日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Citrobacter koseri(旧名 diversus  (2024/10/01 更新)


臨床状況

  • Citrobacter属は,健常者,免疫不全患者においても,単純性尿路感染症から,生命の危険のある腹腔内,皮膚・軟部組織,肺,中枢神経その他の部位まで,さまざまな感染症を引き起こす.
  • 推奨される処方は,培養の結果およびin vitroの感受性結果により異なる.
  • 抗菌薬耐性の問題が増大している.
  • 主要な耐性機序はβラクタマーゼ産生である
  • Citrobacter属は基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)を産生し,ほとんどの広域セファロスポリン系薬,ペニシリン系薬およびAZTを分解するが,CFPMは例外となる可能性もある.
  • Citrobacter freundiiとは異なり,C. koseriは抑制された染色体性AmpC遺伝子をもたない.それゆえ,分離株が同定され,in vitroで感受性であれば,CTRXを用いても問題ない.
  • 多くは同時にフルオロキノロン系,アミノグリコシド系,STにも耐性である.
  • 経験的処方の選択は,施設の耐性パターン,患者の衰弱度,感染の重症度によって異なる.特異的治療は原因菌の分離およびin vitroの感受性試験結果による.
  • 選択薬剤の詳細,最近のデータ,引用文献などについては,コメント参照.

分類

  • 好気性にも嫌気性にも増殖するグラム陰性桿菌
  • Citrobacter diversuskoseri

第一選択

検査結果
関与する状況要因
推奨される処方
コメント
Citrobacter属(diversuskoseri)が同定されたが,in vitroでの感受性試験結果が得られていない場合
ESBL産生株検出率<10~15%
株がC. freundiiではないと確認されれば,抑制されたAmpC遺伝子のリスクなし
PIPC/TAZ 初回4.5g静注.その4時間後から3.375g4時間以上かけて静注を開始,8時間ごとに繰り返す,または

CTRX 2g静注24時間ごと
BMI≧30の場合:PIPC/TAZ維持用量を4.5g4時間以上かけて静注まで増量し,8時間ごと繰り返す
ESBL産生株検出率>15%
MEPM 1~2g静注8時間ごと,または
Ertapenem 1g静注24時間ごと
より重症の感染症に対しては,MEPM 2g3時間以上かけて静注8時間ごと,を考慮する
in vitroで耐性が検出されない
静注治療
PIPC/TAZ(用量は上記と同様)
CPFX 400mg静注12時間ごと,またはLVFX 750mg静注1日1回

CTRX 2g静注24時間ごと
アミノグリコシド系薬は選択肢の1つだが,毒性リスクがあるため避ける.
ST 10mg/kg/日(トリメトプリムとして)2~3回に分割も選択肢の1つ.
経口治療(尿路感染症)
CFIXまたはCFDN
FOM経口(尿路感染症)
【訳注】FOM経口は米国ではFosfomycin tromethamineであり,日本のホスホマイシンカルシウムとは異なる.
Nitrofurantoinは活性が安定しない
AZT,CTRX,CTXに耐性
ESBL産生株の可能性がある
C. koseriならAmpC遺伝子陽性の可能性はない(下記コメント参照)
MEPM 1~2g静注8時間ごと,または
Ertapenem 1g静注24時間ごと
フルオロキノロン系薬およびアミノグリコシド系薬にも同時に耐性のことが多い.in vitroでは活性だが臨床的には耐性のことがあるため,PIPC/TAZは避ける(Antimicrob Agents Chemother 57: 3402, 2013).
より重症の感染症に対しては,MEPM 2g3時間以上かけて静注8時間ごと,を考慮する.
全カルバペネム系薬,全セファロスポリン系薬,ペニシリン系薬,フルオロキノロン系薬,アミノグリコシド系薬に耐性だが,MEMP/Vaborbactam,CAZ/Avibactamには感性
パターンはKlebsiellaセリン型カルバペネマーゼ(KPC)産生と一致する
MEPM/Vaborbactam 4g3時間以上かけて静注8時間ごと,または
CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと,または
IPM/CS/REL 1.25g静注30分以上かけて注入(CrCl>90mL/分)
感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.
これらの薬剤に対する耐性出現については,Clin Infect Dis 68: 519, 2019Antimicrob Agents Chemother 63: e01551, 2018を参照.
MEPM/Vaborbactam,CAZ/Avibactam,すべてのカルバペネム系薬,その他のすべてのβラクタム薬,検査したフルオロキノロン系薬およびアミノグリコシド系薬に耐性
パターンはメタロカルバペネマーゼ産生に一致する
CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと+AZT 2g3時間以上かけて静注6時間ごと,または
Cefiderocol 2g3時間以上かけて静注8時間ごと
感染症専門医へのコンサルテーションが強く推奨される.治療選択肢は乏しい.
in vitroでポリミキシンに感受性のことがある.しかしポリミキシンによる単剤治療は失敗することが多く,単剤とMEPM併用を比較した試験では併用治療の有用性は認められなかった(Lancet Infect Dis 18: 391, 2018
感受性があれば,アミノグリコシド1剤,ただし単剤治療は失敗することがある.
FDAが承認しているすべての抗菌薬に対し汎耐性
  
FOM静注(使用可能ならば) ,または
Cefiderocol 2g3時間以上かけて静注8時間ごと
感染症専門医へコンサルテーションが必要.
【米国の事情】FOM静注の緊急使用は,個々の患者に対する治験薬の例外的使用を通じてFDAから入手可能.TEL: 1-888-6332または+1-301-796-1400.緊急連絡先:+1-301-796-8240または1-866-300-4374.

第二選択

ESBLおよび/またはAmpC産生株
  • CTLZ/TAZ 1.5g3時間以上かけて静注8時間ごと
  • Temocillin 2g静注12時間ごと(ベルギー,英国で利用可能)
  • 膀胱炎の場合:FOM 3g経口1回
     【注】FOM 経口は米国ではFosfomycin tromethamineであり,日本のホスホマイシンカルシウムとは異なる.
  • 腎盂腎炎の場合:FOM 6g経口または静注8時間ごと(使用可能なら)
  • CFPM 1~2g3時間以上かけて静注8~12時間ごと,AmpC産生株だがESBL産生株ではない場合の選択肢.
カルバペネマーゼ産生株
  • メタロβラクタマーゼ産生株
  • CAZ/Avibactam 2.5g 2時間以上かけて静注8時間ごと+AZTによるサルベージ治療
  • ESBLはカルバペネマーゼとともに産生されていることが多い.AZTはメタロカルバペネマーゼで加水分解されないが,ESBLによって不活化される.AvibactamはESBLに結合する.Antimicrob Agents Chemother 61: e02243, 2017参照.
  • Cefiderocol:2g3時間以上かけて静注8時間ごと(FDAは複雑性尿路感染症に承認)(コメント参照)

抗微生物薬適正使用

  • カルバペネム系薬は,嫌気性菌への追加的カバーが必要となる場合や,ESBL産生株に対する治療のために温存しておく.
  • MEPM/Vaborbactam,IPM/CS/RELおよびCAZ/Avibactamは,KPC感染が確認された患者のために温存しておく.

コメント

  • 重要な区別
  • C. freundiiは染色体性AmpC遺伝子を持っていることがある.in vitroで感受性であっても,セファロスポリンは避けなければならない.
  • C. koseriはAmpC遺伝子を持たないため,in vitroで感受性であれば,セファロスポリンは安全かつ有効.
  • すなわち,病原体がCitrobacter属であることしかわかっていない場合には,in vitro感受性検査の結果がどうであれ,セファロスポリンは避けなければならない.分離株がC. koseri(AmpC遺伝子なし)で,in vitroで感受性なら,セファロスポリンを使用できる.
  • Cefiderocol:FDAは,感性菌による複雑性尿路感染症で,他の治療選択肢がないか限られる患者に承認.敗血症,肺炎,菌血症,複雑性尿路感染症患者におけるランダム化オープンラベル試験で,最適治療(Best Available Therapy:BAT)と比較された結果,28日の死亡率はBAT群18.4%,Cefidrocol群24.8%であった(統計的有意差なし)
  • Plazomicin:複雑性尿路感染症に承認されている.データは,多剤耐性菌による菌血症または人工呼吸器関連肺炎に対する,TGCまたはMEPMとの併用時の観察に基づく知見のみ(N Engl J Med 380: 791, 2019).
  • 多剤耐性グラム陰性桿菌に活性のある,開発中の薬剤
  • AZT/Avibactam
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2024/09/30