日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

肺炎-市中感染,成人,入院患者  (2024/09/10 更新)


臨床状況

  • 成人の市中肺炎(CAP)入院患者に対する経験的治療
  • 入院が必要とされる重症度または合併症がある場合.
  • 特に重症CABP(市中感染細菌性肺炎)および挿管されているCAP患者では,喀痰および血液培養を行う必要がある.

病原体/診断

病原体
  • 病原体は多くの例で検出されず,また細菌よりウイルスが原因であるほうが多い(N Engl J Med 373: 415, 2015).
  • 合併症なし
  • S. pneumoniae
  • 非定型病原体:Legionella属,Chlamydophila pneumoniaeChlamydophila psittaciM. pneumoniaeC. burnetii(Q熱)
  • ウイルス
  • 合併症あり
  • アルコール依存症:S. pneumoniae,嫌気性菌,Coliforms
  • COPD:H. influenzaeM. catarrhalisS. pneumoniaeLegionella
  • 静注薬使用者:S. aureus
  • 脳血管障害後の誤嚥性肺炎:口腔常在菌,S. pneumoniae
  • 気管支閉塞後:S. pneumoniae,嫌気性菌
診断
  • 患者の状況
  • ICUでない場合
  • 可能なら,抗菌薬を開始する前に,培養および感受性検査のための喀痰を採取する
  • S. pneumoniae抗原検出のため尿検査を依頼する
  • Legionella pneumophilaの喀痰PCRまたは尿中抗原
  • 呼吸器ウイルス(COVID-19,インフルエンザ,RSV,その他)検出のための鼻咽頭スワブのPCR
  • 可能なら血清プロカルシトニン;陰性なら,4~6時間後に繰り返す(turn around time[検査室に検体が到着してから結果報告までの時間]を1~2時間と仮定)
  • PCT<0.25ng/mLなら,細菌感染についての陰性適中率>95%
  • 血液培養2セット
  • ICU
  • 呼吸器ウイルス(COVID-19,インフルエンザ,RSV,あるいはその他のウイルス)検出のための鼻咽頭スワブPCR
  • 挿管された患者:呼吸器検体(気道吸引物または気管支肺胞洗浄液[BAL])を培養のために採取
  • 挿管されていない患者
  • 培養のために喀痰採取を試みるが,採取できない場合:非ICU患者についての上記の一連の処置を行う
  • 挿管されている患者,挿管されていない患者の双方について
  • MRSAのための鼻腔スワブまたはPCR(陰性適中率は76~99%と高く,MRSA感染を除去できるが,一般に陽性適中率は12%と低い[Ann Pharmacother 53: 627, 2019])
  • 可能性のある病原体を検出するための分子的方法は,経験的治療を減らし,多くの患者で対象を絞った抗菌薬治療を可能とし,治療の安全性と有効性の向上につながるはずである.
  • 上に示した診断は,個々の臨床状況によっては適用できない,あるいは好ましくない,利用できないことがある.
  • 検出された病原体は,定着していたものか侵入してきたものかのどちらかであることを忘れない.

第一選択

  • CTRX 1~2g静注24時間ごと,またはCeftaroline 600mg静注12時間ごと)+AZM 500mg静注24時間ごと,または
  • LVFX 750mg静注または経口24時間ごと(重症CAPに対する単剤治療としては推奨されない)
  • 重症CAP
  • 補助的コルチコステロイド使用は重症CAPに限られる.重症CAPの定義および用量については下記コメント参照.
  • 観察研究のデータは,S. pneumoniaeによる菌血症に対するβラクタム薬+AZM併用処方には生存率上昇の効果があることを示唆している(Clin Infect Dis 75: 2219, 2022).
  • MRSAあるいはPseudomonasに対する経験的カバーが適応になる場合については,下記抗微生物薬適正使用を参照
  • 治療期間については,下記の抗微生物薬適正使用参照

第二選択

  • CTRX 1~2g静注24時間ごと,またはCeftaroline 600mg静注12時間ごと)+DOXY 100mg静注†/経口12時間ごと
  • LVFXに替えて,MFLX 400mg静注†/経口24時間ごと,またはGFLX 400mg静注†/経口†(米国外)400mg24時間ごとが使用できる
  • ABPC/SBT 3g静注6時間ごと+(AZM 500mg静注24時間ごと,またはDOXY 経口/静注†12時間ごと)
  • 治療期間については,下記の「抗微生物薬適正使用」を参照

(†:日本にない剤形)

抗微生物薬適正使用

  • MRSAまたはP. aeruginosaのカバーは,次のようなリスク因子がない場合にはルーチンには適応とならない:以前にこれらが分離されたことがある,直近90日以内に入院および注射抗菌薬の使用があった,MRSAについては注射薬物使用者の肺炎/インフルエンザ関連肺炎.これらの細菌に経験的なカバーを行う場合には,培養および鼻腔検体のPCRを行い,培養陰性の場合de-escalation,培養陽性の場合継続治療の必要性を確認する.
  • MRSAに対して,喀痰グラム染色および培養の結果が得られるまで
  • MRSAに対しては,VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごとを追加(目標AUC24 400~600μg・h/mL達成が望ましいが[AUC-用量設定の原理と計算を参照],そうでなければトラフ値15~20μg/mLをめざす),または
  • LZD 600mg経口/静注を追加
  • 喀痰グラム染色および培養の結果が得られるまで,P. aeruginosaに対しては,CTRXまたはCeftarolineをPIPC/TAZ 4.5g6時間ごと静注,またはMEPM 1g静注8時間ごと,またはCFPM 2g静注8時間ごと,またはCAZ 2g静注8時間ごとに替える.
  • 治療期間
  • 短期治療
  • 初回投与の厳密な時間的制限はない
  • 肺炎および重症敗血症患者に対する6時間以内の抗菌薬投与により,生存率が改善した(Eur Respir J 39: 156, 2012).
  • 救急患者では,救急救命室で初回投与を行う.
  • 無熱が48時間以上続き,以下のうちの1つまでしか認められない患者では,5日後に抗菌薬を中止しても安全(JAMA Intern Med 176: 1257, 2016).
  • 収縮期血圧<90mmHg
  • 心拍数>100/分
  • 呼吸数>24/分
  • 動脈血酸素飽和度<90%または室温PaO2<60mmHg
  • 市中肺炎の入院患者について,フルオロキノロン経口による治療アウトカムは静注と同等であった(Clin Infect Dis 63: 1, 2016).

コメント

  • 重症CAPに対するヒドロコルチゾン:下記2023年多施設臨床試験メタアナリシスでは,重症CAPに対するヒドロコルチゾン早期開始(24時間以内)が好ましい結果であった.
  • 質の高い二重盲検プラセボ対照無作為化臨床試験 (N Engl J Med 388: 1931, 2023) では,重症のCAPでICUに入室した患者において,ヒドロコルチゾン補助静注治療を受けた患者はプラセボと比較して死亡率が低いことが示された(絶対差-5.6,95%CI -9.6~-1.7, P=0.006).ベースラインで人工呼吸器を受けていない患者の挿管率,およびベースラインで昇圧剤治療を受けていない患者の昇圧剤の開始率も,ヒドロコルチゾン群の方が低かった.両群の有害事象の発生率は同程度であったが,インスリンの使用はヒドロコルチゾン群の方が多かった.
  • 重症CAPは,以下のうち少なくともひとつがある場合と定義される:
  • 人工呼吸器(侵襲的または非侵襲的)が開始され,呼気終末陽圧(PEEP)レベルがすくなくとも5cmH2O.
  • 高流量鼻カニュラによる酸素供給が開始され,動脈血酸素分圧/吸入気酸素濃度(P/F比)が300未満で,FiO2が50%以上.
  • 推定P/F比が,非再呼吸マスクを付けている患者で300未満.
  • Pneumonia Severity Index>130で,最も死亡率が高いV群に該当する.
  • ヒドロコルチゾン持続静注,次のうちのどちらか:
  • 8日間処方:200mg/日を4日間,その後5~6日目は100mg,7~8日目は50mg,と漸減する.
  • 14日間処方:200mg/日を7日間,その後8~11日目は100mg,12~14日目は50mg,と漸減する.
  • 4日目で以下の条件がすべて満たされれば,8日間処方に短縮できる:(1)自発呼吸でき,P/F比>200になる.(2)4日目のSOFA(sequential organ failure assessment)スコアが1日目のSOFAスコア以下である.(3)予測されるICU入院期間≦14日.
  • ICU退室できれば,いずれの場合でも治療は中断する.
  • これらの結果は,CAPに対するコルチコステロイドに関するRCT 15件のメタ解析で報告された結果と一致している(Clin Infect Dis 77: 1704, 2023):重篤な肺炎患者,ICUに直接入院した患者では延命効果があるが,重篤な肺炎を患っていない患者で,最初に一般内科病棟に入院した患者では延命効果がみられなかった.重度の肺炎の定義は研究ごとに異なり,使用されたコルチコステロイドの種類と用量も異なっていた.高用量 (プレドニゾロン換算で累積400mg) および低用量 (プレドニゾロン換算で累積<400mg) 処方のどちらでも生存率上昇が認められた.
  • 挿管されているCAP患者および重症CAP患者では,血液と喀痰の培養が推奨される.
  • 中等または重症の市中肺炎の入院患者において,βラクタム/マクロライド併用はβラクタム系単独投与(したがって,フルオロキノロン単独投与の患者は含まれていない)に比べアウトカムを改善したが,軽症患者では改善はみられなかった(Thorax 68: 493, 2013).
  • Lefamulin,Omadacycline,Delafloxacinは最近FDAによりCAPに対して承認されたが,これらの薬価の高い薬が他の薬剤以上の有用性があるかは不明.
  • 中等症の市中肺炎患者で,CTRX 2g静注24時間ごととCeftaroline 600mg静注12時間ごとを比較したランダム化二重盲検試験では,治癒判定時においてCeftarolineのほうが優れていた:MSSAの患者であり,MRSAは含まれていない(Lancet Infect Dis 15: 161, 2015).
  • 核酸増幅検査(NAAT)で呼吸器ウイルスが検出される市中肺炎患者は30%にものぼっており,これはウイルス性の市中肺炎が従来報告されていたより高率で存在することを示唆している(BMC Infect Dis 15: 89, 2015).ウイルス・細菌同時感染が20%でみられたとの研究もある(BMC Infect Dis 15: 64, 2015).
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2024/09/09