日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

人工関節感染  (2024/02/20 更新)
感染した人工関節-骨髄炎を伴う/伴わない


臨床状況

人工関節感染
  • 以下のような場合には人工関節感染を疑う:瘻孔(sinus tract)あるいは創部排膿がある,人工関節に急性の痛みがある,人工関節に慢性の痛みがある,人工関節に痛みがあり,それに伴ってESRあるいはCRPが上昇する.
培養と感受性試験の結果に基づいて治療すること.
  • 培養結果が得られる前に経験的治療を行うことは推奨されない.
  • 医学的に安定した患者において2週間で治療を中断することは適切であり,培養で菌が再び検出されやすくなる.
外科治療の3つの選択肢
  • 手術中の観察,デブリドマン,ポリエチレンライナーの交換(もしあれば),人工関節保持.
  • 症状持続期間が3週間未満あるいは移植後30日以内なら適用される.それ以外の場合は,可能ならば人工関節除去が推奨される.
  • 1段階,直接交換する方法
  • 2段階,デブリドマンと人工関節除去を連続的に行い,その後に再移植を行う

診断/病原体

診断
  • 感染の診断
  • 滑液中の白血球>3000/mm3または多形核白血球が>95%.
  • X線写真上で骨髄炎のエビデンスが明らかな場合もそうでない場合もある.
  • 滑液培養の感度は血液培養ボトルに滑液を接種することで上昇する.
  • 特に肩の感染ではブロス培養を行う.Cutibacterium(旧名 Propionibacterium acnesの分離にはブラインドサブカルチャーで最大10日かかる(J Clin Microbiol 54: 3043, 2016).
  • 人工関節感染は滑液中のαディフェンシン上昇を伴う.Synovasureは,滑液中のαディフェンシンを感度0.80~0.90,特異度0.90~0.95で,約10分以内に検出できる迅速ラテラルフロ-イムノアッセイであり,人工関節感染診断に有用であろう(Bone Joint J 100-B: 703, 2018Bone Joint J 100-B: 66, 2018).
  • 滑液は,一般的な関節感染の病原体(生菌または死菌)検出のためにデザインされたマルチプレクスPCRで検査可能.
  • 注:PCRは,抗菌薬治療中でも病原体検出が可能なことがある.
  • 利点:数時間で結果が得られる
  • 欠点:
  • マルチプレクスPCRはコアグラーゼ陰性Staphylococcusによる定着と感染の区別には役立たない
  • in vitro感受性検査のためには,培養陽性でなければならない
  • 培養の感度は,抜去した人工物の超音波処理(可能であれば)によりさらに上昇する(N Engl J Med 357: 654, 2007).
病原体
  • グラム陰性腸桿菌

第一選択

  • デブリドマンと人工関節温存の戦略
病原菌
処方
MSSA/MSSE
[(Nafcillin 2g静注4時間ごとまたはOxacillin 2g静注4時間ごと)+RFP 300mg経口1日2回]または(CEZ 2g静注8時間ごと+RFP 300mg経口1日2回)・2~6週,その後[(CPFX 750mg経口1日2回またはLVFX 750mg経口24時間ごと)+RFP 300mg経口1日2回]・3~6カ月(全股関節形成術では3カ月で十分かもしれない).

分離株がフルオロキノロン系とRFPにin vitroで感受性があることを確認(コメント参照)

レトロスペクティブ研究では,予定されていなかった薬物中断が起こったのは,フルオロキノロン系薬治療患者では35.6%,非フルオロキノロン系薬治療患者では3%だった(Clin Infect Dis 73: 850, 2021Clin Infect DIs 73: 357[論説]).
MRSA/MRSE
VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと+RFP 300mg経口1日2回)・2~6週,その後[(CPFX 750mg経口1日2回またはLVFX 750mg経口24時間ごと)+RFP 300mg経口1日2回]・3~6カ月(全股関節形成術では3カ月で十分かもしれない).

分離株がフルオロキノロン系とRFPにin vitroで感受性があることを確認(コメント参照).
Streptococcus属(A,B,C,D群, viridansその他)
PCG 2000万単位持続静注24時間ごとまたは6回に分割,またはCTRX 2g静注24時間ごと・4~6週

注:人工関節を除去および交換した場合に比べ保存では予後が不良(Clin Infect Dis 64: 1742, 2017
Enterococcus属(コメント参照)
ペニシリン感受性:ABPC 200mg/kg/日静注6時間ごとに分割,またはPCG 2000万単位/日持続静注または6回に分割・4~6週
ペニシリン耐性:VCM 15mg/kg静注12時間ごと・4~6週
CutibacteriumPropionibacterium acnes
PCG 2000万単位持続静注または6回に分割,またはCTRX 2g静注24時間ごと・4~6週
グラム陰性腸内桿菌
Ertapenem 1g静注24時間ごと,または他のβラクタム薬(たとえばCTRX 2g静注24時間ごとまたはCFPM 2g静注12時間ごと,感受性に基づいて)・4~6週
P. aeruginosa(コメント参照)
CFPM 2g静注12時間ごとまたはMEPM 1g静注8時間ごと)±TOB 5.1mg/kg1日1回静注・4~6週
1段階交換方法
MSSA/MSSEまたはMRSA/MRSE
上記と同様の静注または経口処方・3カ月
上記の他の病原菌
上記と同様の処方・4~6週
2段階交換方法
治療の奏効を評価するために再移植前にESRとCRPを測定する.再移植前に培養のために関節腔の吸引を行うこともある.この方法は抗菌薬含有セメントスペーサーが存在する場合には問題となる場合もある.
MSSA/MSSEまたはMRSA/MRSE
静注または経口処方・感染した人工関節の除去後6週(IDSAガイドラインでは,人工関節や人工物がすべて除去されている場合は,VCMやβラクタム薬注射剤とRFPの併用をルーチンでは推奨していない.ただしRFPはMRSAやMRSEに多く使用されており,そうした場合にはCPFXまたはLVFXと併用する)
上記の他の病原菌
上記と同様の処方・4~6週

第二選択

病原菌
処方
MSSA/MSSEまたはMRSA/MRSE
DAP 6~8mg/kg静注24時間ごと,またはLZD 600mg経口または静注1日2回)+RFP 300mg経口1日2回
Streptococcus属(A,B,C,D群, viridansその他)
VCM 15mg/kg静注12時間ごと
Enterococcus
DAP 6~8mg/kg静注24時間ごと,またはLZD 600mg経口または静注1日2回
CutibacteriumPropionibacterium acnes
VCM 15mg/kg静注12時間ごと,またはCLDM 300~450mg経口1日4回
グラム陰性腸内桿菌
CPFX 750mg経口1日2回
P. aeruginosa
CPFX 750mg経口1日2回または400mg静注8時間ごと

抗微生物薬適正使用

  • RFPは,表面付着,遅発育,バイオフィルム産生の菌に対して殺菌的.
  • 急速に耐性が発現するためRFP単独では使用しないこと.
  • RFP+FAのランダム化試験は,重大な薬物相互作用により血清中FA濃度が約半分に低下したため中止となった(Clin Infect Dis 63: 1599, 2016).
  • フルオロキノロン耐性の分離菌に対しては,他の薬剤で生物学的利用能が高く,分離菌に感受性があるものの使用を考慮する;たとえば,ST,DOXY,MINO,AMPC/CVA,CLDM,またはLZD
  • LZD治療を2週間以上続ける場合には,毒性(たとえば,骨髄抑制,神経障害)に注意すること.
  • 関節腔に一時的に注入するセメントへの抗菌薬添加について,有効性を判断するに十分なデータはない:Clin Infect Dis 55: 1474, 2012

コメント

  • Enterococcus感染:アミノグリコシド追加が1つの選択肢
  • P. aeruginosa感染:分離菌に感受性があればアミノグリコシド追加を考慮するが,これが治癒率改善につながるかどうかは不明.
  • 最近の研究では,S. aureus感染の人工関節が温存に成功するのは,慢性感染も含め55%である(Clin Infect Dis 56: 182, 2013).
  • 人工関節を除去しないならば,特にStaphylococcus感染に対して抗菌薬による長期の抑制を考慮する:in vitroの感受性に基づいて,STDOXYMINOAMPCCPFXCEXから選択する.136例(年齢中央値83歳)を対象としたレトロスペクティブコホート研究では,有害事象なしでの2年生存率は61%であった(Eur J Clin Microbiol Infect Dis 36: 1577, 2017).
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2024/02/19