日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

咽頭炎・扁桃炎  (2025/12/23 更新)
咽頭炎・扁桃炎:滲出性またはびまん性紅斑,経験的治療


臨床状況/診断

臨床状況
  • 急性咽頭炎はもっとも多くみられる疾患のひとつである.従来はS. pyogenesの検出とその治療に焦点が当てられていたが,ウイルス性のものの方が頻度が高い.
  • S. pyogenesが急性咽頭炎の病原菌であるのは,小児では15~35%,成人では5~15%である.
  • 合併症があるため,S. pyogenesが存在するかを迅速に確かめ,特異的治療を開始することが目標となる.迅速検出法が使用できなくても,臨床症状が急性咽頭炎に一致していて疑いが強い場合には,経験的治療の開始が合理的である.治療は有症期間の短縮につながる.
  • 発展途上国では,急性リウマチ熱(ARF)は依然として問題である.
  • 影響力の大きな研究において,DBECPCGでのGAS治療により,ARFの発症率は2.8%から0.2%に低下することが示された.これは咽頭培養でのA群Streptococcus(GAS)の消失と関連していた(Clin Infect Dis 19: 1110, 1994).ARFに関する総説を参照:Lancet 366: 155, 2005
  • GASを治療しない場合に起こりうる合併症
  • 急性リウマチ熱:発熱,Streptococcus感染後の反応性関節炎,扁桃周囲膿瘍,咽頭後膿瘍,化膿性静脈炎
  • 持続的な発熱と肺塞栓症があれば,主にFusobacterium necrophorumによるLemierre症候群(内頸静脈の化膿性血栓性静脈炎)が疑われる.診断は困難(Diagn Microbiol Infect Dis 107: 116023, 2023).
  • C群およびG群Streptococcusも咽頭炎を引き起こす.非常にまれだが,ARFを引き起こすこともある.
  • Streptococcus感染後糸球体腎炎は7歳未満の小児に発生することがある.
診断
  • 焦点はA群Streptococcusの検出
  • 患者に鼻炎,嗄声あるいは咳があればウイルス性が考えられ,GASの検査は不要.
  • ポイントオブケア(POC)迅速Streptococcus抗原検査による検出
  • 特異度≧95%,感度70~90%
  • ●GASが病原体であることは少なく,成人でのARFの発症率も非常に低いことから,成人で迅速検査が陰性の場合には咽頭培養は必要ない.
  • ●小児(年齢3~21歳)で迅速検査陰性:GASが病原体であることが多くARFの発症率も高いことから,迅速検査が陰性の場合に咽頭培養を行うことは理にかなっている.
  • 核酸増幅検査(NAAT)による検出:マルティプルCLIA(臨床試験室改善法)-waived POC PCR検査がFDAに承認され,利用可能となった:
    J Infect Dis 230: S182, 2024
  • 検査所要時間 15分だが,費用が高い.
  • 注意:NAATは生きていないA群S. pyogenesのDNAも検出する。こうしたDNAは感染後2~6週まで検出される.

病原体

  • ウイルス:
  • その他の細菌
  • 咽頭炎が性感染症の主要な徴候となりうる:たとえば
  • N. gonorrhoeae

第一選択

  • 経験的またはS. pyogenesに対する特異的治療
  • 小児
  • Penicillin V 体重<27kgなら250mg経口1日2回または3回,>27kgなら500mg経口1日2回・10日(効果が高く, スペクトラムが狭く,薬剤性発疹の頻度が低いため,第一選択薬である)
  • AMPC 50mg/kg経口1日1回(最大1000~1200mgまで)・10日(AMPC懸濁液はPenicillin Vより味がよい)
  • コンプライアンスが得られそうにないなら,DBECPCG 2.5万単位/kg筋注(最大120万単位)・1回
  • 成人
  • Penicillin V(500mg経口12時間ごと,または250mg経口6時間ごと)・10日
  • AMPC 500mg経口8~12時間ごと・10日,または徐放錠†775mg経口24時間ごと・10日
  • AMPC/CVA 875/125mg経口12時間ごと・10日
  • コンプライアンスが得られそうにないなら,DBECPCG 120万単位筋注・1回
  • 扁桃摘出術の考慮およびガイドラインについては,下記コメント参照
  • 鎮痛:アセトアミノフェン,イブプロフェン.ライ症候群発症の危険があるため,小児ではアスピリンは避ける.

(†:日本にない剤形)

第二選択

  • 小児
  • CEX 500mg経口1日2回・10日(望ましい第二選択)
  • 成人
  • CEX 500mg経口1日2回・10日
  • 経口セファロスポリン系薬・4~6日
  • IgE媒介の即時型ペニシリンアレルギーのない患者:経口セファロスポリン系薬,たとえばCEX
  • ペニシリンへの重症IgE媒介即時型反応がある場合:
  • CLDM 300mg経口1日3回・10日,または小児にはCLDM 30mg/kg/日経口8時間ごとに分割・10日
  • AZM 500mg経口1日1回・5日,またはAZM 12mg/kg経口1日1回・5日
  • 2020年時点では約30%の株がCLDMおよびマクロライド系薬の双方に耐性

治療期間/抗微生物薬適正使用

治療期間
  • 上記の処方を参照
  • ほとんどの薬剤で,FDAは10日間ペニシリン治療を承認している.
抗微生物薬適正使用
  • ほとんどの咽頭炎はStreptococcus属ではないため,診断検査が重要である.
  • ペニシリン系薬は咽頭炎治療薬としては最もスペクトラムが狭い.
  • 第1世代セファロスポリン系薬,たとえばCEXはスペクトラムがもっとも狭く,通常は最も経済的な選択肢である.
  • CDTR,CXM-AX,CPDX-PR,CFDN,CFIX,Cefprozilのようなスペクトラムの広い経口セファロスポリン系薬は,活性があり使用が承認されているものもあるが,第1世代セファロスポリンを上回る有用性はない.
  • 耐性率が高いためテトラサイクリン系薬,ST,フルオロキノロン系薬は推奨されない

コメント

  • 長期化する,あるいは再燃する感染をどうするか?
  • 治癒確認の培養や抗原検査はルーチンには必要ない.
  • 真の臨床的治療失敗で培養陽性の場合,どのような原因が考えられるか:
  • 背景にあるウイルス性咽頭炎が持続していて,Streptococcus属の定着は偶然検出された
  • 患者のアドヒアランス不良
  • Streptococcusによる新たな感染
  • ペニシリンによる治療では,βラクタマーゼ産生口内常在菌がペニシリンを加水分解するという説がある(J Antimicrob Chemother 24: 227, 1989).AMPC/CVAの有用性が示唆される.
  • Fusobacterium necrophorumはin vitroでペニシリン,セファロスポリン,CLDMに感受性だが,EM,AZM,CAMに耐性.
  • 注: S. pyogenesに対するテトラサイクリン系およびSTの臨床的有効性については疑問がある.STについての文献:J Clin Microbiol 50: 4067, 2012
  • 咽頭炎の原因がS. pyogenesではなく伝染性単核球症の場合は,発疹の発症率が高い.
  • 再発性扁桃炎に対する扁桃摘出術?
  • 以下の条件であれば,手術は行わず慎重な経過観察が推奨される:
  • 前年に再発<7回
  • 過去2年で<5回/年の再発
  • 過去3年で<3回/年の再発
  • 再発は次を満たす必要がある:発熱>38.5℃,扁桃滲出液,リンパ節腫大,A群溶血性Streptococcusの検出
  • 以下の条件であれば,変更して手術を考慮:
  • 複数の抗菌薬に対するアレルギーまたは不耐
  • PFAPA症候群の再発
  •  周期熱
  •  アフタ性口内炎
  •  咽頭炎
  •  リンパ節炎
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2025 Life Science Publishing↑ page top
2025/12/22