false
日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
咽頭炎・扁桃炎
(
2023/12/05 更新
)
咽頭炎・扁桃炎:滲出性またはびまん性紅斑,経験的治療
臨床状況/診断
臨床状況
従来は
S. pyogenes
の検出と,検出された場合はその治療に焦点があった
.
S. pyogenes
が急性咽頭炎の病原菌であるのは,小児では15~35%,成人では5~15%である.
S. pyogenes
はもっとも多い病原菌であるため,存在する場合は特異的治療の開始のために速やかにその存在を確認する必要がある.迅速検出法が使用できなくても,臨床症状から疑われる場合は,以下の理由から経験的治療の開始が合理的である:
■症状の軽減,化膿性合併症の予防,伝播の抑制,
Streptococcus
属(A群:GAS)の感染がある場合はその除去とそれによる急性リウマチ熱(ARF)の予防
●ARFは現在でも世界中の多くの地域で,特に小児において問題となっている.
●影響力の大きな研究において,DBECPCGでのGAS治療により,ARFの発症率は2.8%から0.2%に低下することが示された.これは咽頭培養でのGASの消失と関連していた(
Clin Infect Dis 19: 1110, 1994
).ARFに関する総説を参照:
Lancet 366: 155, 2005
.
咽頭感染症-概説
参照.
診断
可能性のある微生物病原体は多い
焦点はA群
Streptococcus
の検出
患者に鼻炎,嗄声あるいは咳があればウイルス性が考えられ,GASの検査は不要.
迅速
Streptococcus
抗原検査による検出
■特異度≧95%,感度70~90%
●成人で迅速検査陰性:GASが病原体であることは少なくARFの発症率も非常に低いことから,迅速検査が陰性の場合に咽頭培養が必要となることはまれである.
●小児で迅速検査陰性:GASが病原体であることが多くARFの発症率も高いことから,迅速検査が陰性の場合に咽頭培養を行うことは理にかなっている.
核酸増幅検査(NAAT)による検出:CLIA(臨床試験室改善法)-waivedの2つのPOC(ポイントオブケア)PCR検査がFDAに承認され,利用可能となった.
■Liat SystemのCobas Strep A検査およびAlere i strep A検査
■陽性適中率97.7%,陰性適中率100%(
J Clin Microbiol 54: 815, 2016
).
■検査所要時間 15分.
■抗原検査より高価だが,迅速
Streptococcus
検査が陰性でも確認のための培養は不要.
■NAAT利用の増加が予想されるが,さらなる比較試験が必要.直接的比較では,NAATは抗原検出より感度が高く,抗菌薬治療の適正化により大きな影響を与える可能性がある(
J Clin Micro 56: e01310, 2018
).
GASに対する治療を行わなかった場合に起こりうる合併症:
急性リウマチ熱,
Streptococcus
感染後の反応性関節炎,扁桃周囲膿瘍,咽頭後膿瘍,化膿性静脈炎.
持続的な発熱と肺塞栓があれば
Fusobacterium necrophorum
によるLemierre症候群(内頸静脈の血栓性頸静脈炎)が疑われる(
Ann Intern Med 162: 241, 2015
;
Ann Intern Med 162: 311, 2015
)
CおよびG群
Streptococcus
も咽頭炎を引き起こすが,ARFは非常にまれである.
7歳未満の小児で,
Streptococcus
感染後に糸球体腎炎が起こることがある.化膿性咽頭炎があり
Sreptococcus
迅速抗原検査陰性の小児では,GAS感染がないことおよび他の病原体を確認するため,迅速NAATまたは咽頭培養を行うのが理にかなっている.
文献
A群
Streptococcus
咽頭炎に関するIDSA診療ガイドライン(
Cin Infect Dis 55; 1279, 2012
).
ヨーロッパのガイドライン:
Clin Micro Infect 18: 1, 2012
.
Front Cell Infect Microbiol 10: 563627, 2020
.
病原体
Streptococcus
属(A群,C群,G群)
ウイルス:
伝染性単核球症
初期HIV
C. diphtheriae
Arcanobacterium haemolyticum
(まれ)
M. pneumoniae
(通常咳を伴う)
Fusobacterium necrophorum
(上記コメント参照)
N. gonorrhoeae
については別に記す(
淋菌性咽頭炎
を参照)
咽頭炎が性感染症の主要な徴候となりうる:たとえば
N. gonorrhae
単純ヘルペス
HIV
まれに
第2期梅毒
インフルエンザ,SARS-CoV-2を含む呼吸器ウイルス
第一選択
経験的または
S. pyogenes
に対する特異的治療の推奨
小児
Penicillin V
体重<27kgなら250mg経口1日2回または3回,≧27kgなら500mg経口1日2回・10日(効果が高く, スペクトラムが狭く,薬剤性発疹の頻度が低いため,第一選択薬である),または
AMPC
50mg/kg経口1日1回(最大1000~1200mgまで)・10日(懸濁液を用いる必要がある場合には
AMPC
懸濁液が推奨される;
AMPC
懸濁液はPenicillin Vより味がよいため),または
AMPC/CVA
45mg/kg/日2回に分割,または
コンプライアンスが得られそうにないなら,
DBECPCG
2.5万単位/kg筋注(最大120万単位)・1回
成人
Penicillin V
(500mg経口1日2回,または250mg経口1日4回)・10日,または
AMPC
500mg経口1日3回・10日,または
AMPC/CVA
875/125mg経口1日2回・10日,または
コンプライアンスが得られそうにないなら,
DBECPCG
120万単位筋注・1回
ペニシリンに対するIgE媒介即時型過敏反応があり,βラクタム薬を避ける必要がある場合
■
CLDM
300mg経口8時間ごと・10日,または
■
AZM
500mg経口1日1回・5日い,または
CAM
250mg経口1日2回・10日(GAS耐性株検出率は地域により異なるため,耐性株に注意すること)
●A群
S. pyogenes
の耐性増大に注意すること
●2020年時点では,30%の株がEM耐性,30%がCLDM耐性
●CDCの
ABcSサーベイランス
のデータを参照
扁桃摘出術の考慮およびガイドラインについては,下記コメント参照
鎮痛:アセトアミノフェン,イブプロフェン.ライ症候群発症の危険があるため,小児ではアスピリンは避ける.
ペニシリンアレルギーの患者では,
βラクタムアレルギー-概説
,
ペニシリンの脱感作-経口
,
注射
も参照.
第二選択
ほとんどの薬剤で,FDAは10日間の治療を承認している.最近のデータでは,より短期間の治療の安全性と有効性が支持されている.
小児
CEX
500mg経口1日2回・10日(望ましい第二選択)または(望ましくない)
CLDM
30mg/kg/日経口8時間ごとに分割・10日,または
マクロライド系薬(AZMまたはCAM),ただしCLDMおよびマクロライド双方に対する実質的な耐性が増加している
■
AZM
12mg/kg経口1日1回・5日
■
CAM
15mg/kg/日経口1日2回に分割・10日
■2020年時点での耐性
●EM耐性30%
●CLDM耐性30%
●CDCの
ABcSサーベイランス
のデータを参照
成人
CEX
500mg経口1日2回・10日
経口セファロスポリン系薬・4~6日:IgE関連の即時型ペニシリンアレルギーのない患者
ペニシリンへの即時型アレルギー反応がある場合:
■
CLDM
300mg経口1日3回・10日
■
AZM
500mg経口1日1回・5日
■2020年時点では30%の株がCLDMおよびEMの双方に耐性
抗微生物薬適正使用
ペニシリン系薬は咽頭炎治療薬としては最もスペクトラムが狭い.
第1世代セファロスポリン系薬,たとえばCEXはスペクトラムがもっとも狭く,通常は最も経済的な選択肢である.
CDTR,CXM-AX,CPDX-PR,CFDN,CFIX,Cefprozilのようなスペクトラムの広い経口セファロスポリン系薬は,活性があり使用が承認されているものもあるが,第1世代セファロスポリンを上回る有用性はなく,一般的には咽頭炎・扁桃炎に対する最適な選択肢ではない.
CLDM,AZM,CAMに対する耐性の報告がある:
Emerg Infect Dis 18: 1658, 2012
.
耐性率が高いためテトラサイクリン系薬,ST,フルオロキノロン系薬は推奨されない
コメント
長期化する,あるいは再燃する感染をどうするか?
治癒確認の培養や抗原検査はルーチンには必要ない.
実際に臨床的にも培養からも治療失敗が確認される場合,どのような原因が考えられるか:
■背景にあるウイルス性咽頭炎による長期化,検出された
Streptococcus
属の定着
■患者のアドヒアランス不良
■
Streptococcus
による新たな感染
■ペニシリンによる治療では,βラクタマーゼ産生口内常在菌がペニシリンを加水分解するという説がある(
J Antimicrob Chemother 24: 227, 1989
).AMPC/CVAの有用性が示唆される.
Fusobacterium necrophorum
はin vitroでペニシリン,セファロスポリン,CLDMに感受性だが,EM,AZM,CAMに耐性.
注:
S. pyogenes
に対するテトラサイクリン系およびSTの臨床的有効性については疑問がある.STについての文献:
J Clin Microbiol 50: 4067, 2012
.
注:STは,in vitroで感受性があっても臨床的失敗が多すぎるため,
Streptococcus
による咽頭炎治療には推奨されない(
J Infect Dis 128(Suppl): S693, 1973
;
Rev Infect Dis 4: 196, 1982
).
Streptococcus
咽頭炎の合併症に関するまとめ:
急性リウマチ熱,
Streptococcus
感染後の糸球体腎炎(年齢<7歳の小児),
レンサ球菌(A群
Streptococcus
)性小児自己免疫性精神神経疾患(PANDAS)
扁桃周囲膿瘍
内頸静脈の血栓性静脈炎(Lemierre症候群)
咽頭炎の原因が
S. pyogenes
ではなく伝染性単核球症の場合は,発疹の発症率が高い.
CLDM:経口懸濁液は味が良くない.
C. difficile
腸炎のリスク.
再発性扁桃炎に対する扁桃摘出術?
扁桃摘出術の臨床ガイドライン参照:
Otolaryngology Head and Neck Surgery 160: 187, 2019
以下の条件であれば,手術は行わず慎重な経過観察が推奨される:
■前年に再発<7回
■過去2年で<5回/年の再発
■過去3年で<3回/年の再発
■再発は次を満たす必要がある:発熱>38.5℃,扁桃滲出液,リンパ節腫大,A群溶血性
Streptococcus
の検出
以下の条件であれば,変更して手術を考慮:
■複数の抗菌薬に対するアレルギーまたは不耐
■PFAPA症候群の再発
●周期熱
●アフタ性口内炎
●咽頭炎
●リンパ節炎
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing
↑ page top
2023/12/04