日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

結核-多剤耐性  (2025/06/10 更新)
MDR-TB,多剤耐性肺結核,XDR-TB,RFPにのみ耐性の結核


臨床状況

  • 多剤耐性肺結核 (MDR-TB):専門家のコンサルテーションが強く推奨される.
  • 肺結核,肺外結核,結核性骨関節炎,結核性髄膜炎,播種型結核の治療処方.
  • MDR-TBはINHおよびRFPの両者に耐性の肺結核と定義される.
  • RFPにのみ耐性の株による結核
  • XDR-TB
  • CDCは,多剤耐性(MDR:すなわち,INHおよびRFPに耐性)で,かつ全フルオロキノロン系薬および少なくとも1つの第二選択注射薬(すなわち,AMK,KMまたはCapreomycin)に耐性な株による結核と定義している.
  • WHOは,INH,RFP,全フルオロキノロン系薬,ベダキリンまたはリネゾリドに耐性なMycobacterium tuberculosisによる結核と定義している.

病原体

第一選択

  • ベダキリン 400mg経口1日1回・2週,その後投与間隔を少なくとも48時間あけて200mg週3回・24週
  • LZD 600mg経口1日1回・26週(600mg用量が好ましいが,LZDの毒性を軽減するために300mgに減量してもよい)
  • MFLX 400mg経口1日1回・26週
  • フルオロキノロン系薬に不耐の患者,あるいはフルオロキノロン耐性株の場合には,3剤併用処方(ベダキリン+Pretomanid+LZD)
  • 以下の場合9ヵ月(39週)投与に延長する:培養陰性化まで>8週を要する,培養陽性の持続,治療に対する臨床的反応,その他の背景的臨床因子から,治療に対する反応の遅延が明らかである場合,あるいは副作用のために修正が必要になる場合.
  • 注意:以上の推奨は,ZeMix(N Engl J Med 387: 810, 2022)およびPRACECAL(N Engl J Med 387: 2331, 2022)試験に基づくものだが,これらの試験には妊婦または授乳中の女性,結核性髄膜炎(コメント参照),結核性骨関節炎,播種性結核,年齢13~14歳未満の小児,処方中の薬剤のいずかに対する明確な耐性,または直近(>2~4週)に処方中の薬剤のいずれかによる治療が行われた場合は含まれていない.

第二選択

WHOすべて経口の9ヵ月処方WHO 2024年6月速報およびN Engl J Med 392: 468, 2025
  • 対象/除外基準
  • RFP耐性でフルオロキノロンに感受性のあるM. tuberculosisによる肺結核
  • 年齢≧15歳
  • 注:妊婦で,授乳中止に同意しない,または中止できなければ除外
  • 望ましい処方
  • ベダキリン(体重24~30kg:200mg1日1回2週,その後100mg週3回;>30kg:400mg1日1回2週,その後200mg週3回)
  • LZD(体重24~30kg:300mg1日1回16週まで,その後300mg1日1回または600mg週3回;>30kg:600mg1日1回16週まで,その後300mg1日1回または600mg週3回;必要なら毒性を抑えるために16週以前で用量変更)+
  • MFLX 400mg1日1回
  • PZA(体重24~35kg:800mg;体重>35~45kg:1200mg;>45~70kg:1600mg;>70kg:2000mg)
  • 第二選択
  • ベダキリン上記用量+LZD上記用量+LVFX(体重24~35kg:750mg1日1回;>35kg:1000mg1日1回)+CLF 100mg1日1回+PZA,上記用量
  • 第三選択
  • ベダキリン上記用量+デラマニド(体重24~30kg:50mg1日2回;体重>30kg:100mg1日2回)+LZD上記用量+LVFX(体重24~35kg:750mg1日1回;>35kg:1000mg1日1回)+PZA上記用量
  • 第4選択
  • ベダキリン,デラマニド,LZD,LVFX,CLFを組み合わせた6ヵ月処方は,すべての患者集団で広く使われている薬剤で構成される処方であり,BEAT試験(NCT04062201)で高い治療成功率を示しことから,WHOはフルオロキノロン耐性の有無にかかわらず,この処方を推奨している(条件付き推奨,エビデンスの確実性は非常に低い).試験のエビデンスにより,登録されたRFP耐性結核患者,およびプレ広範囲薬剤耐性結核(pre-XDR-TB)患者(HIV感染の有無にかかわらず)で有効かつ安全に使用可能であることが示唆された.現在までのエビデンスは,小児,青少年,妊婦,授乳中の女性を対象としたものであり,この処方をこれらの集団で使用することに対して警告を与えている.したがって,この研究で得られたエビデンスは,多くの患者集団において本処方をプログラム的に使用する新たな推奨を支持するものとなるだろう.
上記の処方に不耐あるいは対象候補とならない一部の患者に対する,ほぼ時代遅れとなった以前の処方を,歴史的興味と網羅性のためにここに記載する
 WHO短期多剤処方(フルオロキノロン耐性は除く,妊婦や上記の処方に不耐な患者および小児で用いるための処方)
  • 初期治療4~6ヵ月
  • ベダキリン400mg経口1日1回・2週,その後200mg経口週3回・22週+
  • LVFX 750~1000mg経口24時間ごと,またはMFLX 400mg経口24時間ごと)+
  • CLF 100mg1日1回+
  • PZA 20~30mg/kg/日:体重≦35kgなら1000mg経口24時間ごと,体重36~70kgなら1500mg経口24時間ごと,体重>70kgなら2000mg経口24時間ごと
  • EB 15~25mg/kg/日+
  • 高用量INH 10~15mg/kg/日+
  • ETH 15~20mg/kg/日1回または2回に分割(妊婦では禁忌,代わりにLZDを用いる)
  • 5ヵ月の維持期ではLVFXまたはMFLX+CLF+PZA+EB
 より忍容性が高く,より効果的な短期処方が用いられるようになってきたため,長期の多剤処方は好まれなくなった
  • 多剤併用処方:分離株が感性である薬剤5剤以上を培養陰転後5~7カ月投与する強化期と,それに続き4剤を使用する維持期をあわせて,培養陰転後計15~21カ月の治療を行う(下記は成人用量)(ATX/CDC/ERS/IDSAガイドライン:Am J Respir Crit Care Med 200: e93, 2019).
  • フルオロキノロン系1剤
  • LVFX 750~1000mg経口24時間ごと,または
  • MFLX 400mg(他のフルオロキノロン系薬に低度耐性なら600~800mg)経口24時間ごと
  • +下記の2剤
  • ベダキリン400mg経口1日1回・2週,その後200mg経口週3回・22週(24週を超えて治療期間を延長する安全性と有用性は未確立)
  • LZD 600mg1日1回
  • +下記の2剤
  • CLF100mg1日1回
  • CS 250~750mg1日1回・血清濃度が20~35μg/mLに達するまで
  • 上記の1剤以上が使用できず,5剤を用いた強化治療ができない場合,下記から選択する
  • AMK(またはin vitroでの活性が確認されたらSM)15mg/kg,最大1g1日1回,または忍容性があれば25mg/kg週3回・計6~7カ月(忍容性の低さ,毒性から経口薬のほうが望ましく,これらは最後の手段)
  • ■推奨順位が低い経口薬
  • EB 15~25mg/kg/日
  • PZA 20~40mg/kg/日
  • ■上記から有効な処方を構築できない場合の他の選択肢
  • ETHまたはProthionamide 15~20mg/kg/日1~2回に分割(妊婦では禁忌)
  • PAS 8~12g/日2~3回に分割
  • INH高用量15mg/kg/日,分離株が低度耐性か,または高度耐性でない場合のみ
 WHO長期コースの処方:下記から望ましくは5剤,少なくとも4剤を18~24カ月投与する
 (詳細はWHO MDR治療ガイドラインを参照)(下記は年齢>14歳に対する用量)
  • グループAの薬剤から3剤(コメント参照)
  • LVFX 750mg経口24時間ごと(体重≦45kg),1000mg経口24時間ごと(>45kg).または,MFLX 400mg経口24時間ごと+
  • ベダキリン400mg経口1日1回・2週,その後200mg経口週3回・22週+
  • LZD 600mg1日1回
  • 上記に加えて,以下グループBの薬剤から1剤または2剤
  • CLF 100mg1日1回
  • CS 10~15mg/kg/日:500mg経口24時間ごと(体重≦45kg),750mg経口24時間ごと(>45kg)
グループCの薬剤,グループAまたはBの薬剤が使用できない場合に,5剤処方を完成させるために追加
  • EB 15~25mg/kg/日:800mg経口24時間ごと(体重≦45kg),1200mg経口24時間ごと(>45kg)
  • PZA 20~30mg/kg/日:1000mg経口24時間ごと(体重≦35kg),1500mg経口24時間ごと(36~70kg),2000mg経口24時間ごと(>70kg)
  • AMK(または,in vitro活性が確認されていればSM)15mg/kg,最大1g1日1回・12週,その後週3回を忍容性に応じて計6~7カ月+
  • ETHまたはProthionamide 500mg経口24時間ごと(体重≦45kg),750mg経口24時間ごと(46~70kg),1000mg(>70kg)(妊婦では禁忌)
  • PAS 8~12g/日2~3回に分割

コメント

  • 専門家のコンサルテーションが推奨される
  • MDR/RFP耐性結核/結核性髄膜炎/中枢神経疾患の治療は,感染株の薬剤感受性試験結果および薬剤の脳脊髄液移行性に基づくのが最善である.LVFXおよびMFLX,ETHあるいはProthionamide,CS,LZD,IPM/CSは血液脳関門を通過する.高用量INHおよびPZAも,脳脊髄液中濃度が治療レベルに達するので,感染株に感受性があれば用いてもよい.PAS,EB,AM,SMは血液脳関門を通過しない.CLF,ベダキリン,デラマニドの中枢神経移行性については,わずかなデータしかない.さらに,脳脊髄液中濃度は髄膜または脳での濃度を反映しないこともある.
  • 副作用:
  • 肝酵素の上昇,LZDの骨髄抑制による毒性,末梢神経障害,視神経障害.
  • QTc延長が起こることがあるため頻回のモニターが必要である.重大な心室性不整脈や,繰り返して測定した心電図で500msを超えるQTcF(Fridricia補正式で補正したQT間隔)延長が出現した場合には併用処方を中断する.
  • ■LVFX,MFLX,ベダキリン,デラマニド,Pretomanid,CLFはQTc延長を引き起こすため,これらの薬剤を併用治療で使用する場合には注意が必要
  • ■ベダキリン治療では,治療開始時,2,12,24週に心電図をとってQTc間隔をモニターする.QTc延長をきたす他の薬剤(たとえばフルオロキノロン系薬,マクロライド系薬)と併用する場合には週1回心電図をとる.
  • ■カリウム,マグネシウム,カルシウムの血清中濃度をモニターする.
  • ■臨床的に重大な心室性不整脈が起こった場合,またはQTc間隔>500ms(繰り返し心電図で確認)となった場合は,ベダキリンまたは原因と疑われる他の薬剤を中止する.
  • CS投与患者にはすべて,CS 250mgに対してピリドキシン50mg/日,500mgに対して100mg/日,750mgに対して150mg/日を投与する.
  • MDRまたはXDR株による局所疾患では切除手術が適当な場合もある.
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2025/06/09