日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

RSウイルスワクチン  (2024/10/08 更新)
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)ワクチン


ワクチンの適応

はじめに
  • 2024年6月までに3種のRSVワクチンがFDA承認になり,ACIPガイドラインも発表されている.
  • 1回接種の1年目および2年目の重症外来患者に対するワクチン効果(VE)に関する臨床試験では,Abrysvo(ファイザー)86%,74%,Arexvy(GSK)79%,59%,MRESVIA(Moderna)55%,36%であった.
  • 重度のギランバレー症候群の例がファイザーワクチンでみられ,GSKワクチンにもあったがより軽症であり,Modernaワクチンにはなかった.
  • 発症率は,リスク/ベネフィットが許容範囲であった他のワクチンと同程度のようだ.
  • リスク/ベネフィット分析では,下記の適応についてワクチン接種が広く指示される.
ワクチン接種の適応
  標準コース(ルーチン)
  • ≧75歳の成人には全例で推奨される.
  • 特定の慢性病状または重度のRSV疾患のリスクを高めるその他の要因をもつ年齢60~74歳の成人に推奨される.
  • 重症RSVリスク増大がない年齢60~74歳の成人には推奨されない.
  • RSVリスク増大の定義
  • 慢性心血管疾患(たとえば,心不全,冠動脈疾患,先天性心疾患[単発の高血圧症は除外])
  • 慢性肺または呼吸器疾患(たとえば,慢性閉塞性肺疾患,肺気腫,喘息,間質性肺疾患または嚢胞性線維症)
  • 終末期腎障害,または血液透析または他の腎代替療法への依存
  • 合併症(慢性腎障害,ニューロパチー,網膜症,末梢組織障害)を伴う糖尿病,あるいはインスリン,またはSGLT2(ナトリウム・グルコース共役輸送体)阻害薬による治療が必要な糖尿病.
  • 気道浄化機能低下または呼吸筋力低下の原因となる神経学的または神経筋疾患(たとえば,脳卒中後嚥下障害,筋萎縮性側索硬化症,または筋肉ジストロフィー[気道浄化機能低下を伴わない脳卒中の既往は除外])
  • 慢性肝疾患(たとえば,肝硬変)
  • 慢性血液学的疾患(たとえば,鎌状赤血球症またはサラセミア)
  • 重度の肥満(BMI≧40kg/m2
  • 中等度または重度の免疫低下
  • 重症度の低い糖尿病,肥満,慢性腎臓病は,重症RSV疾患との関連を示すエビデンスが乏しいために除外される.
  • 医療従事者は,慢性疾患またはリスク因子があり,それが呼吸器感染による重症化リスクを増大すると判定した患者に対しては,自由裁量でワクチン接種を行ってもよい.
  • 明確なリスク条件の医学的記録がない場合でも,決定は臨床的評価に基づく.
  • 患者の自己証明は,リスク因子の存在の十分なエビデンスである.
  • フレイル
  • 介護施設または長期療養施設の入所者.
  • ArexvyをFDAは承認しているが,現在までのところ,50~59歳のどの患者集団に推奨すべきかのエビデンスは不十分である.
  • FDAが,乳児を受動抗体により保護するための妊娠32週,0日~36週,6日での出産前妊婦のワクチン接種を承認しているのはAbrysvoのみである.
  • ACIPは,9月~1月に32~36週となる妊婦に対して,10月から3月の間に生まれた嬰児を受動的に保護するために,Abrysvoの流行期での1回接種を推奨している.これは最初のRSV流行期に乳児に対してニルセビマブを投与するのと同等の選択肢だが,ほとんどの乳児には両方とも必要ない
  • 米国の熱帯地域,アラスカ,フロリダの一部,ハワイ,プエルトリコ,米領バージン諸島,グアムではRSVは一年を通して流通しうるため,これらの地域ではワクチン使用の季節性ルールは適用されない.
  海外渡航
  • 60歳以上の海外渡航者では,RSVを含むあらゆる呼吸器感染のリスクが増大する.
  • 60歳以上の旅行者はRSV重症化のリスクがより高いため,臨床上の共同意思決定の際にワクチン接種を考慮すべきである。
  • 渡航先のRSV流行期は以下のとおり:
  • 温帯気候では冬期
  • 北半球では10月/11月~4月/5月で,南半球では5月~9月
  • 熱帯気候の場合RSV流行は通年であり,渡航先の雨期の間に症例多発がある.
  • 温帯気候では,米国よりも流行期が早い国も遅い国もある.
  用量とスケジュール
  • 妊娠32~36週での出生前ワクチン接種については,「妊娠,授乳」 を参照
  • ワクチンの追加接種はこの適応では現在推奨されていない.
  • 母親が過去の妊娠時にAbrysvoを接種したことがある場合,子供はニルセビマブを接種すべき.
商品名(製造元)
Arexvy(GSK)
Abrysvo(ファイザー)
MRESVIA(モデルナ)
ワクチン(タイプ,CDC略語)
RSV(PreF3蛋白)ワクチン,AS01Eアジュバント(RSV)
RSV(PreF蛋白)ワクチン,アジュバントなし(RSV)
RSV(PreF融合蛋白をコードするmRNA),LNPアジュバント(RSV)
年齢
≧60歳1
≧60歳
≧60歳
用量,経路
0.5mL(120μgPreF3)筋注
0.5mL(120μg;60μg PreFA+60μg PreFB)筋注
0.5mL(PreF融合蛋白をコードするmRNA50μg)筋注
初回接種スケジュール-ルーチン2
流行期の前に1回接種,または流行期に入ったら可能な限り早く
流行期の前に1回接種,または流行期に入ったら可能な限り早く
流行期の前に1回接種,または流行期に入ったら可能な限り早く
第1回追加接種
ワクチン接種後の最初の2シーズンは必要なし,現在すでにRSVワクチンを接種している人には,再接種は推奨されない.
それ以降の追加接種
未決定
未決定
未決定
  1. FDA薬剤情報では,GSKワクチンを使用できるのは≧50歳の成人に対して.
  2. 米国のほとんどの地域では,8月~10月が接種には最適な時期だが,高齢者は年間どの時期でもRSVワクチンを接種してよい.

有効性,予防効果持続期間/選択,互換性

有効性,予防期間
  • ワクチンの正確な直接比較は不可能である.
  • 3種のワクチンの臨床試験は,それぞれ臨床的効果指標,年齢によるグループ分け,ワクチン接種後のフォローアップ期間が異なり,異なる流行期に行われていた.
  • 臨床試験において,より重症の外来患者に対する効果指標は次のとおり:
  • 接種後1年目と2年目のVE:Abrysvo(ファイザー)86%,74%,Arexvy(GSK)79%,59%,MRESVIA(Moderna)55%,36%
  • 早期にはMRESVIAが80%という良好な早期(3.7ヶ月)のVEを示した.
  • 2023~2024年冬の米国での入院に関する実際の観察データ
  • ArexvyおよびAbrysvoの,>60歳の人におけるRSV関連の入院,救急外来利用,重症化に対するVEは約75%だった.
  • 60~74歳と75歳以上の成人でのVEは同等だった.
  • 2023~2024年のMRSEVIAの入院に関するデータは公表されていない.
  • 3つのワクチンのそれぞれで,12ヶ月後に再接種を受けた場合には,中和抗体力価は著明に上昇したが,60歳以上の成人では,初回ワクチン接種以降は幾何平均抗体価(GMT)上昇はみられなかった.
  • 少なくとも,現在のこうした限られたデータからの結論は,年ごとの追加接種後のVEは,初回接種後より高くはないだろうということである.
選択,互換性
  • ACIPはRSVワクチン接種を一般に推奨しており,製品間の差はないとしている.
  • 臨床試験では,2つの蛋白ワクチンの2流行期を通じてのVEは同等だったが,MRESVIAの結果はどちらの流行期も非常に期待はずれなものだった
  • 入院患者に関しては,2つの蛋白ワクチンのVEは同等で80%であった
  • アジュバントArexvy(シングリックスと同じアジュバント)は,別々のプラセボ対照比較試験結果からはより反応原性が強いようだが,直接比較のデータはない.
  • Arexvyは,ギランバレー症候群発症率が著明に低いことから,安全性についてはより優れている
  • MRESVIAについて,限られた対象患者での臨床試験であるが,安全性については優れていた-臨床試験でワクチンの実薬を接種した20,000例中で42日の死亡0,重症副作用0,ギランバレー症候群0,心筋症0.
  • MRESVIAについては,市販後安全性調査が行われるべきである.

毒性

禁忌
  • ワクチン成分への重症アレルギー反応(たとえばアナフィラキシー)の既往
警告
  • なし
副作用
  蛋白ワクチン
  • 局所副作用(≧10%):注射部位の痛み
  • 全身性副作用(≧10%):疲労,筋肉痛,頭痛,関節痛(Arexvyのみ)
  • 記録されたArexvyによるどの副作用もプラセボより高率
  • Arxvyは,シングリックス(帯状疱疹ワクチン)と同じ反応源性のアジュバントを使用している
  • 重症副作用はプラセボと差がなかった
  • 使用の第一シーズン中のワクチン安全性監視システムV-safeおよびVAERSのデータ.
  • 米国の60歳以上の成人におけるギラン・バレー症候群(GBS)の推定発症率は,Abrysvoでは100万接種で16,Arevyでは100万接種で3の報告であり,対照比較の発症率はそれぞれ4.48,2.30だった
  • 結論的なリスク推定は第2シーズンデータがまとまり,入院記録の全解析が終わるまでペンディング.
  mRNAワクチン
  • 注射部位の痛み(55.9%),疲労(30.8%),頭痛(26.7%),筋肉痛(25.6%),関節痛(21.7%),腋下(脇の下)の腫脹または痛み(15.2%),寒気(11.6%)
  • 臨床試験では重症副作用なし
  • 臨床試験でギランバレー症候群なし(接種者20,000名)
薬物相互作用
  • RSVワクチンと他の成人用ワクチンの併用は許容される
  • Abrysvoとアジュバントインフルエンザワクチンの併用は,RSVpreFとインフルエンザワクチン併用に対して非劣性を示した(Clin Infect Dis 78: 1360, 2024
  • RSVとインフルエンザワクチン併用による反応原性が強いことについては相反するエビデンスがある
  • 一般的には,RSVワクチンと季節性インフルエンザワクチンの併用(同時または逐次的)は,免疫原性については非劣性基準を満たす.
  • しかし,RSV抗体力価とインフルエンザ抗体力価のどちらも,一般的には併用で幾分か低下した.
  • この年齢層で,推奨されることのある他のワクチン-たとえばCOVID-19ワクチン,肺炎球菌ワクチンTd/Tdap,組み替え帯状疱疹ワクチン(GSKのシングリックス:Arexvyと同じアジュバントを含む)-との併用に関するデータはない.

特に注意が必要な対象

妊娠,授乳
  • FDAはAbrysvoのみ,乳児保護のため妊娠32週,0日~36週,6日での出産前妊婦のワクチン接種を承認した(2023年8月).
  • ニルセビマブ(長期作用型抗RSVモノクローナル抗体)は2023年7月にFDAの承認を受け,RSV予防効果は母親へのワクチン接種より大きいことから,ACIPはすべての乳児で最初のRSV流行期前に,高リスク乳児では次の流行にも推奨している.
  • RSV関連下気道感染予防に関して,ニルセビマブと妊婦のRSVpreFワクチン接種を直接比較したデータはない.
  • 妊娠中ワクチン接種による保護は3ヶ月後には減弱する.
  • ACIPは,可能ならば,出生後のニルセビマブと同等の選択肢として流行期間中のAbrysvo接種を推奨している.
  • その他の時期では,Abrysvoの妊婦への適応以外には,乳児に対するニルセビマブが唯一の選択肢である.
  • RSVワクチンとニルセビマブの選択については,RSウイルス(表),参照.
  • ニルセビマブを乳児に投与し,かつAbrysvoを母親に接種することはどちらか片方を行うより有用性が高くないが,母親が免疫不全で乳児が特に RSVリスクが高い場合には考慮してもよい.
  • 妊娠34週未満で生まれた乳児で,母親がワクチン接種を受けていたが,出産が接種より<14日だった場合は,乳児へのニルセビマブ投与が推奨される.
  • Abrysvoはニルセビマブの約半分の価格だが,効果はニルセビマブほど長く持続しないようである(Abrysvoは3ヵ月).
  • 乳児が誤ってRSVワクチン接種を受けたときには,ニルセビマブを可能な限り速やかに投与しなければならない.
  • Abrysvoに関しては,実際に妊娠中にワクチン接種を受けた場合で早産リスクの上昇はなかった.
  • 1回の妊娠中にAbrysvo接種を受けた妊婦は,次の妊娠時にはAbrysvo接種は推奨されない:次の妊娠では,出産後に乳児はAbrysvo接種を受けなければならない.
免疫不全/HIV
  • 臨床試験では,一定の免疫機能低下のある60歳以上の成人,あるいは終末期腎障害患者でワクチン効果が示されている.
  • 年齢≧60歳で中等度~重度の免疫不全のあるすべての人において,ベネフィットが上まわる可能性がある場合にはRSVワクチン接種が推奨される.

血清検査

  • いかなる状態でも推奨されない.

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2024/10/11