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日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版
結核-多剤耐性
(
2023/10/24 更新
)
MDR-TB,多剤耐性肺結核,XDR-TB,RFPにのみ耐性の結核
臨床状況
多剤耐性肺結核 (MDR-TB):
専門家のコンサルテーションが強く推奨される.
肺結核,肺外結核,結核性骨関節炎,結核性髄膜炎,播種型結核の治療処方.
MDR-TBはINHおよびRFPの両者に耐性の肺結核と定義される.
RFPにのみ耐性の株による結核
XDR-TB
CDCは,多剤耐性(MDR:すなわち,INHおよびRFPに耐性)で,かつ全フルオロキノロン系薬および少なくとも1つの第二選択注射薬(すなわち,AMK,KMまたはCapreomycin)に耐性な株による結核と定義している.
WHOは,INH,RFP,全フルオロキノロン系薬,ベダキリンまたはリネゾリドに耐性な
Mycobacterium tuberculosis
による結核と定義している.
薬剤耐性結核治療に関するWHOガイドライン
および
Curry Centerのサマリー
を参照
病原体
Mycobacterium tuberculosis
第一選択
4剤(
ベダキリン
+
Pretomanid
+
LZD
+
MFLX
),食事とともに,6カ月投与(コメント参照)
ベダキリン
400mg経口1日1回・2週,その後投与間隔を少なくとも48時間あけて200mg週3回・24週(
ベダキリン
200mg1日1回・8週,その後100mg1日1回・18週としてもよい)
Pretomanid
200mg経口1日1回・26週+
LZD
600mg経口1日1回・26週(600mg用量が好ましいが,
LZD
の毒性を軽減するために300mgに減量してもよい)+
MFLX
400mg経口1日1回・26週
フルオロキノロン系薬に不耐の患者,あるいはフルオロキノロン耐性株の場合には,3剤併用処方(ベダキリン+Pretomanid+LZD)
以下の場合9ヵ月(39週)投与に延長する:培養陰性化まで>8週を要する,培養陽性の持続,治療に対する臨床的反応,その他の背景的臨床因子から,治療に対する反応の遅延が明らかである場合,あるいは副作用のために修正が必要になる場合.
注意:以上の推奨は,ZeMix(
N Engl J Med 387: 810, 2022
)およびPRACECAL(
N Engl J Med 387: 2331, 2022
)試験に基づくものだが,これらの試験には妊婦または授乳中の女性,結核性髄膜炎(コメント参照),結核性骨関節炎,播種性結核,年齢13~14歳未満の小児,処方中の薬剤のいずかに対する明確な耐性,または直近(>2~4週)に処方中の薬剤のいずれかによる治療が行われた場合は含まれていない.
第二選択
WHO短期多剤処方(フルオロキノロン耐性は除く,妊婦や上記の処方に不耐な患者および小児で用いるための処方)
初期治療4~6ヵ月
ベダキリン
400mg経口1日1回・2週,その後200mg経口週3回・22週(24週を超える治療期間延長の安全性と有用性は未確立)+
(
LVFX
750~1000mg経口24時間ごと,または
MFLX
400mg経口24時間ごと)+
CLF
100mg1日1回+
PZA
20~30mg/kg/日:体重≦35kgなら1000mg経口24時間ごと,体重36~70kgなら1500mg経口24時間ごと,体重>70kgなら2000mg経口24時間ごと
EB
15~25mg/kg/日+
高用量
INH
10~15mg/kg/日+
ETH
15~20mg/kg/日1回または2回に分割(妊婦では禁忌,代わりに
LZD
を用いる)
5ヵ月の維持期ではLVFXまたはMFLX+CLF+PZA+EB
より忍容性が高く,より効果的な短期処方が用いられるようになってきたため,長期の多剤処方は好まれなくなったが,ここで記載しておくのは網羅性のためであり,またこれらの処方が十分な検証を受けていない患者での使用のためである.
ATS/CDC/ERS/IDSAガイドライン(
Am J Respir Crit Care Med 200: e93, 2019
)
多剤併用処方:分離株が感性である薬剤5剤以上を培養陰転後5~7カ月投与する強化期と,それに続き4剤を使用する維持期をあわせて,培養陰転後計15~21カ月の治療を行う(下記は成人用量)(ATX/CDC/ERS/IDSAガイドライン:
Am J Respir Crit Care Med 200: e93, 2019
).
フルオロキノロン系1剤
■
LVFX
750~1000mg経口24時間ごと,または
■
MFLX
400mg(他のフルオロキノロン系薬に低度耐性なら600~800mg)経口24時間ごと
+下記の2剤
■
ベダキリン
400mg経口1日1回・2週,その後200mg経口週3回・22週(24週を超えて治療期間を延長する安全性と有用性は未確立)
■
LZD
600mg1日1回
+下記の2剤
■
CLF
100mg1日1回
■
CS
250~750mg1日1回・血清濃度が20~35μg/mLに達するまで
上記の1剤以上が使用できず,5剤を用いた強化治療ができない場合,下記から選択する
■
AMK
(またはin vitroでの活性が確認されたら
SM
)15mg/kg,最大1g1日1回,または忍容性があれば25mg/kg週3回・計6~7カ月(忍容性の低さ,毒性から経口薬のほうが望ましく,これらは最後の手段)
■推奨順位が低い経口薬
・
EB
15~25mg/kg/日
・
デラマニド
100mg経口1日2回・24週
・
PZA
20~40mg/kg/日
■上記から有効な処方を構築できない場合の他の選択肢
・
IPM/CS
または
MEPM
1g静注1日3回,
AMPC/CVA
500mg/125mg経口1日2回と併用
・
ETH
またはProthionamide 15~20mg/kg/日1~2回に分割(妊婦では禁忌)
・
PAS
8~12g/日2~3回に分割
・
INH
高用量15mg/kg/日,分離株が低度耐性か,または高度耐性でない場合のみ
WHOガイドライン
:長期の多剤併用処方:下記から望ましくは5剤,少なくとも4剤を18~24カ月投与する(詳細は
WHO MDR治療ガイドライン
を参照)(下記は年齢>14歳に対する用量)
グループAの薬剤から3剤(コメント参照)
LVFX
750mg経口24時間ごと(体重≦45kg),1000mg経口24時間ごと(>45kg).または,
MFLX
400mg経口24時間ごと+
ベダキリン
400mg経口週3回・2週,その後200mg経口週3回・22週+
LZD
600mg1日1回
上記に加えて,以下グループBの薬剤から1剤または2剤
CLF
100mg1日1回
CS
10~15mg/kg/日:500mg経口24時間ごと(体重≦45kg),750mg経口24時間ごと(>45kg)
グループCの薬剤,グループAまたはBの薬剤が使用できない場合に,5剤処方を完成させるために追加
EB
15~25mg/kg/日:800mg経口24時間ごと(体重≦45kg),1200mg経口24時間ごと(>45kg)
デラマニド
100mg経口1日2回・24週
PZA
20~30mg/kg/日:1000mg経口24時間ごと(体重≦35kg),1500mg経口24時間ごと(36~70kg),2000mg経口24時間ごと(>70kg)
IPM/CS
または
MEPM
1g静注1日2回,
AMPC/CVA
500mg/125mg経口1日2回と併用
AMK
(または,in vitro活性が確認されていれば
SM
)15mg/kg,最大1g1日1回・12週,その後週3回を忍容性に応じて計6~7カ月+
ETH
またはProthionamide 500mg経口24時間ごと(体重≦45kg),750mg経口24時間ごと(46~70kg),1000mg(>70kg)(妊婦では禁忌)
PAS
8~12g/日2~3回に分割
コメント
専門家のコンサルテーションが推奨される
MDR/RR-TB髄膜炎/中枢神経疾患の治療は,感染株の薬剤感受性試験結果および薬剤の脳脊髄液移行性に基づくのが最善である.LVFXおよびMFLX,ETHあるいはProthionamide,CS,LZD,IPM/CSは血液脳関門を通過する.高用量INHおよびPZAも,脳脊髄液中濃度が治療レベルに達するので,感染株に感受性があれば用いてもよい.PAS,EB,AM,SMは血液脳関門を通過しない.CLF,ベダキリン,デラマニドの中枢神経移行性については,わずかなデータしかない.さらに,脳脊髄液中濃度は髄膜または脳での濃度を反映しないこともある.
副作用:
肝酵素の上昇,LZDの骨髄抑制による毒性,末梢神経障害,視神経障害.
QTc延長が起こることがあるため頻回のモニターが必要である.重大な心室性不整脈や,繰り返して測定した心電図で500msを超えるQTcF(Fridricia補正式で補正したQT間隔)延長が出現した場合には併用処方を中断する.
■LVFX,MFLX,ベダキリン,デラマニド,Pretomanid,CLFはQTc延長を引き起こすため,これらの薬剤を併用治療で使用する場合には注意が必要
■ベダキリン治療では,治療開始時,2,12,24週に心電図をとってQTc間隔をモニターする.QTc延長をきたす他の薬剤(たとえばフルオロキノロン系薬,マクロライド系薬)と併用する場合には週1回心電図をとる.
■カリウム,マグネシウム,カルシウムの血清中濃度をモニターする.
■臨床的に重大な心室性不整脈が起こった場合,またはQTc間隔>500ms(繰り返し心電図で確認)となった場合は,ベダキリンまたは原因と疑われる他の薬剤を中止する.
■CS投与患者にはすべて,CS 250mgに対してピリドキシン50mg/日,500mgに対して100mg/日,750mgに対して150mg/日を投与する.
■MDRまたはXDR株による局所疾患では切除手術が適当な場合もある.
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2023/10/23