日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

腸管出血性 E. coli / 志賀毒素産生 E. coli (STEC)  (2024/01/30 更新)


臨床状況

  • E. coliの一部の株(63%)は志賀毒素を産生し,志賀毒素産生 E. coli(STEC)とよばれている.
  • 現在では,この名称のほうが腸管出血性E. coli(EHEC)よりも用いられることが多い.
  • 以前は E. coli O157:H7が志賀毒素を産生する唯一のEHECと考えられていた.現在では,O104:H4などの他の株がSTEC/EHEC感染原因の50%以上を占めることが明らかになっている.
  • STECは血性下痢疾患の原因となる.
  • 患者は無熱のことが多い.白血球数は上昇することがある.便は最初は水様便で血性でないことがある.
  • 志賀毒素は溶血性尿毒素症候群(HUS)(溶血性貧血,腎障害,血小板減少症)を引き起こす.
  • HUSの合併症には中枢神経障害,膵炎その他も含まれる.
  • 毒素は微小血管障害を引き起こし,腎糸球体係蹄および中枢神経系に大きな障害を与える.

病原体/診断

診断
  • 志賀毒素抗体に対する酵素免疫吸着法
  • 志賀毒素1および2の遺伝子に対する糞便のDNA PCRプローブ(市販のマルチプレックス糞便検査を含む).
  • STEC O157:H7に対しては,ソルビトール・マッコンキー寒天培地(ソルビトール非発酵)を便から検出できる.
病原体
  • 志賀毒素産生 E. coli(STEC).STECと同義:
  • 腸管出血性 E. coli(EHEC)
  • ベロ毒素産生 E. coli

第一選択

  • 輸液:
  • 観察研究(Pediatrics 115: e673, 2005)およびメタアナリシス(JAMA Pediatr 171: 68, 2017)では,STEC感染小児において体液量を増加させることにより,乏尿や無尿のHUSリスクが低下することが示唆されている.
  • 抗蠕動薬を避ける.
  • HUSの所見に注意すること:低血小板数,腎障害,中枢神経関連の所見/症状
  • 抗菌薬治療:
  • 抗菌薬治療には議論がある.抗微生物薬適正使用を参照

第二選択

  • なし

抗微生物薬適正使用

  Con
  • 10歳未満の小児では,ST,βラクタム系薬,MNZ,AZMを下痢疾患に経験的に投与した場合,HUS発症が促進され,しかも悪化しやすい.治療を受けた4例に1例がHUSとなる(Clin Infect Dis 55: 33, 2012).
  • メタアナリシスでは,EHECに対する抗菌薬の曝露によるHUSのオッズ比は2.24(CI:1.45~3.46)であった(Clin Infect Dis 62: 1251, 2016).
  • HUSは重大な疾患である:死亡率は10%で,何らかの恒常的な腎/中枢系障害を生じる患者は50%に及ぶ(Clin Infect Dis 38: 1298, 2004).
  Pro
  • 非対照試験では,STEC流行時の抗菌薬治療により,治療を受けた患者で病原体の便排出期間が短く,けいれんも少なく,死亡率も低かった(BMJ 345: e4565, 2012).
  不十分なデータからの結論:
  • 非血性下痢に対して抗菌薬を開始している場合,その後臨床検査でSTECが検出されたら抗菌薬を中止すること.
  • 血性下痢があり無熱の患者,特に10歳未満の小児患者に対しては,経験的な抗菌薬治療を行わないこと.
  • もし何らかの理由で経験的な抗菌薬治療を開始しようとする場合には,HUSを引き起こす可能性が最も小さいのはAZMである(JAMA 307: 1046, 2012).
  • 患者の血液培養が陽性の場合は,AZM 500mg静注/経口・3日,臨床的反応によってはさらに数日続けることが示唆される.

コメント

  • 2011年にドイツでO104:H4 STECの大流行が起こり,多数のHUS発症がみられた.感染はモヤシ摂取に関連していた(N Engl J Med 365: 1763, 2011).
  • エクリズマブは重要なHUS治療として確立しつつある.
  • エクリズマブ治療は補体副経路をブロックし,HUS志賀毒素2に対する炎症反応を軽減する(Arch Dis Child 103: 285, 2018).
  • エクリズマブ使用はN. meningitidis感染リスクを増大させるため,エクリズマブ治療中にN. meningitidis感染予防としてAZMを使用することもある.
  • 0104:H4 STECはO157:H7 STECとは大きく異なる.
  • 志賀毒素産生腸管凝集性E. coli
  • 15例の長期保菌患者では,AZMの3日治療によって糞便への菌排出が消失し,HUSの発症もなかった(JAMA 307: 1046, 2012).
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing↑ page top
2024/01/29