日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

ショック-敗血症性,菌血症性,エンドトキシン  (2023/12/19 更新)


臨床状況

序論と定義
  • 敗血症:「感染症に対する制御不能な宿主反応による,生命の危険を伴った臓器不全」と定義される
  • 臓器不全はSOFA(Sequential Organ Failure Assessment[敗血症関連臓器不全評価])スコアの2点以上の上昇と定義される.
  • SOFAは,6つの臓器の評価に基づき臓器不全を測定する:肺,肝臓,心血管,血液,腎および神経.
  • quick SOFA:3つの基準(それぞれ1点)
  • 精神状態の変化
  • 呼吸数≧22/分
  • 収縮期血圧≦100mmHg
  • 合計2点または3点なら敗血症
  • 敗血症性ショック:循環および細胞/代謝異常を伴う敗血症であり,致命的となる可能性が高い
  • 敗血症性ショックの患者は,適切な輸液蘇生を行っても平均動脈圧≧65mmHgを維持するために血管収縮薬が必要であり,血清中乳酸濃度>2mmol/L(18mg/dL)を満たす患者である.
  • 敗血症および敗血症性ショックを起こす病原体とサイトカインストームを起こす非病原体
  • サイトカインストームの臨床像は敗血症性ショックに類似するが,侵入した病原体が検出できない:(非細菌性/非真菌性サイトカインストーム)
  • きっかけとなるものは多様であり,単独のこともあれば複数のこともある
  •   がんの免疫治療:CAR T細胞,チェックポイント阻害薬
  • 血球貪食性リンパ組織球症(HLH),COVID-19
病態生理学
  • すべての臓器の毛細血管床において炎症性サイトカインによる内皮細胞の障害が起こり,腎不全,ARDS,血圧低下,高ビリルビン血症,血小板減少症,精神状態の変化(SOFAスコアの構成要素)が引き起こされる.
  • 評価と治療は病態生理学に基づく.治療の主な4つの目標
  • 毛細管からの漏出に対する輸液蘇生
  • 活性のある抗菌薬治療の早急な開始
  • 敗血症の感染源を特定するための徹底的な診断:感染巣のコントロールが必要
  • 末梢血管の虚脱と末梢循環抵抗の低下に対する昇圧薬
  • 病態生理学に基づき,“バンドル"による管理が有用.Surviving Sepsis Campaignのガイドラインを参照:Crit Care Med 49: 1974, 2021
初期治療/管理バンドル.Surviving Sepsisガイドライン参照:Crit Care Med 49: e1063, 2021(全文);Crit Care Med 49: 1974, 2021(要旨)
  • 血液培養および他の関連する培養
  • 最初の3時間以内に晶質液30mL/kgの投与(下記コメント参照)
  • 経験的な抗菌薬処方を開始
  • 治療前の乳酸濃度の測定
  • 感染源を同定するための継続的な診断措置を開始
  • 平均動脈圧>65mmHgを達成するために,ただちに昇圧薬を開始
  • 管理バンドルについての文献

病原体

  • 好気性および/または嫌気性グラム陰性菌
  • 房状または連鎖状グラム陽性球菌
  • 抗酸菌(たとえばM. tuberculosis
  • ウイルス(たとえばエボラウイルス,SARS-CoV-2)
  • 真菌(たとえばCandida属)

第一選択

初期治療としては,“敗血症バンドル"としてパッケージ化されている治療を,理想的には敗血症および敗血症性ショック発症後1時間以内に行う
  • 血清乳酸濃度を測定する
  • 抗菌薬投与前/投与下の血液およびその他の関連培養検体を採取.S.aureusのPCR検査 (NAAT) のため,鼻スワブ検体を採取.
  • 広域スペクトラム薬による経験的治療
  • 処方は以下の条件により異なる:
  • 臨床状況(たとえば院内か市中か)
  • 疑われる感染巣(たとえば肺炎,尿路,皮膚・軟部組織,腹腔内感染,中枢神経系,感染巣不明),
  • 患者がもつ因子(たとえば免疫抑制治療,免疫不全状態,好中球減少)
  • 最近の抗菌薬治療歴
  • 施設での多剤耐性グラム陰性桿菌(MDR GNB)の検出率
  • 可能性のある主な病原菌に対して推奨される経験的治療:臨床症状に対する経験的治療については,敗血症-成人(好中球減少症がない場合)を参照.
  • MRSAが疑われる場合
  • VCM 25mg/kg初回,その後15~20mg/kg静注8~12時間ごと(目標AUC24 400~600μg・h/mL達成が望ましいが[AUC-用量設定の原理と計算参照],そうでなければトラフ値15~20μg/mLを目指す)
  • 基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生グラム陰性桿菌(GNB)が疑われる場合
  • カルバペネム系薬:Ertapenem 1g静注24時間ごと(注:ErtapenemP. aeruginosaに対して非活性),またはMEPM 2g静注8時間ごと,またはIPM/CS 500mg6時間ごと,または
  • カルバペネマーゼ産生GNB(たとえばKlebsiella産生カルバペネマーゼ)のリスクが高い場合
  • Plazomicin 15mg/kg静注24時間ごと,または
  • P. aeruginosaが疑われる場合
  • CAZ 2g静注8時間ごと,または
  • MEPM 2g静注8時間ごと,または
  • PIPC/TAZ 4.5gを30分以上かけて静注,その4時間後,4.5g4時間以上かけて静注を開始し,8時間ごとに繰り返す
  • ErtapenemはP. aeruginosaに対して非活性であることに注意
  • 好気性菌-嫌気性菌混合感染
  • CTRX 2g静注24時間ごと+MNZ 500mg静注8時間ごと,または
  • Ertapenem 1g静注24時間ごと,またはMEPM 2g静注8時間ごと
  • 晶質液:30mL/kg2時間以上かけて急速静注.晶質液の構成が問題になるか?コメント参照
最初の6時間以内の後続治療
  • 血清乳酸値は組織灌流変化の目安となるため,初期値が>2mmol/Lの場合は繰り返し測定する.
  • 輸液蘇生後も低血圧ならば,ノルエピネフリンを投与して平均動脈圧(MAP)≧65mmHgを維持する.
  • 中心静脈酸素飽和度により組織灌流と循環血液量を再評価してもよい.
24時間以内
  • 目標:感染巣のコントロールを確実に行うこと
  • 補助的コルチコステロイド
  • 輸液蘇生に反応せず,収縮期血圧≧90mmHgまたはMAP≧65mmHgの維持に連続的な血管収縮薬が必要な敗血症性ショックでは,ヒドロコルチゾン50mg静注6時間ごと+フルドロコルチゾン50μg1日1回・NGチューブを介して投与を考慮する(N Engl J Med 378: 797, 2018N Engl J Med 378: 809, 2018N Engl J Med 378: 860, 2018[論説]).
  • 血糖コントロールのためのインスリン:目標値140~180mg/dL

第二選択

  • 初期の抗菌薬併用療法
  • MDR GNB高リスク/検出率が高い場合には,処方中の少なくとも1剤は活性という希望のもとで経験的に併用療法を行っても良い.
  • 病原菌が特定された場合,好中球減少のある敗血症性ショックおよび/またはP. aeruginosaによる菌血症患者に関しては,ほとんどのデータが経験的に併用療法を支持している.
  • この推奨を支持するデータの多くは弱く,質が低い.

抗微生物薬適正使用

  • 病原体が同定され,感受性試験の結果が明らかになったら,de-escalationし狭域スペクトラム薬に切り替える.
  • 治療期間:敗血症および敗血症性ショックを伴う感染症のほとんどは,7~10日の抗菌薬治療で十分である.
  • 合併症のないグラム陰性菌血症患者(ほとんどは腎盂腎炎)では,7日治療は14日治療に非劣性:Clin Infect Dis 69: 1091, 2019
  • 継続的にプロカルシトニンを測定することにより,症例に応じて抗菌薬治療期間を決定できる
  • 感染が確認されず,患者が臨床的に安定し改善した場合には,3~5日以内で抗菌薬治療を中止する.

コメント

  • ビタミンC:
  • 敗血症および敗血症性ショック患者の病前・病後に関するレトロスペクティブ研究では,“標準的治療"を受けた患者での死亡率は40.4%だった一方,高用量ビタミンC,チラミン,ヒドロコルチゾンを併用した患者では8.5%に低下することが示された(Chest 151: 1229, 2017).
  • これに続くランダム化オープンラベル研究では,生存期間,昇圧薬中止までの時間,90日死亡率に差はみられなかった(JAMA 323: 423, 2020).
  • 他のランダム化盲検・多施設プラセボ対照試験では,組入れ後の最初の72時間でのSOFAスコアに低下はみられなかった(JAMA 324: 642, 2020).
  • 晶質液の構成
  • 平衡塩類溶液(乳酸リンゲル液またはPlasma-lyte)と生食を比較した試験結果では平衡塩類溶液の方が優れていた(N Engl J Med 378: 829, 2018N Engl J Med 378: 862, 2018).最近のランダム化試験では,生食と平衡塩類溶液(Plasma-lyte 148)で90日死亡率に差はみられなかった:JAMA 326: 818, 2021
  • 経験的な抗Candida治療は,Candida属の定着があり,かつ好中球減少を伴わない敗血症のICU患者の生存率を改善しなかった(JAMA 316: 1549, 2016JAMA 316: 1555, 2016).
  • 文献
  • 敗血症および敗血症性ショックの診断と管理に関する日本のガイドラインの英訳版: J Intensive Care 9: 53, 2021.
  • Medicare/Medicaid SEP-1 quality control standardへの修正案に関する現行の議論
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2023/12/18