日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

糖尿病性足感染  (2025/02/18 更新)
糖尿病性足感染,糖尿病性足骨髄炎


臨床状況

全般的対処
  • 血糖コントロール,潰瘍がある場合には潰瘍に加重しない.
  • 末梢血管障害を評価-非常に多い合併症.
経験的治療の原則
  • MRSAへの活性があると考えられる薬剤を選択.
  • 経験的治療にはS. aureusStreptococcus属に有効な薬剤を含めること.Enterococcusの役割は不明.
  • 四肢の重篤な感染や生命の危険がある感染では,最初にグラム陽性球菌,Coliformsおよび他の好気性グラム陰性桿菌,嫌気性グラム陰性桿菌への活性があると考えられる注射剤による治療を行う.
  • 潰瘍>2cm2,probe-to-bone検査陽性(ゾンデの先端が骨にあたる),ESR>70,単純X線所見異常なら骨髄炎の危険性増大.
  • MRIが最良の画像診断法.MRIで所見がなければ骨髄炎の可能性は低い(JAMA 299: 806, 2008).

病原体

  • 炎症のない潰瘍:皮膚常在菌のコロニー形成
  • 表皮炎症を伴う潰瘍
  • 筋膜に達する炎症を伴う潰瘍
  • 上記+Coliforms(+最近の抗菌薬曝露のある患者,免疫不全患者,以前にPseudomonasが分離された患者ではPseudomonas
  • 広範な局所炎症および深部組織への侵襲+全身毒性
  • 上記+嫌気性菌

第一選択

炎症のない潰瘍:抗菌薬治療は推奨されない.
  • 同種皮膚移植や陰圧閉鎖療法により治癒率が高まるという中等度のエビデンスが示された:Ann Intern Med 159: 532, 2013
表皮炎症を伴う潰瘍
  • 経口治療:MRSAをカバー:ST 2または4錠経口1日2回,またはDOXY 100mg経口1日2回,またはCLDM 300~450mg経口1日3回
  • 経口治療:軽症感染,MRSAなし:CEX 500mg1日4回,またはCPDX-PR 200mg経口12時間ごと,またはLVFX 750mg経口24時間ごと,またはAMPC/CVA 徐放剤†875/125経口1日2回
筋膜に達する炎症を伴う潰瘍
  • 経口治療:(AMPC/CVA徐放剤†875/125経口1日2回+ST 2または4錠経口1日2回),または[(CPFX 750mg経口1日2回またはLVFX 750mg経口24時間ごとまたはMFLX 400mg経口24時間ごと)+LZD 600mg経口1日2回],または
  • 注射治療:(ABPC/SBT 3g静注6時間ごと,または Ertapenem 1g静注24時間ごと)+VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと(目標AUC24 400~600μg・h/mL達成が望ましいが[AUC-用量設定の原理と計算を参照],そうでなければトラフ値15~20μg/mLをめざす)(MRSAが除外されるまで)
広範な局所炎症+全身毒性;リスク因子からPseudomonas感染の可能性が考えられる場合
  • VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと(目標AUC24 400~600μg・h/mL達成が望ましいが[AUC-用量設定の原理と計算を参照],そうでなければトラフ値15~20μg/mLをめざす)PIPC/TAZ 4.5g静注(4時間以上かけて)8時間ごと
  • VCM 同上+(IPM/CS 0.5g静注6時間ごと,または MEPM 1g静注8時間ごと)
糖尿病性足骨髄炎(Medicina 57: 339, 2021参照)
  • 手術治療
  • 広範な骨組織破壊,生育できない/壊死した組織が存在する場合には,外科的切除,ドレナージおよびデブリドマンが適応となる.
  • 脚の虚血および軟部組織感染の拡大は予後不良と関連し,感染した/壊死した組織を除去するためには部分的または全体的切断が必要となることがある.
  • 薬物治療
  • 培養および感受性検査結果に基づき病原菌特異的な治療を行わねばならない.
  • 限られたデータによるものだが,外科的デブリドマン後3週治療の予後は従来の6週治療に劣らないことが示唆される(Clin Infect Dis 73: e1539, 2021).
  • 手術の断端が無菌で組織病理学的または微生物学的に残存骨髄炎も認められなければ1~3週治療で十分なこともある.
  • 生物学的利用能が良好な薬剤が使用できれば,経口治療も選択肢となりうる.

(†:日本にない剤形)

第二選択

  • 広範な局所炎症+全身毒性
  • DAP 6mg/kg静注24時間ごと,またはLZD 600mg経口1日2回はVCMに代わる選択肢
  • CPFX 400mg静注12時間ごと,またはLVFX 750mg静注24時間ごと,またはAZT 2g静注8時間ごと)+MNZ 0.5g静注6~8時間ごとはABPC/SBTやPIPC/TAZに代わる選択肢
  • AMPC/CVA 1000/200mg静注†8時間ごと

(†:日本にない剤形)

抗微生物薬適正使用

  • 陰圧創傷治療は,糖尿病性足の潰瘍の治癒を早め,治療結果を改善する.
  • 炎症性潰瘍または創部の培養により,標的に応じた抗菌薬治療が可能となる:培養および感受性検査データに基づき処方をde-escalation/変更する.
  • 組織移行性の高い抗菌薬の経口治療は注射剤と同等に有効.

コメント

  • 糖尿病患者へのST投与は高カリウム血症を引き起こす可能性がある.
  • BMI>40の患者では,CLDMやSTは高用量を用いる.
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2025/02/17