日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Citrobacter freundii  (2024/08/20 更新)


臨床状況

  • Citrobacter属は,健常者,免疫不全患者どちらにおいても,単純性尿路感染症から,腹腔内,皮膚・軟部組織,肺,中枢神経その他の部位の生命の危険のある感染症まで,さまざまな感染症を引き起こす.
  • Citrobacter freundiiは,CTRX,CTX,CAZ,AZT,PIPC/TAZによる治療で脱抑制させる誘導的ampC染色体遺伝子をコードしていることが予想される.
  • したがって,最初のin vitro感受性は,ampC遺伝子が抑制されているために,広域スペクトラムのセファロスポリンに対する感受性を示すことがある.
  • 治療を加えるとampC遺伝子は脱抑制され,患者の臨床的反応が不良となる.
  • 脱抑制のため,その時点でのin vitro感受性はβラクタムに対する耐性と判断される.
  • 要するに,Citrobacter freundiiに対しては,in vitro感受性検査の結果にかかわらず,広域セファロスポリン(CFPMは例外のことがある-下記参照),AZM,PIPC/TAZによる治療は避けたほうがよい.
  • 特にCitrobacter koseri(旧名diversus)はampC産生をコードする遺伝子を持っていない.
  • 推奨される処方は,培養の結果およびin vitroの感受性結果により異なる.
  • 抗菌薬耐性の問題が増大している.
  • 主要な耐性機序はβラクタマーゼ産生である.
  • 染色体性AmpC遺伝子があっても抑制されていることがあり,分離株はセファロスポリンに感性の場合もある.セファロスポリンを投与すると遺伝子の抑制が解除され,AmpC酵素産生が開始され,セファロスポリンが加水分解される.
  • 警告:Citrobacter分離株が特定される以前でも,C. freundiiの可能性を想定していなくてはならず,それゆえ,in vitroの感受性検査の結果がどうであれ,経験的なセファロスポリン治療は避けなければならない.
  • Citrobacter属は基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)も産生する.ESBLはほとんどの広域セファロスポリン系薬,ペニシリン系薬およびAZTの抗菌活性を破壊するが,CFPMは例外となる可能性もある.
  • 多くは同時にフルオロキノロン系,アミノグリコシド系,STにも耐性である.
  • その他の可能性のある耐性機序:ポーリン閉鎖による細胞壁透過性低下,細胞壁結合蛋白の変化,薬剤排出ポンプ
  • 経験的処方の選択は,施設の耐性パターン,患者の衰弱度,感染の重症度によって異なる.特異的治療はin vitroの感受性試験結果による.
  • 選択薬剤の詳細,最近のデータ,引用文献などについては,コメント参照.

分類

  • 好気性にも嫌気性にも増殖するグラム陰性桿菌
  • Citrobacter freundii

第一選択

検査結果
関与する状況要因
推奨される処方
コメント
Citrobacter freundiiが検出されたが,in vitroでの感受性試験結果が得られていない
施設でのESBL検出率が <10~15%
CFPM 1~2g3時間以上かけて静注・8~12時間ごと
CFPMは,セファロスポリンのうちAmpC存在下でもっとも安定.CFPM以外のセファロスポリンは,たとえin vitroで感受性ありでも,使用は避ける
Citrobacter freundiiによる重症感染症ではAmpC発現リスクのためのPIPC/TAZは推奨されない

施設でのESBL検出率が >15%
MEPM 1~2g静注8時間ごと,または
Ertapenem 1g静注24時間ごと
さらなる重症感染症の場合には,MEPM をさらに高用量で3時間以上かけて静注することを考慮すること
in vitroで耐性が検出されない
静注治療
CPFX 400mg静注12時間ごと,またはLVFX 750mg静注1日1回,または

CFPM 1~2g静注8~12時間ごと
アミノグリコシド系薬は選択肢の1つだが,毒性リスクがあるため避ける

Citrobacter freundiiによる重症感染症ではAmpC発現リスクのためのPIPC/TAZは推奨されない

さらに重症感染の場合には,CFPM高用量を3時間以上かけて静注を考慮すること
経口治療
CFIXまたはCFDNまたはFOM経口(尿路感染症)
【訳注】FOM経口は米国ではFosfomycin tromethamineであり,日本のホスホマイシンカルシウムとは異なる.
NitrofurantoinおよびSTは活性が安定しない
AZT,CTRX,CTXに耐性
ESBL産生株または脱抑制されたAmpC産生株の可能性がある
MEPM 1~2g静注8時間ごと,または
Ertapenem 1g静注24時間ごと
フルオロキノロン系薬およびアミノグリコシド系薬にも同時に耐性のことが多い.in vitroでは活性だが臨床的には耐性のことがあるため,PIPC/TAZは避ける(Antimicrob Agents Chemother 57: 3402, 2013

さらに重症感染の場合には,MEPMをさらに高用量3時間以上かけて静注を考慮すること
全カルバペネム系薬,全セファロスポリン系薬,ペニシリン系薬,フルオロキノロン系薬,アミノグリコシド系薬に耐性だが,MEMP/Vaborbactam,CAZ/Avibactamには感性
パターンはKlebsiella pneumoniaeカルバペネマーゼ(KPC)産生と一致する
MEPM/Vaborbactam 4g3時間以上かけて静注8時間ごと,または
CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと,または
IPM/CS/REL 1.25g30分以上かけて静注(CrCl>90mL/分)
感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される.
これらの薬剤の耐性出現に関する議論:Clin Infect Dis 68: 519, 2019Antimicrob Agents Chemother 63: e01551, 2018
MEPM/Vaborbactam,CAZ/Avibactam,他のすべてのカルバペネム系薬,他のすべてのβラクタム薬,検査したフルオロキノロン系薬およびアミノグリコシド系薬に耐性
パターンはメタロβラクタマーゼ産生に一致する
CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注・8時間ごと)+(AZT 2g3時間以上かけて静注・6時間ごと)(コメント参照)
または
CFDC2g3時間以上かけて静注・8時間ごと
感染症専門医へのコンサルテーションが強く推奨される.治療選択肢は乏しい.
in vitroでポリミキシンに感受性のことがある.しかしポリミキシンによる単剤治療は失敗することが多く,単剤とMEPM併用を比較した試験では併用治療の有用性は認められなかった(Lancet Infect Dis 18: 391, 2018
感受性があれば,アミノグリコシド1剤,ただし単剤治療は失敗することがある.
in vitro感受性に基づき,MEPM/Vaborbactam+AZTが選択肢となることがあるが,有効性は証明されていない.
FDAが承認しているすべての抗菌薬に対し汎耐性
  
FOM静注(使用可能ならば),または

感受性なら,CFDC 2g3時間以上かけて静注・8時間ごと
感染症専門医へコンサルテーションが必要.
【米国の事情】FOM静注の緊急使用は,個々の患者に対する治験薬の例外的使用を通じてFDAから入手可能.TEL: 1-888-6332または+1-301-796-1400.緊急連絡先:+1-301-796-8240または1-866-300-4374.

第二選択

ESBLおよび/またはAmpC産生株
  • CTLZ/TAZ 1.5g3時間以上かけて静注8時間ごと(脱抑制されたAmpC産生株は耐性のことがある)
  • Temocillin 2g静注12時間ごと(ベルギー,英国で利用可能)
  • 膀胱炎の場合:FOM 3g経口1回
     【注】FOM 経口は米国ではFosfomycin tromethamineであり,日本のホスホマイシンカルシウムとは異なる.
  • 腎盂腎炎の場合:FOM 6g静注8時間ごと(使用可能なら)
  • CFPM 1~2g3時間以上かけて静注8~12時間ごと(AmpC産生株の場合.ESBLには適用しない):MICが4~8μg/mLの範囲の株に対してはより高用量を用いる
  • CFPM/Enmetazobactamが最近FDAにより,ESBL産生菌を含む複雑性尿路感染症治療に承認された

抗微生物薬適正使用

  • カルバペネム系薬は,嫌気性菌のカバーが必要となるCitrobacter感染症や,ESBL産生株の治療のために温存しておく.
  • MEPM/VaborbactamおよびCAZ/Avibactamは,KPC感染が確認された患者のために温存しておく.

コメント

  • CAZ/Avibactam+AZT併用がメタロβラクタマーゼ(MBL)産生菌に対して用いられる根拠は,AZTはMBLにより加水分解されないが,CAZはされるということである.
  • しかし,MBL産生菌は通常ESBLまたはセリンカルバペネマーゼを産生し,これらはAZTを分解する.AvibactamはMBLを阻害しないが,βラクタマーゼ(すなわち,ESBL,AmpC,セリンカルバペネマーゼ)を阻害するため,これがない場合にはセリンカルバペネマーゼで分解されてしまうAZTが活性を保つのである.Antimicrob Agents Chemother 61: e02243, 2017参照.
  • メタロβラクタマーゼ産生腸内細菌科による感染患者343例を対象とした前向き観察試験では,CAZ/Avibactam+AZTの併用治療はコリスチンと比較して30日死亡率を低下させた:Clin Infect Dis 78: 1111, 2024
  • CFDC:FDAは,感性菌による複雑性尿路感染症で,他に治療選択肢がないか治療が限られた患者に承認.敗血症,肺炎,菌血症,複雑性尿路感染症患者におけるランダム化オープンラベル試験で,最適治療(Best Available Therapy:BAT)と比較された結果,28日の死亡率はBAT群18.4%,CFDC群24.8%であった(統計的有意差なし).
  • 抑制された染色体性AmpC遺伝子を持つC.freundiiEnterobacter cloacaeKlebsiella aerogenesの割合は高い.C.koseriはAmpC遺伝子を持たない.さまざまな抗菌薬(たとえば,PIPC/TAZ,実質的にすべてのセファロスポリン注射薬,誘導作用が弱いCFPMは例外)の曝露によりAmpC遺伝子の抑制が解除される.注:CFPM MICが4~8μg/mLの株は用量依存的な感受性をもつと同時にESBLを産生することがある.そのため,この範囲のMICのC.freundii感染の治療に使用するに際しては警戒が必要である.
  • Plazomicin:複雑性尿路感染症に承認されている.データは,多剤耐性菌による菌血症または人工呼吸器関連肺炎に対する,TGCまたはMEPMとの併用時の観察に基づく知見のみ(N Engl J Med 380: 791, 2019).
  • 多剤耐性グラム陰性桿菌に活性のある,開発後期段階の治験薬
  • AZT/Avibactam
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2024/08/19