日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

梅毒-概説  (2024/04/23 更新)


概説

  • Treponema pallidum はスピロヘータ科細菌であり,臨床検査室では培養できない.
  • 4つの亜種があるが,血清学的にも(つまり血清学的に交差反応性),形態的にも区別できない.
  • Treponema pallidum pallidum は梅毒の原因菌である.世界中でみられる性感染症であり,先天性感染もある:Lancet 389: 1550, 2017
  • T. pallidum endemicum は非性病性(ベジェル)梅毒(風土性梅毒)の原因となる(地中海沿岸およびアフリカ).
  • T. pallidum carateum は熱帯白斑性皮膚病(ピンタ)の原因となる(中央アメリカおよび南米).
  • T. pallidum pertenue はフランベジア(イチゴ腫)の原因となる(南アメリカ,アフリカ,アジア,オセアニアの湿潤熱帯地域).
  • 原発性梅毒は,病巣から採取した検体の暗視野顕微鏡により診断する.後期梅毒には,血清検査を用いる.下記診断の項参照.
  • ほとんどの臨床現場では,診断スクリーニングは,非トレポネーマとトレポネーマの2つの血清検査が中心となる.偽陽性と偽陰性を最小限に抑えるためには,両検査が必要となる.
  • 男性同性愛者および/または高リスク性行動を行う個人に対しては,6~12カ月ごとにスクリーニングを行うことが推奨される(JAMA 328: 1243, 2022および論説JAMA 328, 1209, 2022).
  • DOXY 200mg経口1回・曝露後72時間以内.梅毒発症を73%低下させた.
  • 最新エビデンスとシステマティック・レビュー:男性同性愛者またはHIV陽性患者では,12カ月ごとよりも3カ月ごとのスクリーニングの方が梅毒検出率が高かった(JAMA 315: 2321, 2016).
  • 梅毒の血清学的診断について新しい "reverse sequence" パラダイム:最初にVDRL(RPR)検査ではなくトレポネーマ抗体検査を行う:Clin Infect Dis 58: 1116, 2014.
  • 【日本の情報】梅毒は第五類感染症(全数把握対象疾患)に定められており,診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることになっている.

診断

  • 病変部の滲出液や組織からT. pallidumを検出する暗視野検査や分子検査(NAAT)は,早期梅毒や先天性梅毒の確定診断となるが,ほとんどの臨床現場では利用できない.
  • 梅毒の推定診断には,検査室での2つの血清学的検査を用いる:非トレポネーマ検査(VDRL法またはRPR法),トレポネーマ検査.
  • トレポネーマ検査(TPPA法,各種EIAs,化学蛍光免疫測定法[CIA],イムノブロット法,または迅速トレポネーマ測定法)は,通常,生涯にわたって陽性である(ただし,15~20%は陰性になる).治療のフォローアップには使用できない.ときに偽陽性となることがある.
  • 非トレポネーマ検査の抗体価は,通常,治療により低下し(少なくとも1/4に低下)さらに時間の経過とともに低下するが,他の条件では陽性となることがある(高齢,他の感染症,自己免疫疾患による偽陽性).
  • 従来の方法:RPRまたはVDRLから開始し,陽性の場合は,トレプトネーマ試験で確認する.
  • 逆順(reverse sequence):トレポネーマEIAから開始し,陽性であればRPRを行う(N Engl J Med 382: 845, 2020).
  • 血清検査の結果が不一致の場合:特異的(確認用)トレポネーマ検査で検証する(最初の検査とは別の検査を用いる).TP-PA, MHA-TP(注:感度と特異度が低いため,FTA-ABSは推奨されない:Clin Infect Dis 68: 913, 2019).フローチャートを参照:N Engl J Med 382: 845, 2020.
  • TMA(Transcription Mediated Amplification)法をルーチンの診断検査に追加することによって,梅毒症例の発見率が7%増加する:Clin Infect Dis 77: 1717, 2023

関連項目

  • 眼の梅毒(虹彩炎,ぶどう膜炎,網膜炎,視神経炎)
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2024/04/22