日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

インフルエンザ  (2024/06/18 更新)


臨床状況

  • 季節性インフルエンザ.北半球温帯地域では一般に12月~4月に流行する.ワクチン接種と予防についてはインフルエンザ,ワクチンを参照.
  • 2023年~2024年流行期
  • 同時期にまん延しているウイルスで特別な警戒が必要なもの:RSVおよびCOVID-19
  • 症状が似通っているため,検査しなければ容易に区別がつかない.
  • インフルエンザとCOVID-19の同時感染により,18歳以上での罹患率および死亡率が上昇する可能性がある(MMWR 71: 1589, 2022),
  • 症状:発熱,咳嗽,のどの痛み,鼻水・鼻づまり,体の痛み,頭痛,悪寒,倦怠感,ときに下痢および嘔吐.
  • 合併症としては以下のものがある:
  • 肺:インフルエンザ肺炎±細菌感染の重複
  • 他の呼吸器:細気管支炎,気管支炎,中耳炎,耳下腺炎
  • 呼吸器以外:筋炎/横紋筋融解症,心筋炎/脳炎,まれに毒素性ショック症候群,Reye症候群,インフルエンザ後のGuillan-Barre症候群
  • その他:COPDの増悪,冠動脈疾患,喘息
  • 合併症のリスク因子としては以下のものがあげられる:年齢<2歳または>65歳,慢性の呼吸器,心臓,腎臓,血液または代謝性疾患,神経疾患および神経発達障害,免疫抑制,極端な肥満,介護施設入所,アメリカインディアン,アラスカ原住民,妊婦(N Engl J Med 370: 2211, 2014).
  • アマンタジン,Rimantadine耐性は>95%.使用しない.

病原体

  • インフルエンザA型/H1N1
  • インフルエンザA型/H3N2
  • インフルエンザB型

第一選択

高リスクの状態にある患者,重症患者,インフルエンザ入院患者全員に抗ウイルス治療が推奨される.複数の観察研究より,入院患者での死亡率抑制が示唆された.
発症から48時間以内に抗ウイルス治療を開始した場合,他には健康問題のない外来患者では中等度の有用性が認められる.治療を考慮してもよい.CDC HAN 2022年12月14日:季節性インフルエンザの流行期におけるオセルタミビル不足を見越した暫定的ガイダンス.
  • 成人:75mg経口1日2回・5日
  • 小児(年齢1~12歳):年齢/体重別の用量
  •  乳児(生後2週~11カ月):3mg/kg 1日2回・5日
  •  体重≦15kg:30mg 1日2回・5日
  •  15kg<体重≦23kg:45mg 1日2回・5日
  •  23kg<体重≦40kg:60mg 1日2回・5日
  •  体重>40kg:75mg 1日2回・5日
  • ザナミビル 2回吸入(1回5mgずつ)1日2回・5日(年齢>7歳,重症喘息またはCOPDがない場合)
  • バロキサビル(年齢5歳):体重別用量(注:バロキサビルはインフルエンザBに対する方がより有効な可能性がある.コメント参照)
  • 体重20~<80kg,40mg経口1回
  • 体重>80kg,80mg経口1回に増量
重症の入院患者
  • 入院患者では,抗ウイルス治療は症状発現後少なくとも5日までに開始しても有用であるが,早いほど有用性は大きい.
  • 免疫不全患者や重症患者ではウイルス複製が長期化する
  • したがって,インフルエンザ様症状の持続期間にかかわらずオセルタミビル治療を開始する
  • 重篤な患者や重度の免疫不全患者ではオセルタミビルによる長期治療(10日以上)を考慮する
  • 死亡率増加の報告があるため,他の適応(たとえば,COPD,副腎不全)がないかぎりは,コルチコステロイドの使用は避けること(J Infect Dis 212: 183, 2015
  • 経口または腸内(つまりNGチューブ)治療が不可能な場合:CrCl>60mL/分であれば,ペラミビル 600mg静注1回(FDAは合併症のないインフルエンザに対し承認)
  • 腎排泄のため,用量は腎障害の程度により異なる
  • 経口薬が服用できない患者,または経口処方でコンプライアンスが期待できない患者に用いる
  • 重症の入院患者ではより長期の1日1回静注を考慮することもある
  • 成人:40mg吸入単回投与
  • 年齢<10歳の小児:20mg

抗微生物薬適正使用

  • ペラミビルは非常に薬価が高く,NGチューブまたはNJチューブでのオセルタミビル腸内投与より優れてはいない.
  • 合併症のないインフルエンザ患者に対して,抗菌薬をルーチンで用いないこと.
  • 細菌性合併症予防のために抗菌薬を用いないこと.
  • インフルエンザの疑いのある患者または臨床検査で確診された患者で,初期に重篤な症状(広範な肺炎,呼吸不全,血圧低下,発熱)を呈している場合には,細菌の同時感染を精査し,インフルエンザに対する抗ウイルス薬治療に加えて経験的な治療を行う.
  • 初期治療で改善を呈したがその後増悪した患者,特に抗ウイルス薬治療を受けた後増悪した患者では,細菌の同時感染を精査し,経験的治療を行う.
  • S. pneumoniaeS. pyogenes(A群Streptococcus),S. aureusに対する標的治療が適応となる場合には経験的治療を行う.地域の検出率によってはMRSAを考慮すること.

コメント

  • 合併症のないインフルエンザに対しては,症状発現後できるかぎり早く,確実に48時間以内には治療を開始すること.治療開始が発症後48時間以降だと,他に健康問題のない外来患者では治療の有用性は限られる.しかし,入院患者では発症後5日までに治療を開始することが生存率の改善につながる(Clin Infect Dis 55: 1198, 2012).
  • 入院患者で重症または進行性のインフルエンザ,あるいは年齢や背景疾患などのために合併症リスクが高い場合には,臨床検査結果を待たずに,全例で経験的治療を開始する.
  • 明らかに診断できる場合を除き(たとえば,インフルエンザ流行時に典型的な症状を示したなどの場合を除き),迅速診断検査/PCRによるインフルエンザ感染の確認が推奨される.検査結果が出る前に経験的治療を開始してもよい.
  • 薬剤
  • COPDや喘息患者ではザナミビルによる気管支痙攣の危険性あり.
  • インフルエンザB型はオセルタミビルに対してやや耐性傾向がある.
  • バロキサビルマルボキシルは単回投与で強力なインフルエンザ抗ウイルス作用をもつキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬である.ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル)耐性ウイルスに対して活性がある.
  • 他の点では健康な外来患者を対象とした研究では,バロキサビルは,症状持続期間短縮については約1日とオセルタミビルと同等だったが,より大幅なウイルス量低下を示した(N Engl J Med 379: 913, 2018).他の研究では,合併症リスクが高い患者での有効性は,インフルエンザAではオセルタミビルと同等だったが,インフルエンザBではバロキサビルの方が優れていた(Lancet Infect Dis 20: 1204, 2020).
  • バロキサビルとオセルタミビルの併用は,in vitroおよび動物実験では相乗効果があった(J Antimicrob Chemother 74: 654, 2019).重度免疫不全のある患者では耐性の理論的リスクを低下させるが,臨床データはない.
  • 重症インフルエンザ
  • 重篤な病状,プロカルシトニン高値,最初の改善後に悪化した患者では,細菌の重複感染(ウイルス感染に加えて)を検討し,その治療を考慮する.
  • オセルタミビル高用量について,インフルエンザA型に対し標準用量を超える有用性は示されていない.重症インフルエンザに対してルーチンでステロイドを使用してはならない(喘息,COPDなど,他の理由から明らかに適応がある場合を除く).死亡率増加のデータがある(J Infect Dis 212: 183, 2015
  • 2018年より静注ザナミビルは入手不可(訳注:米国の状況).
  • ヒト以外のインフルエンザウイルス
  • PCRの結果はH1とH3インフルエンザを区別することができるが,「インフルエンザA,型分類不可能」という結果の場合は,H5,H7のトリインフルエンザまたは他のヒト以外のインフルエンザであることがある.
  • 感染したトリ,乳牛と一緒に働いている人たちは,ヒト以外のインフルエンザに注意する必要がある.
  • 文献
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2024/06/18