日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

術後感染症の予防-整形外科的手術  (2021/3/23 更新)


臨床状況

  • 整形外科手術時の抗菌薬による感染予防:股関節およびその他の関節置換術,骨折.
  • 人工関節を守るための抗菌薬予防投与は,コメントを参照.

病原体

  • 皮膚常在菌:S. epidermidisS. aureus
  • まれな病原体:好気性グラム陰性桿菌

第一選択

股関節部骨折の修復,脊髄手術,関節置換術:
  • CEZ 2g静注1回(体重≧120kgなら3g静注)
  • MRSAコロニー形成のある患者では VCM 1g静注1回を追加(体重>90kgなら1.5g静注)(MRSA感染の頻度が高い施設での関節置換術においても推奨される).
  • 追加投与が望ましい場合には,適切な治療用量を24時間以内に投与すること.
内固定を含む閉鎖骨折の開放的整復

第二選択

CEZにアレルギーの場合:
  • VCM 1g静注1回(体重>90kgなら1.5g静注)
  • CLDM 900mg静注1回
  • 追加投与が望ましい場合には,適切な治療用量を24時間以内に投与すること.
  • 注:CEZおよび他のセファロスポリン系薬に対する不耐のために上記の薬剤を用いる場合,整形外科的手術後のグラム陰性菌感染の懸念のある施設では以下の薬剤を追加すること:
  • AZT 2g静注1回,または
  • GMまたはTOB)5mg/kg(補正体重)静注1回,または
  • CPFX 400mg静注1回

コメント

  • S. aureusのコロニー形成が確認された患者では,除菌のために術前にムピロシン投与を行う.
  • 人工関節,別の処置からの菌血症リスク:別部位での処置に関連する血行性感染から人工関節を守るために予防を行う(プレート,ピン,スクリューの患者にはリスクはないと考えられる).
  • プロスペクティブな症例対照研究では,歯科治療での抗菌薬予防は,人工股関節/膝関節感染のリスクを減少させないと結論づけられた(Clin Infect Dis 50: 8, 2010).
  • 米国歯科医師協会の専門家パネルは,人工関節感染を予防するために,歯科的処置に先だって予防的抗菌薬投与を行うことは,一般的には推奨されないと結論づけている(J Am Dent Assoc 146: 11, 2015).
  • 個々の環境を考慮すること:活動性の感染が疑われる組織の処置を行う場合には,抗菌薬治療が適切であることが多い.
  • Staphylococcus属は広く人工関節感染の原因となるため,処置部位にStaphylococcusの感染またはコロニー形成があれば,抗Staphylococcus作用のあるβラクタムまたはVCM(菌の感受性に応じて)で予防を行うことは適切であろう.それ以外の状況では,治療選択は個々の判断に基づくべきである.
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2021/03/18