日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

蜂窩織炎,丹毒-四肢  (2025/06/24 更新)
急性細菌性皮膚および皮膚構造感染(ABSSSI)


臨床状況

  • 四肢における非糖尿病性で,合併症のない蜂窩織炎,丹毒の治療.急性細菌性の皮膚および軟部組織感染症(ABSSSI).
  • 急激に発症,通常下肢に,赤く浮腫状で痛みのある斑様の皮膚病変が急速に拡がる.ほとんどの例で片側の発症であり,発熱を伴うことも多い.
  • リンパ管炎またはリンパ節炎を伴うこともある.
  • 侵入点は趾間の真菌感染であることが多い(足白癬,Tinea pedis).
  • 顔面の皮膚が侵された場合については,丹毒-顔面を参照.
  • 通常は,丹毒(S. pyogenes)の赤く硬結し境界のはっきりした炎症のある皮膚と,S. aureusによる膿瘍は臨床的に区別できる.重複感染はまれと考えられる.ベッドサイドでの超音波検査が S. aureus による深部の膿瘍の検出に有用なことがある.疑わしい場合は両方に対する治療を行う.
  • 四肢の非化膿性蜂窩織炎(丹毒)216例の報告では,大部分で病原体としてβ溶血性Streptococcus(A,C,G群)が同定された:Open Forum Infect Dis 3: ofv181, 2015.
  • うっ血性皮膚炎に注意すること:丹毒と誤診されることが多い.下記コメント参照.

病原体

  • Streptococcus pyogenes(A群)
  • S. aureus(化膿していない場合はまれ)

第一選択

  • 患肢を挙上する.
  • 可能ならば排膿の培養を行う
  • 入院患者の初期治療
  • MRSAリスク因子なし,地域でのMRSA検出率が低い,非化膿性蜂窩織炎,中等症患者,血行動態安定:CEZ 1g静注8時間ごと
  • Nafcillin 1g静注4時間ごと,またはOxacillin 1g静注4時間ごとも合理的な選択肢
  • MRSAリスク因子あり(MRSA感染または定着の既往,注射薬使用歴),排膿がみられる,地域でのMRSA検出率が高い,血行動態不安定あるいは全身性毒性の他の徴候,βラクタムアレルギー
  • VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと(目標AUC24 400~600μg・h/mL達成が望ましいが[AUC-用量設定の原理と計算を参照],そうでなければトラフ値15~20μg/mLを目標とする)
  • LZD 600mg静注/経口1日2回
  • より軽症患者の外来初期治療,合併症のない感染症,または静注治療からステップダウンする経口薬の選択
  • 非化膿性蜂窩織炎,波動なし(S. aureusよりβ溶血性Streptococcusの可能性が高く,MRSAの可能性は低い)
  • Penicillin VK 500mg経口1日4回,またはAMPC 500mg経口8時間ごと・7~10日
  • 化膿性病変および/または波動を触れる(S. aureusの可能性が高い,MSSAまたはMRSA)
  • 排膿の培養を行い,膿瘍があれば切開とドレナージ
  • ST 2または4錠経口1日2回(BMI>30ならより高用量)

第二選択

  • 入院患者の初期治療
  • MRSAのリスク因子なし,地域でのMRSA検出率が低い,非化膿性蜂窩織炎,中等症患者,血行動態安定:CTRX 2g静注24時間ごと
  • β溶血性Streptococcus感染と証明され,または強く疑われ(たとえば,古典的な丹毒),安定した患者:PCG 200万~400万単位静注4~6時間ごと
  • 急性細菌性皮膚および軟部組織感染で,中等症の入院患者,または外来患者で入院を拒否する場合あるいは複数の経口薬処方に対するコンプライアンスが得られそうにない患者.
  • より軽症患者の外来治療,合併症のない感染症,または静注治療から経口へのステップダウン,Streptococcus,MSSA,MRSAをカバー
  • 地域でのMRSAおよびA群Streptococcusの検出率が低い(たとえば,<10~15%):CLDM 300~450mg経口1日3回も選択肢だが,7~10日治療では,C. difficile関連下痢のリスクがわずかながらある.
  • LZD 600mg経口1日2回・7日,またはTZD 200mg経口1日1回・6日
  • S. aureusが疑われる場合(波動を触れる,化膿またはグラム染色陽性)の他の選択肢:
  • MRSA(外来患者):DOXY 100mg経口1日2回

抗微生物薬適正使用

  • MRSAに対する鼻腔スワブ培養による監視培養は,陰性適中率が高く,合併症のない皮膚および皮膚組織感染症患者での研究では97.5%だった(Am J Infect Control 50: 941, 2022).MRSA鼻腔スワブ培養が陰性の患者では,βラクタム抗菌薬治療はVCMに代わる良い選択肢である(ただし,血液または排膿の検体が得られた場合は培養でMRSAが検出できないことが前提).

コメント

  • 膿瘍があれば切開とドレナージが必要.
  • 通常治療期間は7~10日.患者が無熱になって3~5日まで治療してから中断することもある.
  • 足白癬があれば治療する.
  • 静脈不全によるうっ血性皮膚炎は細菌性蜂窩織炎/丹毒と誤認されることがある:病変は両側性,慢性かつ患者は無熱のことが多い.Ann Intern Med 142: 47, 2005.抗菌薬全身投与は無効.局所治療で有効性のエビデンスがあるのはCadexomer iodineゲルのみ:JAMA 311: 2534, 2014
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2025/06/23