日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

RSウイルス  (2025/10/07 更新)
RSV


臨床状況

  • RSVは,新生児/乳児における主な死亡原因の1つ.
  • 成人では,>65歳の患者のうち,肺炎入院患者の10.6%,COPDの11.4%,喘息の7.2%,うっ血性心不全の5.4%がRSVによる(BMJ 366: l5021, 2019).
  • RSV流行の最盛期は冬(たとえば,2023年12月~2021年4月のRSVシーズン).地域の状況についてはそれぞれの公衆衛生機関の情報をチェック.
  • 2022年~2023年冬の流行期のまとめ
  • パリビズマブによる予防は以下の対象に適応がある(RSV流行期には月1回投与が必要):
  • 酸素投与が必要な早産児慢性肺疾患(かつての気管支肺形成異常:BPD)がある<24カ月の乳児
  • RSVの流行期開始時における早産児(在胎<32週)と生後<6カ月の乳児
  • 一部の先天性心疾患の小児.
  • 長期作用型モノクローナル抗体であるニルセビマブは,2023年夏には多くの国で認可された
  • Clesrovimab-cforは長期作用型モノクローナル抗体であり,2025年6月に米国で認可された
  • ニルセビマブの適応:
  • 最初のRSV流行期中のすべての乳児(すなわち,4月~9月生まれの乳児には秋に投与し,10月~3月生まれの乳児には出生時に投与する).
  • 第二のRSV流行期には高リスク乳児にのみ投与する
  • Clesrovimab-cforの適応:
  • 最初のRSV流行期中のすべての乳児(すなわち,4月~9月生まれの乳児には秋に投与し,10月~3月生まれの乳児には出生時に投与する).

病原体

  • RSウイルス(RSV)

第一選択

  • 治療
  • 輸液,酸素投与.
  • リバビリンのルーチン使用は,HSCTおよび肺移植以外では推奨されない.
  • 予防
  • 10月~3月生まれの全乳児には出生直後に,4月~9月生まれの全乳児にはRSV流行期前に,ニルセビマブ1回投与を行う
  • 10月~3月生まれの全乳児には出生直後に,4月~9月生まれの全乳児にはRSV流行期前に,Clesrovimab-cfor 1回投与を行う
  • 代替薬パリビズマブ 15mg/kg筋注月1回11月から4月まで:5回投与が適切とされた特定の乳児に対して(Pediatrics 124: 1694, 2009).ニルセビマブおよびClesrovimab-cforは薬価が低ければ,有効性が大きく,利便性が高いことから,望ましい薬剤である.
  • 地域によっては,固定化した投与スケジュールに従うより,地域での症例報告に基づきカバー期間の調整が必要となることがある (Pediatrics 126: e116, 2010).

(†:日本にない剤形)

第二選択

  • なし

抗微生物薬適正使用

  • RSV感染および細気管支炎では抗菌薬使用は避ける.
  • ニルセビマブは薬価が低ければ,有効性が大きく,利便性が高いことから,望ましい薬剤である.パリビズマブは薬価が高く,添付文書ではなくAAPの推奨に合致する患者でのみ使用する(Pediatrics 134: 415, 2014).投与のタイミングと予防の期間は,地域によって,また地域でのRSVのデータが得られるかどうかで異なる.第III相臨床試験ではパリビズマブによる入院数の減少が示されたが,AAPがエビデンスを検討した結果,死亡率への効果はなく,喘鳴への効果も限定的であると結論づけられた(Pediatrics 134: e620, 2014).

(†:日本にない剤形)

予防

  • 2種類のRWVワクチンがFDAで承認され,特に米国の薬局チェーンで入手可能である
  • ファイザーの1回接種二価RSVpreF(Abrysvo)およびグラクソ・スミスクライン(GSK)のアジュバントRSVPreF3(Arexvy)ワクチンはどちらも,少なくとも2連続流行期において高齢成人(>60歳)でのRSVによる下気道疾患に対して有意な有効性を示した.
  • ACIPの推奨では,一般に>60歳の人に対して,RSVワクチン接種が推奨され,2つの製品に差はないとしている.
  • FDAはAbrysvoのみ,乳児保護のため妊娠32~36週での出産前妊婦のワクチン接種を承認した(2023年).米国大陸部のほとんどで,9月~1月に乳児の保護に用いられる
  • ACIPは乳児のための出生後ニルセビマブと母親に対するAbrysvoのどちらが好ましいともしていないが,季節性を考えればAbrysvoになる.
  • Clesrovimab-cforは2025にFDAにより承認された.
  • ガイダンスは未発表だが,どちらのモノクローナル抗体も第一選択であり,互換性があるようだ
  • Abrysvoに関しては,臨床試験の間に懸念はあったが,実際にワクチン接種した妊婦での早産リスクの上昇はなかった.
  • Abrysvoの臨床試験では早産の懸念があった.差異は小さく,統計学的な有意差はなかったが,試験の検出力は十分でなかった.
  • 母親のAbrysvo(RSVPreF)接種か乳児のモノクローナル抗体かの選択の検討
Abryvo
ニルセビマブ/Clesrovimab-cfor
      【潜在的な有利性】
低コスト
有効期間が長い
出生時に有効
副作用が非常に少ない
理論的に耐性に対するバリアが高い
小児科医がワクチン接種に動員されている
      【潜在的なデメリット】
3ヵ月過ぎると予防効果が減弱
薬価が高い
RSV流行期前または流行期中に32~24週の場合に限られる.
米国ではVFCまたは商業保健での償還が難しい
他の2~3のワクチンが妊婦に対して推奨されている(COVID-19, TDaP,インフルエンザ流行期)
母親のRSVワクチン接種歴を明らかにしなければならない
産科医は従来ワクチン接種を行わない
  
早産の問題が払拭されない
  
妊婦に対する他のワクチンの有用性の範囲がまだ小さい
  

コメント

  • 薬価が高く,エアロゾルであり,毒性もあることが,HSCT患者に対するエアロゾルリバビリン使用が普及しない原因となっている.
  • 成人ボランティアにおいて2つの抗ウイルス薬の高い有効性が示されたが,開発は第II相~III相試験で停滞している(GS 5806:N Engl J Med 371: 711, 2014;Lumicitabine:N Engl J Med 373: 2048, 2015).新薬が開発中である.
  • 新規の長期活性型モノクローナル抗体は,健常で高リスクの乳児への疾病負荷を軽減することが期待される(N Engl J Med 386: 837, 2022).
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2025/10/06