日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

中耳炎-急性-経験的治療  (2025/09/30 更新)
経験的治療,急性中耳炎,急性耳漏,反復性中耳炎,鼓膜切開術


臨床状況

経験的治療
  • 乳児,小児,成人での急性中耳炎(AOM)に対する初期の経験的治療.
  • 小児における急性中耳炎の診断は,中等度~重度の鼓膜の腫脹または耳漏の新たな出現に基づく.軽度の腫脹および直近(48時間以内)の耳痛(話せない小児では,耳を押さえる,引っ張る,こする)または鼓膜の著明な発赤で診断することもある.
  • 耳垢の除去によって鼓膜をより見やすくすることは,過少診断・過剰診断を避けるために重要である.
  • 鼓膜視診によって鼓膜の不動が明らかになれば滲出があることは確実だが,非感染性の滲出によるAOMを除外できるわけではない.それゆえ症状が重要な基準となるのである.
  • 写真参照

  • 重症の中耳炎(中等症~重症の耳痛>48時間,または発熱>39℃)と,軽症~中等症を鑑別すること(Pediatrics 131: e964, 2013).
  • 重症の場合は全年齢で治療を行う.
  • 軽症~中等症の生後<24カ月の小児では治療を行う.
  • 軽症~中等症の生後>24カ月の小児では,48時間の経過観察あるいは抗菌薬開始は妥当である.
  • 抗菌薬選択にあたっての感受性/耐性の検討については,抗微生物薬適正使用を参照.
  • 中耳腔換気用チューブを挿入した小児における急性の耳漏は別の疾患である.
  • 抗菌薬-グルココルチコイド点耳による局所治療が全身治療よりも優れていた(N Engl J Med 370: 723, 2014).
  • 局所治療の方が耐性菌を増加させることが少ない.
  • 3種類の合剤が市販されている.
反復性中耳炎
  • 通常,6カ月のうちに3回以上または1年間に4回以上の発症と定義される.
  • 鼓膜切開術と挿間的抗菌薬治療の有用性についての比較研究結果は一貫していない.
  • 最近の大規模RCT(N Engl J Med 384: 1789, 2021)では,鼓膜切開チューブと薬物治療との間で再発回数には差がみられなかったが,鼓膜切開群のほうが最初の再発までの時間が長く,有症期間が短いことが示された.

病原体

  • 多く検出される細菌
  • S. pneumoniae(肺炎球菌結合型ワクチンが使われるようになって検出率が低下している)
  • 多く検出されるウイルス
  • インフルエンザ
  • パラインフルエンザ
  • RSウイルス
  • ヒトメタニューモウイルス
  • アデノウイルス
  • エンテロウイルス/ライノウイルス

第一選択

小児急性中耳炎
  • 過去1カ月以内に抗菌薬を投与されておらず,結膜炎,再発性AOMの既往がない:
  • AMPC高用量 80~90mg/kg/日経口12時間または8時間ごとに分割(望ましい処方.コメント参照)
  • AMPC/CVA強力価経口懸濁液90/6.4mg/kg/日経口1日2回に分割.有効性に関してAMPCとの直接比較はないが,副作用発症率は高い
  • 代替セファロスポリン系処方はペニシリン非感受性S. pneumoniaeには有効性が低い(コメント参照)
  • 過去1カ月以内に抗菌薬投与あり,またはAMPCが奏効しない(奏効までに72時間を要する),または化膿性結膜炎あり,または再発性AOMの既往あり:
  • AMPC/CVA強力価経口懸濁液 90/6.4mg/kg/日経口1日2回に分割
  • CTRX 50mg/kg静注または筋注1日1回・3日
  • 生後6ヵ月~5歳の難治性または再発性AOM:他の選択肢が無効な場合はLVFX 20mg/kg/日12時間ごとに分割.鼓室穿刺術を行った上での治療を考慮する
  • 治療期間
成人急性中耳炎:
  • 過去1カ月以内に抗菌薬を投与されていない患者:
  • AMPC高用量 1000mg1日3回
  • 過去1カ月以内に抗菌薬投与があった患者:
  • LVFX 750mg24時間ごと・5日
  • MFLX 400mg24時間ごと
  • 治療期間:10日(これが一般的だが,LVFXおよびMFLXは5日であることに注意)
中耳腔換気用チューブ挿入のある急性耳漏(Med Lett Drugs Ther 58: 153, 2016):
  • S. aureusS. pneumoniaeH. influenzaeM. catarrhalisP. aeruginosaによる急性中耳炎で,中耳腔換気用チューブ挿入のある患者(年齢6カ月以上)に対し,Otovel(CPFX 0.3%+Fluocinolone acetonide 0.025%の点耳用溶液).0.25mL1回点耳用バイアルとして市販されており,推奨用量は患耳の耳道に1バイアルを1日2回点耳・7日.
  • Ciprodex(CPFX 0.3%/デキサメタゾン0.1%)患耳に4滴1日2回・7日.
  • OFLX 0.3%ジェネリックを患耳に5滴1日2回・10日.

第二選択

  • 下記の処方はすべて,第一選択と比較すると,MICに対する中耳の濃度の比が低い
  • CFDN 小児 14mg/kg12時間ごとに分割または24時間ごと:成人 300mg12時間ごと
  • CPDX-PR 小児 10mg/kg/日経口12時間ごとに分割または24時間ごと:成人 200mg経口1日2回
  • Cefprozil 小児 15mg/kg経口12時間ごと:成人 500mg経口1日2回
  • CXM-AX 小児 30mg/kg/日経口12時間ごとに分割:成人 500mg経口1日2回
  • 注:CXM懸濁液は米国では入手できないが,他の市場では入手可能なこともある.
  • CLDM 小児 30mg/kg/日経口8時間ごとに分割(H. influenzaeには効果なし)

抗微生物薬適正使用

  • 治療期間:上記の個々の処方を参照
  • 生後>24カ月の軽症~中等症のAOMに対しては,48時間経過観察か抗菌薬治療開始のいずれかが理にかなっている.
  • マクロライド系薬(AZM,CAM,EM)のH. influenzaeS. pneumoniaeに対する効果は限られており,βラクタム系薬での治療ができない患者のために温存しておく.
  • 薬剤耐性S. pneumoniae(DRSP):
  • 肺炎球菌ワクチン(PCV-13およびPCV-20)のため,DRSPはまれになった.
  • DRSPまたはH. influenzaeが原因菌の場合STは無効なことが多い(Pediatr Infect Dis J 20: 260, 2001).薬剤耐性S. pneumoniaeに対し,高用量AMPCは経口セファロスポリンよりも優れ,かつ安価.
  • 年齢<2歳,最近3カ月の抗菌薬投与,保育施設入所でDRSPのリスクが上昇.
  • 以下の点に基づいて薬剤選択を行うこと:
  • 中耳分泌液中の薬剤濃度.高用量AMPCでは高濃度が得られる.
  • DRSPを含むS. pneumoniaeへの有効性.
  • βラクタマーゼ産生のH. influenzaeおよびM. catarrhalisに対する有効性.
  • CCL,Loracarbef,Ceftibutenは,上にあげた薬剤に比べ耐性S. pneumoniaeに対する活性が劣るため,推奨されない.

コメント

  • 新しい肺炎球菌結合型ワクチンの時代に入ってMoraxellaおよび無莢膜型H. influenzaeが増加しているにもかかわらず,AMPCは無効率,再発率が低く,依然として第一選択治療薬である(J Pediatric Infect Dis Soc 13: 203, 2024).
  • M. catarrhalis(90%)
  • H. influenzae(50%)
  • S. pneumoniae(10%)
  • 全体では2~14日までに80%が軽快.
  • 呼吸器ウイルスは,急性中耳炎の素因となり,また実際に引き起こすが,臨床的には細菌性と区別はつかず,培養による確認はルーチンには行われていない.このことが,しばしば非重症急性中耳炎症状が抗菌薬治療なしに回復することがあり,経過を観察し症状が持続すれば緊急対応を行うことで十分である理由であろう.
  • 最新の肺炎球菌ワクチン接種を受けている小児では,ペニシリン耐性S. pneumoniaeはまれである.
  • βラクタム薬アレルギー:
  • 病歴が不明または皮疹の既往歴がある場合は,有効な経口セファロスポリン系薬を使用してもよい.アレルギー以外の原因を検討してみる.
  • IgEが関与するアレルギー(例えばアナフィラキシー)がある場合は,セファロスポリン系薬は避ける.
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2025/09/29