日本語版サンフォード感染症治療ガイド-アップデート版

マラリア-治療-重症マラリア  (2024/02/13 更新)


臨床状況

  • 重症マラリアはほとんど熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)による.
  • P. vivaxP. knowlesiが重症マラリアを引き起こすことはまれだが,治療法は同じである.重症となるのはP. vivaxであり,主として呼吸器疾患(ARDS)および血圧低下を引き起こす.
  • 以下にあげる所見が1つでもあれば(どのマラリア種によるものでも)重症マラリアであり,注射治療を要する.
  • 臨床所見:意識障害,ショック,肺水腫,急性呼吸促迫症候群(ARDS),DIC,けいれん発作.
  • 黄疸については,少なくとももう一つの基準項目が必要
  • 検査所見:重症貧血(成人でHct<20%),腎不全,ヘモグロビン尿症,乳酸アシドーシス(バイカーボネート<15),低血糖(<40mg/dL).寄生虫血症>5%(CDC基準)のうち1つでも当てはまれば,他の基準が1つも満たされなくても重症マラリアと定義され,静注治療が必要である.
  • WHO重症マラリア基準では,免疫のない個人で寄生虫血症4%.多くの米国の臨床医は,この境界値で静注Artesunateを用いる.
  • FDAは注射用Artesunateを承認し(静注Artesunate:Amivas),現在米国では主要な販売業者(Cardinal Health, Americsource Bergen, McKesson)を通じて入手可能.
  • 販売業者の24時間体制の連絡先についてはAMIVASの関連サイトを参照.電話をすると30分以内に対応してくれる.
  • CDCは現在では抗マラリア薬の無料配布を行っていない.
  • 平均80kgの人では初日に6バイアル必要で,その後寄生虫血症が>1%ならば毎日2バイアル必要である.

病原体

  • P. falciparum (熱帯熱マラリア原虫)
  • P. vivax(三日熱マラリア原虫)(まれ)
  • P. knowlesi(感染はまれ,アジアのみ)

第一選択

  • 静注Quinidine gluconateは米国では現在生産されておらず,入手できない.
  • WHOは妊娠第1期および他のいくつかの状況で静注Quinineを推奨しているが,米国では入手できない.
  • 交換輸血はどのような状況であってももはや推奨されない.
  • ステロイドは脳マラリアには推奨されない.
成人(望ましい処方)
  • Artesunate 2.4mg/kg静注/1回,0,12,24時間後(全3回投与),その後,
  • 24時間後に寄生虫血症>1%なら,2.4mg/kg静注1日1回を寄生虫血症<1%となるまで,続けて,Artesunate最終投与から少なくとも4時間後に経口治療コース(下記参照)を開始
  • Artesunate静注は,合計7日を超えて用いないこと
  • 24時間後に寄生虫血症<1%なら,その後,Artesunate最終投与から少なくとも4時間後に経口治療コース(下記参照)を続ける.
  • 切り替え時に経口薬に不耐なら,Artesunate 2.4mg/kg静注1日1回を継続するか,経口薬に忍容となるまでDOXY 100mg静注†1日2回に切り替える.
  • これらに加えて
  • 経口治療(静注Artesunate治療期間にかかわらず完遂する)
  • アトバコン・プログアニル成人用4錠(1錠中250mg/100mg)経口1日1回・3日(食事とともに,患者が30分以内に嘔吐したら再度服用する).
妊婦:妊娠のどの時期でもArtesunate静注を使用し,その後Quinine 3日+CLDM 20mg/kg/日1日3回に分割・7日.注:DOXYは妊娠初期の15週(歯/骨の形成期以前)までは安全と考えられる.
  • CDCガイドライン:米国において重症マラリアに対する他の選択肢が存在しないため,静注Artesunate治療の有用性は,第1期で可能性のあるどのようなリスクをも上回る.
  • その後の経口治療としては,第2期・第3期ではアルテメテル・ルメファントリンが使用可能で,第1期でも,他に選択肢がなければ使用できる.
小児(望ましい処方)
  • Artesunate 2.4mg/kg静注0,12,24時間後(体重制限なし)
  • 体重<20kgの小児:Artesunate 2.4mg/kg静注0,12,24時間後(2020年5月FDA処方情報による)
  • WHOは,モデルに基づいて3.0mg/kg投与を推奨しているが,GRADE基準は満たさない
  • 静注Artesunateがすぐに入手できない場合,成人,小児いずれも,アルテメテル・ルメファントリン(望ましい),アトバコン・プログアニルまたはQuinineの経口(または経鼻胃)投与を開始する(P. falciparumに対する標準的な処方については,マラリア-合併症なし-Plasmodium falciparumを参照).静注Artesunateが使用できるようになったら,ただちに切り替え,経口薬は中止する.他の選択肢が利用できない場合は経口メフロキンを考慮する.
  • 米国外の多くの国で静注Quinine dihydrochlorideはまだ入手可能だが,静注Artesunate(WHOはすべての国で望ましい処方としている)に比べ有意に劣る.
  • フランスからの報告では,輸入マラリアに対する静注Quinineの使用によりICU期間が延長したが,全死亡率に差はみられなかった(Clin Infect Dis 70: 280, 2020).
  • Artesunate静注がただちに入手できない場合は,Artemether直腸投与を開始してもよい.
  • 静注Artesunate治療完了後の経口治療の選択肢として:Quinine 650mg経口1日3回・3日(東南アジアなら7日)+(DOXY 100mg経口1日2回,またはTC 250mg経口1日4回)
  • 米国小児科学会は現在,すべての年齢の小児の急性感染症に対し,<21日でのDOXYの使用を認めている.
  • 肥満(WHO警告):体重超過または体の大きい成人での経口治療の用量,薬物動態と治療効果の関連についてのエビデンスは限られているため,治療臨床試験では,別の用量選択肢は評価されてこなかった.
  • データがないため,治療を行う医師は,可能な限り体の大きい成人で治療効果をフォローアップしなければならない.

(†:日本にない剤形)

第二選択

  • なし

コメント

  • 静注Artesunate:
  • Artesunate静注は重度の寄生虫血症における溶血を遅らせるが,治療から平均15日後に,生命の危険はないが輸血を必要とはする溶血が起こることがある(Ann Intern Med 163: 498, 2015).4週間は毎週ヘマトクリットをモニターすること.
  • メフロキンは好ましくなく,可能ならば静注Artesunate後の経口フォローアップとしては避けたほうがよい.
  • 重症マラリアの初期治療に用いる場合には,アトバコン・プログアニル経口錠やアルテメテル・ルメファントリン経口錠は経口Quinineよりも生物学的利用能が低い,
  • アルテメテル・ルメファントリンは米国の病院や小売薬局のどこでも在庫があるわけではない.
  • 通常は,地域の薬物物流倉庫に在庫があるが,緊急の場合でも治療開始から入手に最大24時間遅れる.
  • 他の第一選択薬が容易に入手できる場合は,Coartem(アルテメテル・ルメファントリン)を入手するために治療開始を遅らせてはならない.
  • 迅速に入手するための情報は,1855-COARTEMに連絡.
  • Dihydroartemisinin/Piperaquineはヨーロッパで承認され入手可能となっている.
  • 経口薬治療でのフォローのために
  • Artemisinin耐性だけで治療失敗となることはほとんどないが,Artemisinin誘導体とpartner ACT drug(大メコン圏のみ)の両方に耐性の場合は治療失敗となる.
  • 大メコン圏からのマラリアに対してACTを使用してはならないが,ACTはアフリカでは依然として有効性が高い.
  • 規制措置:伝播の可能性が低い地域(元々伝播リスクがある国ではない場合)では,P. falciparumマラリア患者にはプリマキン0.25mg/kg1回投与+ACT(アルテメテル・ルメファントリンなどのArtemisinin併用治療).
  • 妊婦,生後<6ヵ月の乳児およびその授乳をしている母親以外で,伝播抑制のために用いられる.
  • G6PD検査は不要.
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2024/02/13