,一般的には安全と考えられる(J Am Coll Cardio 57: 76, 2011).
  • DHHSは現在ではドルテグラビルとビクテグラビルを好ましい処方にリストしている.
  • ボツワナでの臨床試験の予備的なデータによれば,妊娠時にドルテグラビルを服用した女性では神経管欠損の発症率が上昇した.しかし,それに続く研究では,リスクは非常に低く,妊娠後最初の4週に限られると考えられた.十分な葉酸の補充を行った女性での神経管欠損リスクは知られていない.
  • プロテアーゼ阻害薬(PI)の妊娠中の使用が早産率上昇,出生体重低下に関連することを示唆するデータがあるが(AIDS 32: 243, 2018),PIの有用性は明らかであるため,特別の指示がない限り使用を控えるべきではない.すべての薬剤で妊婦に対する至適投与量が明らかにされているわけではない.
  • リトナビルを併用しないPIおよびドルテグラビル+リトナビル,ロピナビル/リトナビルの1日1回処方は避ける.一部の患者では多剤耐性があるため,十分な濃度を維持できるようにする.
  • 現在HIV治療を受けていない妊婦の初期評価
  • 妊娠していない患者と同様
  • 抗レトロウイルス治療と連動して耐性監査を行う
  • CD4数>300の場合のCD4検査は,妊娠していない患者と同様
  • ウイルス量測定はより頻繁に行わなければならない.治療開始または処方変更後2~4週後に検査し,その後は少なくとも3~4ヵ月ごとに行う.ウイルス量の測定は妊娠36週あるいは予定分娩の約4週前までに行わなければならない.
  • 陣痛が始まった女性には,ただちにHIV検査を行うことが不可欠.HIV検査の項を参照.迅速検査を使用した場合は,確認のために標準的な抗原/抗体検査を実施する必要がある.

第一選択/第二選択

第一選択
  • 妊娠前にウイルス量が抑制され,治療に対して忍容性があれば,その治療法を継続することが概して望ましい.
基礎治療薬として望ましいNRTI
テノホビルジソプロキシルラミブジンまたはエムトリシタビンテノホビルアラフェナミドラミブジンまたはエムトリシタビン
望ましい第3薬
ダルナビル/リトナビル**,ドルテグラビル***またはビクテグラビル(急性HIV症状か妊娠後期であればBIC/TAF/FTCは望ましい薬剤)
その他のINSTI処方
ドルテグラビル/ラミブジンドルテグラビル/アバカビル*/ラミブジンラルテグラビル+基礎治療薬として望ましいNRTI
その他のPI処方
アタザナビル/リトナビル+基礎治療薬として望ましいNRTI,ダルナビル/リトナビル+基礎治療薬として望ましいNRTI
その他のNNRTI処方
Efavirenz+基礎治療薬として望ましいNRTI,リルピビリン+基礎治療薬として望ましいNRTI
その他の基礎治療薬として望ましいNRTI
ジドブジン/ラミブジンまたはアバカビル/ラミブジン

  • ドラビリンについては,妊婦に推奨するに十分なデータはない.
  • ARTはすべての妊婦に推奨される:治療は可能な限り妊娠の早い段階から開始する.
  • 3剤併用ARTを用いた場合の母子感染率は<1%.
  • 耐性,副作用プロファイル,利便性,アドヒアランスの可能性,薬物相互作用,母胎に対する毒性,催奇形性に基づいて,個々の患者に適した処方を選択する.
  • 妊婦がARV処方を受け,不耐でなく,ウイルス複製が抑制されている場合には,その処方を継続する.
  • すでにドルテグラビル投与を受けていて妊娠第1期であれば,神経管欠損リスク(上記参照)について専門家のカウンセリングを受けること.ただし出産前の治療を求める前にリスクの期間(window of risk)は既に過ぎてしまっている妊婦が多い.
  • アタザナビル/コビシスタット,ダルナビル/コビシスタット,またはエルビテグラビル/コビシスタットを含む処方で治療中なら,妊娠後期では薬剤曝露低下および治療失敗のリスクがあるため,処方の変更を考慮する.
  • 現在の処方で完全には抑制されていない場合は,処方されている薬剤以外で活性のあるものを少なくとも2剤確保するために耐性検査を行うこと.
  • WHOはNRTI2剤(ジドブジン+ラミブジン)を基本としてNNRTI1剤(ネビラピンまたはEfavirenz)の併用を推奨している.
  
第二選択
  • 上記第一選択参照

コメント

特殊な状況
  • 併用ARTを受け,持続的にウイルスが抑制されてHIV RNAが<1000コピー/mLである女性で,妊娠後期または出産が近い場合:出産中も経口ARTを続ける.計画的帝王切開の場合でも,破水が起こり手術を行う前までは治療を続けうる.静注ジドブジンは不要.
  • 出産前に併用ARTを受けているがウイルス量の抑制が十分でない女性で,出産が近い場合:HIV RNA>1000コピー/mLなら,妊娠38週での計画的帝王切開が推奨される.経口ARTに加え静注ジドブジンを投与する.新生児に対する追加的な抗レトロウイルス予防を考慮する-下記参照
  • 妊娠中に併用ARTを受けないまま出産に至った場合:未治療かつ迅速HIV検査陽性で出産に至ったすべてのHIV感染女性に対し,ただちに静注ジドブジンを開始する.新生児に対する追加的な抗レトロウイルス予防を行う.
  • HIV感染状況が不明な女性の出産:すべての産科施設で24時間以内に迅速HIV検査結果が得られなければならない.全例でただちに抗原抗体検査を行う.結果の判明が遅れる場合は迅速HIV検査を行う.結果が陽性なら,乳児に対する抗ウイルス予防を開始し,HIV-1/HIV-2抗体の鑑別検査を依頼する.最近の感染や急性HIVが疑われる場合は核酸増幅検査(NAAT)を依頼する.
一般的コメント
  • 添付文書では引き続き妊娠第1期のEfavirenz使用を避けるよう推奨しているが,ヒトにおけるデータは安心できるものである:AIDS 28: S123, 2014
  • アバカビルはHLA-B*5701陰性の女性にのみ使用すべき.
  • INSTI耐性の懸念があるため,PrEPのためにカルボテグラビルを以前に使用したことのある患者にはダルナビル/リトナビルが推奨される
  • ***葉酸サプリメントがルーチンで使用されていないボツワナで行われた観察研究では,妊娠時にドルテグラビルを服用した場合に神経管欠損症がわずかに増加したと報告されている.Tsepamo研究の最新データでは,ドルテグラビル投与群で神経管欠損症が0.3%,非投与群で0.1%と報告されている:N Engl J Med 381: 827, 2019. 妊娠中の女性および妊娠を希望する女性はすべて,神経管欠損のリスクを軽減するために葉酸を摂取すべきであるが,これがドルテグラビルに関連するリスクを軽減するかどうかは不明である.この情報については議論が必要である,DHHSカウンセリングガイドラインを参照.
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