日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

肺炎-Pseudomonas aeruginosa  (2024/09/10 更新)
P. aeruginosa 肺炎の特異的治療


臨床状況

  • P. aeruginosa肺炎に対する特異的/直接的治療
  • P. aeruginosa 肺炎のリスク因子
  • 嚢胞性線維症
  • 人工呼吸
  • 気管切開
  • 好中球減少症
  • 免疫不全:たとえば,AIDS,移植,がん化学療法
  • 培養結果と感受性検査結果,肺炎の重症度と患者の免疫状態によって経験的治療の選択は異なる.
  • 血行動態が安定していて酸素化が十分な患者では単剤治療.
  • 悪寒戦慄,血圧低下がある,十分な酸素化維持が困難,Pseudomonasが検出されているが薬剤感受性試験結果が得られていない,施設のアンチバイオグラムで多剤耐性菌(MDR:3つ以上の抗菌薬カテゴリーの薬剤に耐性)の検出率が10~15%以上,などの場合は併用治療を考慮する.

診断/病原体

診断
  • 発熱,膿性気道分泌物,胸部X線異常
  • 未熟好中球を伴う白血球増多
  • 喀痰または同等の試料において,培養またはマルチプレックスPCR肺炎パネル(利用可能なら)でP. aeruginosaを検出
病原体

第一選択

経験的治療
  • 施設での多剤耐性P. aerugnosaの検出率が<10~15%
  • PIPC/TAZ 初回4.5g30分以上かけて静注,その4時間後4.5g4時間以上かけて静注を開始,その後4時間以上かけて静注8時間ごとを繰り返す
  • CAZ 2g静注8時間ごと,またはCFPM2g静注8時間ごと
  • MEPM 2g静注8時間ごと
  • TOB 7mg/kg静注24時間ごと(単剤としては推奨されない,コメント参照)
  • 施設での多剤耐性P. aerugnosaの検出率が≧10~15%
  • CTLZ/TAZ 3g1時間以上かけて静注8時間ごと
標的/特異的治療
臨床検査ではin vitroで耐性なし.単剤治療
  • PIPC/TAZ 初回4.5g静注,その4時間後から4.5g静注8時間ごと,いずれも4時間以上かけて静注
  • CAZ 2g静注8時間ごと
  • CFPM 2g静注12時間ごと
  • MEPM 2g静注8時間ごと
  • IgEを介する重症のβラクタム薬アレルギー患者に対しては,AZT 2g静注6時間ごと
in vitroで耐性,臨床検査で耐性機序が明らかになった場合
  • 基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生株
  • MEPM 2g静注8時間ごと
  • CTLZ/TAZ 3g1時間以上かけて静注8時間ごと(コメントのβラクタムについての記述を参照)
  • カルバペネム耐性株:in vitroの感受性確認が重要
  • セリン型カルバペネマーゼ産生株
  • CAZ/Avibactam 2.5g2時間以上かけて静注8時間ごと,または
  • メタロカルバペネマーゼ産生株の場合:至適治療は不明.感染症専門医へのコンサルテーションが強く推奨される.治療選択肢は以下のとおり
  • CAZ/Avibactam 2.5g3時間以上かけて静注8時間ごと+AZT 2g3時間以上かけて静注6時間ごと
  • 他の耐性機序(排出ポンプ,透過性低下)または複数の機序の組み合わせの場合は,in vitro感受性検査結果に基づいて薬剤を選択する.

第二選択

特異的/標的治療
  • in vitroで耐性が検出されなかった場合
  • AZT 2g静注6時間ごと(IgEを介するβラクタム薬アレルギーの患者)
  • LVFX 750mg静注24時間ごと,またはCPFX 400mg静注8時間ごと
  • Cefoperazone 2g静注12時間ごと(入手可能なら)
  • 重症患者でin vitro感受性検査結果が得られていない場合は,少なくとも1剤が有効である確率を高めるために併用治療を検討してもよい(下記コメント参照)
  • PIPC/TAZまたは抗緑膿菌作用のあるセファロスポリン系薬+
  • TOB 7mg/kg静注24時間ごと
  • PIPC/TAZまたは抗緑膿菌作用のあるセファロスポリン系薬+
  • CPFX 400mg静注8時間ごと,または
  • LVFX 750mg静注24時間ごと
  • メタロカルバペネマーゼ産生
  • 感染症専門医へのコンサルテーションが推奨される
  • CFDC 2g3時間以上かけて静注8時間ごと(複雑性尿路感染症に対して)(コメント参照)
抗菌薬吸入治療(コメント参照)
  • 嚢胞性線維症患者でのP. aeruginosa肺炎について,FDAは予防的/抑制的な吸入抗菌薬治療を承認している:
  • TOB 300mg1日2回吸入
  • AZT 75mg1日3回

抗微生物薬適正使用

  • 培養と感受性試験の結果が得られたら,活性のある単剤治療に切り替える.併用治療の単剤治療以上の有用性は証明されておらず,副作用の可能性が高くなる.
  • 治療期間.6つのランダム化比較試験をとりあげた2つのメタアナリシス(Chest 144: 1759, 2013Cochrane Database of Systematic Reviews 2015, CD007577)では,人工呼吸器関連肺炎(VAP)(P. aeruginosaによるものも含む)に対する7~8日間治療の有効性は,より長期の治療(たとえば,10~14日)と同等であった.2016年IDSAガイドラインでは7日間の治療を推奨している(Clin Infect Dis 63: e61, 2016).最適治療期間については,なお議論が続いている:Clin Infect Dis 76: 745, 2023およびClin Infect Dis 76: 750, 2023参照.7~8日の治療は,ほとんどの症例で十分であるように思われるが,以下のように,より長期の治療(たとえば,10~14日)が考慮されてよい場合がある.
  • 背景にARDSまたは重大な構造的肺疾患のある患者での感染
  • 重度の免疫不全患者
  • 菌血症や膿胸などの合併症がある
  • 臨床的,放射線画像上および/または臨床検査項目上で回復が遅い

コメント

  • アミノグリコシド:TOBは,Pseudomonasによる肺炎その他の感染症(尿路感染を含む:これに対しては単剤として使用することも可能なこともある)治療に対して推奨される唯一のアミノグリコシド経薬である.GMは現在では推奨されない.AMKは,用いるとしても,尿路感染治療でのみ考慮されるべき.
  • CFDC:FDAは,CFDC感性細菌による複雑性尿路感染症患者で,治療選択肢がないか限られる場合に承認.敗血症,肺炎,菌血症,複雑性尿路感染症患者を対象にCFDCと至適治療(Best Available Therapy:BAT)を比較したオープンラベルランダム化試験では,28日死亡率はCFDC群24.8%,BAT群18.4%だった(統計学的有意差なし).
  • βラクタム薬
  • CTLZ/TAZ
  • 薬剤耐性P. aeruginosaに関するレトロスペクティブ・コホート研究(患者の52%が人工呼吸器関連肺炎)(Clin Infect Dis 71: 304, 2020
  • 臨床的治癒は,CTLZ/TAZの方がアミノグリコシド系またはポリミキシン系治療よりも良好であった(オッズ比2.6).
  • 急性腎障害は,CTLZ/TAZの方がアミノグリコシド系またはポリミキシン系治療よりも大幅に少なかった(オッズ比0.08).
  • カルバペネム系薬
  • ErtapenemはP. aeruginosaに活性がない.
  • 前向きランダム化臨床試験で有用性が示されなかったため,(MEPMまたはIPM/CS)+ポリミキシン併用治療は推奨されない(Lancet Infect Dis 18: 391, 2018
  • P. aeruginosaカルバペネム系薬耐性は,多くの場合カルバペネマーゼによるよりも透過性や薬剤排出ポンプ活性低下の結果である(Antimicrob Agents Chemother 59: 1020, 2015
  • セリン型カルバペネマーゼ(たとえば,Klebsiella pneumoniaeカルバペネマーゼ,KPC)
  • 併用治療
  • 経験的治療における薬剤併用の有用性として,とくに多剤耐性株の感染リスクが高い患者では以下があげられる
  • 少なくとも2剤のどちらかが活性である可能性が高くなる
  • 耐性亜集団の選択リスクが減少する(理論的)
  • 両剤とも活性の場合,抗菌活性の相加的または相乗的効果が期待できる(臨床的には証明されていないが動物モデルでは示された)
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2024/09/09