日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

Mycobacterium abscessus complex  (2024/06/25 更新)
非結核性抗酸菌,M. abscessus


臨床状況

  • 迅速発育菌で,3つの亜種を含む.
  • M. abscessusは,皮膚および軟部組織,肺,播種性の感染を引き起こす.
  • 嚢胞性線維症または慢性肺疾患患者において,肺感染症の原因微生物として重要となりつつある.

病原体

  • Mycobacterium abscessus complex(3つの近縁の亜種):
  • M. abscessus subspecies abscessus:通常マクロライド耐性[誘導型エリスロマイシンメチラーゼ耐性遺伝子:erm(41)をもつ]
  • M. abscessus subspecies bolletii:通常マクロライド耐性[誘導型erm(41)をもつ]
  • M. abscessus subspecies massiliense:通常マクロライド感性[機能的erm(41)をもたない]

第一選択

肺および播種性疾患(抗微生物薬適正使用を参照)
  誘導型および構成型/変異型マクロライド耐性なし.in vitroまたは分子的検査でマクロライド感受性を確認(コメント参照)
  • 急性期:感染の重症度,臨床的反応,忍容性,毒性に基づき1~3カ月治療.理想的には喀痰培養の陰性化を目標とする.この時期の長さははっきりと決まっておらず,良好な臨床的かつ微生物学的反応が得られるまで治療する.
  • 注射薬1~2剤+経口薬2剤,少なくとも合計3剤が推奨される
  • 注射薬(AMK感受性分離株に対する好ましい順序)
  • AMK 10~15mg/kg静注1日1回(30分注入後30分で採取した検体で血清ピーク濃度35~45μg/mL,トラフ濃度<5μg/mLを得るために用量調整),または15~25mg/kg静注週3回(30分注入後30分で採取した検体で,血清ピーク濃度65~80μg/mL,トラフ濃度<5μg/mLが得られるよう用量調整)
  • IPM/CS 1000mg静注8~12時間ごと,またはCefoxitin 8~12g/日静注2~3回に分割
  • TGC 100mg初回投与,その後50mg12時間ごと静注
  • 経口薬(好ましい順序)
  • AZM 250~500mg1日1回または500mg週3回
  • CLF 100~200mg1日1回(米国では入手困難)
  • LZD 600mg1日1回,またはTZD 200mg1日1回
  • 維持期:至適治療期間は決まっていないが,喀痰培養が陰性化してから12カ月が合理的
  • 経口または吸入薬を2剤選択する
  • 吸入薬の選択肢:AMKリポソーム吸入懸濁液†590mg1日1回,投与にはLamira Nebulizer Systemのみを用いる
  誘導型または構成型/変異型マクロライド耐性がある場合.in vitroまたは分子的検査でマクロライド感受性を確認(コメント参照)
  • 急性期:感染の重症度,臨床的反応,忍容性,毒性に基づき1~3カ月治療.理想的には喀痰培養の陰性化を目標とする.この時期の長さははっきりと決まっておらず,良好な臨床的かつ微生物学的反応が得られるまで治療する.
  • 注射薬1~2剤+経口または吸入薬2~3剤,少なくとも4剤が推奨される
  • 注射薬(AMK感受性分離株に対する望ましい順序)
  • 経口薬(望ましい順序)
  • 免疫修飾作用を期待してAZM同上,ただし活性のある経口薬とはみなされない
  • 維持期:至適治療期間は決まっていないが,喀痰培養が陰性化してから12カ月が合理的
  • 経口または吸入薬を2~3剤選択する
  • 吸入薬の選択肢:AMKリポソーム吸入懸濁液†590mg1日1回,投与にはLamira Nebulizer Systemのみを用いる
  • 免疫修飾作用を期待してAZM同上,ただし活性のある経口薬とはみなされない
皮膚感染:
  • 至適処方は確立されていない.
  • 外科的デブリドマン+上記にリストされた薬剤の中から活性のある薬剤を少なくとも2剤
  • AZMは,分離株がマクロライド耐性(誘導型または構成型/変異型:コメント参照)でなければ好ましい薬剤だが,耐性がある場合には他の薬剤2剤を選択する.
  • 至適治療期間は決まっていないが,ほとんどの症例では4~6カ月で十分である,ただしより深いまたは広範な感染ではさらに長期の治療が必要になることがある.

(†:日本にない剤形)

第二選択

  • AZMが好ましいが,それに代えてCAM 500mg経口1日2回を用いてもよい
  • 活性を示す可能性があるその他の経口薬として,DOXYMINOMFLXがあるが,これらの薬剤に関する臨床経験は限られている.
  • M. abcessus subspecies massiliense
  • マクロライド耐性遺伝子が機能しないために誘導耐性はみられない.
  • リポソーム製剤が使用できない場合は,AMK吸入†が選択肢となる.硫酸AMK 250mg/mLを3mLの生食で希釈し,ジェットネブライザーで1日1回または2回吸入.

(†:日本にない剤形)

抗微生物薬適正使用

  • M. abscessus肺感染症の治療と管理,とりわけ難治性疾患やサルベージ治療の場合には専門医にコンサルテーションし,抗菌薬処方をデザインおよび治療期間を決定することが強く推奨される.

コメント

  • マクロライドに対する耐性は,23SリボゾーマルRNAをコードするrrl変異による構成型耐性か,erm(41)でコードされる機能的リボゾーマルメチラーゼによる誘導型耐性である.構成型耐性は変異型耐性とも呼ばれ,マクロライド(CAM)存在下の3~5日培養後の増殖により,in vitroでの表現型として検出されるか,耐性変異として分子的に検出される.誘導型耐性は,14日培養後の増殖によりin vitroでの表現型として検出されるか,機能的な遺伝子配列の分子的な検出による.
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2024 Life Science Publishing↑ page top
2024/06/25