日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

抗菌薬の吸入-薬剤と治療  (2020/3/24 更新)


はじめに

  • 嚢胞性線維症その他の疾患によって発症した気管支拡張症の患者などに対する吸入抗菌薬が関心を集めている.多剤耐性グラム陰性桿菌による感染症,特に肺炎の増加により関心が高まっている.コリスチンにしか感受性のないP. aeruginosaA. baumanniiKlebsiella属の分離株が特に懸念される.
  • 吸入のためのエアロゾルを作る方法は数多くある:ドライパウダーの吸入,ジェットネブライザー,超音波ネブライザー,現在は振動メッシュネブライザーが望ましいとされている.振動メッシュ吸入器は極小エアロゾールを作り出し,微小気管支への薬剤の到達を高める(Cochrane Database System Rev 4: CD007639, 2013).
  • 2016年IDSAの人工呼吸器関連肺炎(VAP)に関するガイドラインでは,特に高度耐性菌に対しては,吸入抗菌薬とともに注射治療を強化することが推奨されている:Clin Infect Dis 63: 575, 2016

副作用

  • 気道過敏症から気管支けいれんが起きることがある.治療前のAlbuterol投与で予防できることがある.
  • 呼気フィルターが詰まることがある.

適応/薬剤

嚢胞性線維症
  • 米国FDAおよび欧州医薬品庁(EMA)により,P. aeruginosa感染のある6~7歳以上の嚢胞性線維症患者に対して,以下の吸入抗菌薬が承認されている.
  • AZT(FDA承認)
  • TOB吸入溶液(FDA承認)
  • TOB吸入用粉末(FDA承認)
  • Colistimethate乾燥粉末(EMA承認)
Mycobacterium avium complex(MAC)
  • 吸入リポソーマルAMK

嚢胞性線維症

  • AZT
吸入器
Altera®振動メッシュネブライザー
用量
75mg 1日3回・28日(1カ月おき).Med Lett 56: 51, 2014
コメント
嚢胞性線維症患者での呼吸機能改善,細菌量の減少,悪化回数の減少,症状改善(Expert Opin Pharmacother 14: 2115, 2013).

  • コリスチン(ポリミキシンE)
吸入器
多様(コメント参照)
用量
多様(コメント参照).もっとも広く用いられている用量は,50~75mgを3~4mLの生食で希釈して1日2~3回
注:肺胞上皮細胞への毒性のためPL-Bで代用しないこと(Antimicrob Agents Chemother. 2017 May 24;61(6). pii: e02690
コメント
用量についてはばらつきがある.Colistimethate(CMS)100万~200万単位(33~66mgコリスチン塩基)が嚢胞性線維症に有効(Expert Opin Drug Deliv 9: 333, 2012).最新の総説でも支持されている(Expert Rev Anti Infect Ther 13: 1237, 2015).6例の嚢胞性線維症患者に対する詳細なPK研究でも,Colistimethate吸入によって静注よりも高い喀痰中Colistimethateおよびコリスチン濃度が得られることが支持されている(Antimicrob Agents Chemother 58: 2570, 2014).

  • FOM+TOB(FTI)
  • 4:1 重量/重量
吸入器
eFlow®振動メッシュネブライザー
用量
FTI 160/40または80/20 1日2回・28日
コメント
どちらの用量も,P. aeruginosa感染の嚢胞性線維症患者で,28日間の吸入AZT投与後のFEV1改善を持続させた(対プラセボ).FTI 80/20は160/40より忍容性が高かった(Am J Respir Crit Care Med 185: 171, 2012).

  • LVFX
吸入器
eFlow®振動メッシュネブライザー
用量
240mg 1日2回・28日
コメント
嚢胞性線維症患者で,プラセボにくらべ喀痰中のP. aeruginosa量および他の抗菌薬の必要性が減少し,呼吸機能が改善した(Am J Respir Crit Care Med 183: 1510, 2011).

  • TOB
吸入器
TOBI:PARI LC® PLUSジェットネブライザー
用量
300mg 1日2回・28日(1カ月おき)
コメント
Med Lett Drugs Ther 56: 51, 2014
吸入器
TOBI Podhaler:28mgドライパウダーカプセル
用量
4カプセル(112mg)1日2回・28日(1カ月おき)
コメント
慢性P. aeruginosa感染の嚢胞性線維症患者におけるFEV1改善はTOB吸入溶液と同等だが,パウダーのほうが気道刺激が強い(Med Lett Drugs Ther 56: 51, 2014).

Mycobacterium avium complex(MAC)

  • リポソーマルAMK
吸入器
eFlow振動メッシュネブライザー(LamiraTM, PARI Pharma)
用量
590mg(8.4mL) 1日1回
コメント
他の治療選択肢がないか限られる難治性MAC患者に対し,併用治療の一部として用いられる.警告(Black Box Warning):過敏性肺臓炎,喀血,気道けいれん,背景にある肺疾患の増悪などの呼吸器副作用のリスク上昇.

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2020/03/24