日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

RSウイルスワクチン  (2023/12/19 更新)
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)ワクチン


ワクチンの適応

はじめに
  • 2種類のRSVワクチンが,2023年5月にFDAにより承認され,現在では,特に薬局チェーンでも入手可能となっている.
  • ファイザーの1回接種二価RSVpreF(Abrysvo)およびグラクソ・スミスクライン(GSK)のアジュバントPreF3(Arexvy)ワクチンはどちらも,少なくとも2連続流行期において高齢成人でのRSVによる下気道疾患に対して有意な有効性を示した.
  • ACIPの推奨では,一般に60歳以上の人に対して,RSVワクチン接種が推奨され,2つの製品に差はないとしている.
  • 入院,死亡に対するワクチン効果(VE),>75歳でのVEなどについては多くの不明点が依然として存在するが,ACIPの現在のガイドラインは,2023年12月~2024年4月のRSV流行期にワクチン接種が可能になるように発表されたものである.
  • ファイザーとGSKは,臨床試験において重症RSV疾患アウトカムに異なった定義を与えているため,2製品の直接比較は不可能である.
ワクチン接種の適応
  標準コース(ルーチン)
  • 60歳以上の人は,ワクチン接種を行う医療者との議論(共有意思決定支援)の後に,RSVワクチン(ArexvyまたはAbrysvo)の1回接種を受けることができる.
  • 高齢である,併発疾患が(心疾患,呼吸器疾患,神経学的疾患,代謝疾患,腎疾患,肝疾患,血液疾患)がある,免疫不全,介護施設居住,海外渡航の予定がある,さらにACIPが今後徐々に規定するであろう他の諸条件が満たされる場合には,ワクチン接種を考慮することが望ましい.
  • ArexvyおよびAbrysvoのどちらの臨床試験も,年齢75歳以上の人および虚弱な高齢者での有効性を示すだけの検定力はなかった.
  • どちらの臨床試験も,RSVによる入院に対する有効性を示すだけの検定力はなく,そうしたデータは現在でも存在しない.
  • FDAはAbrysvoのみに,受動抗体による乳児保護のため妊娠32週および0日~36週および6日での出産前妊婦のワクチン接種を承認した.
  • ACIPは,10月~3月生まれの新生児に対する受動免疫のために,9月~1月に妊娠32~36週となる妊婦に対してAbrysvoのシーズン中1回接種を推奨しているが,これは出生後最初のRSVシーズンでの乳児に対するNirsevimabと同等の選択肢であるが,ほとんどの乳児で両方必要になることはない.
  • 米国の熱帯地帯,アラスカ,フロリダ州の一部,ハワイ,プエルトリコ,米国領ヴァージン諸島,グアムでは,RSVは一年を通して流行している.シーズンごとのワクチン接種のルールは,こうした地域では適応できない.
  • 現在のところ,その後の妊娠の後に生まれた乳児を保護するための生涯最初のワクチン接種の有効性や,その後の妊娠期間中に受けた追加接種の安全性に関してはデータがない.
  海外渡航
  • 60歳以上の海外渡航者は,あらゆる呼吸器感染のリスクが増大するため,意志決定を共有して上記のワクチン接種をうけることが強く推奨される.
  • 渡航先が熱帯気候の場合RSV流行は通年であり,あるいは米国よりも流行期が早い国も遅い国もある.さらに母親のワクチン接種が必要となる場合については,個々の例に応じた対応が必要となるだろう.
  用量とスケジュール
妊娠32~36週での出生前ワクチン接種については,「妊娠,授乳」 を参照
商品名(製造元)
Arexvy(GSK)
Abrysvo(ファイザー)
ワクチン(タイプ,CDC略語)
RSV(PreF3蛋白)ワクチン,AS01Eアジュバント(RSV)
RSV(PreF蛋白)ワクチン,アジュバントなし(RSV)
年齢
≧60歳
≧60歳
用量,経路
0.5mL(120μgPreF3)筋注
0.5mL(120μg;60μg PreF3+60μg PreFB)筋注
初回接種スケジュール-ルーチン
2023~2024年流行期の前に1回接種,流行期に入ったら可能な限り早く
2023~2024年流行期の前に1回接種,流行期に入ったら可能な限り早く
第1回追加接種
未決定
未決定
それ以降の追加接種
未決定
未決定

有効性,予防効果持続期間/選択,互換性

有効性,予防期間
  • ファイザーとGSKは,臨床試験において重症RSV疾患アウトカムに異なった定義を与えているため,2製品の直接比較は不可能である.
  • 入院または死亡のリスクがもっとも高い人々(たとえば,≧75歳,虚弱高齢者,長期介護あるいは免疫不全),での入院や死亡に対するVEに関するデータは乏しい,あるいはまったくない.
  • どちらのワクチンも,1回接種後の2流行期での重症化に対するVEは持続的であった.
  • 12ヵ月後にRSVワクチンの第2回接種により抗体濃度に一定の上昇がみられたが,最初の接種で達成した濃度を上回るものではなかったため,反復接種の有用性は疑問視されている.
  • 2流行期での累積VEは,12ヵ月後に再接種を受けた人でのVE(約64%)を上回らず,どのような年間ワクチン接種方式が可能かを考える上で関心事となるワクチン再接種の追加効果は認められなかった.
  • Arexvy:重症下気道疾患(LRTD:すなわち「肺炎」)に対する1回接種のVEは,最初の流行期で94.1%,第2流行期半ばで84.6%,2流行期の累積は78.8%だった.
  • Abrysvo:重症LRTDに対する1回接種のVEは,最初の流行期で88.9%,第2流行期半ばで48.9%,2流行期の累積は78.6%だった.
  • Abrysvoの妊娠中接種の,治療を受けるRSV関連LRTDに対するVEは57.3%であり,乳児のRSV入院に対するVEは48.2%である
選択,互換性
  • ACIPは60歳以上に対してRSVワクチン接種を一般に推奨しており,2つの製品の差はないとしている.
  • アジュバントArexvy(シングリックスと同じアジュバント)は,別々のプラセボ対照比較試験結果からはより反応源性があるようだが,直接比較のデータはない.
  • 乳児のRSV関連LRTI予防に関して,NiservimabとRSVプレF蛋白ワクチン妊娠中接種の効果を直接比較したデータはない.妊娠中接種によって得られる予防効果は3ヵ月後には減弱する可能性が高い.
  • ACIPは,適応可能ならば,Abrysvoシーズン中接種を出生後Nirsevimabと同等の選択肢として推奨している.
  • 1年の他の時期ならば,母親に対するAbrysvoの適応外の場合は,乳児に対するNirsevimabが唯一の選択肢となるだろう.
  • RSVワクチンとNirsevimabの選択については,RSウイルスを参照
  • Nirsevimabを乳児にAbrysvoを母親に使用しても,片方だけの場合と比べて有用性が大きいことはないが,母親が免疫不全または乳児がとくべつにRSV高リスクの場合は,2剤の使用を考慮してもよい.
  • 在胎<34週の乳児,または母親がワクチン接種を受けているが,乳児がワクチン接種後<14日で生まれた場合には,Nirsevimabの使用が推奨される.
  • 有効期間は,Abrysvoが3ヵ月であり,Nirsevimabの方が長いようだ.

毒性

禁忌
  • ワクチン成分への重症アレルギー反応(たとえばアナフィラキシー)の既往
警告
  • なし
副作用
  • 局所副作用(≧10%):注射部位の痛み
  • 全身性副作用(≧10%):疲労,筋肉痛,頭痛,関節痛(Arexvyのみ)
  • 記録されたArexvyによるどの副作用もプラセボより高率
  • Arxvyは,シングリックス(帯状疱疹ワクチン)と同じ反応源性のアジュバントを使用している
  • 重症副作用はプラセボと差がなかった
  • どちらのワクチンの臨床試験でも,炎症性神経学的症候(急性散在性脳脊髄炎[ADEM]またはギラン・バレー症候群[GBS])に関連する安全性問題が指摘されているが,少数であり結論はだせない.
  • 市販後の第IV相試験で最終確認することが重要である.
薬物相互作用
  • Abrysviとアジュバントインフルエンザワクチンの併用での免疫反応は,RSVpreFとインフルエンザワクチンの併用の場合より劣るものではなかった(Clin Infect Dis 2023年11月22日).
  • RSVワクチンとインフルエンザワクチンの併用による反応原性増大については,多様なエビデンスがある.
  • 一般的には,RSVワクチンと季節性インフルエンザワクチンの併用(同時または逐次的)は,免疫原性については非劣性基準を満たす.
  • しかし,RSV抗体力価とインフルエンザ抗体力価のどちらも,一般的には併用で幾分か低下した.
  • この年齢層で,推奨されることのある他のワクチン-たとえばCOVID-19ワクチン,肺炎球菌ワクチンTd/Tdap,組み替え帯状疱疹ワクチン(GSKのシングリックス:Arexvyと同じアジュバントを含む)-との併用に関するデータはない.

特に注意が必要な対象

妊娠,授乳
  • Nirsevimab(長期作用型抗RSVモノクローナル抗体)は2023年7月にFDAの承認を受け,RSV予防効果は母親へのワクチン接種より大きいことから,ACIPはすべての乳児で最初のRSV流行期前に,高リスク乳児では次の流行にも推奨している.
  • FDAはAbrysvoのみ,乳児保護のため妊娠32週,0日~36週,6日での出産前妊婦のワクチン接種を承認した(2023年8月).
  • ACIPは,乳児のための出生後Nirsevimabと母親に対するAbrysvoのどちらが好ましいともしていないが,季節性を考えればAbrysvoになる.上記「選択と互換性」を参照
  • Abrysvoの臨床試験では非常に早産の懸念があり,FDAにより警告の対象となった.
免疫不全/HIV
  • 免疫不全のある人は,共有意志決定支援のもとでのRSVワクチン接種が推奨される.

コメント

  • Moderna mRNA-1345RSVワクチンについて,第III相試験で>60歳の人でのVEが83%という報告があったが,2023年内に市販される可能性は少ない.
  • FDAでは逐次審査が進行中,英国,ヨーロッパ,オーストラリアでの承認は保留中.
  • 情報源
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2023/12/18