チゲサイクリン (2025/08/12 更新)
TGC 主な商品名:タイガシル
|
「サンフォード感染症治療ガイド」の中で推奨されている薬剤の適応および用量は,日本で認可されているものとは異なっている場合がありますので,薬剤選択を考慮する場合には,必ず日本での添付文書および最新安全性情報に基づいて行って下さい. →日本の添付文書情報検索サイト
|
Contents
1. 用法および用量
1. 使用
2. 成人用量
3. 小児用量
4. 腎障害時の用量調整
5. その他の用量調整
2. 副作用
3. 抗微生物スペクトラム
4. 薬理学
5. 酵素・トランスポーター媒介相互作用
6. 主要な薬物相互作用
1. 用法および用量
1. 使用
-
2005年にFDAが承認したチゲサイクリン(TGC)はミノサイクリンの誘導体である.
-
複数の排出ポンプによる排出にも抵抗性で,リボソーム保護メカニズムも迂回するため,Acinetobacter baumannii,カルバペネマーゼ産生E. coliのような多剤耐性菌にまで抗菌スペクトラムが拡大した.TGCはin vitroでMRSAにも活性があるが,他の薬剤の方が好ましい.
-
P. aeruginosa,Providencia,Proteus,Morganellaに対する有効な活性はない.
-
複雑性皮膚・軟部組織感染症(CSSSI),複雑性腹腔内感染症(cIAI),市中肺炎(CAP)の治療への使用が承認されている.耐性菌に対する使用はFDA未承認.
-
Black Box Warning:TGCを投与した患者は他の抗菌薬を投与した患者と比較して死亡リスクが高いことが,FDAの分析によって示された(2.5% vs 1.8%).FDAの推奨:他の治療が適切ではない場合に使用するため,TGCを温存しておくこと.
-
Black-Box Warning-2:TGCの一部の製剤はマルトースを含むため,そのような製剤を使用している患者では,マルトースに影響を受ける血糖検査は避ける.そうしないと低血糖を見逃したり,不適切なインスリン投与を行う結果となる.
-
院内肺炎を対象とした臨床試験において,TGCはIPM/CSに劣性であった.(Diagn Microbiol Infect Dis 68: 140, 2010)
-
治療失敗の原因の1つは,低い血清中濃度により不適切なAUC/MIC比となったためとされている:Antimicrob Agents Chemother 56: 1065, 2012.
-
院内肺炎患者においてTGC高用量処方とIPM/CSとを比較した報告(Antimicrob Agents Chemother 57: 1756, 2013).TGCの処方:[150mg初回投与後75mg12時間ごと]対[200mg初回投与後100mg12時間ごと].TGC高用量では低用量に比べ最適血清濃度が達成され効果が優れていたが,胃腸副作用の発現率が最も高かった.
-
メタアナリシス:TGCは比較薬よりも劣性であることが多く,副作用も多い(Lancet Infect Dis 11: 834, 2011).メタアナリシスでの懸念事項:治療された患者143例につき1例以上の死亡;単剤としての治療を受けた患者34例につき1回の治療失敗(Clin Infect Dis 54: 1699, 2012).編集部のコメント:Clin Infect Dis 54: 1710, 2012.
2. 成人用量
-
100mg静注(初回用量),その後50mg静注12時間ごと
-
30~60分以上かけて注入
-
推奨される治療期間:CSSSI,cIAI:5~14日;CAP:7~14日
3. 小児用量
用量(生後>28日)
|
避けるが,もしも必要な場合は: 年齢8~11歳:1.2mg/kg,12時間ごと 年齢12~17歳:50mg12時間ごと
|
最大/日
|
100mg
|
4. 腎障害時の用量調整
半減期(時間)(腎機能正常)
|
42
|
半減期(時間)(ESRD)
|
変化なし
|
用量(腎機能正常)
|
100mg,その後50mg静注12時間ごと
|
腎障害時の用量
|
用量調整不要
|
血液透析
|
用量調整不要
|
CAPD
|
用量調整不要
|
CRRT
|
用量調整不要
|
SLED
|
データなし
|
5. その他の用量調整
-
軽症肝障害(Child-Pugh分類A):用量調整不要
-
中等症肝障害(Child-Pugh分類B):用量調整不要
-
重症肝障害(Child-Pugh分類C):100mg静注,その後25mg静注12時間ごと
2. 副作用
副作用
-
全原因死亡率(用法用量を参照)
-
HAPでの死亡率不安定および低治癒率
-
アナフィラキシー反応の報告がある.テトラサイクリン類の薬剤への過敏性のある患者での使用は避けること
-
肝臓:総ビリルビン,INR,トランスアミナーゼ上昇
-
膵炎:通常可逆的.Int J Antimicrob Agents 34: 486, 2009参照
-
低フィブリノゲン血症:Antimicrob Agents Chemother 59: 1650, 2015参照
-
歯の形成期(妊娠の後半,乳児,8歳までの小児)で使用すると,永久的な歯の変色(黄色-灰色-茶色)を起こすことがある.テトラサイクリン系薬の長期使用ではより多くみられるが,短期使用を繰り返した後にもみられるものである.エナメル質の低形成も報告されている
-
妊娠第2期,第3期,乳児,8歳までの小児での使用により,可逆的な骨成長阻害が起こることがある.
-
C. difficile関連下痢.
-
臨床的に明らかな腸穿孔によるcIAI患者でのTGC単剤使用は避けなければならない.
-
テトラサイクリン系薬と同様に,光線過敏症,固定薬疹,偽脳腫瘍,抗同化作用を起こすことがある.
妊娠時のリスク
-
FDAリスク区分(新):妊娠第2,3期では避ける.第1期:データなし1
-
授乳中の使用:乳汁中濃度は低く,乳児での薬物の吸収は乳汁中のCaによって阻害される.短期間の使用は安全だが(長期の使用,または繰り返しの使用は避ける),乳児では胃腸毒性をモニター2
-
出典:製薬会社の処方情報
-
出典:Drugs and Lactation Database (Lact Med)
3. 抗微生物スペクトラム
4. 薬理学
PK/PD指標
|
24時間AUC/MIC
|
剤形
|
注射剤
|
食事に関する推奨(経口薬)1
|
-
|
経口吸収率(%)
|
-
|
Tmax(時間)
|
-
|
最高血清濃度2(μg/mL)
|
0.63(50mg12時間ごと,SS)
|
最高尿中濃度(μg/mL)
|
データなし
|
蛋白結合(%)
|
71~89
|
分布容積3(Vd)
|
7~9 L/kg (Vss)
|
平均血清半減期4(T1/2, 時間)
|
42
|
排泄
|
胆汁,糞便
|
胆汁移行性5(%)
|
53,700(AUC0-24比に基づく)6
|
脳脊髄液/血液7(%)
|
6.7(AUC0-24比に基づく)8
|
治療が可能になるだけの脳脊髄液移行性9
|
可能性は低い
|
AUC10(μg・時間/mL)
|
4.7(50mg12時間ごと,0~24時間)
|
-
注記のない場合は成人用経口製剤
-
SD:単回投与後,SS:複数回投与後の定常状態
-
V/F:(Vd)÷(経口生物学的利用能),Vss:定常状態におけるVd,Vss/F:(定常状態におけるVd)÷(経口生物学的利用能)
-
CrCl>80 mL/分と想定
-
(胆汁中の最高濃度)÷(血清中の最高濃度)×100
-
J Antimicrob Chemother 58:1221, 2006
-
炎症時における脳脊髄液濃度
-
Scand J Infect Dis 46:69,2014
-
薬剤投与量と微生物の感受性に基づく判定.脳脊髄液濃度は理想ではMICの10倍以上必要
-
AUC:血中濃度-時間曲線下面積 area under the drug concentration-time curve.0~inf=AUC0-inf,0~x時間=AUC0-x
5. 酵素・トランスポーター媒介相互作用
薬剤が基質となるCYP450
|
-
|
薬剤が基質となるトランスポーター
|
PGP
|
薬剤が基質となるUGT
|
-
|
薬剤が阻害するCYP450
|
-
|
薬剤が阻害するトランスポーター
|
-
|
薬剤が阻害するUGT
|
-
|
薬剤が誘導するCYP450
|
-
|
薬剤が誘導するトランスポーター
|
-
|
薬剤が誘導するUGT
|
-
|
血清中薬物濃度への影響
|
予測されない
|
血清中薬物濃度への影響とは,当該抗微生物薬により影響を受ける併用薬の血清中濃度のことをいう.↑:上昇,↓:低下
6. 主要な薬物相互作用
薬剤
|
濃度への影響(その他の影響)
|
推奨される対応
|
シクロスポリン
|
シクロスポリン↑
|
モニター,用量調整
|
ジゴキシン
|
ジゴキシン↓(わずかに)
|
モニター
|
経口避妊薬
|
経口避妊薬の効果↓
|
他の避妊法を用いる
|
タクロリムス
|
タクロリムス↑
|
モニター,用量調整
|
ワルファリン
|
R-ワルファリン↑,S-ワルファリン↑
|
INRをモニター
|
ライフサイエンス出版株式会社 © 2011-2025 Life Science Publishing↑ page top