日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

薬物アレルギー:ペニシリン,セファロスポリン,概説  (2023/06/20 更新)


はじめに

  • βラクタム抗菌薬には4つのカテゴリーがある.それぞれのカテゴリーの概説は下記を参照.
  • ペニシリン
  • セファロスポリン
  • カルバペネム
  • モノバクタム(アズトレオナム)
  • どのβラクタム薬の投与でもアレルギー反応は起こりうる:
  • ペニシリン治療でもっとも多く起こる.
  • もっとも重大な反応はアナフィラキシーであり,致命的となることがある.下記「アレルギーおよび副作用」参照

アレルギーおよび副作用

  • アナフィラキシー
  • アレルギー反応としてもっとも重大で,死亡率は0.002%
  • ペニシリンは薬剤性の致死的/非致死的アナフィラキシーの原因としてもっとも多い.ペニシリンアナフィラキシーによる死亡151例の分析:
  • 44%は呼吸器感染症の治療適応だった.28%にアレルギーの既往またはぜんそくがあった.69%は以前にペニシリンへの曝露があり,うち36%は副作用の既往があった.
  • 薬剤投与から症状発現までの時間は,85%が15分未満であり,ほとんどが1時間以内に死亡した.
  • 目標はIgEによるアナフィラキシー反応を避けること
  • 注意を要する事項:
  • 側鎖の共有がなければ交差アレルギー反応が起こる可能性は低くなるが,ゼロになるわけではない(「薬物アレルギーの基本」および「発症機序」参照).特定のペニシリンまたはセファロスポリンへのアナフィラキシー歴のある患者に,他のペニシリンまたはセファロスポリンを投与する場合,完全に対応可能なスタッフのいる医療機関で行うこと.
  • ペニシリン皮膚テストを行うことができず,患者にペニシリンへのIgE性反応(たとえば,アナフィラキシー,血管神経浮腫)の既往がある場合は,ペニシリンまたはセファロスポリンを投与しないこと.
  • ペニシリン/セファロスポリン皮膚テストを行うことができない,または臨床状況から緊急の治療決定が必要な場合,以下の条件であれば,おそらくペニシリンまたはセファロスポリンによる治療を開始しても安全であろう:
  • 病歴からIgE性反応が示唆されない,ペニシリンに対する反応が起きてから10年以上経っている,ペニシリン,ABPC,AMPC,AZTの側鎖とは異なるペニシリン/セファロスポリン系を用いる場合
  • 薬物アレルギーの基本
  • ペニシリンアレルギー
  • 約10%の患者にペニシリンアレルギーの既往がある
  • このうち90%以上は,IgE性アレルギー皮膚テストで陰性
  • 他のβラクタム薬との交差アレルギー反応
  • セファロスポリン:
  • 米国では2%の患者がセファロスポリンアレルギーと報告されている
  • ペニシリンによるアナフィラキシー歴のある患者の約40%が交差反応を示す(J Allergy Clin Immunol Pract 6: 82, 2018).交差反応は,共通のR-1側鎖をもつアミノペニリン(ABPCとAMPC)とセファロスポリン系薬の間で起こる(発症機序参照).
  • カルバペネム:
  • 交差アレルギー反応は1%未満
  • アズトレオナム
  • まれな例外を除いて,他のβラクタム薬との交差反応はない
  • アズトレオナムと,セフタジジム,CefiderocolのR-1側鎖は同一
  • 特別な状況:
  • エプスタイン・バーウイルス(EBV)による伝染性単核球症患者で起こる一時的な免疫系の変化.
  • こうした患者の90%以上は,ペニシリン系薬,特にABPCやAMPCを投与されると皮疹を発症する.T細胞媒介性であると考えられている.
  • 伝染性単核球症からの回復後に問題の薬剤を再投与すると,反応は起こらない.
  • HLA-B*57:01に関連したFlucloxacillinによる肝障害
  • アモキシシリン・クラブラン酸はHLA-DRB1*15.01およびDQB1*06:02の両方に関連する
  • 他のβラクタム薬との交差反応はない
  • ルーチンでのHLA型検査は現在では行われていない
  • プロカインペニシリンによる起立性低血圧
  • 数十年前は,呼吸器その他感染症の治療としてペニシリン注射が一般的であり,Procaine Penicillin筋注が多く用いられていた.こうした患者で起こった反応はプロカインによる起立性低血圧であり,アレルギー反応ではない.
  • βラクタム薬に対する免疫反応の分類:Gell & Coombsより改変.

記述
機序
臨床
I(即時型:1時間以内)
IgE性,もっとも重症
ヒスタミンおよび多くの血管作用性因子
アナフィラキシー;血管浮腫;気管支けいれん;じんましん
II
抗体依存性の細胞傷害
抗原がハプテンと結合し組織内に固定される
グッドパスチャー症候群;ペニシリン関連の溶血性貧血
III
免疫複合体疾患
免疫複合体の組織沈着
全身性ループス;ペニシリンによる血清病
IV(最初の薬剤投与後6時間以上たって起こる)
T細胞性,もっとも多い
活性化T細胞
麻疹状の皮疹.まれに重症となる:たとえばStevens-Johnson症候群;DRESS(好酸球増加と全身症状を伴う薬物反応).注:HLA-A*32:01陽性患者ではDRESSのリスクが増大する.

  • 発症機序
  • βラクタム薬4種類の基本化学構造を以下に示す:

  • 抗原決定基
  • 核となる環が分解され,ハプテンとしてタンパク質に結合し,複合体がアレルギー反応を引き起こす.
  • ペニシリン,セファロスポリン,アズトレオナムのR-1側鎖により特異的な反応が起きる.同一の側鎖をもつβラクタム薬は交差反応のリスクが高い(J Allerg Clin Immunol 136: 685, 2015).
  • 現在市販されているβラクタム薬のうち4つのグループだけが,同一のR-1側鎖をもつ(下記参照).市販されている他のすべてのβラクタム薬は独自のR-1側鎖をもつが,その違いはわずかである.
  • 同一のR-2側鎖によるセファロスポリン間の交差反応の可能性はあるが,同一R-1側鎖によるものほど重要性は大きくないと考えられる.
  • 同一のR-1側鎖をもつβラクタム薬の4グループ:
  • AMPC,Cefadroxil,Cefprozil
  • ABPC,CCL,CEX
  • AZTM,Cefiderocol,CAZ
  • CDTR,CFPM,CTX,CPR,CPDX,CTRX
  • 同一のr-2側鎖をもつセファロスポリン系薬
  • Cefadroxil,CEX
  • CFDN,CFIX
  • Cefoxitin,Cefuroxime
  • βラクタム薬アレルギーの診断と対処
  • 病歴の聞き取りから始めるが,病歴は非常に不正確であることが多い.
  • 高リスクが示唆される病歴
  • アナフィラキシー,血管浮腫,気管支けいれん,および/またはじんま疹に一致する臨床症状の(または過去10年以内の)既往
  • 対処:臨床状況の緊急性による:
  • ショックを伴わないじんま疹の既往がある場合:皮膚検査を行った後,管理下でのアモキシシリンの段階的投与を行うこともある
  • FDAは主要および副次的抗原決定基を含むペニシリン皮膚検査キットを承認した.陰性予測率7.9%との報告がある:J Allergy Clin Immnol Pract 7: 1876, 2019.ただし,2020年10月現在,市販はされていない.
  • 過去にアナフィラキシー/ショック/急激な発症があった場合:免疫/アレルギー専門家へのコンサルテーションおよび/または脱感作の必要性が示唆される
  • 注:脱感作の目的は一時的な耐性を作ることにある.脱感作は恒久的なアレルギーの治癒ではない.
  • 過去の反応がアレルギーの発現である可能性が低い場合(たとえば,頭痛,消化器症状,他の症状の10年以上前の発症):管理下でのAMPCの段階的投与が合理的

抗微生物薬適正使用

  • 「ペニシリンアレルギー」の既往の多くは正しいものではない.
  • 詳細な病歴把握とペニシリンアレルギー検査から偽のペニシリンアレルギーを鑑別することが,抗微生物薬適正使用にとって重要である.

文献/関連項目

  • 文献
  • 関連項目
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2023/06/19