日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Clostridioides difficile,C. diff  (2024/07/23 更新)
旧名Clostridium difficileC. diff


臨床状況

  • Clostridioides difficile関連下痢(CDAD),C. difficile感染(CDI)およびC. diff.という略語が用いられる.
  • 炎症はほとんど結腸粘膜に限局される:C. diff.毒素関連大腸炎
  • リスク因子として,高齢,入院,最近または現時点での抗菌薬治療,がん化学療法,消化管手術などがある.
  • 1日3回以上軟便があれば本症を疑う.
  • 無症候保菌者
  • とくに2歳未満の小児では,無症状のC. difficile保菌者の割合が高いため,臨床的に下痢がなくてもNAATが陽性になることがある.
  • CDIの治癒確認のためや,下痢が続いている間に検査を繰り返すことは推奨されない.再発についてはコメント参照
  • CDIの臨床病期
  • 軽症~中等症
  • 白血球<15,000
  • 血清クレアチニン値の増加なし
  • 劇症(重症)疾患
  • 白血球>15,000
  • 血清クレアチニン値≧50%増加
Zarスコア
点数
年齢>60歳
1
体温>38.3℃
1
アルブミン<2.5g/dL
1
白血球>15,000
1
内視鏡で偽膜性大腸炎の所見
2
ICUでの治療
2

診断/分類

診断
  • 最適な診断アルゴリズムは現在も研究途中であり,すべての施設で同じ診断パネルが用いられているわけではない.概要はClin Infect Dis 67: e1, 2018を参照.
  • NAAT検査は,無症候性の保菌者に対しても陽性となる.
  • 検査は,48時間以内の緩下薬使用がないにもかかわらず下痢(軟便>3回/日)がある場合や,症状(巨大結腸,重症イレウスなど)から疑いが高い場合のみ推奨される.
  • C. difficile関連感染に一致する症状がある患者に対し,NAAT単独,または2~3段階検査(たとえば,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ[GDH]免疫アッセイ+毒素アッセイ,その後毒素アッセイかGDHアッセイの一方が陰性の場合のみNAAT施行)で診断する.NAATでC. difficile陽性だが毒性アッセイで陰性(Clin Infect Dis 78: 430, 2024).
分類
  • グラム陽性嫌気性桿菌,胞子菌

第一選択

治療上の考慮
  • 可能なら抗菌薬の使用を止めること.
  • 最大20~25%の患者が再発するが,FDXでは少ない.
  • 一般に急性期ではぜん動抑制薬は避ける.
  • 一般的には,治療期間は10日が推奨されるが、症状が改善しても治癒しない場合は14日まで延長してもよい.
軽症または中等症,最初の発症
  • FDX 200mg経口1日2回・10日(VCMより非常に高価)
  • VCM 125mg経口1日4回・10日(コメント参照)
劇症(重症)疾患,最初の発症
  • VCM 500mg6時間ごと経口またはNGチューブ±MNZ 500mg静注8時間ごと,特にイレウスがある場合
  • イレウスがある患者では,VCM 500mgを生食100mLで溶解し,6時間ごとに停留浣腸として肛門から注入.
重症で中毒性巨大結腸を伴う場合:上記の治療に以下を加える
  • 結腸切除が唯一の治療手段となることがある.
  • 重症で生命の危険のある患者でのFDXの有効性についてはデータがない.
  • 便細菌叢移植(Fecal Microbiota Transplantation:FMT)は期待できる:1つの後ろ向きコホート研究で支持的なエビデンスが示された(Open Forum Infect Dis 6: ofz398, 2019
CDIの再発
  • 初回の再発(可能なら元とは違う処方を用いること)
  • FDX 200mg経口1日2回・10日
  • FDX(処方延長)200mg経口1日2回・5日,200mg経口隔日・20日
  • VCM 125mg経口1日4回・10日
  • 以下のようにVCMを徐々に減量する
  • VCM 125mg経口1日4回・10日,その後
  • 125mg1日3回・1週間,次いで
  • 125mg1日2回・1週間,次いで
  • 125mg24時間ごと・1週間,次いで
  • 125mg48時間ごと・1週間,次いで
  • 125mg3日ごと・1週間
  • 最初にMNZで治療した後の再発
  • VCM 125mg経口1日4回・10日
  • FDX 200mg経口1日2回・10日
  • 複数回の再発
  • FMTは,糞便細菌叢中の多剤耐性出現により調整の必要性が増しているため,移植材料の入手が難しくなりつつある(コメント参照).
予防(6カ月以内の再発)
  • 上記の治療に加えて,抗毒素モノクローナル抗体であるBezlotoxumab 10mg/kg静注1回(コメント参照)
他の疾患で継続的な全身抗菌薬を必要とする患者におけるCDI再発予防
  • 全身抗菌薬治療中の患者におけるVCM経口処方に関する後ろ向き研究によると,CDIの再発率はVCMを併用しない群で26.6%だったのに対し,VCM併用群では4.2%と低下が認められた(Clin Infect Dis 63: 651, 2016).

第二選択

  • 軽症のみ:MNZ 500mg経口1日3回,医療資源の制限があり,VCMFDXがすぐに入手できない場合.

抗微生物薬適正使用

  • 使用する全身抗菌薬の数と抗菌薬治療の期間を制限する.
  • 不要な抗菌薬投与を避け,疑われる原因抗菌薬をただちに中止する.
  • フルオロキノロン系薬,CLDM,セファロスポリン系薬,カルバペネム系薬などの高リスク抗菌薬の使用制限を考慮する.特に流行時や感染率が高い場合.
  • プロトンポンプ阻害薬治療の中止を考慮する.
  • 感染制御
  • 芽胞除去のためには石鹸と水による手洗いの方が,アルコールを含んだ消毒液より有効である.
  • VCMおよびMNZの双方の感受性が低下している株の出現が報告されているが(Clin Infect Dis 74: 120, 2022),感受性検査はルーチンに可能ではない.
  • FMTは現在,FDAのガイドラインでドナーの多剤耐性微生物スクリーニングが必要とされている(コメント参照).

コメント

  • 特定の毒素性リボタイプ(NAP1/BI/ribotype 027)は,流行とより重症な病態に関連する.
  • CDIに対するサルベージ治療
  • 効果に関する文献が少ない抗菌薬:リファキシミン,Nitazoxanide,Ramoplanin,TEIC,TGC.
  • これらの薬剤の使用は推奨されていないが,他の選択が失敗したときのサルベージ治療としては考慮してもよい.
  • プロバイオティクス
  • ガイドラインでは,CDIの一次予防に推奨するだけの十分なデータはないとされている(Clin Infect Dis 66: 987, 2018),
  • 高リスク患者(CDAD>5%)を対象としたいくつかの研究で,プロバイオティクスが有効であるとの中等度のエビデンスが示された(Cochrane Database Syst Rev 12: CD006095, 2017).
  • 腸運動抑制薬
  • 再発
  • 2つの対照試験で,抗毒素モノクローナル抗体であるベズロトクスマブ 10mg/kg静注1回を標準治療(主としてMNZまたはVCM)へ追加したところ,初期の治癒率は改善しなかったものの,再発率は対照群の14%からベズロトクスマブ追加群で11%に低下した(N Engl J Med 376: 305, 2017Clin Infect Dis 68: 699, 2019).
  • FMTはFDAに決定権のある試験的治療法である.ほとんどの臨床家は臨床試験に参加しておらず,有害事象が継続的に報告されていない懸念がある.こうした懸念のため,多くの施設でFMTの移植材料の入手が難しくなりつつある.
  • 多剤耐性微生物の伝播の報告以来,FDAは,臨床試験および投与の開始前にドナーの徹底的なスクリーニングと多剤耐性微生物の検査を行うこと(Cell Host Microbe 27: 173, 2020FDA/CBER 2019aFDA/CBER 2019b),あるいは2019年以前に採取されたドナーの糞便を用いることを規制として要請している.
  • FMT national registryは試験結果を追跡している.20施設での最初の259例の結果(Gastroenterology 160: 183, 2021):222例における30日間の追跡で,90%が治癒し,そのうちの98%は1回のみのFMTで治癒していた.
  • FMTの糞便移植にかわる合成品が探索されているが,まだ研究段階である.
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2024/07/22