日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

旅行者下痢症  (2025/10/14 更新)
旅行関連下痢症,胃腸炎


臨床状況

  • 2週間の旅行での旅行者下痢症(TD)の発生率は10〜40%である.ほとんどの症例は腸管内病原菌によって引き起こされる(J Travel Med 24(suppl_1): S57, 2017).TDのための抗菌薬による化学的予防は,一般的には推奨されない.2026年CDCイエローブックの推奨を参照.
  • 潜伏期間:毒素媒介性疾患(StaphylococcusC. perfringensによる)では,数時間以内に嘔吐と下痢の症状が起こり,12~24時間で治まる.細菌性およびウイルス性病原体の潜伏期間は6~96時間.原虫では通常は1~2週間だが,Cyclosporaの場合は2~14日
  • 治療の基準はTDの重症度による.重症度は以前は排便の頻度を基準としていたが,現在では機能的カテゴリーに基づく.
  • 軽症TD:活動に影響がなく忍容可能(以前の基準では24時間に1~2回の軟便)
  • 中等症TD:苦痛を伴う,または活動に影響あり(24時間に3~5回の軟便)
  • 重症TD:動けない状態,赤痢(血性下痢)(24時間に6~9回を超える軟便)
  • 治療上の検討事項:
  • 軽症のTD:通常,Bismuthまたはロペラミドが軽症のTD治療に有効である.
  • 中等度から重度TD:AZM,Rifaximin,フルオロキノロン系薬を用いてもよい.
  • CPFX 500mg経口1日2回・3日,またはLVFX 500mg経口1日1回・3日も望ましいとされる.
  • 感染後に重大な後遺症が残る患者の割合は不明だが,実際にそうした例があることは確かであり(J Travel Med 20: 303, 2013),より重症で長期の疾患につながる.

病原体

  • 急性:
  • ウイルス:ノロウイルス,アストロウイルス,サポウイルス,ロタウイルス
  • 寄生性原虫(通常はより長期の病変となる.下記参照):アメーバ症(まれ)
  • 持続性/慢性(>14日と定義される):
  • 感染後過敏性腸症候群
  • 反応性関節炎およびGuillain-Barre症候群が感染後合併症となりうる

第一選択

  • 成人:
  • AZM 1000mg経口・1回(または胃腸副作用を軽減するため500mg12時間ごと・2回)または500mg24時間ごと・3日
  • 小児:
  • AZM 10mg/kg/日1回または3日
  • CTRX 50mg/kg/日静注1日1回・3日
  • 成人および小児:
  • ロペラミドを追加:4mg経口1回,その後軟便があるたびに2mg(最大16mg/日まで)
  • 経口補液

第二選択

  • 耐性パターンは旅行した地域によって異なることを考慮する必要がある.多くの地域で,フルオロキノロン系薬は現在第一選択としては推奨されない.
  • CPFX 750mg経口1回または500mg経口1日2回・3日
  • LVFX 500mg24時間ごと・1~3日,またはOFLX 300mg経口1日2回・3日,またはMFLX 400mg(おそらく奏効する)
  • リファキシミン 200mg経口1日3回・3日(吸収されないため,非侵襲性の下痢原性E. coliに対してのみ)またはRifamycin SV 2錠(388mg)1日2回・3日(E. coliに対して成人でのみ).発熱や血性下痢がある場合には使用しない

(▼:FDA未承認)

抗微生物薬適正使用

  • 特に東南アジア,インド,ネパールではフルオロキノロン系薬耐性のCampylobacterが増加しているため(JAMA 313: 71, 2015),AZMが一般に推奨される.
  • インドでは,ETECやEAECを含む腸内細菌のフルオロキノロン系耐性が増加している.フルオロキノロン系薬による自己治療は,多剤耐性の獲得につながることが報告されている(Clin Infect Dis 60: 837, 2015Clin Infect Dis 60: 847, 2015).
  • 多剤耐性微生物の増加ため,単剤処方を用いること,およびフルオロキノロン系薬は避けることが推奨されている.

コメント

  • AZMは妊婦または妊娠の可能性がある女性での第一選択である.
  • 多くの抗マラリア薬もQTを延長させるため,心疾患のある旅行者では注意を要する.
  • 小児用懸濁液は,調製後は要冷蔵で使用期限が短いため,旅行には不向きである.調製できるのは薬剤師のみ.
  • ロペラミドは発熱・血便があるとき(たとえば赤痢)には使用しない.
  • リファキシミンは>12歳の小児に対して承認されている(治療に対して).副作用はプラセボと同等.妊娠時危険区分C(妊婦での十分な研究は行われていない).
  • 小児および妊婦ではフルオロキノロンは避ける.
  • 予防:手洗い,食物と飲料水の選択に注意
  • 予防のためのBismuth subsalicylate;プロバイオティクスの有効性は不明
  • 望ましい処方は,軟便が始まったときにAZM 1000mg1回+ロペラミド.
  • 中断できない重要な短期旅行の場合や,免疫不全患者,CD4<200のHIV患者に対しては,CPFX 500mg経口1日1回を考慮.
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2025/10/14