日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

菌血症-S. aureus による  (2024/06/04 更新)
S. aureus 菌血症治療の一般原則


臨床状況

  • 血液培養でS. aureus陽性
  • 菌血症の原因として最も多いもの
  • 皮膚および軟部組織の感染症
  • 血管内カテーテル
  • 骨および関節の感染症
  • 肺炎
  • 心内膜炎
  • 1/4の症例で原発感染巣不明
  • 敗血症症候群および敗血症性ショックが多くみられ,致死率は10~20%
  • 推奨は静注治療についてのもの.
  • 経口ステップダウン治療の役割について明確には定義されていないが,現在では発展しつつある(Open Forum Infect Dis 7: ofaa151, 2020,および下記 抗微生物薬適正使用を参照)
  • 静注薬使用者(PWID)で標準的な静注治療を完了できない人に対する経口治療の可能な役割についての議論については,コメント参照.

病原体

  • MSSA
  • MRSA

第一選択

  • MSSA
  • NafcillinまたはOxacillin)2g静注4時間ごと(初期治療として望ましい)
  • CEZ 2g静注8時間ごと(コメント参照)
  • MRSA
  • VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと.目標AUC24 400~600μg・h/mL達成が望ましいが[AUC-用量設定の原理と計算を参照],そうでなければトラフ値15~20μg/mLを目標とする
  • DAP 8~12mg/kg静注24時間ごと(FDAの承認用量6mg/kg24時間ごとよりも高用量)
  • 治療期間については抗微生物薬適正使用を参照

第二選択

  • MSSA(βラクタム系薬で治療ができない患者)
  • VCM 15~20mg/kg静注8~12時間ごと.目標AUC24 400~600μg・h/mL達成が望ましいが[AUC-用量設定の原理と計算を参照],そうでなければトラフ値15~20μg/mLを目標とする.
  • DAP 8~12mg/kg静注24時間ごと
  • MRSA
  • Ceftobiprole(活性のある薬剤として)第1~8日目に500mgを2時間以上かけて静注6時間ごと,それ以降は8時間ごと(コメント参照)
  • 他の選択肢については,コメント参照
  • 治療失敗の場合の選択肢ついては,コメント参照

抗微生物薬適正使用

  • 感染症専門医へのコンサルテーションにより予後が改善する.
  • 単純性または低リスク菌血症,コンセンサスはないが,以下の基準は合理的
  • ■抗菌薬治療開始2~3日以内に血液培養で無菌(複雑性感染症の最強の予測因子)
  • ■感染巣が特定可能で除去できる
  • ■原発感染巣が迅速に除去できる
  • ■心エコー上も臨床上も心内膜炎の徴候なし
  • ■骨髄炎なし
  • ■血流感染に伴う二次性感染巣がない
  • ■心内膜炎のリスクとなる心臓弁膜異常の既往がない (例:人工弁,リウマチ性心疾患,大動脈二尖弁)
  • 注:市中感染菌血症は心内膜炎と高率に関連するため,院内感染菌血症よりも複雑性感染症の高リスクと関連する
  • 複雑性菌血症:上記すべてに該当しない場合
  • ■心内膜炎,難治または転移性感染巣を伴った菌血症の治療には4~6週が推奨される
  • ■骨髄炎の治療には最低6~8週必要
  • 経口ステップダウン治療
  • 単純性菌血症(皮膚・軟部組織感染の合併が約90%)に対して部分的経口治療(静注7日,経口7日:n=108)と静注14日治療(n=105)を比較したオープンラベル・ランダム化試験SABATO(Lancet Infect Dis 24: 523, 2024)では,経口切り替え治療はすべての静注治療に対して非劣性を示した.この試験について注意すべきなのは,対象患者の登録に時間がかかったため予定された登録数の50%に達したところで研究が終了してしまったこと,非劣性の境界が当初予定の5%から10%に拡大したこと,MRSAの症例が少ないこと(213例中16例)である.

コメント

  • MRSAに対し,ルーチンでのRFP併用(Lancet 391: 668, 2018)またはβラクタム薬/VCM併用治療は無効(ランダム化試験は,安全性の懸念および効果がみられないことから,データ安全性モニタリング委員会により中止された:JAMA 323: 527, 2020
  • MSSA治療選択肢
  • Nafcillin(またはその他の抗Staphylococcusペニシリン),または
  • CEZに対しinoculum effectを示すMSSA株(標準的な107CFU/mLでMIC≧16μg/mL)による菌血症では,CEZの加水分解がアウトカム不良と関連する可能性がある(Open Forum Infect Dis 5: ofy123, 2018).治療失敗について,CEZの加水分解が直接的な原因であるか,あるいは他の要因によるものであるか,本研究では断定できなかった.小児骨関節感染症に関する研究(Antimicrob Agents Chemother 64: e00703, 2020)によると,CzIEはどの抗菌薬が使用されているかにはかかわらず転帰不良および治療失敗とは独立して関連していた.これにより,CzIE表現型は,菌株依存の毒性因子マーカーであり,CEZ特異的な治療失敗でない可能性が示された.
  • レトロスペクティブなコホート研究では,CEZよりもCTRXのほうが治療失敗率が高かった(Open Forum Infect Dis 5: ofy089, 2018).12件のレトロスペクティブコホート研究のメタアナリシスでは,標準的治療処方薬と比較して効果に差はみられなかったが,標準的治療を受けた患者の方がより重症で重症感染や血管内感染が多かった(Antibiotics 11: 375, 2022).CTRXは第一選択でも第二選択でもなく,心内膜炎,より重症の感染症,合併症のある/高リスクのS. aureus菌血症の患者での使用は避けるべきである.
  • MRSAに対する他の治療選択肢
  • Ceftaroline 600mg静注8時間ごと(未承認の適応)
  • Telavancin 10mg・kg静注24時間ごと(未承認の適応)
  • 静注薬使用者(PWID)での複雑性S. aureus菌血症
  • 患者が標準的な静注抗菌薬治療を望まない場合には,退院させて外来で経口抗菌薬治療を行うことの方が,退院させて抗菌薬治療を行わないよりも,有意に良好な治療効果に結びつくので,合理的な選択肢といえる(Clin Infect Dis 76: 487, 2023).
  • 治療失敗:VCM使用例(心内膜炎では血液培養陽性の中央値は約7日),MRSA感染,心内膜炎または他の血管内感染,コントロール不良の病巣がある,などの場合に,菌血症の再発や遷延(たとえば>4日の治療,ただしカットオフ値は確立されていない)が多くみられる.
  • VCMへの反応が乏しい場合には,DAP 8~12mg/kg静注24時間ごと(in vitroでの感受性を確認すること.一部のVISAはDAPへの感受性なし(MIC>1μg/mL)).
  • 併用療法を考慮する.
  • (DAP 8~12mg/kg静注24時間ごと+Ceftaroline 600mg静注8時間ごと)は,DAPに感受性のない場合でもMRSAのサルベージ療法として有効のようだ(Clin Ther 36: 1303, 2014).
  • STについては,最近のランダム化比較試験においてVCMに対する非劣性が示されなかったことから,他に選択肢がない場合を除き推奨されない(BMJ 350: h2219, 2015).
  • 治療後に血液培養を行い,除菌を確認すること.適切な治療を行っても3~4日後に血液培養陽性の場合は,合併症を伴う菌血症であることが強く示唆される.
  • 原発感染巣および二次性の感染巣を特定し,可能な限りそれらを除去し,治療失敗または再発の危険性を抑えること.
  • 心内膜炎を除外するために心エコー検査が推奨される(JAMA 312: 1330, 2014).
  • 持続する菌血症は血管内感染または感染巣のコントロール不良を示唆する:ただちに他の感染巣を特定し,ドレナージまたは外科的デブリドマンを行う.
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2024/06/04