日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

急性腎盂腎炎   (2024/09/10 更新)
急性の単純性腎盂腎炎


臨床状況

  • 通常18~40歳の女性が発症,体温>39℃,明らかな肋骨脊柱角部の圧痛.
  • 治療前に,病原菌特定と抗菌薬感受性検査のための尿および血液の培養を行うこと.
  • 複雑性腎盂腎炎に関連する因子として,閉塞の存在,基礎腎疾患,男性,免疫抑制,結石,解剖学的または機能的尿路異常がある.
  • 入院の適応:重症/敗血症,経口薬が服用できない,血清クレアチニン上昇,重度の痛み
  • 重症患者,新規腎障害,尿路結石の既往,尿管疝痛,閉塞性尿路疾患(たとえば前立腺肥大症),尿pH≧7.0,適切な抗菌薬治療を行っても反応が得られない場合には,画像(超音波またはCT)による評価を行う.

病原体

  • Pseudomonas aeruginosa(以前に抗菌薬投与を受けていた,尿路の処置を受けていた患者)

第一選択

経験的治療:耐性菌のリスクが低い場合(もっとも一般的な状況)
  • 合併症のない感染:CPFX 500mg経口1日2回または徐放剤†1000mg経口24時間ごとまたは400mg静注12時間ごと・5~7日
  • 合併症のない感染:LVFX 750mg経口/静注24時間ごと・5~7日
  • CTRX 1g静注1日1回・10日(E.coliのフルオロキノロン系薬耐性が>10%の地域では第一選択として考慮する)
  • フルオロキノロン系薬に感受性の場合には,上記の経口治療へ移行
  • フルオロキノロン系薬以外の経口処方へ移行する必要がある場合は第二選択を参照
経験的治療:耐性菌のリスクが高い場合(すなわち,尿中に高度耐性菌が検出されたことがある,最近の医療ケア施設への入所,閉塞性尿路疾患,最近のフルオロキノロン系薬またはβラクタム系薬への曝露,最近3カ月以内のアジア,中東,アフリカへの旅行歴)
経験的治療:耐性菌のリスクが高く,かつ重症(たとえば,ウロセプシスが疑われる場合)またはPseudomonas感染の既往がある場合
  • MEPM 1g静注8時間ごと

(†:日本にない剤形)

第二選択

経験的治療:耐性菌のリスクが低い場合(もっとも一般的な状況)
  • GM 5mg/kg静注24時間ごと
  • 経口フルオロキノロン系薬が選択肢とならない場合の経口治療への移行
  • 感受性が判明した場合は,ST 2錠経口1日2回・計10~14日治療を完結させる
  • フルオロキノロン系薬またはSTが選択肢にならない場合,感受性があればβラクタム系薬が使用できる.βラクタム系薬による経口治療の成功率は低い可能性がある.治療期間は計14日
経験的治療:耐性菌のリスクが高い場合(すなわち,尿中に高度耐性菌が検出されたことがある,最近の医療ケア施設への入所,閉塞性尿路疾患,最近のフルオロキノロン系薬またはβラクタム系薬への曝露,最近3カ月以内のアジア,中東,アフリカへの旅行歴)
  • CFPM 2g静注12時間ごと
  • CTLZ/TAZ 1.5g1時間以上かけて静注8時間ごと

抗微生物薬適正使用

  • フルオロキノロン系,ST,さらにセファロスポリン系ですら耐性が増加している.
  • 治療期間
  • 合併症のない腎盂腎炎(下記の因子なし)では,フルオロキノロン系薬・5~7日で治療可能.
  • 男性での発熱を伴う尿路感染:尿培養陰性,解熱,治療終了時と第1日から6週の間の後続抗菌薬治療を複合的第一次エンドポイントとした研究で,14日治療は7日治療よりも優れていた.14日群での有用性のほとんどは,治療終了時で培養陽性が少なかったことからであるが,臨床的予後の有意差もあった(Clin Infect Dis 26: 2154, 2023).
  • 合併症のある腎盂腎炎(閉塞の存在,基礎腎疾患,男性,免疫抑制,結石,解剖学的または機能的尿路異常)では14日治療が必要.
  • βラクタムを用いる場合,一般的には10~14日治療が推奨される.
  • IDSAガイドラインでは,STを使用する場合には14日治療が推奨されているが,16歳以上の女性では7日でも有効性は同等だったとの研究がある(Am J Med 130: 842, 2017).

コメント

  • 画像:重症患者,新規腎障害,尿路結石の既往,尿管疝痛,閉塞性尿路疾患(たとえば前立腺肥大症),尿pH≧7.0,適切な抗菌薬治療を行っても反応が得られない場合には,画像(超音波またはCT)による評価を行う.
  • 菌血症:グラム陰性菌による菌血症患者では,7日の抗菌薬治療は14日と同等の有効性.したがって,腎盂腎炎単独に対する推奨が7日の場合には,抗菌薬治療期間は延長しなくてもよいことがある(Clin Infect Dis 69: 1091, 2019).グラム陰性菌による菌血症の場合には,血液培養のフォローアップは有用性がないことが多い(Clin Infect Dis 65: 1776, 2017
  • ESBL産生E. coliのリスク因子:尿中に高度耐性菌が検出されたことがある,最近の医療ケア施設への入所,閉塞性尿路疾患,フルオロキノロン系薬またはβラクタム系薬への最近の曝露,直近3カ月以内のアジア,中東,アフリカへの旅行歴(PLoS 8: e69581, 2013Clin Infect Dis 63: 960, 2016Emerg Infect Dis 22: 1594, 2016).
  • 男性で特に考慮する点:前立腺肥大や閉塞の他の原因を評価すること.同一の病原菌による尿路感染症が再発する場合は,慢性前立腺炎を考慮する.
  • 妊婦で特に考慮する点:妊娠中の腎盂腎炎患者は妊娠期間中再発のリスクが高く,重大な帰結を招くことがある.再発予防の対策として考慮すべきなのは,菌血症に対する頻回の検査,抗菌薬(病原体の感受性に基づいて,CEX,Nitrofurantoinなど)による長期の抑制治療である.どちらがより有効な手段であるかは明らかでない(妊婦の尿路感染症に関するACOGガイドライン).
  • 他の重要な注:腎盂腎炎に対し特異的抗菌薬治療を考慮する場合の重要な注意点:Enterococcusはセファロスポリン系薬およびErtapenemに自然耐性,PseudomonasはErtapenemに自然耐性
  • 文献:
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing↑ page top
2024/09/09