日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

薬物アレルギー:ペニシリン,セファロスポリン,概説  (2025/07/01 更新)


薬物アレルギーの基礎

  • 免疫反応の型(ゲルとクームスの分類).

記述
媒介
機序
臨床所見
I
即時型過敏性反応
IgE
ヒスタミン,他の血管作用性因子の放出
じんましん
血管浮腫
気管支けいれん
アナフィラキシー
II
細胞傷害反応
IgG/IgM
抗原が薬剤-ハプテン複合体を標的として結合;補体による細胞破壊
溶血性貧血
血小板減少症
III
免疫複合体反応
IgG/IgM
免疫複合体の組織沈着
血清病
小血管炎
IV
遅延型過敏症反応
T細胞
T細胞の活性化,サイトカイン,ケモカインの放出
麻疹様皮疹
重度皮膚有害反応(SCAR)

  • 薬物アレルギーの時系列分類
  • 即時型
  • 典型的には薬剤摂取後1時間以内に起こる(6時間後まで)
  • 通常は(ただし,つねにではない)IgE媒介
  • 遅延型
  • 薬剤曝露後数日で発症,数週後のこともある
  • もっとも多い:薬剤性麻疹様発疹(良性)
  • 重度皮膚有害反応(SCAR:たとえば,薬剤性過敏症症候群[DRESS],急性汎発性膿疱性発疹症[AGEP],スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症[SJS/TEN])を含むその他多数
  • ペニシリンアレルギー
  • 医療記録でもっとも多く確認される薬物アレルギー(発症率6~25%).このうち90%以上は皮膚テスト陰性.
  • もっとも多いタイプは良性の皮膚反応(たとえば,じんま疹,遅延型丘疹性発疹).
  • ペニシリンは薬剤誘発性アナフィラキシー(致死的および非致死的)の原因としてもっとも多い.発症率がもっとも低いのは経口ペニシリンである.アミノペニシリンは良性遅延型反応を引き起こすリスクが非常に高い薬剤のひとつであり,通常は急性エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染に関連している.
  • IgE抗体は時とともに減弱する.即時型ペニシリンアレルギーの臨床反応既往がある患者の80%までが,それ以上の曝露がなければ,10年後には忍容性を獲得すると推定される.そのうち,20年後も感受性を維持している患者は1%以下である.
  • ペニシリンアレルギー患者であるとレッテルを貼るのは重大なことである.こうした患者は,効果が弱く,毒性が高く,より高価な薬剤による治療を受ける可能性が高くなる.

化学

  • βラクタム薬4種類の基本化学構造:

  • 構造的特徴とその意味
  • ペニシリンは,チアゾリジン環とβラクタム環が融合した構造をもつ.R-1側鎖は,アミド結合を介してβラクタム環に連結されている.ペニシリンのβラクタム環はin vivoで分解され,蛋白質に結合する安定した誘導体を形成する (ハプテン化と呼ばれる).チアゾリジン環は無変化のまま残留する.ペニシリンのすべての抗原型に分解されたβラクタム環が含まれるわけでない.
  • セファロスポリンは,ジヒドロチアジン環とβラクタム環が融合した構造をもつ.R-1側鎖はアミド結合を介してβラクタム環に結合し,R-2 側鎖はジヒドロチアジン環に結合する.セファロスポリンはin vivoで両方の環構造が急速に分解する.
  • R-1側鎖はアレルギー反応の特異性を決定する.同一のR-1側鎖を持つβラクタム薬は交差反応のリスクが高くなる.
  • 現在市販されているβラクタム薬の4グループは,それぞれ同一のR-1側鎖をもつ
  • 市販されている他のすべてのβラクタム薬は独自のR-1側鎖をもつが,その差はごくわずかである.
  • セファロスポリンの3グループは,それぞれ同一のR-2側鎖をもつ
  • ペニシリンとセファロスポリンとの交差反応性: 初期のデータでは>5%と示唆されていたが,これは初期のセファロスポリン製剤にはペニシリンが混入していたためと考えられる.現在のデータでは,ペニシリン皮膚テスト陽性の患者のうち≦2%がセファロスポリンに反応すると示唆されている (例外: 選択的アミノペニシリンアレルギーの患者では割合が高い).
  • R-2側鎖の同一性によるセファロスポリン間の交差反応性はもっともらしいが,R-1側鎖の同一性ほど重要な役割を果たしていないと考えられている。

βラクタムアレルギーの治療

  • 下記のリストは,2022年ガイドラインからのコンセンサスに基づく見解(CBS)
  • 皮膚テスト薬物負荷
  • 皮膚テストは,主として薬剤誘発性アナフィラキシーの既往のある患者においてもっとも重要である.
  • 薬物負荷試験は,薬物の忍容性を決定するための参考基準と考えられている
  • 即時型と遅延型の両方のアレルギー表現型を評価できる.
  • 通常はアレルギー反応の臨床的可能性が低い場合に行われる.ふたつの選択肢がある:
  • 1段階誘発:治療用量を投与し経過観察する.
  • 2段階誘発:治療用量の10~25%を投与(経過観察),その後残りの用量を20~30分後に投与
  • ペニシリンアレルギーの管理
  • 適切な場合には,ペニシリンアレルギーと報告のあった患者のレッテルを剥がす積極的な取り組みを行うべきである(CBS 4).
  • 病歴がペニシリンアレルギーと一致しない(下痢,ペニシリンアレルギーの家族歴など)患者の場合,検査は推奨されない.ただし,ペニシリンアレルギーのレッテルを剥がす前に安心感が必要な患者には,1段階のAMPC負荷試験を実施してもよい(CBS 5).
  • アナフィラキシーの既往歴がある患者,または最近IgE媒介性反応が疑われる患者に対しては,ペニシリン皮膚テストを実施する (CBS 6).
  • ペニシリンアレルギーの評価において,複数日にわたる薬剤負荷試験をルーチンに使用することは推奨されない (CBS 7).
  • 良性皮膚反応(麻疹様薬疹,じんま疹など)の既往のある小児患者では,AMPC直接負荷前のペニシリン皮膚テストは推奨されない(CBS 8).
  • 成人において,遠い過去(5年以上前)の良性皮膚反応(麻疹様薬疹,じんま疹など)の既往がある場合は,直接AMPC負荷試験を考慮する(CBS 9).
  • セファロスポリンアレルギーの管理
  • 非アナフィラキシー性セファロスポリンアレルギーの既往のある患者では,忍容性を判断するために異なる側鎖をもつセファロスポリンを使用した直接負荷試験が推奨される (CBS 10)
  • セファロスポリンに対するアナフィラキシーの既往がある患者では,非同一R-1側鎖をもつセファロスポリンであっても,非経口投与前にはセファロスポリン皮膚テスト陰性を確認する必要がある (CBS 11).
  • ペニシリンアレルギー患者でのセファロスポリンの使用
  • ペニシリンアナフィラキシーの既往のある患者でも,構造的に異なるR-1側鎖をもつセファロスポリンであれば,検査や追加の予防措置なしに投与してよい (CBS 12).
  • 確定はされていない非アナフィラキシー性ペニシリンアレルギーの患者には,検査や追加の予防措置なしにセファロスポリンを投与してよい (CBS 13).
  • セファロスポリンアレルギー患者でのペニシリンの使用
  • 確定はされていない,または検証済みの非アナフィラキシー性セファロスポリンアレルギーの患者には,検査や追加の予防措置なしにペニシリンを投与してよい (CBS 14、16).
  • セファロスポリンに対するアナフィラキシーの既往がある患者では,ペニシリン治療の前にペニシリン皮膚テストと薬物負荷試験を実施する必要がある (CBS 15).
  • カルバペネム
  • ペニシリンまたはセファロスポリンアレルギーの既往のある患者には,検査や追加の予防措置なしにカルバペネムを投与してよい(CBS 17).
  • モノバクタム
  • ペニシリンまたはセファロスポリンアレルギーの既往のある患者の場合,CAZアレルギーの既往歴がない限り,事前の検査なしにAZTを投与してよい(CBS 18).

文献/関連項目

  • 文献
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2025/06/30