日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

嚢胞性線維症  (2023/05/16 更新)
嚢胞性線維症-肺症状の急性増悪


臨床状況

  • 嚢胞性線維症患者での肺症状の急性増悪,たとえば咳の出現,咳および/または喀痰の悪化,安静時または労作時の息切れ,発熱,食欲不振,易疲労性など.
  • 処方の選択は呼吸器培養および感受性試験の結果に基づく.
  • 菌叢が固定する傾向があるため,経験的治療の指針として呼吸器培養を3カ月ごとに行う.
  • 治療開始時に喀痰培養を行うが,治療を始める際には直近の培養結果を用いる.
  • 第一選択,第二選択に加えて,吸入治療についてはコメントを参照.
  • 質の良い研究のデータが乏しいため,抗菌薬治療に関する下記の推奨は,専門家の意見および治療慣行に基づくものである.
  • 抗菌薬以外の治療法(たとえば,粘液溶解薬,理学療法,コルチコステロイド,気管支拡張薬など)は有効なこともあるが,ここでは取り上げない.

病原体

第一選択

軽度の悪化に対しては,可能ならば経口薬が望ましい.
静注治療が適応となるのは,重度の増悪,耐性菌による感染で経口薬の治療選択がない場合,経口治療に十分反応しない場合,経口薬に対するアレルギーまたは不耐の場合である.
P. aeruginosa
  • 小児:TOB 10mg/kg静注24時間ごと(投与18時間後に血清中濃度が≦0.5~1μg/mLとなるよう用量を調整)+CAZ 50mg/kg静注8時間ごと(最大6g/日まで)
  • 成人:TOB 5~7mg/kg静注24時間ごと(投与18時間後に血清中濃度が≦0.5~1μg/mLとなるよう用量を調整)+CAZ 2g静注8時間ごと
  • 一部の専門家は吸入治療も推奨している(下記参照)が,処方は定まっていない
  • 6歳以上の患者で,呼吸器培養でP. aeruginosaが繰り返し検出される場合:AZM長期治療,250mg経口1日1回(体重<40kg)または500mg経口1日1回(体重≧40kg)
  • 非結核性Mycobacteriumを除外するために治療開始時および経過観察中6~12カ月ごとに呼吸器培養を行うことが推奨される.培養陽性となった患者では単剤治療は中止すること.
S. aureus
  • MSSA
  • MRSA
  • 小児:望ましい目標AUC24 400~600μg・h/mLを達成するようVCM 60~80mg/kg/日静注1日3~4回に分轄(AUC-用量設定の原理と計算を参照.そうでなければ,トラフ値15~20μg/mLを目標とするのば望ましい).
  • 成人:望ましい目標AUC24 400~600μg・h/mLを達成するようVCM 15~20mg/kg/静注8~12時間ごと(AUC-用量設定の原理と計算を参照.そうでなければ,トラフ値15~20μg/mLを目標とするのば望ましい).
  • 軽度増悪
  • Methicillin感受性(MSSA)(感受性検査に基づく)
  • 小児
  • ST 10mg/kg/日(トリメトプリムとして)を2~3回に分割
  • CLDM 30mg/kg/日(最大1.8g/日)経口3~4回に分割
  • ■>8歳なら,DOXY 2~4mg/kg/日経口2回に分割(最大200mg/日)
  •   7:1懸濁液,またはチュアブル錠45mg/kg/日2回に分割
  •   錠:25~45mg/kg/日(AMPCとして)(最大1750mg)2回に分割
  • 成人:
  • ST 10mg/kg/日(トリメトプリムとして)を2~3回に分割
  • CLDM 450mg経口8時間ごと
  • DOXY 100mg経口12時間ごと
  • AMPC/CVA 875/125mg経口12時間ごと
  • Methicillin耐性(MRSA)(感受性検査に基づく)
  • 小児:
  • ST 10mg/kg/日(トリメトプリムとして)2~3回に分割
  • CLDM 30mg/kg/日(最大1.8g/日)経口3~4回に分割
  • ■>8歳なら,DOXY 2~4mg/kg/日経口2回に分割(最大200mg/日)
  • 成人:
  • ST 10mg/kg/日(トリメトプリムとして)2~3回に分割
  • CLDM 450mg経口1日3回
  • DOXY 100mg経口12時間ごと
  • より重度の増悪
B. cepacia
  • ST 15mg/kg/日(トリメトプリムとして)静注3回に分割

第二選択

P. aeruginosa
  • TOBAZT (小児100mg/kg/日静注3回に分割,最大6g/日;成人2g8時間ごと)
  • TOBMEPM(小児120mg/kg/日静注3回に分割,最大6g/日;成人2g静注8時間ごと)
  • TOBCFPM(小児150mg/kg/日静注3回に分割,最大6g/日;成人2g静注8時間ごと)
  • TOBPIPC/TAZ(小児300~400mg/kg/日[PIPCとして]4回に分割,最大16g/日;成人4.5g静注6時間ごと)
  • TOB耐性の場合,感受性があれば,TOBを下記の1剤に代えてもよい
  • AMK 30~35mg/kg静注1日1回
  • CPFX 40mg/kg/日経口2回に分割(小児用量),750mg経口1日2回(成人用量),または30mg/kg/日静注3回に分割(小児用量),400mg静注8時間ごと(成人用量)
  • LVFX 16~20mg/kg/日経口/静注2回に分割(生後6カ月~4歳),8~10mg/kg/日経口/静注1日1回(5~16歳),750mg経口/静注1日1回(成人用量)
MSSA
  • 小児
  • CEZ 50~150mg/kg/日静注3~4回に分割(最大6g/日)
  • 成人
  • CEZ 2g静注8時間ごと
MRSA
  • 小児
  • 年齢<12歳:30mg/kg/日経口/静注3回に分割
  • 年齢≧12歳:600mg経口/静注12時間ごと
  • 成人
  • LZD 600mg経口/静注12時間ごと
B. cepacia:感受性があれば,CAZまたはDOXYまたはMEPM.どの薬剤も活性がない場合は2剤以上の使用を考慮する

抗微生物薬適正使用

コメント

  • 嚢胞性線維症患者では薬剤の排出が速いため,より高用量が必要であることに注意する.
  • VCM:腎機能が正常な幼児や年長の小児では,従来のVCM 45~60mg/kg/日ではしばしば目標AUCに到達しない.ほとんどの非CNS感染ではAUC24 400μg/mLをめざす(Clin Infect Dis 71: 1361, 2020).
  • 嚢胞性線維症財団のガイドライン:
  • P. aeruginosa感染に対しては併用治療.
  • アミノグリコシド系なら1日1回投与.
  • ステロイドのルーチン使用は推奨されない.
  • TOB(3製品)
  • P. aeruginosaの持続的抑制には,フェノールフリーのTOBをネブライザーで吸入†300mg 1日2回・28日,その後28日は無治療というサイクルを繰り返す.パイロット研究で300mg1日1回または1日2回・60日の安全性と有効性が示された(J Antimicrob Chemother 71: 711, 2016).
  • TOBをハンドヘルド型吸入器で吸入.28mgカプセル4個・1日2回・28日,その後28日間無治療,これを繰り返す(Med Lett Drugs Ther 56: 51, 2014).
  • Bethkis(Cornerstone)で300mgを噴霧化し吸入12時間ごと・28日.
  • 気管支拡張薬投与の後,AZT lysine吸入剤†をネブライザーで吸入.用量は75mg1日3回・28日.Alteraネブライザーを用いること.
  • B. cepaciaは現在メジャーな病原体である.
  • 患者は進行性の呼吸不全を呈し,1年での死亡率は62%.
  • 多剤耐性のことが多い
  • B. cepacia患者は他の嚢胞性線維症患者から隔離する.

(†:日本にない剤形)

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2023/05/15