日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

骨盤内炎症性疾患  (2023/06/06 更新)
骨盤内炎症性疾患(PID),卵管炎,卵管卵巣膿瘍


臨床状況

  • 性生活のある女性で骨盤の不快感と痛みがあり,骨盤内診察で子宮頸部の動きが認められる.
  • 子宮または付属器の圧痛を伴うこともある.
  • 子宮頚部が脆くなり子宮頸管からの浸出物がみられることもある.
  • 腹腔鏡による鑑別診断はめったに行われない.
  • ほとんどの場合,粘膜膿性の子宮頸管帯下があるか,膣垢検査でWBCのエビデンスが示される.
  • 治療を外来で行うか入院で行うかは重症度による.
  • 外来治療は,体温<38度,白血球<11000/mm3で,腹膜炎の可能性がなく,腸蠕動の低下がなく,経口摂取が可能な患者に限る.
  • 卵管卵巣膿瘍患者では,まず入院しての検査/治療が推奨される.
  • C. trachomatisおよびN. gonorrhoeaeに対する尿または頸管分泌物の核酸増幅検査(NAAT).HIV抗体および梅毒血清検査を行う.
  • 重症患者では血液培養も必要であろう.
  • セックスパートナーを診察し,治療する.
  • 外来患者に対するChlamydiaおよびN. gonorrhoeaeのスクリーニングが増えたことにより,入院および子宮外妊娠の確率が減少した(J Adolesc Health 51: 80, 2012).

病原体/診断

病原体
診断
  • 以下の場合,PIDに対する推定治療が正当化される
  • 骨盤または下腹部の痛み
  • PID以外の病因が同定されない
  • 骨盤検査で,子宮頸部の可動痛,子宮圧痛,付属器圧痛のうち1つ以上が認められる.
  • 治療前にC. trachomatisおよびN. gonorrheaeに対する尿または子宮頸部スワブの核酸増幅検査(NAAT)
  • 入院患者では血液培養2セット

第一選択

  • 以下の条件がひとつでもあれば入院を考慮する(CDC性感染症ガイドライン:MMWR 70: 1, 2021
  • 緊急の手術(たとえば,虫垂炎)が必要となる可能性が除外できない
  • 卵管卵巣膿瘍
  • 妊娠
  • 重症疾患,悪心・嘔吐,または口腔温>38.5℃
  • 外来での経口薬処方を遵守できない,またはそれに不耐
  • 経口抗菌薬治療に臨床的反応がない
  • 入院患者(静注処方):解熱し,白血球数が減少し,患者が経口摂取に耐えられるようになれば下記のような経口処方に切り替えることができる
  • CTRX 1g静注24時間ごと+DOXY 100mg静注†/経口+MNZ 500mg12時間ごと
  • Cefoxitin 2g静注6時間ごと+DOXY 100mg静注†12時間ごと
  • Cefotetan 2g静注12時間ごと+DOXY 100mg静注†12時間ごと
  • 外来患者(経口および筋注治療)
  • Cefoxitin 2g筋注1回)+(DOXY 100mg経口1日2回+MNZ 500mg1日2回・14日)

(†:日本にない剤形, ††:米国では処方される)

第二選択

入院患者(静注処方)
  • ABPC/SBT 3g静注6時間ごと+DOXY 100mg静注†または経口12時間ごと)・14日
  • CLDM 900mg静注8時間ごと+GM 2mg/kg初回,その後1.5mg/kg8時間ごと,または4.5mg/kg1日1回,あるいはCLDM 450mg経口1日4回,またはDOXY 100mg経口1日2回を14日継続
  • 注:卵管卵巣膿瘍がある場合は,CLDM 450mg経口1日4回またはMNZ 500mg経口1日2回のいずれかをDOXY 100mg経口1日2回と併用して14日間治療.DOXY単独より嫌気性菌に対する活性が向上するとの考えに基づく.
外来患者(経口および筋注治療):セファロスポリンアレルギーでN. gonorrhoeaeが病原菌の場合,これらの処方は有効である可能性が低い
  • LVFX 500mg経口1日1回またはMFLX 400mg経口1日1回)+MNZ 500mg経口1日2回・14日
  • AZM 500mg静注/経口1日1回・1~2回,その後250mg経口1日1回+MNZ 500mg経口1日2回・12~14日

(†:日本にない剤形)

抗微生物薬適正使用

  • 第一選択の処方はM. genitalium感染に対しては有効でない.7~10日以内に反応がなければ,MFLX 400mg1日1回・14日への切り替えを考慮する.

コメント

  • 上記のように,卵管卵巣膿瘍がある場合,処方は嫌気性菌のカバーのために,CLDMまたはMNZを含んでいなければならない.
  • 外来処方で72時間後も改善がみられない場合は,診断を再検討し,静注治療を開始する.
  • すべてのPID患者(およびすべての性感染症患者)でHIV感染および潜伏性梅毒をチェックすること.
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2023/06/08