日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Streptococcus による咽頭炎  (2024/07/16 更新)


臨床状況

  • 小児または成人で,急性咽頭炎の所見/症状がある.
  • Streptococcus pyogenes(A群)による咽頭炎とウイルス性咽頭炎を臨床的に区別することはできない.
  • 鼻漏,口腔潰瘍,咳および/または嗄声の合併があればウイルス性咽頭炎である可能性が大きく,Streptococcus咽頭炎の検査や治療は適応とならない.
  • 治療の必要性の決定には特異的診断が必要となる.
  • 治療によってわずかながら臨床症状を短縮させ,化膿性の続発症のリスクおよび他者への感染リスクを低下させ,Streptococcus感染後急性リウマチ熱(発展途上国ではいまだに問題)を予防できる.
  • 治療によって,Streptococcus感染後の糸球体腎炎リスクが低下することはない.コメント参照.
  • 重要な注:患者の臨床症状とS. pyogenes検出との一貫性に留意すること.患者が咽頭炎,鼻炎,喉頭炎を呈している場合,病因はウイルスであり,検出されたS. pyogenesは定着によるものである.

病原体/診断

病原体
診断
  • 迅速抗原検出検査(RADT)を開始する.
  • RADTは,かなりの数の患者で感染の検出に失敗する.したがって,RADTが陰性で咽頭痛のみの場合には,確認のための検査が適応となる.
  • 咽頭培養が現在の標準であるが,POC(point of care) PCR検査がFDAにより承認された(Cobas社,Alere社).

第一選択

  • Penicillin VK(第一選択).有効性が高く,抗菌活性スペクトラムが狭く,薬剤性発疹のリスクは低い.可能なら食事の30分前に服用.
  • 成人:500mg経口1日2回・10日
  • 小児(体重別)
  • 体重≦27kg:250mg経口1日2回または3回・10日
  • 体重>27kg:500mg経口1日2回・10日
  • 治療期間の追加に関する議論については,抗微生物薬適正使用を参照
  • 成人:500mg経口1日2回・10日
  • 小児:50mg/kg(最大1000mg)経口24時間ごと・10日,または25mg/kg(最大500mg)経口1日2回・10日
  • AMPC懸濁液のほうがPenicillin VK懸濁液より服用しやすいことがある.
  • 経口治療中,患者のコンプライアンスの懸念のため1回投与が望ましい場合は,PCG(ベンジルペニシリンベンザチン)を用いてもよい
  • 体重≧27kg:120万単位筋注†1回
  • 体重<27kg:60万単位筋注†1回

(†:日本にない剤形)

第二選択

ペニシリンアレルギーによる皮疹が発現した(ただしIgE関連の反応の既往やエビデンスがない)場合
  • CEX(ペニシリンに対するアナフィラキシーの既往がある場合は避ける)
  • 成人:500mg経口1日2回・10日
  • 小児:25mg/kg/回(最大500mg)経口1日2回・10日
  • FDAはCFDNCPDX-PRの5日治療を承認しているが,その他の薬剤は10日治療.
  • 成人:CFDN 300mg経口1日2回・5日,またはCPDX-PR 100mg経口1日2回・5日
  • 小児:CFDN 7mg/kg12時間ごと・5日,またはCPDX-PR 10mg/kg経口1日4回に分割・5日
  • 成人:300mg経口1日3回・10日
  • 体重≦70kgの小児:1回7mg/kg(最大300mg)経口1日3回・10日
  • 注:A群S. pyogenesのin vitro耐性が増加している
  • 2023年のCDC ABCの発表では34%
  • 咽頭炎治療での臨床的失敗の報告はない.
βラクタム薬に対するIgE関連の重症アレルギー反応の可能性がある場合の第二選択
  • CAM(耐性あり:耐性率は地域および期間によって異なる)
  • 成人:250mg経口1日2回・10日
  • 小児:7.5mg/kg経口1日2回・10日
  • AZM(耐性あり:耐性率は地域および期間によって異なる)
  • 成人:初日500mg経口,その後250mg経口1日1回・4日

抗微生物薬適正使用

  • 耐性あるいは臨床的失敗の可能性があるため,フルオロキノロン系薬,スルホンアミド,テトラサイクリンは用いないこと.CFDNおよびCPDXは他の第二選択と比べて活性スペクトラムが過度に広い.
  • 治療期間(小児):6歳以上の小児を対象とした,A群Streptococcusによる咽頭扁桃炎に関するプロスペクティブランダム化試験において,Penicillin VK 800mg経口1日4回・5日と1000mg経口1日3回・10日が比較され,臨床的および微生物学的奏効は同等であった.したがって,5日処方の方が10日処方より好ましいと考えられる(BMJ 367: 15337, 2019).

コメント

  • 抗菌薬の他の選択肢
  • 他のセファロスポリン経薬(ペニシリン系薬に対するアナフィラキシーの既往がある場合は避ける)は,5日以上の投与で安全かつ有効(Diagnostic Midrobiol Infect Dis 59: 127, 2007
  • CLDM:S. pyogenes(A群)のin vitro耐性増加については上記参照
  • 診断のポイントは S. pyogenes (A群)の存在を同定することにある.
  • 咽頭スワブを用いる迅速抗原検出検査(RADT)は特異度95%,感度70~90%.
  • RADTが陰性なら,咽頭培養またはponit of care PCRによるバックアップを行う.
  • 3歳未満の小児ではStreptococcusによる咽頭炎および急性リウマチ熱はまれであるため,RADTの必要はない.
  • 治療終了時のRADTや培養は不要.無症状の家庭内接触者もRADT,培養は不要.
  • 培養によりStreptococcus C群またはG群,S. pyogenesが同定されることがある.
  • 急性咽頭炎の原因菌としてはC群が多く,食物から感染することもあり,また明確な流行の記録もある.
  • 急性咽頭炎の病原菌としてのG群の役割は不明.
  • C,Gどちらの群も抗菌薬治療の明らかな有用性はなく,感染後の免疫的な後遺症(たとえば,急性リウマチ熱,糸球体腎炎)の危険はない.
  • 以下の抗菌薬は推奨されない
  • テトラサイクリン系:S. pyogenes 高度耐性株のため
  • フルオロキノロン系:不必要にスペクトラムが広く,小児で軟骨障害リスクがあるため
  • Fusobacterium necrophorum
  • 化膿性(敗血症性)静脈炎(Lemierre症候群)を引き起こすことがある.咽頭粘膜の炎症によりリスクが増大する.
  • 急性咽頭炎の主要な病原体の1つと考えられるが,さらなるデータが必要.
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2024/07/16