日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Klebsiella aerogenes  (2024/10/22 更新)
旧名 Enterobacter aerogenes


臨床状況

  • Klebsiella属は,健常者でも免疫機能不全者でも,単純性尿路感染症から致死的な感染症(腹腔内,皮膚,軟部組織,肺,中枢神経その他の部位)までのさまざまな感染症を引き起こす.
  • Klebsiella aerogenesは,誘導性のampC遺伝子を有するという点で,Klebsiella属の中でも特異な菌である.
  • 推奨される処方は,病原体特定の有無およびin vitroの感受性検査結果に基づく.臨床状況は以下のとおり:
  • 病原体が特定されたが,in vitroの感受性検査結果が得られていない,経験的治療
  • 病原体が特定され,in vitroの感受性検査結果も得られている,特異的/直接的治療
  • 特異的治療は,抗菌薬耐性の機序についての手がかりとなるin vitro感受性パターンに基づいて行われる.
  • 強毒性で,粘液状(過粘稠性)の株が重症感染を起こし,他の点では健康な宿主に感染や,多くの場合転移(たとえば,肝膿瘍)を引き起こすことがある.Clin Infect Dis 58: 225, 2014参照.
  • ここに挙げた薬剤についての詳細,最新のデータ,文献引用などについてはコメントを参照.

分類

  • Klebsiella aerogenes

第一選択

検査結果
関与する状況要因
推奨される処方
コメント
Klebsiella aerogenesが同定されたが,感受性検査結果は出ていない,経験的治療
施設でのESBL耐性率<10%
Klebsiella aerogenesはAmpCを産生するため,CFPM 1~2g静注8~12時間ごとが望ましい
CPFX 400mg静注1日2回,またはLVFX 750mg静注24時間ごと
施設での耐性率が低ければSTも選択肢となる(第二選択参照)
  
施設でのESBL(基質拡張型βラクタマーゼ)耐性率>10%
MEPM 1~2g静注8時間ごと,または
Ertapenem 1g静注24時間ごと
  
AZT,CTRX,CTX,CAZ,CFPMに感性
ESBL産生株ではない;処方の選択は確認された感受性に基づく
Klebsiella aerogenesはAmpCを産生するため,CFPM 1~2g静注8~12時間ごとが望ましい
CPFX 400mg静注1日2回,またはLVFX 750mg静注24時間ごと
Klebsiella aerogenesはAmpCを産生するため,CFPMが望ましい

AZT,CTRX,CTX,CAZ,PIPC/TAZは,in vitroでは感性となることがあるが,in vivoでの耐性出現の可能性があり,推奨されない

STも選択肢となる
AZT,CTRX,CTX,CAZ,CFPMに耐性(ESBL),カルバペネムに感性
おそらくESBL産生株

この表現型はAmpC過剰産生によるものだが,CFPMも耐性の場合には第二変異(たとえば,ポーリン閉鎖あるいは薬剤排出ポンプ)であることがある.
MEPM 1~2g静注8時間ごと
IPM/CS 500mg静注6時間ごと
Ertapenem 1g静注24時間ごと
カルバペネムを温存するための第二選択として,CTLZ/TAZ 3g静注8時間ごとの使用を考慮する.
より重症の感染症に対してはMEPM 2g3時間以上かけて静注8時間ごとを考慮する.
上記の薬剤およびMEPMまたはIPM/CS,あるいは両者に耐性だが,CAZ/AvibactamおよびMEPM/Vaborbactamに感性
このパターンはKPC(Klebsiella産生カルバペネマーゼ)の産生に一致する
CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと(下記コメント参照)
MEPM/Vaborbactam 4g3時間以上かけて静注8時間ごと
IPM/CS/REL 1.25g30分以上かけて静注6時間ごと(CrCl>90mL/分)
感染症専門医へのコンサルテーションが強く推奨される.
Ertapenem耐性株の分離は必ずしもMEPMまたはIPM/CS耐性を意味しないので,分離株がこれらの両方に感性ならどちらかを用いてもよい.
これらの薬剤に対する耐性変異の出現についての議論は,Clin Infect Dis 68: 519, 2019Antimicrob Agents Chemother 63: e01551, 2018参照.
上記の薬剤およびCAZ/Avibactam,MEPM/Vaborbactam,
フルオロキノロン,アミノグリコシド,STに耐性
このin vitroのパターンはメタロβラクタマーゼ産生に一致.フルオロキノロン系薬およびアミノグリコシド系薬にも耐性のことが多い
CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと+AZT 2g2時間以上かけて静注6時間ごと(コメント参照),または
CFDC 2g3時間以上かけて静注8時間ごと
感染症専門医へのコンサルテーションが強く推奨される.
in vitro感受性に基づき,MEPM/Vaborbactam+AZTが選択肢となることがあるが,有効性は証明されていない.
ポリミキシン類および検査した他の抗菌薬すべてに耐性
 
CFDC 2g3時間以上かけて静注8時間ごと
可能なら,感染症専門医へのコンサルテーションが強く推奨される.

第二選択

  • 検査の結果,ESBL非産生株であり,一部の薬剤が感性であると確認された場合
  • ST(トリメトプリム成分として)10mg/kg/日を2~3回に分割投与
  • GMまたはTOB)7mg/kg24時間ごと,腎機能に応じて用量調整
  • ESBL産生株
  • 尿路以外の感染
  • CTLZ/TAZ 1.5g3時間以上かけて静注8時間ごと
  • 尿路感染
  • 腎盂腎炎およびその他の複雑性尿路感染症
  • Temocillin 2g静注12時間ごと(入手可能な場合)
  • ホスホマイシン6g60分以上かけて静注8時間ごと(入手可能な場合)
  • 米国では,FDAからの緊急入手.コメント参照
  • カルバペネマーゼ産生の耐性株で,メタロβラクタマーゼ産生が疑われる場合
  • Plazomicin:15mg/kg1日1回は選択肢となりうる(FDAは複雑性尿路感染症に対してのみ承認,推奨治療期間4~7日)

抗微生物薬適正使用

  • カルバペネム系薬は,ESBL産生株による感染の治療,あるいは嫌気性菌/好気性菌の混合感染の治療のために温存しておくこと.
  • CAZ/Avibactam,IPM/CS/レレバクタム,MEMP/Vaborbactamは,ESBLおよび関連するβラクタマーゼに対して活性があるが,カルバペネマーゼ産生性の耐性菌が確認された患者のために温存しておくこと.

コメント

  • CFPMは他の広域スペクトラムセファロスポリンと次の点が異なる
  • 染色体性AmpC遺伝子の誘導は弱く,AmpCによる加水分解に抵抗性
  • 耐性変異をほとんど選択しない
  • 注:CFPM MICが4~8μg/mLの株は,用量依存的に感受性をもち,同時にESBL産生株である.したがってMICがこの範囲の株によるE. cloacae感染の治療にCFPMを用いる場合は注意が必要である.推奨用量は2g3時間以上かけて静注・8時間ごと
  • AmpC過剰生産株は,他の耐性変異(ポーリン,薬剤排出ポンプなど)がある場合には,CFPMを不活化するのに十分高濃度のAmpCを産生することがある.
  • AZTはメタロカルバペネマーゼで加水分解されない(CAZは加水分解される)が,カルバペネマーゼ産生菌が産生することの多いESBLにより不活化される.AvibactamはESBLおよび同時に存在することのあるセリン型カルバペネマーゼを不活化する.そうでなければAZTが不活化されるだろうAntimicrob Agents Chemother 61: e02243, 2017参照.
  • CFDC:FDAはCFDC感性細菌による複雑性尿路感染症患者で,治療選択肢がないか限られている場合での使用を承認した
  • 敗血症,肺炎,菌血症,複雑性尿路感染症患者を対象にCFDCと最適治療(Best Available Therapy:BAT)を比較したオープンラベルランダム化比較試験では,28日死亡率はCFDC群24.8%,BAT群18.4%だった(統計学的有意差なし).
  • ESBL産生株
  • 感受性があればフルオロキノロン系またはアミノグリコシド系が有効な場合もあるが,フルオロキノロン系およびアミノグリコシド系に同時に耐性のことが多い.
  • FOM静注はFDAから治験薬の緊急使用で入手可(Phone:+1-888-6332または+1-301-796-1400または緊急対応:+1-301-796-8240)
  • KPCについて
  • MEPMとポリミキシン類(PL-Bまたはコリスチン)の併用は,ランダム化比較試験で有効性が示されなかったため推奨されない(Lancet Infect Dis 18: 391, 2018
  • CAZ/Avibactam
  • カルバペネム耐性腸内細菌科に対する有効性を比較した観察研究では,CAZ/Avibactamはコリスチンより優れていた(Clin Infect Dis 66: 163, 2018).
  • レトロスペクティブ研究ではKPC産生K. pneumoniaeによる尿路感染,下気道感染,腹腔内感染に有効性を示した(Clin Infect Dis 73: 1664, 2021).
  • 研究中の薬剤で,多剤耐性グラム陰性桿菌に対する活性を目的とした臨床開発が行われているもの:
  • AZT/Avibactam
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2024/10/21